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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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137 薬師、悪魔と勘違いされる。

 レッツ、トリミング?

 ラジーバ王城は、オアシスとつながっているため砂漠の中でも特に居心地がいい。

「くるるるる(こういう場所もたまにはいいですねー。)」

「ぐるるるる(やっぱり緑があると安心する。)」

 そんな居心地のよい中庭でクマたちはまったりと寛いでいた、傍らにはクマ吉が運んできた馬車があり、その背中では、フクロウのサンちゃんと豚のレッテが毛皮を堪能していた。

「ふるるるるる(それでもハッサム村の快適さと比べるとな―。)」

「ぴゅううう(視線がちょっとうざい。)」

「くるるるる(ハッサム村とはそれほど快適なのですか?)」

「ぐるるるる(あそこは特別。)」

 精霊は、魔力を糧としているため、本来は衣食住を必要としない。食事は嗜好品であり、過酷な環境でも生きていける。

 が、快適さや娯楽を欲しないわけではない。

「ふるるるる(やっぱり風呂だな。あそこの大浴場は最高だ。)」

「ぴゅうううう(寝るのに最適な日陰も多い。)」

「じじじじ(巣がいつも清潔なのも良いですな―。)」

「くるるるる(ほう、それはいいですな。)」

 ここまでのわずかな旅路の中で、ストラによって提供されたもののの快適さは白熊も理解している。本来ならば人間と関わることを煩わしいと思う精霊たちが懐いていることに最初は驚いたが、体験してみれば、すぐに納得できた。

「ふるるるる(それに姐さんは面白いからな。)」

「ぐるるるるるる(退屈はしない。)」

 だがそれ以上に、彼らがストラに付き合っているのは、彼女の行動が面白いからだ。自分たちを敬いつつも必要とあれば、道具のように活用する。不遜な態度であるが、その親しみは好感が持てるし、その発想は何時も面白い。

 平穏無事な生活が長かった精霊たちにとって、ストラとの日々は刺激的で面白いものだった。 

「くるるるる(ただ、我らの言葉を解するというだけではないんですね。)」

「じじじ(ストラ様は言葉を聞くに値する礼儀と知恵をお持ちというだけです。)」

 言語を理解する関係で、精霊と人間の意思疎通は可能だ。しかし、一手間かかるために、精霊から人間に働きかけることはない。日常的に会話をし、交流しているのはストラだけだ。

 それが新鮮であり、得られるものが面白い。長い時間を生きてきて、自分から関わりを持ちたいと思った人間は彼女が初めてであった。

「くるるるる(それはなんとなく、わかります。あの子は面白い。)」

 と和やかに話しているが、精霊は上位存在。いるだけで周囲の畏怖を集める。強さに敏感な獣人たちは、その存在感を敏感に感じ取っていた。

「精霊様があんなにも寛がれおられる。」

「やはり、あの客人は聖女なのか。」

「ありがたや。」

 彼らがむずがゆく感じているのは、獣人たちの信仰に近い視線と言葉によるもの。それが自分たちとストラの違いであることに彼らは気づかない。

「じじじ(ストラ様からお呼び出しです。鞄を持ってきて欲しいとのことです。)」

「ふるるるる(ほら、まただ。)」

「ぴゅうう(めんどくさいなー。)」

 自分たちの上司であるハルちゃんからの連絡を受けて、せわしなく動く兵隊ハチと、熊の背中から降りて歩き出すフクロウたち。

「ぐるるるる(いってらしゃい。)」

 なんやかんやいいながら、楽しそうな小さな仲間たち。巨体ゆえに留守番なことが少しだけ寂しいクマ吉であった。


 動物の毛を切ることをトリミングというけれど、これを行う時はペットの体調やストレスを観察しながら、素早く的確に行う必要がある。

 人間だって知らない人に神を触られるのはストレスだし、動物からすると人間は巨大な相手だ。ある程度繰り返せば慣れるけれど、初回は緊張して暴れる子もいるとかいないとか。

