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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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136 獣王は慄いた。

 王様と謁見タイム?

 王国の城が夢の国の中央にありそうなヨーロピアンな城だとしたら、ラジーバの城は沖縄の真っ赤な城のようだった。真っ赤に染められた木材の柱や屋根、石畳の端々には南国風の木々が植えられ、通り道に沿うように水路があり、街中よりも涼しく快適であった。

「どうだ、ストラ嬢、すごいだろう。砂漠の国では貴重な木材を使った我が居城は。」

 どや顔のマルクス王子に案内された部屋は、南国風。床板に敷かれた格子模様のラグマット、植物の皮を編んで作られたゆったりとした椅子と同じ材質のテーブル。事前に屋内では専用の靴を履くと聞いていたけど、藁のような植物のつたを編んだ、草鞋のようなスリッパだった。

 非常に履き心地がいいので、お土産に欲しい。

「父上、獣王様との謁見まで、しばし、時間がある、くつろいでくれ。」

 案内されたこのラグジュアリーな空間は、謁見待機の部屋らしく、宿泊用の部屋は今準備中らしい。

 ちなみにクマ吉と白熊たち精霊さん達は、中庭らしき広場に案内され歓待されている。お供はハルちゃんだけだ。謁見に向けてハルちゃんもリボンでおしゃして準備万端。

 なのだけれど。

「このお茶とお菓子は?」

「旅の疲れもあるだろうからと、城の者が。」

 よくわからんが、こんな至れり尽くせりでいいのだろうか?たしか、待たせてたんじゃなかったのか?市街地で色々食べ物を奢ってもらったので、正直いらないんだけど。

 あれだ、家庭訪問のたびにお茶菓子とお茶を頂いていたことを思い出すわ。有難いんだけど、何件も回らないといけないから、正直いらんってなるのよ。でも断るのもあれなわけだし。

 先方としても相手を手ぶらで待たせるのも気まずいから、用意したくなるのもわかるんだけど。

「じじじ(これは独特の香り)」

 なお、お茶菓子とお茶は、ハルちゃんのおやつとなりました。


 で、案内された謁見の間。どこか中華風な雰囲気だった。竜と狼の石造が左右に置かれた豪華な王座と壁には波打つような模様。着物のような礼服をきた獣人たちが列をなしてマルクス王子を迎え、奥の一段高くなっている場所にある玉座の前では、がっしりとした体格の犬顔の獣人が腕汲んで仁王立ちをしていた。シベリアンハスキーを思わせるかわいいようで凶悪なご尊顔だが、銀色の毛皮に隠れた瞳はマルクス王子と同じ色だ。

 獣王マクベス。入室と同時に私を見定めんとにらみつけてくる姿は、あの皇帝のような邪悪さはないけど、どこか好戦的で威厳があった。うちの王様に見習わせたい。

「余が、今代の獣王、マクベスである。王国への客人よ、歓迎しよう。」

「お招きいただき光栄です。」

 通路を半ばまで進んだところで、そう声をかけられて、私は膝をつく。謁見の作法というのは国によって違う。ラジーバの場合は、入室からゆっくりと歩き獣王に話しかけられたところで止まって、挨拶をするという作法だ。

 どのタイミングで声をかけるかは、謁見の重要度や相手の地位、何より相手をどう思っているかによって決まるらしい。

 この距離は、王子に対してはちょっと不遇、初来訪の異国客人に対してはやや優遇といったところだろうか。

「客人よ、新ためて名を訪ねても?」

 それでいて、気さくだ。王族が下々の者、それも初見の相手に対して、穏やかに微笑みながら声をかけるということは普通はない。それを自然体でしつつも威厳があるのだから、強者の余裕的なものを感じる。

「王国より、マルクス王子の招待を賜りました。ハッサム辺境伯が娘、ストラ・ハッサムと申します。このたちば、謁見の栄誉を賜り、至福の至りです。」

 立ち上がり、膝をつき、相手の顔を見ながら挨拶をする。ラジーバ風の臣下の礼もばっちりだぜい。その完璧な所作(小学生でも出来る)に役人たちの顔に驚きが浮かぶが気にしない。

「うむ。」

 マクベス王も、鷹揚にうなづくだけで堂々としたままだ。ただ、顔がシベリアンハスキーなので、やっぱり怖カワイイな。

「この度は、国王よりの親書も預かって御有ります。」

「うむ。」

 あらかじめ連絡してある用事を先にすませる。手荷物として持ち込んだ革袋から取り出すのは親書の入った筒。蝋によって固く封印されたそれには王家を示す刻印が押してある。これは使者が道中で書き込んでいないという意味と同時に、国王の意思を表すもの。何気に貴重品だ。

「うむ。」

「こちらに。」

 すすっと出てきた獣人(猫)が掲げる台座に、それを置き。マクベス王へと運ばれるのを見守る。

 ぱきっと音を立てて封印はとかれ、中にある紙が手渡される。

 親書は国王の直筆であり、獣王が最初に触れる。これは両国の正式な外交文書となる。

「何ともめんどくさいなー。」

 そんな厳かなやり取りに、そんな感想が漏れる。

 国交があるといっても、定期的な使者の往復があるだけで、大使館というようなものはない。それはお互いの文化が違いすぎることによる余計な諍いを避けるためだ。協力するのは利益があるときと共通の敵がいるときだけ。それ以外は相互不干渉。というのが両国の関係である。

