49 ドライファンタジー
干すという概念が実は微妙だった。
干し柿と言えば、冬の気候を利用した日本の伝統的な食材である。その仲間と言えば、
「まずは、干し芋。」
サツマイモをゆでたうえで輪切りにし、こちらはネットにいれて干しておく。こちらは干し柿と一緒にしこんでいたのですぐに。
「な、なんだこれ、甘い。独特の歯ごたえ。すばらしい。」
いいよねー。干したものをストーブの火とかであぶって食べても美味しい。腹持ちもいいから、冬の保存食の定番だ。
「自然を生かした食材の調理と保存法。これは目からうろこです。」
「温度とか湿度の管理を失敗するとかびたり、腐ったりするけどねー。」
自然を利用する加工法として干すというのは一般的だと思っていたけど、あれもしかして一般的じゃない?
「海辺の街を旅した時に、魚を干して保存するというのは聞いたことはあるが、果物や野菜も干すと保存がきくのか。」
めっちゃ感動してるよ。うわーベーコンとソーセージとか食わせてみてえ。
「うむ、食べ物というのは新鮮な物こそ至高というのが獣人たちの考えでな。そのために魔法による保存や輸送手段が発達してるんだってばよ。王都では攻撃系の魔法ばかりで驚いたってばよ。」
なんかふわっとしたファンタジーだなー。まあゲームでもアイテムの賞味期限とか質量概念とか曖昧だったからなー。リンゴ99個とか平然と持ち歩いていたし。
気を取り直して、今日の目的は、そんな魔法チートなリビオンの兄ちゃんの助力を借りてドライフルーツを作っていく。
「まず用意するのは、網と箱ー。」
ドワーフたちにささっと作られせた金属の箱の中に網を設置して、準備は完了。
「リンゴとなしに、ミカンに柿っと。」
村近辺で採れる一般的な野菜。桃とかイチゴも欲しい所だけど季節じゃないので諦める。
「皮をむいて、薄切りにしたものを、網に並べ、改めてに箱に設置。そしたらー。」
「ふるるるる(任された。)」
アシスタントに呼んでおいた梟組の一匹に魔法でほどよい熱風をだしてもらい薄切りにした果物たちに浴びせていく。
「お、おお。これは焼くとは違うのか。」
「火だと焦げちゃうからねー。」
この辺りのさじ加減が難しい。ドライフルーツも元々は自然乾燥で作るものだけど、前世ではフードフライヤーなるものがあった。トースターのような機械で温風で食材を乾燥させるあれだ。ノンフライヤーとかそういう機能だけど、細かいことは知らない。ただこの原理でもドライフルーツは作れる。
「ほわ、サクッとした食感でありながら、甘味が凝縮されている。これもうまいってばよ。」
キラキラしながらドライフルーツを口に運ぶリビオンだが、私は待ったをかける。
「ドライフルーツといえば、これよ。」
用意したのは程よく冷やした牛乳、あらかじめ作っておいた穀物を焼き固めておいたシリアル。それらとドライフルーツをボールにいれたうえで、牛乳を混ぜると。
「な、なんだこれは。」
なんちゃってシリアルの完成である。干したことで失われた水分が牛乳でみたされることで軟らかくなったフルーツと、その甘味が溶け出した牛乳がめっちゃうまい。
前世でも朝はシリアルだったけど、必ずドライフルーツが入った物を選ぶようにしていた。うんこれあよ、この凝縮された甘味と旨味。ドライフルーツは贅沢だねー。
「な、なんということだ。」
感動に震えているリビオンさんは、とりあえず放置しよう。
さて、干すといえばあれだ、梅干し。春先にとれた梅干しの一部を天日干しにしておいたものをつぼ漬けにして保存してある。
「す、すっぱい。だがなぜだ、あと引く味がなんとも滋味深い。」
干しシイタケや、干しキノコはスープの出汁にしているのですでに実食済みなので、レシピを読めば後で気づくだろう。
ここまできて、いよいよ本番だ。やってしまおう技術革命、まさかの知識チートと思っていなかった。なぜなら、それらのアイテムはゲームの中で普通にあったのだ。チーズとかハムとか。
「燻製をはじめるわよ。」
「クンセイ?なんだそれは?」
いいリアクションを返すリビオンさんを無視して、ケイ兄ちゃんとドワーフたちに用意させておいた鉄の筒を運ばせる。
筒の中は、二段構造になっており、下の部分で木のチップをいぶし、上の段に置いた食材にこれでもかとけむりをあぶせることになる。構造にアラはあるが、簡易的な燻製機、この世界で第一号ともなるあれだ。
「上段に色々セットして。」
チーズにゆで卵に塩漬けして干しておいた肉にナッツ。瞬間燻製なんてものもあるけれど、今回は小一時間ほどけむりでいぶす。
「な、なんだこれは、いい匂いだ。」
用意したのは、いつかやろうと思って保管しておいた桜の木のチップ。燻製と言ったら桜の木と前世で何かの本で読んだ。おぼろげな知識による再現。まだまだ改善の余地があるだろうけど。
「「「な、なんじゃこりゃーあーーーーー。」」」
完成し、ほんのり香りのついた燻製食材は、私を含めた多くの人達が絶叫するほどの出来栄えだった。
「ゆで卵なんて食べあきたはずなのに。」
「チーズが、チーズなのに。」
「ナッツが、ナッツがやばい。」
燻製はドライフルーツと同じ原理で水分が飛んで味が凝縮される。そして何より煙によって付加されたけむりがとんでもなく美味い。香ばしい香りが食欲を誘うが、何より濃い目の味が、
「酒のみてー。」
絶対酒にあうよ、これ。あれか、出来立てだからか、異世界ブースト的な物なのか?少なくとも前世の飲み屋で食った燻製よりも何倍もうまい。
「な、なんだこの肉は、これが肉なのか?」
個人的に一番うまいのはチーズなのだが、酒飲みたちには燻製肉が刺さったらしい。
「香りもそうだが、肉が詰まり、油がうまい。」
「肉の味が引き立つ。」
「これ焼いたらどうなるんだ?」
「「それだー。」」」
燻製肉をもって調理場に走る野郎ども。仕組みとしてはベーコンなのだろうけど、この世界にはまだなかったらしい。
「うーん、ベーコンにはあと一歩か。」
たしか調味液につけてなんやかんやするって、前世のグルメ漫画でやっていた。それと比べると塩味で燻製しただけの味の肉といった感じだ。いや普通にうまいけどね。
「これは、豚の消費が増えそうだな―。」
こうなると生ハムとかも作りたい。でもあれって、環境依存だったような。まあ、あとはのん兵衛どもがかってに追求するだろう。
「ベーコンエッグ食べたいなー。」
久しぶりのジャンクな味の気配に、ちょっとだけ前世に郷愁を覚えたのは内緒だ。
リビオン「OH-イッツミラクルだってばよ。」
ストラ「酒飲みたい。」