「く、くうううう。」

「はいはい、ちょっとくすぐったいですよ。」

 というわけで、上半身をはだけさせた獣王さまが、ブラッシングでわずかに震えているのは気づかないふりをしておく。

「うわ、ごっそりとれるなー。」

 獣の因子が強いのか、彼の上半身は毛深かった。これは人間というよりは二足歩行のお犬様といった感じだろう。軽くブラシをかけただけでごそっりと毛がとれた。

「これは相当かゆいでしょうに。」

「う、うむ。」

「劣化した毛が残っていると、そこから虫が湧くんですよ。」

「む、虫?」

 正確には細菌なのだけど、わかりやすく虫と表現している。動物の毛というのは食べかすや汗や排泄物などの汚れがついて残りやすい。だからこそ外で過ごす動物は自然と毛が生え変わるらしいけど、室内飼いのペットは定期的に毛先を整える必要がある。

「毛並みを整えたことは?」

「そんなことはしないな。ただ、水浴びはしているぞ。」

「アウトですねー。ちゃんと乾かさずに服を着たりしてません?」

「い、いや。」

「あるんですねー。」

 背中と右腕の毛をブラッシングしてやり方を見せたら、居合わせた侍女さんにブラシを渡して、腹側と左腕はやってもらい、私はハサミと櫛をとりだす。

「うん、傷んでいるところはばっさりといくか。」

 まずは頭の毛を櫛ですくってから、チョキチョキと切っていく。村や学園では、誰かとお互いに髪を整え合ったりした経験があるので慣れたものだ。

「じじじ(ストラ様、持ってきました。)」

「ふるるるる(なんだなんだ、ゆかいなことしてるなー。燃やせばいいか?)」

 ある程度、頭がすっきりしたタイミングで、サンちゃんたちが私の鞄をもってきてくれた。中には、クマ吉や精霊さんたちのお手入れグッズも薬も入っている。

「よし、じゃあ、一気にいきますよ。」

 取り出したのは手動のバリカン。ドワーフ特性で、にぎにぎするだけでクマ吉の剛毛だって刈り取れる性能のやつ。それを背中に当てて、一気にかりあげる。

「ああ、ちょ、ちょっと。」

「はい、動かない。レッテお願い。」

「ぴゅうううう(はいはい。)」

 じょりじょり落ちていく毛にマクベス王が立ち上がろうとするが、レッテにお願いして氷で拘束してもらう。

「動くと、禿ができますよ。」

「ひ、ひいいい。」

 脅し文句でだまらせて、一気背中の毛を整える。もっさり毛を短髪ぐらいまでに整えたら、腕と腹側(それはさすがにと侍女さんに泣かれたの仕方なく。)も同じように一気に刈り上げる。

 次々と落ちていく毛を、ハチさん達の風で集めて、サンちゃんに燃やしてもらい、床は汚さない。

 獣人の王の毛となれば、素材として面白いかもしれないけど、おっさんの毛を使うのはなんかいやだったし、痛みがある毛は病気のもとなので即処分だ。

「ああああ。」

「ひいいいいい。」

 まあ、他の人には少々刺激の強い光景となってしまった。だが必要なことだし、王の施術を見届けるのが務めと残ったのは彼らなので知ったことじゃない。


「よし、おわり。」

 それなりの巨体だけど、上半身だけだし、クマ吉ほどじゃないので毛刈りは30分ほどで終わった。

「つ、疲れた。」

 それでも慣れないことだったらしく、マクベス王も手伝ってくれた侍女さん達もぐったりだ。

 いやいや、この程度で疲れていては、クマ吉のトリミングなんて不可能ぞ。あれは数人がかりで一日しごとになるし。

「じゃあ、仕上げと、サンちゃん。」

「ふるるるる(心得た。)」

 サンちゃんにお願いして氷の拘束を溶かしてもらい、それをそのまま魔法でコントロールする。

「ここに薬剤を混ぜまして。」

 薬剤とか言ってますけど、普通の石鹸です、植物油と石灰を使ってなんやかんやして作った天然素材100%のオリジナルなもの。魔法でグルグルと水を回して泡立てたらそのままマクベス王に纏わせる。

