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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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134 薬師 普通の反応にちょっとだけ安心する。

 やっとラジーバの王都に到着 すでに2か月

 砂漠の旅は単純だけどやること多い。

 砂上船で爆走しながら、その船内では、鉢に集めた砂で精霊草が育つか調べたり、マルクス王子から砂漠について色々教えてもらったりと研究をし、夜は設営という名目で小さな砂ダムを作る。本来ならば移動だけで精一杯な砂漠の旅だけど、景色にも飽きていたのでついね。

「くるるるる(管理は私の眷属に)」

 作ったダムと植えた精霊草に関しては、白熊さんがどこからか呼び出した、ペンギンの精霊が管理をしてくれるそうだ。。砂ペンギンと呼ばれる彼らは、見た目はペンギンだが体毛は白く、砂の中を海のように泳いで生活していて、白熊をボスとしたら群れを作って生活をしているらしい。

「ちちち(なに、ここめっちゃ快適)」

「ちち(草も上手い。)」

 適度な水と、ほんの少しの精霊草がお気に召しめしたらしく、ちょっと多めに植えてみたが、問題なく食べ尽くすことだろう。

「くるるるる(この場所を守りなさい、そうすれば食べ放題よ。」

「ちちち(お任せあれ。)」

 白熊さんのそんな言葉にびしっと敬礼をするペンギンたちがちょっと面白かった。

 なお、白熊さんはしれっと旅に同行している。

「くるるるる(助けていただいた、御礼です。)」

 そう言っているが、視線がブラッシング用のブラシに向いているのは指摘しない。


 そんな目まぐるしい事を繰り返して2日。ラジーバの王都であるビアンカがその雄大な姿を現した。比較対象がない砂漠の海、その地平線の向こうにポツンと見えたそれは、近づくととてつもなく大きな壁となっていた。

「でか。」

「そうだな、ラジーバ最大のオアシスを守るための場所でもあるから、それなりだ。もっとも学園や王都と比べると小さいがな。」

 大きな城壁。視界の果てまで伸びているんじゃないかと思うほど長い壁は緩やかなカーブを描いていて、ビアンカを囲っているらしい。

「あれが第一の城壁であるファジェダ。もう少し近づけば入口がいくつも見えると思う。」

 その言葉通り、最初は大きな壁に見えたが、実際は無数の柱がたっているだけで、結構な隙間が見えた。壁のように見えたのは角度の問題と、奥にある更なる壁にようものだ。無造作なようで、計算されて柱は立てられ、魔物の多くは、その威容に近づこうともしないらしい。

「第一城壁は、今もなお建造中だ。砂漠であれだけの規模の城壁を作るには資材が足りないからな。」

「まあ、そうでしょうねー。」

 ピラミッドやスフィンクスも、大量の奴隷を使ってナイル川の上流から石材を運んで作ったっていうし。川もないこの場所で、よくもまあ、この規模の都市を作ったと思うべきだろう。

「中にはあと二つの城壁がある。それは歴史と共にビアンカが拡大されてきた名残りであり、砂漠の厳しい環境からオアシスを守るために作られたと言われている。一番奥の城壁は、オアシスの周辺にあった岩場を加工した天然の要塞なんだ。」

「それは見てみたいですねー。」

「楽しみにしていてくれ、必ず満足させるから。」

 自信満々なマルクス王子に怪訝な視線になってしまうが、ロザードさん達や側近の人達も自信満々なところを見ると、オアシスは相当すごいらしい。

「と、ファジェダの手前で一度船を止めてもらえるだろうか。先に進めないことはないが、城壁より先に入る場合は事前に連絡をする必要がある。」

 まあ、国防としては当然の措置だろう。その言葉を聞いていたクマ吉がゆっくりと減速する中、側近の1人が先行して、報せに行くことになる。

「しばし、待つことになるかもしれん。」

 それはそうでしょうねー。

 なんだかんだ言って、マルクス王子はラジーバ王子だ。王子の帰国となればそれなりの体裁を整える必要があるだろう。王国ならば事前に予定を伝える使者を送るなどの方法もとれるかもしれないが、砂漠の海を単独で先行させるなんてことは、非人道的すぎる。

 それに、最初の城壁とやらは色々と警備も厳重そうだ。

「じじじ(偵察に行きましょうか?)」

「いや、大丈夫でしょ、周囲の警戒だけお願い。)」

 騎馬やラクダたちを置いておく場所に砂上船を止めて、私は大人しく待つことにした。砂上船の解体と馬車への換装は護衛の人達に任せ、私はクマ吉の背中にもたれかかって、うーんと伸びをする。

