62 ストラ 魔法を使う。
余計なことをしてもしなくてもトラブルが舞い込んでくる。
しかし、レベルが低すぎないか?
先輩たちのデモンストレーションはそれなりに見応えがあるものがあった。派手に巻き上がる炎に螺旋を描く水流、人型になって動く石のゴーレム、いかにも魔法、ファンタジーという光景に見学者たちは歓声をあげている。
「じじじ(見かけは派手?)」
「ふるるるる(でも意味あるのか?)」
実践主義なハチや梟の辛口な評価に私もうなづく。的が頑丈なのか、それともデモンストレーションだからなのか分からないが、的にヒビや傷が入る気配がないのもマイナスポイントで。
「まるでサーカスだ。」
「サーカス?」
「ああ、なんでもないよ。」
この世界にそんなものはなかったか? うっかりゲームの知識がでないように気を付けていたけど、学園へ入学して自分もちょっと浮かれているらしい。戒めないと。
そんな風に冷めたリアクションをしている姿は、どうやら驚きに言葉を失っているようにもみえた。
「なんだ、なんだ、田舎者には刺激が強かったか?」
「誰が田舎者だ。」
「ぶぼらー。」
ニヤニヤと笑って近づいてきた愚か者に、空気の塊を叩きつける。あっやばい?
「ジジジ(先越された。)」
「ふるるるう(さすが姐さん)」
やばくない、セーフ。よかったね、チンピラ君、私が手を出してなかったら死んでだかもしれんぞ。
「お嬢さま、それどころじゃないですよ、かれ、転がり落ちてますって。」
うん、わかってるよ。顔面への衝撃で後ろに倒れた拍子に足を踏み外してゴロゴロと訓練場に転がり落ちていくチンピラ君とそれを見て顔を真っ青にしている取り巻き風の学生たちだ。
「大丈夫、何をされたか理解もできないでしょうね。」
小声でリットン君に言ってから、私は取り巻きの生徒に大きな声で声をかける。
「お連れ様、大丈夫ですかね、なんか思いっきり足をふみはずしてましたけど。」
空気弾、エアバレットと言われる魔法は、風魔法の基礎の一つである。どこにでもある空気を利用するので燃費が非常にいい反面、効果が可視化しづらいのでマイナーな魔法である。
「な、なにかしたんじゃないのか?」
「何を根拠に。」
元気な取り巻きの一人が、詰め寄ろうとするが私は両手をあげて首をふる。
「田舎者な私はまともに攻撃魔法なんて使えませんよ。」
田舎者と言ってこちらをからかおうとしたのは、チンピラ君たちである。状況的には田舎者と見定めた私たちにダル絡みをしようとしてリーダー格が足を踏み外したというだけだ。私は席を立ってすらいない。
「いや、なんか叫んでただろ。」
「なんのことですか?というか、いいんですかあの人、訓練場に落ちちゃいましたけど」
「ああああ、モープルさまーーーー。」
私の指摘に現実を思い出して取り巻き達がドタバタと階段を下りていくが。チンピラ君はキレイな放物線を描いて待機中だった先輩たちの上へと墜落し、ちょっとした大惨事となってしまった。
「なんだ、こいつ。」
「敵襲、敵襲?」
「変態だー。」
「だれかー。」
いやいや、取り乱しすぎでしょ。このくらいのトラブルでパニックになってたらハッサム村どころかちょっとした森や山でもまともに働けないよ。
「じじじ(普通、生き物は空から降ってこない)」
ハルちゃん、それを言ったらおしまいだよ。
「なんか、興ざめ、いやあわただしくなってきたから帰ろうか。」
「はっ、はい。」
騒ぎにさらに人が集まるなか、私たちはそっとその場をあとにしたのだった。
で、終れば楽だったんだけどねー。
「スートーラー。なんなの、あの騒ぎは。」
事の顛末は、その日の夕方にはメイナ様にばれて、私は捕縛された。
「にゃ、にゃぜ、ひょれを。」
「ハチ様達が説明してくれましたわ。」
「ひ、ひまっひゃ。」
とんずらしたから安心しきって、口止めを忘れていた。
「じじじじ(活躍はばっちりお伝えしてあります。)」
「じじじ(見事な魔法展開、我らじゃなければ見過ごしちゃうね。)」
余計なことを。そう思ってもフリーダムなハチさんたちの行動を制御することはできない。そして、愉快な動物さん達が一番なついているのはメイナ様。
「あれだけ、なにかあったらすぐに相談しなさいと言っておいたのに。また隠そうとしたでしょ。」
「ち、ちがいまひゅ。あといたいでひゅ。」
先ほどから話し方がオカシイのは、メイナ様が私のほっぺたをがっちりと掴んでいるからだ。もうね、めっちゃ痛い。
「あのあと、大変だったんですよ。驚いて魔法を暴発させる子までいて、けが人もでて。」
「いや、それは、未熟すぎません?あと、私は火の粉を払っただけですから。」
「ん?」
というわけで、私はチンピラ君が田舎者と絡んできたこと、威嚇程度の攻撃魔法で追い払おうとしたら、勝手に転げ落ちたことを新ためて説明することになった。
「なるほど、ハチ様達からは、不届き者を魔法で成敗したと聞いていたけど、そんな事情が。となると、と、モリブ家の子息の自爆ってことになるわね。」
「そうなんですよ、まさかあんな大事になるとは思わなかったんです。」
「そうね、あの場に残っても難癖付けられるだけだわ。」
メイナ様も納得してくれて、解決。
「だからこそ、こういう問題はすぐに相談しなさい。と言ったでしょ。」
というわけにいかないらしい。
「けが人は、私と医学教室の先生たちが治療したから問題にはなってないけど、落ちた生徒と取り巻きはしばらく謹慎ですって。」
「まあ、訓練中に騒いだあげくに、あの事故ですからねー。」
「ほんとよ、魔法の暴発が起こる可能性もあるというのにほんと浅慮で困るわ。」
騒がれた程度で暴発するのが未熟だとも思う。
ちなみにだが、メイナ様の魔法のレベルはかなり高い。特にすごいのが回復魔法で、軽い骨折ぐらいならすぐに治してしまうという。メイナ様があの場に居合わせたことが誰にとっても幸運な結果となったわけだ。
「むしろマーリン教授は回復魔法の実践がみれて大満足だったみたいだけど。あの人、今後は意図的に事故とか起こすかも・・・。」
「まさか、学園の先生に限って。」
「学園の先生だからよ。」
うん、そうですね。そういえばゲームの魔法訓練の場面でもランダムで爆発するという要素があったけど、まさかね?
ストラ「はっ、雑魚が」
地元関係で喧嘩を売られると沸点が意外と低かった。




