140 ストラ、海を目指す。
砂漠の旅は危険がいっぱい?
世界観のお話です。
砂漠の旅というのは危険が伴うものだ。
サハラ砂漠の大きさは約7000キロメートル、ラクダに乗って横断には半年ほどかかると言われている。サウジアラビアで行われるダカールラリーは、5000キロを車で2週間かけて命がけ旅をするらしい。
そのはずなのだが、、一か月以上砂漠の旅をしているけれど、今のところは快適そのものだ。
まあ、私達の場合は、魔法で水を出せる上に、温度操作も周囲の警戒もしてくれる精霊さん達がいるのが大きい。本来は命がけ、準備をしっかりと行い、各地のオアシスで充分な休息をとる、それでも油断すれば命を落とす。生涯を賭けた旅というのが砂漠の旅らしい。
「急ぎ過ぎでは。」
「そうです、このまま、王宮にしばし滞在を。」
「城をあげて歓待させていだきますから。」
「いえ、先を急ぐので。」
王城の人々が先を急ぐ私を引き留めるのは自然の流れだ。どんなに急いでも一週間は休む旅に備えるのがラジーバでは常識らしい。
だが、王城に留まるのは厄介ごとの匂いがした。すでに、教育的指導の一環で、王子の1人を池に叩き落とし、治療目的で獣王の毛を刈り取ったのだ。これ以上いれば何が起こるかわかったものではない。
というわけで、私は、迅速に旅にでることにした。王城での滞在は3日ほど。
「帰り道では、必ず寄ってくれ。親書の返事はそれまでに書いておく。」
国王からの言質もしっかりもらっているので、王都でのお役目は完了している。あとは自由にバカンスというわけだ。
トリミングの伝道やツバキ油はいいのか?
トリミングは道具一式(予備)をお土産と一緒に渡したし、そのお礼としてツバキの種は全部確保済み、抽出はいつでもできる。
今度の目的地は砂漠の果て、海に作られた港町「アクアラーズ」と言われる都市だ。そこは別の大陸からの輸入品が届く港町で、ガラスの産地でもある。
そして、緑化の起点となる場所だ。
「ストラ嬢の御業で緑地化するのでは?」
「いやいや、安易にそんなことしたら、最悪大陸が滅びますよ。」
事情を話したマルクス王子以下、王城の関係者は魔法のようなものとと思っているようだが、緑化というものは、ただ、草木を植えて水をまけばいいというわけではない。
植物を植えることで、土壌を改善し、本来ならば蒸発して散ってしまう水を確保して、湿度を上げる。湿度が上がれば、雨がふり、水の循環が生まれる。
と、言えば聞こえがいいが、これは本来あるべき水を他の場所に移しているともいえる。
地下水をくみ上げすぎて地盤が沈下してしまったという事例は日本でも記録がある。
急激な緑化によって干上がった海から塩が風で運ばれて塩害が起きて不毛となった土地だってある。
ダムを作ったことで、下流の土地が干上がり、それがきっかけで争いになったこともある。
王城のオアシスを見るまで、私は、自分の、この迂闊さに気づいていなかった。ラジーバの緑化に成功した結果、王国が干上がったなんて笑えないし、貴重な地下水を消費した結果、災害が起きないとも限らない。
「なかなか、難しいものなのだな。」
滞在時間で最も苦労したこの話。私の懸念を理解したのはマルクス王子だけだった。王城で生活するほとんどが魔法で水を出すことに疑問を持っておらず、オアシスが枯れることを想像できないようだった。なんだかんだ、私と付き合いの長いマルクス王子は、私の言葉の先にトラブルが隠れていることをかぎ取ったのか、最後は急に旅立つ私に協力してくれた。
「ストラ嬢が必要というならば、信じるだけだ。」
「まあ、そこまでじゃないと思いますけど、確認は大事です。」
もっとも、私自身も、そこまで深刻にはとらえていない。
あくまで目的は、万能薬を作る過程でできた産業廃棄物の処理であり、この広大な砂漠をどうにかできるほどの影響が出るとは思っていない。仮にそんなことになるならば、ハルちゃんたちが止めているだろう。海岸線を確認するのは、念のためだ。
海を見て、塩害の影響がなさそうなら、そこで緑化を一気に進めてしまう。そんなアバウトな計画ではある。バカンスのついでの手慰みでしかない。それでもラジーバの人達からすると奇跡のような出来事に思うかもしれないけれどね。
「うん、それならば、やはり私も同行してこの目で。」
「それはダメだって言われたじゃないですか。獣王様に怒られますよ。」
なお、マルクス王子は王都に居残りだ。本人は同行を申し出ていたけど、留学中にたまったお役目や留学の報告が終わるまでは自由に出歩けないはずなので、きっぱりと断った。。
「すぐに片づけて追いつくから、待っていてくれ。」
そう言っていたが、名残惜しそうに砂上船の近くをうろうろしていたので、護衛達が無理やり引きずっていった。正直鬱陶しかったのでちょうどいい。
兵隊ハチさんに見張らせているので急なハグもさせないぞ。
「ストラ様、荷物の積み込みが終わりました。」
「クマ吉殿の準備もばっちりです。」
旅のお供は、ロザードさんとジレンさん。彼らも「アクアラーズ」に用があるとのことで、引き続き護衛を引き受けてくれた。砂漠のエキスパートであり実力もある彼らがいれば安心だ。
「くるるるる(海は久しぶりですねー。)」
もっとも、地元精霊である白熊さんがいるので道に迷うことはない。3人と数匹ながら過剰戦力もいいところだ。
見送りはマルクス王子達だけだった。関係者には事前に挨拶をすませ、日の出とともに旅立つ。砂漠では水も時間も貴重なので、よほど親しい人間でない限り旅たちの見送りはしない。代わりに再会したときや旅から帰ったときは歓迎する、そういう文化なのだそうだ。
「さあ、行こうか。」
「ぐるるるるる(OK)」
「じじじ(海鮮楽しみ。)」
「ふるるるる(海へ行くのは久しぶりだ。)」
「ぴゅうう(すやすや)」
にぎやかに旅立つ私達。ここにきて、護衛という名のお目付け役たちがいなくなったのは非常にありがたかった。
ストラ「私達のバカンスはこれからだ。」
ハルちゃん「じじじ(自由だ―。)」
マルクス「大丈夫か?大丈夫だよね?」
これまでの旅の行程
王都から砂漠の入口まで2週間
砂漠から最初の街ラグナードまで1日
ラグナードでアレコレが2週間
ラグナードから王都まで 1週間
王都滞在期間 3日




