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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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133 砂漠の精霊はわりとあれでした。

 砂漠のキャンプも精霊チートで。

「くるるるる(いやー面倒をおかけしました。)」

 と、頭を下げるのは、クマ吉によって救出された白熊さん。衰弱していたけど、目立ったケガしておらず、精霊草をもぐもぐさせてあげたら元気になった。

「で一体、何があったの?」

 マザーワームの解体はマルクス王子たちに任せて、私は白熊の容態を確認、元気そうなので事情を聞くことにした。

「くるるるる(それが、その、お恥ずかしい話なのですが。」

 そして、語られた話のは白熊のドジだった。

 

 換毛期の生え変わりで毛が痒くなった彼女は、砂浴びをしたり岩肌にこすりつけたりと対策をしていたけど、どうにも取れない毛があり痒くて、うっとうしくてたまらなかったらしい。

 なんとかできないかと砂漠をさまよっているときに、ワームの襲撃があり、それを撃退した。そして、ワームのとげとげな口内を見て、これなら取れるんじゃないかとこすりつけてみた。思いのほか加減はよかったのだが、それが良くなかったらしい。

 夢中になって身体をこすりつけているところを、マザーワームに奇襲され、丸呑みにされたそうだ。すぐに反撃すればよかったのだけれど、マザーワームの口の中で毛がはらえるとわかったのでしばしお世話になった。

「くるるる(そしたら、毛から魔力を吸収して、ワームが進化してしまったみたいで。)」

「それは、そうなるよねー。」

 精霊はこの世界の上位存在である。動物のような見た目をしているけれど、その体を構成するのは魔力であり、魔力さえあれば、飲食を必要とせずに食事は嗜好品である。そのため、その体には大量の魔力が含まれており、爪の先や抜け毛といった精霊の身体の一部を使っただけでも、アイテムや武具の性能が何段も上がる。精霊を喰らった魔物がパワーアップなんてものだってありえるだろう。 

 それでも精霊様は強い。普通ならマザーワームでもどうこうできるわけではないのだけど。

「くるるる(生え代わりで痒いとうまく動けないんですよ。)」

「ぐるるるる(わかるわー、痒くなるとどうしようもない。)」

 妙なところでポカをやらかすのは、強者の余裕というやつだろうか。そう言えば、クマ吉たちがハッサム村に住み着いたのは、虫歯の治療と、ブラッシング目的だったよねー。

「じじじ(私たちなら、ハチミツ)」

「ふるるるる(フクロウは風呂と喧嘩)」

 なんというか、欲望に弱いよねー、君たち。

「しかし、毛皮がひどいねー。」

「くるるるる(お恥ずかしい。)」

 体力は回復したらしいけど、白熊さんの毛がぼさぼさだった。なんならワームの体液もかぶってベタベタしているところもある。これはまずいな。

「よし、これは風呂だな。」

 チマチマ水を出していては、時間がかかる。

 

 というわけで、即興で露天風呂を作ることにしました。

 

 行程は、水ダムのときと同じ。

「ぐるるるる。(そーい。)」

 クマ吉が砂を掘って大きな穴を作り、ついでに周囲を山にして囲いを作る。

「ふるるるる(行くぜー。)」

「ぴゅうううう(なれたもんです。)」

 サンちゃんとレッテのコンビがガラスを作り、砂と水の地層を作り出す。ダムとして使うならばこれで充分なのだが、今回はお風呂なので、もう少し清潔感を出したい。

「じじじ(払えー。)」

「じじ(承知)」

 ハルちゃんたちハチさん部隊に砂を弾き飛ばしてもらい。

「ストラ嬢、見てくれ、ってなんだこれ。」

「おお、いいタイミング。」

 ちょうど解体が終わったマザーワームの皮を穴に広げる。

「やっちゃえ。」

「ふるる(任せろー。)

 サンちゃんに加熱して癒着させる。ワームの皮は伸縮性と防水性に優れているし、加熱することでくっつく性質を持っているらしい。ラジーバでは建物や馬車などにワームの皮を張ることで暑さを防いだり、水分の蒸発を防いだりしているらしい。防水塗料のようなものか、仕上がりは、お風呂の石のようにつるっとしたものに仕上がった。ガラスもいいが、強度が心配だったので、ちょうどよかった。

 なんかマルクス王子が絶叫したあとで、落ち込んでいたけど、気にすまい。

「次は、ドーム。」

「ぐるるる(ほい。)」

 今回は、視界と安全の確保なのでガラス化はしない。穴を仕切るように二つのドームを作ってもらい、カチカチに固めておいてもらう。

「な、なんだこれは。」

「これが聖女様のお力。」

 いえ、精霊様の御業です。なんだかんだ水ダム建設で色々やったから慣れたもんです。

「あとは、水。」

 これは私がやらないといけない。水魔法はポピュラーであるのだけれど、それは王国の話。ラジーバの人達は属性魔法が苦手なので、風呂にするほどの水を出せるのは、現状で私だけだ。

「ふるるるるる(姐さん、加熱しますか?)」

「うん、一度沸騰させるつもりでお願い。」

 ガチガチに固めたし、ワームの皮も張ってある。けれど自然にはどんな病原菌があるかわからないので、水を入れた傍からサンちゃんに加熱してもらって蒸発、水蒸気を充満させていく。