「とりあえずついたねー。」

「じじじ(長かった。)」

 膝に乗っかるハルちゃんを撫でながら、少しだけ気が緩む。旅は面白かったし、精霊さんと一緒の時点で危険はほぼ皆無。それでも砂漠を横断する生活から解放され、文明と人の気配を感じる空間にくれば落ち着くのものだ。旅行帰りに地元の喫茶店についたときのあの感じに近い。あるいは、飛行機から降りて、荷物を受け取ったときのテンション。ちなみに私は旅行先ですぐに飛び立つことはせず、空港でのんびりするタイプだった。

「あのお嬢ちゃん、こちらの猛獣は?」

 と、ぼーとしていたらこちらに近づく衛兵っぽい人たちに話しかけられた。

「ああ、私の従魔ってことで?」

「なぜに疑問形?」

「いやー、なんというか、友達、家族みたいなものなので。」

「ああ、そうか、お嬢ちゃんは従魔士なのか、そっちの立派なクマも君の?」

「はい、一応。悪戯しない限りは安全ですよ。」

 だからその物騒な槍をこちらに向けるのはやめてくださるとありがたい。

「ふむ、名前を聞いても?」

 これって職質か?前世も含めて初めての経験なんだけど。

「ストラと言います。疲れていますのでこのままでもいいですか?」

「ははは、砂漠を超えてきたばかりの旅人に立ってなんて言わないよ。」

 座ったままの姿勢を一応詫びておくと、隊長っぽいおじさん(顔はネコっぽい)がけらけらと笑った。

「一応聞かせてもらうけど、ラジーバへはどんな目的で?」

「ええっと観光?あとは、一応仕事でもありますねー。」

「なるほど、旅芸人なのか。おさ、若いのにすごいねー。」

 ニコニコと笑うおじさんに、曖昧に微笑んでおく。旅の途中ということで、汚れてもいい地味な恰好をしているので、旅芸人一座の子供とでも思っているかもしれない。なんというか対応が子供のそれだ。

「隊長、こんな猛獣ですよ。首輪もしていません。」

「お前ら、びびりすぎ。お嬢ちゃんが大丈夫って言ってるんだから、大丈夫だ。そうだろう?」

「ええ、この子たちは賢いので。ねえー。」

「ぐるるるるる(大人しくしてるよ。)」

 うつぶせのままゆるく吠えるクマ吉に、ちょっとだけびびる衛兵さん達だったけど、のんびりした様子にすぐ脱力する。

「なるほど、獣人でもないのに、すごいな嬢ちゃん。」

「ああ、大したもんだ。獣に好かれる人間は、出世するって聞くぞ。」

「あ、あのー撫でててもいいですか。」

 うん、いい人達だ。獣人は基本的に純朴なんだよねー、砂漠にいる盗賊は人間ばかりで構成されてるって聞くし。

「興行するなら、見に行くからなー。」

 そのまま、一通りクマ吉と白熊に触った衛兵さん達はそう言い残して去っていた。うん、サーカスか何かと勘違いしてますねーこれは。別にいいけど。

 ところで、治安のいい街というのは警官や衛兵さんの質がいい。何かあれば守ってもらえるという信用があるからこそ、衛兵さんが和やかに接したという事実は、そのまま信用となる。

「ねーねーお姉ちゃん。これってなんて鳥?」

 クマ吉の巨体に遠巻きにしていた街の人達の視線が柔らかいものにかわり、無邪気なお子様がとことこと私のとこへ近づいて、ハルちゃんを指さしてそんな質問をした。

「ううん、この子はハルちゃん、鳥じゃなくてハチかな?」

「ハチってなに?」

「虫だよー。」

「虫ってなにー?」

 ああそうか、砂漠に虫っていない?少なくともハチっていないんだろうなって。だが、このままなになに攻撃はちょっとメンドクサイ。

「触ってみる?」

「いいのー。」

「じじじ(やさしくね、羽はだめよ。)」

「羽は嫌がるから頭のこの辺をなでてみるといいよ。」

 膝の上で大人しくしているハルちゃんをお子様が触りやすいように抱えてあげる。出会ったときは肩ノリサイズだったハルちゃんもだいぶ成長して、今は子猫サイズになっているので、その愛くるしさや虫特有のカッコよさが両立しており、かなりの美人だと思う。まあ、慣れてないと結構怖いよ。

「うわ、ふわふわ。」

 子どもというのはときに、すごい度胸を示すことがある。怖がるどころか、ハルちゃんのふわっとした頭をなでながら目を輝かせて、尻尾がブンブンふれている。このお子様は犬のような顔で、尻尾もふさふさだ。うん、かわいい。

「ぼ、僕も僕も。」

「わたしも、触りたい。」

 1人が許されれば、他の子どもも群がってくる。街に入る家族を待っている子か、それとも街の住人なのかはわからないけど、私という玩具を前に集まった子供たちは、獣人の国らしくその姿はバラエティーに富んでいる。

