130 もう好きにすればいい。ストラは大人しくすることをあきめた。
獣人バトル中盤
サラさんとロザートさんの激闘。それは獣人たちの自尊心を満足させるものだった。
「すごいじゃないか、毛無しのくせに、あのロザートさんに食い下がるなんて。」
「まったくだ。ロザートさん相手に気絶するまで立ち向かうなんてな。いい根性だ、見直したぞ。」
「いやいや、あの一撃を食らったら、お前なんて吹っ飛ばされるだろ。」
「そこは、ロザートだな。」
と、サラさんの健闘を称えるのは、実力主義なノウキン達らしい。そして、この時はまだ余裕があった。だが、忘れてはいけない。
「サラ姉がんばったね。私も頑張る。」
「待て、待て、次は俺だ。」
毛無しさんたちの健闘、もとい蹂躙はここからだった。
2回戦は、ハムさんが相手の獣人に対して、ロザードさんがやったような完封戦法を再現して、相手の拳を的確に破壊し、相手は攻めきれずに手堅く勝利を収めた。
3回線は、サパウーン君が、大柄の猿獣人と正面から殴り合いという派手な試合を披露した。訓練場に線を引いて、交互に殴り合い、そこから一歩でも下がったら負けというシンプルな試合展開は、盛り上がりに盛り上がったが、最後はダブルノックアウト。相手が膝をついたのを確認した後で、ぶっ倒れるという派手な立ち回りをして拍手喝采を浴びた。
ちなみに、ハムさんとサパウーン君には、金属製の手甲を渡していたけど、ハムさんはそれを的確に使い相手を倒し、サパウーン君は目の前でそれを外して、挑発することで殴り合いの状況を作り出した。
「ねー馬鹿なの、この子たちって?」
「申し訳ありません。」
なお、怪我した獣人たちは、私が責任もって治療しました。骨折とか脳震盪と思われる症状なのに放置しようとした獣人たちに物理的に雷を落としたのは、別の話。
さて、気を取り直して4回戦。これはまた異色の戦いとなった。
「・・・でかい。」
対戦相手は、ジリンという馬獣人だった。身長だけみれば3メートルにも届きそうな長身と長い手足。
「それだけじゃないぞ。」
と華麗なステップからの宙返りを披露する芸達者ぷり。回し蹴りの範囲はサラさんの鉄棒よりも広い。
「アルフィーン、代ろうか?」
元気なハムさんが、アルフィーン君を心配するのも無理はない。5人の中で一番小柄アルフィーン君は私よりも小柄だ。相手の大きさもあって、よりも小さく思える。
「いいですよね、ストラ様。」
だが、彼はひるむことなく、私ににかっと笑って見せた。うん、同じく身長に悩みのある私からしても、彼には頑張ってほしい。
「うん、遠慮なくやっちゃえ。」
なので、親指を立ててサムズアップして送り出してあげる。多少のケガならなんとかしてあげようじゃないか。
対峙する2人にギャラリーは息をのんで注目する。先の3回戦を通してサラさん達を、毛無しと見くびる者はもはやおらず、強敵同士の戦いを見逃してはなるものかと、見守っている。
「ちびだからと言って侮る気はない。」
「そう、侮ってくれていいよ。僕は5人の中でも一番弱いから手加減して欲しいなー。」
「戯言だな。試合の場で手を抜くなどありえない。」
バチバチと闘志を燃やすジリンに対して、アルフィーン君はおどけてみせる。そうやって油断を誘うのだって立派な戦術だ。
「よし、はじめ。」
合図とともに先に動いたのは、ジレンの方だった。上半身を後ろにそらし、戻る勢いで右腕を鞭のように振り下ろす。
「うわ。」
慌ててその場をアルフィーン君が飛びのくと、地面が陥没して砂が舞う。手足の長さを生かしたいい一撃だけど、人に向けていい威力じゃないなー。
「大人気ないー。」
「しっ。」
文句を言おうとしたアルフィーン君に帰ってきたのは更なる攻撃だった。右腕の一撃で横に避けた相手を狙うのは、左腕による横なぎの攻撃。躱した直後を狙う一撃は本来ならば必殺とも言えるコンビネーションだ。だが、アルフィーン君はその小柄身体を生かして、その場に倒れこんでその攻撃を回避する。
「ひええ。」