「サウナ・・・。いや、私は風呂に入りたい。」

 元日本人の地が、ハッサム村で大浴場で毎日入浴してた私にとって、風呂は魂の場所だ。

「フハハハハ。」

 久しぶりの風呂を前にテンションが上がり、私は高笑いをしながら水球を放り込んでいく。途中でサンちゃんの加熱はやめてもらい。代わりにハチさん達にドームをコーティングしてもらい、強度も高めておく。

 とはいえ、私程度の魔力では、風呂を満たすほどの水は難しいかもしれない。

「くるるるるる(よろしければ、お手伝いさせてください。水をお求めなんですよね。)」

 と、状況を静観していた白熊さんが近づいてきて、大きな額で私に触れる。うわ、ねちょっとしてる。

「くるるるる(イメージを、水を生み出す願いをここに。)」

 だが、その効果は絶大だった。魔力が私の中を駆け巡り、それをそのまま水へと変換する。

「おお、すげえ。」

 ちょっと引くレベルの水球を慌てて放り込むと風呂からは水が溢れ、ドームの外にまで流れていく。

「くるるるる(助けていただいたお礼です。)」

 なんとも、これは精霊的だ。

「す、すごいです。砂漠の精霊は、気にいった者に力を与えると言われていますが、これほどとは。」

「いやいや、そんないいもんじゃないですよ。」

 事前に言われていたし、とっさに水にしたからよかったけど、ちょっとえげつない魔力だった。魔法を使う準備をしていて、かつ、水魔法だったからよかったけど、対応が遅れたらただでは済まなかったと思う・・・。

「じじじ(ストラ、ダイジョブ?)」

「ふるるるる(さすがの姐さんも今のは危なかったな。)」

 ほら、うちの子たちが驚いてるじゃないか。

「ぐるるるる(今のはさすがにないですよ。)」

「ぴゅううう(人間にあんなに注いだら危ない。)」

 普段は大人しいクマ吉とレッテがガチ目の説教をしているぐらいだ。

 精霊は怖い生き物です。よい子は付き合い方を考えましょうね。


 まあ、そんなことよりも風呂だ。風呂。

「ちなみに、こちら側に来たら、潰します。」

 分けたのは男女別にするため、とりあえず水をためるだけで、排水はあとで考える。風呂というよりは、ビニールプールのようなものだけど、温かいお湯につかれるのはありがたい。

「じじじ(お任せを。)」

 兵隊ハチとクマ吉に男湯は任せて、私達は女子風呂に入る。

「いいですか?」

 意外なことにロザートさんと、ジレンは女性だった。いや、事前に話は聞いていたし、女性の来賓である私の護衛に女性が選ばれるのは不思議ではないんだけど。なんというか、鍛えすぎていたし、着やせするタイプだったよ・・・。

「くるるるるう(これは一体。)」

 まて、白熊、そのまま入ったらお湯が汚れる。

「ちょっと冷たいわよ。」

「くるるる(ご無体な。)」

 攻撃するぐらいの勢いで水球を次々に当てて、ぬめっとしたあれを洗い流しつつ、クマ吉用の鉄製ブラシで軽くすく。

「ごっそり取れるなー。」

「くるるるる(これは、なんという至福。)」

 ちょいちょい水を掛けながらブラッシングをしてあげるとごっそりと毛がおちた。うーん出会ったときのクマさんファミリーもこんな感じだったなー。これはなかなかの量だ。

「ストラ様、よろしければ、私たちにお任せください。」

「えっ、うーん任せた。思いのほか力をいれても大丈夫だよ。」

 大きな体をあちこちブラッシングしていたら、ロザートさんとジレンさんが交代を申し出てくれたので、お任せすることにした。

 うん、なかなかうまい。身体も大きいし力も強いおかげか、白熊さんも満足そうだ。

「ああ、お湯行くよー。」

 私は風呂に使ってまったりしながら、時々お湯をかけて洗い流す。ほんとなら石鹸とかも使いたいところだけど、それは後日だな。

「くるるるる(至福。)」

 その後、さっぱりした白熊さんはご満悦で風呂にはいったけど、結構な汚れがでてしまった。それでも精霊と混浴できたことに、ロザードさんとジレンさんは感動しているようだったけど。

「しかし、またすごいものを作られましたね。」

「壁が頑丈だから水がなくても、休憩所としても使える。白熊様の気配が染みつけば魔物も来ない。これは新しい聖地になるやも。」

 初めてのお風呂に大満足な2人の言葉を聞き、やってしまったな―とも思ったけど、私は元気です。


 なお、マルクス王子以下、全員の希望で、ここにも砂ダムを作った。

 先を急ぐのでドームを加工して、精霊草をそっと植えた程度の簡単なものだ。ドームである程度の蒸発は防げるが、いずれはなくなる。産業廃棄物なあの毒は撒いていないので、精霊草が大繁殖することもないだろう。

 それでも、ある程度の保水と、植物があれば土壌は少しずつ改善される。

 いずれはオアシスになるかもしれないしならないかもしれない。結果が出るのは何年もあとの話。この先はラジーバの人たちの問題。なにが起こっても私は知らない。





 

ストラ   「砂漠に風呂。お湯は自力でどうにかしてください。」

マルクス王子「マザーワームの皮、あのサイズなら国宝級だったのに・・・。」

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