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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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139 ストラ 王子に絡まれる。

 もう一人の王子の登場です。

 オアシス見学は非常に有意義なものだったけど、一番の発見は「ツバキ」に似た花を見つけられたことだだと思う。

「これは、ツバキ?」

「トバッキを知っているのか?これはこのオアシスにしか咲かない花でな、鮮やかな花を一年を通して咲かせることで有名だ。実もたくさんつけるのだが、不味くてな―。」

 そう言ってマルクス王子が足元にバラバラと落ちている種を拾って見せてくれたが、それは記憶にあるツバキの種と一緒のものだった。

「味は苦くて、酸っぱい感じですか?」

「ああ、毒はないが、食べ過ぎると腹を下すと言われている。」

 それは油分が含まれているからだろう。

「いいねー、ファンタジーだ。」

 とりあえずハチさん達に全回収は命じておこう。

 ツバキは、日本でもあった常葉樹で鮮やかな赤色が素敵な花だ。花が咲くのは春から夏に咲けての一時期で、気温が高めで湿度の多い場所を好む。その美しさから不老不死の象徴として愛される一方で、花がぽとりと落ちることから不吉の象徴とも言われたりと地域によって扱いが異なる。

 そして何より有名なのが、その種から獲れるツバキ油だろう。オレイン酸だかなんだか豊富なこの油は揚げ物に素敵な香りをつけることはもとより美容品としての価値が高い。

「そんなにいいものなにか?あまりに落ちるから毎月捨てているのだが・・・。」

「なんて、もったない事を。」

 ツバキ油といえば、前世で愛用していたシャンプーの原料だった。それっぽい素材は見つけていたけど、前世のクオリティには一歩及ばなかった化粧品関係のグレードが一気にアップする。

「そ、そうか、それならば取り置くように伝えておく。」

「お願いします。言い値で買い取りますから。」

 前世でツバキ油を作ったことはない。だが、ゴマや菜種を絞って油を作ったことはあるし、とある料理漫画でツバキから油を作って天ぷらを作る話を読んだことがあるから、薬学と組み合わせれば再現は可能だろう。

 これはメイナ様達にもいいお土産はできたかもしれない。

「はっ、薬師だ、悪魔だっていう割には、女だな、花でそんなに喜ぶなんてな。」

 と、御機嫌な私に耳障りな声が届く。

 振り返れば、ツバキの木をかき分けるように、犬顔の男がのしのしとこちらに近づいていた。なぜそっちから来たのか知らんが、木が痛む上に、種を踏んで潰している。

「メイナス兄上、帰っていたのですか。」

「おう、ワームを10匹ほど狩ってきたぜ。」

 鷹揚にうなづいた男は、茶色をベースにラインのように銀色の入った大男だった。体格は獣王様と同じかそれ以上、ただこちらは最初からドーベルマンのようにシュっとした毛並みで毛皮越しでも盛り上がった筋肉から鍛えられていることはよくわかる。

「いつまでも帰ってこないお前が、急に帰ってきた、それも女連れというからな。慌てて駆け付けたってわけだ。がははは。」

 なんとも豪快なワンコだが、もう数歩前にでてからにしてくれないだろうか。ブンブンフラれた尻尾が木に当たっている。

「す、ストラ嬢、大丈夫だ。トバッキの木は頑丈な上に生命力が強い、あのくらいはなんてこともない。」

 私の苛立ちを察した、マルクス王子がそうフォローしたが、気が気でない。

「ははは、マルクスが惚れた女というから、どんなものかと思っていたが、花の心配か、やっぱり女はだめだな。」

「なっ、急に何を言っているんだ。それに手紙にちゃんと書いただろ。彼女は王国からの来賓で。」

「ああ、なんか親父がそんなことを言っていたな。まあ照れるな、お前がどんな嫁を。」

「そーい。」

 ゲラゲラと笑って腕を振り回す馬鹿の足元に潜り込んで、その足を持ち上げる。

「はっ?」

 重心を崩されてもとっさにステップを踏んでバランスを取ろうとしたけど、怒りに支配された私の技はそんなやわじゃない。しゃがみ込む様に飛び込み、羽飛ぶ勢いを利用した技はバカの巨体ごと持ち上げて、宙に放り上げる。