そのままコロコロと転がり体制を立て直そうとするが、ジレンは前屈みになった状態から膝蹴りで追撃、その勢いで立ち上がっると、躱すためにさらに転がる相手に、足によるストンピングで追い打ちをおこなった。
「うわああああああ。」
コロコロと転がって必死に避けるアルフィーン君。こうなると苦しいなあ。
「あれが、ジレンの必勝のコンビネーションです。構えのさいに隙があるのですが、縦横の連撃とそこかあらはじまる足技の連撃は私でも苦戦します。」
「へーよく考えてるね。」
「並みの相手では、最初の一撃で倒せます。ですが、そこに慢心せずに鍛えたそうですよ。」
しれっと解説役をしているロザードさんの説明を聞きながら、私は悪役レスラーという言葉をぐっとこらえた。見た目通りプロレスラーみたいな戦い方をしているよ、ジレン。
ガンガンガンガン。
杭打機のような音と共に繰り出される連撃、そのどれもが必殺の威力が込められている。ラジーバの魔物は4足歩行で頭の位置がほどほどに低く、ジレンの戦い方は魔物を想定したものなのだそうだ。
「ひいいいい。」
ゴロゴロと攻撃をかわすアルフィーン君はすっかり砂だらけだ。だが、ジレンさんはその攻撃を緩めない。先の3戦を見てきたからこそ、油断もしなければ、相手の土俵に立つ気もないのだろう。
「けど、だめだね。」
ガキン。
私のつぶやきと同時に一際固い音がして、ジレンの動きが止まる。
「ぐっ、なんだ。」
「もらった。」
その一瞬を逃さず、アルフィーン君は飛び上がって、ジレンさんの足に迫る。
「こ、この。」
慌てて距離を取ろうとするけれど攻撃に意識が向いていた分、反応が遅い。
「おら。」
アルフィーン君はその手にもった石ころをその膝にたたきつける。
「ぐうううううううううう。」
かろうじて悲鳴はこらえたけど、無防備に膝の皿に、その一撃はかなり痛い。今度こそ、ジレンの動きは止まり。
「おらおらおら。」
今までの仕返しとばかりに執拗に狙われる膝小僧。獣人がいくら頑丈といっても痛い物は痛いし、硬い石で殴らればダメージは無視できない。
「・・・えげつない。」
「アルフィーン君の戦い方が一番えげつないんだよねー。」
痛みで膝をつくジレンの横目に勝ち名乗りをするアルフィーン君に拍手はまばらだった。
補足しておくと、この勝利は、アルフィーン君の特技による策略だ。砂から泥団子を作ることが特技をもつ彼は、それを追求し魔力を使って砂を固めて岩石のような硬さを創り出せるまで昇華させていた。今回は転がりながら地面の一部を固めて、そこをジレンに攻撃させたのだ。。
覚悟していれば余裕で踏み砕いていただろう。しかし、連撃で地面の柔らかさを感じていたところに不意打ち気味に固い場所を踏んでしまったことで、思わぬ痛みと驚きでその動きを止めてしまった。
そして、毛無のゆるい拳と思っていたら、硬い石による攻撃。ようは完全な不意打ちである。卑怯で悪いか?魔法ではなく、彼の特殊能力のようなものなので、ノーカンです。
「ぐっ、まさか、このような。完敗だ。」
敗北を自覚した上で、その顛末を理解したジレン。悔しそうにしつつも、潔く負けを認める姿勢は評価できる。
おじさんが、選りすぐりと言っていたけど、その言葉に嘘はなかったようだ。
「うん、ここでやめない?」
「で、ですね。」
だからこそ、ここでやめておきたい。私の言葉にサラさんが引きつった顔をしたのは、最後の1人がよりえげつないからだ。
「ええ、私だって、戦いたいです。」
準備体操をしていた、スィットちゃんがめっちゃ不服そうだったけど、私はここでやめたい。
止まらないのは分かっているけど、やめたい。
「私は止めたからね。」
言葉にしておく、これ大事。
ハムさん、サパウーン君「活躍がダイジェストにされました。」
アルフィーン君「大きな相手は、関節を破壊すればいい。」
ジレン「膝に石を喰らってしまってな。マジでいたい。」
いい加減先に進みたいけど、もう少しだけ、試合編が続きます。