「はいはい、順番ねー。あと悪戯はしちゃだめだぞー。」

「「「はーい。」」」

 うん、素直でよろしい。せっかくならサービスしてあげよう。

 戻ってきた兵隊ハチさんとハルちゃんは、撫でられるとうサービスの他、風を起こしてキャーキャー言われ。

 クマ吉と白熊さんはのっそりと起き上がってその背中に子どもたちを乗せてあげた。

「ふるるるるる(それくれ。)」

「おお、これはありがたや、ありがたや。」

 サンちゃんは、お爺ちゃん、おばあちゃんの近くを飛び回って、なぜか、食べ物をもらっていた。ほどほどに温かいらしく、おじいちゃんたちは手を当てて喜んでいた。

「ぴゅううう(スヤー)」

 レッテは・・・うん騒がしいのが嫌だったらしく、カバンに潜り込んで熟睡してました。

「すごいな、嬢ちゃん。それでどんな芸をするんだ?」

「何か見せてくれよ。なんか入国の検査が厳しくて、退屈なんだ。」

「おお、頼むぜ。」

 いや、これも充分な芸と思うんだけどな―。まあ動物がうろうろしているだけだから、大人には退屈か。それなら。

「OK,、おひねり替わりに美味しい物を教えて頂戴。奢ってくれてもいいわよ。」

 パンパンと手を叩いて精霊たちを招集。子どもたちには悪いが、一端離れてもらう。

 即興で芸ができるのかって?

 ははは、ちょっとしたテクニックで子供の心をつかむなんてことは、教師のマストスキルだぞ。場所は狭いがいくらでも可能だ。

「では、お立合い。袖振り合うも他生の縁、話のタネに精霊の御業を体験してくださいな。」

 芝居がかった動作で注目を集めつつ、まずはクマ吉に合図を送って、地面を盛り上げて即席のステージを作る。円形のシンプルな物なので、怒られたらすぐに戻せばいい。

「まずはハチ達のアクロバット飛行。」

 言いながらステージを操作していくつもの輪っかを作り、コースを設定する。

「じじじ(舞え。)」

「じじじ(承知)」

 ハルちゃんが先導するハチさん部隊は上空で編隊飛行を披露したあとで急降下、輪っかを通って複雑な飛行を披露した。

「おお、すげえ。」

「砂鳥やカモメじゃこうはいかないぞ。」

 つかみはオッケー。ハチさん達はこの編隊飛行というか障害物あり飛行が好きなので、ちょいちょい付き合っていたので、慣れたものよ。

「続いては、暑さに嬉しい、氷の彫像を。」

「ぴゅうう(めんどい。)」

 レッテとサンちゃんの合わせ技で氷像を作ろうとしたけど、これはレットが拒否して、ただの氷塊となってしまった。仕方ないのでくだいて配ったら、これはこれで受けた。

「すごいなー。」

「ふるるるる(俺も。)」

 サンちゃんはこの場では危険なので控えましょうね。

 と、勢いで派手になってしまい、遠目に衛兵さん達が怖い顔をしているので騒がしいのはそこでやめておこう。大丈夫、テンションが上がった子供をクールダウンさせるテックニックも心得ている。

「では、ここからは落ち着いて物語でも。」

 寝そべるクマ吉の上に座って、おひねり替わりにもらったお茶、チャイっぽい物を飲んでから私は、周囲に聞こえるように、適度な声で語り始める。

「昔、昔、別の大陸にある砂漠の国には恐ろしい王様がいました。」

 はい、砂漠と言えば千夜一夜物語。アラジンとかシンドバットな話をしてもいいけど、冒頭の語り口は忘れてはいけない。

「その王は人を信用することが出来ず、嫁入りをした美しい娘のことも信用することができず、結婚したその夜に娘を殺そうとしました。」

 娘は殺されないために毎晩一つの話を、王に語って聞かせる。そうやって千夜生き延びた。王様は物語のトリコになったと言われている。

「そんな1000の物語から、一つをご紹介。」

 ゆったりとした語り口から、周囲の人達は押し黙って続きに耳を傾けた。うん、つかみはオッケー。

 ちなみに原作の千夜一夜物語を読んだことはないので、話そのものは前世の記憶のアレンジ。つまりハッサム村で行っていた読み聞かせからチョイスした。

 

 アラジンがバカ受けだったということだけは記しておく。

 いつのまにか、紛れ込んだマルクス王子たちまで聞き入ってしまい、街に入るのがさらに遅れたのはご愛敬だ。


 



ストラ「なんかほっこり」

衛兵隊長「あれ、やばいやつだよねー。スルー安定。」

キッズ「モフモフ―。」

 さらっと民衆に溶け込む貴族令嬢。この後でマルクス王子達が顔を青ざめてました。

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