 朽ち木倒しと言われる、柔道の技の応用だが、魔力で体力を強化した私なら、たいていの巨体も持ち上げられる。

 だが、これは始まりに過ぎない。

「やれ。」

「じじじ(了解」」

 私の命令と共に憑りついた兵隊ハチさん達は、その体を掴みグルグルと回りだす。踏ん張りも効かない空中でこれをやられると、人体でもなんでも面白いように回る。

 そして充分な回転が加わったところでダメ押しの回し蹴りを叩き込めば、そのままコマのように回転し、池へと落ちていく。

「秘儀、地獄バチ車バージョン5」

 ゲームでのスキルをアレンジした必殺技。代償に明日は筋肉痛になるからあまり使いたくないけど、それぐらい、この馬鹿は許せなかった。

「あ、あにうえーーー。」

 水しぶきを上げて池に落ちたバカを追って、マルクス王子が池に飛び込んでいたけれど、そんな子よりも今はツバキ、いやトバッキの方が大事だ。

「よかった、木は無事ね。」

 踏まれた根っこは痛んでいるようだったが、ほとんどの木は無事だった。

「じじじ(種の回収、終わったよー。)」

「ナイス。」

 事前に集めさせておいてよかった。被害は最小限だ。

「くるるるる(あちらはいいので?)」

「ダイジョブ、獣人は泳ぎも上手なはずだから。」

 仮におぼれても私には関係ないし。

「だ。だぶけてー。」

「あ、兄上、ごぶ、落ち着いて。つかまないで、私も。」

 ああ、あかん。パニックで二次災害が起きてる。

「ぴゅううううう(凍らせとくねー。)」

 レッテが気を利かせて、周辺を凍らせたので、王子2人は無事に救助されました。


 なお、救出された馬鹿犬は、その場で正座させてお説教だ。

「いいですか、植物は繊細なんです、無遠慮に踏み荒らしていい物じゃないんですよ。」

「はい、すいません。」

「砂漠で狩りをしてきたのに、なぜ、このオアシスの希少さが分からないんですか、バカなんですか、全身丸刈りにしてやがりましょうか?」

「はい、すいません。」

「このオアシスを管理し守る立場の王族なら、道が決まっている理由ぐらいわかりますよね。ちょっとした足跡や、刺激で畑が台無しになることだってあるかもしれないんですよ。私は事前にルートやその理由を聞いて非常に感心しました、ラジーバの人達がどれだけこのオアシスを大事にしているか、どれだけの歴史を積み重ねてこのオアシスをを維持しているか、感動しましたよ。それなのに、そのルールを王族の人間が破るとかふざけてんのか?お前を肥料にしてやろうか?」

「ひ、ひいいい。マルクス助けてくれ、なんだこの悪魔。」

 この程度で根を上げるとか、王子というのも情けない。皇帝とか国王はもうちょっと耐えたぞ。


 なお、王族に対しての言動が不敬罪になるかとちょっとだけ心配したけれど、普段から奔放気味だった第一王子にガツンと言ってくれたと、オアシスで働く人たちからはめっちゃ感謝された。

「遊び感覚で、畑やオアシスを荒らして怒られるのは王子たちが一度は通る道ですじゃ。」

「たいていは、被れたり、腹を下してから反省するんですが。」

「メイナス様は、あれです、風邪をひかない類のお方でして。」

 オブラートに包んだり包まれなかったりとさんざんな言われようだったけど。愛されてるなーメイナス王子。

「ともあれ、これでルールを守ることの大切さをしれたでしょう。」

「「「「ありがとうございます」」」」

 そのまま、御礼と称して、特産物やレアな果物とか香辛料を分けてもらえたので、今後の食事は豪華なものになるだろう。


ストラ「一番怖いのは筋肉痛が来ないことだ。」

マクベス王「ああ、わかる、二日後とに来るんだよねー。」

王子達「この人達怖い。」

 なんだかんだ、王族相手でも自重しないのが旅行モードのストラさんです。

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