 となると、これまでの私の行為は色々とまずいことになるのだが、そこはマルクス王子の国策に協力しているという体裁をとってある。

「ストラ嬢とお呼びしても?」

「ストラで構いませんわ。私はマルクス王子の好意によってこの場にいるだけの凡人ですわ。」

「いや、息子の友人であり、国賓であるそなたを無碍な扱いはできん。これにもよろしく頼むとかかれているぞ。」

 国賓って?国王、親書になんて書いたんだ。帰ったらメイナ様達に文句を言おう。

「ほかにも、ラグナラードでのことや、マザーワームの一件も報告を受けている。あれだけの偉業をなしたストラ嬢は、この国の恩人だ。そうだな、マルクス。」

「はっ。ストラ嬢はすばらしい才覚と強さをもった才女であります。彼女の知恵を借りられることは、ラジーバの歴史を100年は進めることでしょう。」

 うん、まあ。やりすぎたからなー。砂漠の緑化の可能性と雨ふらし。毛無と言われた人達の意識改革。褒められるのはうれしいけど、内政干渉と言われる可能性に内心はびくびくなんですが。

「滞在中はぜひとも忌憚ない意見を欲しい。」

「それは本当ですか?」

 一国の王が小娘にいっていい言葉ではない。それも役人たちの前でだ。

「構わん。我々は、才能と力を好む。見た目や年齢などにはとらわれず、その中身をもって判断する。だからこそ、ストラ嬢の言動の一切に不敬は問わない。」

 まじかよ、獣王。懐が広すぎるじゃないか。いや、バカだろう。

「では、失礼して。」

 その言葉が真実か、私は礼を解いて立ち上がる。言動を問わないなら、この堅苦しい姿勢を続けなくてもいいよね?

「うむ、構わん。」

 挑発ともとれる行為だが、獣王も役人たちも動じない。この辺りの懐の深さは好感が持てる。やっぱり人間、視線は揃えて話さないとね。まあ、悲しいかな、小柄な私では見上げる形であることは変わらないけど。

「では。マクベス王様、出会いの記念として一つ進言の許可を。」

「構わんよ。」

 何も知らない私の姿は、背伸びをして大人ぶっている子供に見えるらしい。初見の相手はこれにあっさりと騙される。

「ストラ嬢、お手柔らかに。」

「大丈夫ですわ、マルクス王子。あくまで薬師としての進言ですので。」

 唯一の例外が余計なことを言わないように笑顔を釘をさしてから、私は獣王と向き直る。

「では、偉大なるマクベス王に進言させていただきます。」

 言いながら、気の引き締まる感覚に、旅でなごんでいた精神が研ぎ済まれていくのが分かった。世渡りで必要ならば淑女でも熱血教官にもなる。私の人生の目的は、ハッサム村でほどほどなスローライフをおこなうことだ。

 けれど、それと同じぐらい、大事なこと。それはじいちゃんから受け継いだ薬師の心得だ。


「今すぐ、その無駄にもっさりとした毛を刈らせろ。」


 ずっと気になっていた。どうにかしたいと思っていた。

 だから、許可が出た以上は、治療をさせてもらう。

「はっ?」

「失礼ながら、マクベス王や役人さん達は、病気の兆候があります。」

 だって、もっさりしすぎなんだもんこの人達。

「朝晩に肌がかゆくなったり、関節が痛むことはありませんか?」

「う、確かに、ここ数年はそのようなことがあるやも。」

「やっぱり、すぐに刈りますよ。」

 獣王を含めて、この場にいる役人たちは、獣人の因子が強いのか顔もアニマルな感じだ。当然毛深い人達が多い。しかし、私の目からみたら、不自然で不健康な人が多い。

「毛が病気のもとになってます。整えればすぐに改善します。」

 原因は恐らく、水が豊富すぎることなんだろう。

 動物の毛皮というのは本来は身体を守るためのもだ。乾燥や雨、外敵などの刺激から身を守り、健康を維持するためのもの。獣人たちのそれは、砂漠の過酷な環境で生きていくために進化してきたもの。同時に獣人たちの威厳を示す重要なファクターでもある。

「し、しかし、これは血の濃い獣人の宿命のようなもの。強さの代償と言われていることですぞ。」

「そ、そうだ、毛を刈れとはなんたる無礼。」

 いや、不敬は問わないと言いましたよね。問題はそのプライドだ。

 街や砂漠で暮らす獣人たちは日々の生活の中で自然と毛や爪が摩耗し健全な状態を保っている。しかし、清潔で水の多い王城で生活する獣人にとっては、邪魔な物だ。例えるならば部屋飼いのペットが無理に毛皮をもっているようなもの。彼らは余計な物を着込んでいるのだ。

 だから部屋飼いのペットは、定期的にトリミングをして毛や爪を整えたり、服を着せたりもする。

 獣王や役人たちも清潔にはしているようだけど、そこまで考えて整えているとは思えない。だから、病気の兆候が見えているのだ。

「白熊様と同じ症状です。」

 めんどうなので、必殺の言葉でざわつきを黙らせる。

「今すぐ、刈らせろ。」

 その手には、ハサミとブラシ。うちの精霊さんたちのお手入れ道具を使ってあげるんだ。有難く思うんだね。

「ひ、ひいい。」

 その迫力に、獣王様が少し引いていた。

 まあ、子どもも王様も医者と病気の前には無力ってことよねー。



ストラ「そのもっさりした毛、切り落としましょうね。」

獣人ズ「ひいいい。」

 初見の国王への権威?大人しくする? そんなものは薬師モードの彼女には無意味です。

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