「お、おおお?」

「はい、そのまま動かないでくださいねー。口に含むと苦いですよー。」

 水玉上にした泡玉で獣王を包み込み、そのまま回転させる。

「こ、これはなかなか、心地よいなー。」

 うん、この丸ごと洗いは精霊さん達にも好評だったりする。

 なお、がっつり洗ったので、水玉は汚れでどんどん黒くなり、取り残した毛も相まってすごく汚い。

「あかん、捨てる場所を考えてなかった。」

 仕方ないので、充分に汚れが落ちたら、水球を離れた場所に動かして、レッテに凍らせてもらった。あとで地面に埋めてしまおう。

「最後は乾燥。」

「じじじ(OK)」

 仕上げはハチさん達の風魔法で乾燥させてから、侍女さん達にブラッシングさせてから、香油も渡して毛先を整えさせる。

 いやー、モフモフでもおっさんの身体に乙女が触るのはあれでしょ。ぶっちゃけ疲れたし。

「おお、これは。十年は若返った気がするぞ。」

 さんざん振り回されたのち、姿見にうつった自分の姿をみて、マクベス王は驚き、そして喜んだ。

「うむ、身体が軽い。なるほど、薬師殿の言葉は本当だったのだな。」

 それはそうだろう。モフモフのシベリアハスキーが、ドーベルマンなみの細マッチョになっているのだ。これには見守っていた役人たちも驚いていた。

「下半身は、自分でやるか、侍女の人に任せてくださいね。」

 ズボンの足元から漏れている毛も気になるが、流石にそちらまで面倒を見る気はない。

「う、うむ。これは推奨すべきことかもしれん。」

「まあ、薄着で過ごす習慣をつければ自然と毛が整うと思いますよ。」

「なるほど・・・。たしかにここ10年ほどは執務に追われて身体を動かしてこなかったが、このようなこともあるのだな。」

「健康の基本は、よく食べて、良く動くこと。そこに清潔感が加わればたいていの病気はなんとでもなります。」

「うむ、至言として、皆に伝えよう。」

 満足してもらったようで何よりだ。旅の疲れを押して、両腕の筋肉痛を覚悟してやったかいがあるというものだ。

「ところで、こちらの施術は他の者には?」

「道具はお貸しますので、そちらでなんとかしてください。」

 半分がワクワクと、残り半分が恐怖にそまった目で私を見ながら、そんな質問をしてきたけど、お断りだ。


 こうして、トリミングと毛の手入れ習慣は、毛深い獣人たちの間で広まり、獣人たちの健康維持を助けることになった。

「恐ろしい、だが若返るなら。」

「悪魔だ、悪魔の取引だ。」

 その効果を知った獣人たちから、トリミングは「悪魔の取引」と言われるほど、魅力的なものとなり、それを広めた薬師、ストラ・ハッサムの名はラジーバで広く知られることになった。

 なお、ストラが、他のお土産と一緒に献上したところトリミングセット(ドワーフ特製品)は獣王と王族の間で愛用されることになり、コピー品が大流行した。オリジナル商品は国宝として大事にされ、本番のトリミングセットを求めて獣人たちがハッサム村を目指すことなって、故郷の財政の助けになった。

「あの野郎、出先で仕事を増やしやがった。」

「お嬢は、俺たちを過労死させるきなんだー。休暇なんてないんだー。」

 とドワーフ達の怨嗟の声があったらしいが、これによりハッサム村の財政と知名度は大陸中に知られるレベルになったと記録されている。





 

ストラ「いい仕事をした。」

マクベス「死ぬかと思った・・・。」


 一般的にトリミングは1時間から4時間ほど時間がかかります。ストラは毛刈りメインで、洗いと感想は魔法でごり押したのでこの時間で済んでいます。

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