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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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132/151

129 乙女ゲームだったよね、これ? ストラはひそかに思った。

順当なバトルものになるといいなー。

 めっちゃ盛り上がり、いまにも乱闘がはじまる、そんな中、おじさんが大声をあげて場を支配した。

「あくまで模擬戦だ。試合形式だから殺しはなし。いいな。」

 そう言われて、お互いに広場の端へと移動する。残ったのはサラ姐さんとロザードさんだ。広場の中央でバチバチでにらみ合う2人は一旦、下がるという発想はないらしく、自然と2人の対決という流れとなった。

「ルールはシンプル、相手を死に至らしめるような攻撃はなし、勝ち負けは双方の合意か意識を失うまで。試合結果についてあとでとやかく言うことはなし。」

「了解です。」

「了解しました。」

 審判として色々と説明するおじさんの言葉にうなづきながら、2人はお互いに睨みあっていた。今すぐにでも相手をボコボコにしてやるという気概に溢れていた。

「いいか、悪魔で試合だからな。これが終わったら一先ずは落ち着けよ。」

 最後に念を押しして、おじさんもゆっくりと下がる。そして、懐からコインを一枚取り出して中に投げる。それが地面に落ちたときが合図。

「「おらーーーー。」」

 というわけでなく、振り下ろされた鉄棒と鉄腕がコインをつぶすように激突し、試合は開始された。よーいドンを待つなんてお行儀のいいことは、この世界にはない。むしろ、コインの動きに合わせて仕掛けた2人の腕前を誇るべきだろう。

「ぐっ。」

 鉄棒と拳のぶつかりあい、苦悶の声をあげたのはサラさんだった。

「硬いな・・・。」

 痺れを振り払うように手を振りながら毒づくサラさんに対して、ロザートさんは驚きつつも、余裕を崩さすにサラさんの回復を待っていた

「私の一撃を受けても獲物を手放さないのは見事。それいじょうにその鉄棒、みごとだな。」

「はっ、負けたときの言い訳とは、用意周到だな。」

「ほざけ、武器に頼ってやっと戦える未熟者が。」

「はいはい、負け惜しみ乙。」

 そんなやりとりの後、サラさんは鉄棒を握り直して、横なぎの一撃を放つ。最初の振り下ろしと違い、挙動は大きい代わりに全身のバネに回転を加えているので威力が上がり、負担も少ない。

 見え見えの攻撃、構えた瞬間に後ろに下がれば躱すのは簡単。躱されてからの攻防、動きが見えていた全員がそんな展開を予想したが。

「ふん。」

 ロザートさんは、同じよう身体を回転させ、裏拳で鉄棒を迎撃した。

「さすがは、竜人。拳の硬さからして、常人じゃねえ。」

 金属同士がぶつかる鈍い音に、ギャラリーから歓声が上がる。

「ははは、わざわざ、立派な武器を使ってるのに、所詮は毛無しだな。」

 ぶつかったまま動かないサラさんたちを前に、獣人たちは一気に盛り上がる。サラさんの技は見事だが、それを素手で抑えたロザートさん。それは彼らを興奮させるに十分な展開だった。

 獣人はその身の強さで戦うべし。そんな言葉があるらしい。武器を使うのは甘えとされ、近衛騎士や兵士が治安維持のために武器を持つことはあっても、私闘や狩りなどで武器を使うことは弱気とされる。

 けど、それは砂漠の国であるラジーバに置いて金属製品が非常に貴重だからにすぎない。 

「見事な獲物ですね、私の拳を受けて変形しないとは。」

「女神様の御業だ。もう加減はしないぞ。」

 そこから始まったのは、一方的な暴力の嵐だった。

 払う、振り下ろす、すくい上げる。ハチさんたちの特訓で磨かれた動きを容赦なく発揮して繰り出される連撃は、鉄棒の重量もあってその一つ一つが致命的な威力を誇っている。

「おらおらおらら。」

「きかん。」

 ロザートさんは一歩も引かずに、その全てを迎撃した。己の手足の強靭さによほどの自信があるのか、攻撃のポイントを見極めてそこを迎撃するという効率の悪い戦い方をしているが、危なげなく対応している。

「下がれもいいのに。」

 鉄棒の攻撃は驚異的だが、サラさんの戦い方は足を止めるもの。だから距離をとれば安全に対処はできる。私なら魔法で飽和攻撃を仕掛ければいいし、安全圏で攻撃を空かさせてから、踏み込んで距離を詰めればなんとでもなる。

「ロザートのやつもそこはわかっているさ。でもな、相手に合わせて戦い方を変えないのがやつのポリシーらしい。」

「それって不器用ってだけじゃないの?」

 優れた感覚器官と反射神経、そして頑丈な手足をつかった戦いを竜人は好むらしい。文明の利器たる武器を使うことを嫌い、戦う場合は相手の武器を破壊し、その武勇を示したがるそうだ。

「というか、あれはなんだ。生半可な鉄だったらロザートの一撃で粉々になるんだが。」

「ははは、それは知恵の勝利というやつよ。」

 なんといっても、あれはドワーフの技術と精霊の力による特別製だ。


 砂漠に鉄はない。そう思っていたけど、掘ったら赤い砂がでてきました。酸化鉄を含んだ岩が砂になったことでできる砂は、アメリカの西部劇の荒野なんかの地面と似ている。ラジーバの一部にもそんな場所があるらしい。それはともかくとして、ガラス作りためにある程度の深さまで掘ったら赤い砂の層が見つかった。

 一般的な製鉄技術は、コークスと鉄鉱石を高温にさらすことで生成される。あるいは、磁石などを使って砂鉄を集めるなんて方法もある。熱や磁力によって鉄分を抽出し、成型すれば鉄の出来上がり。そこに色々と混ぜ込んで強度を上げるのが、合金技術というものだ。

 そこで役立つのがサンちゃんとファルちゃんの寒暖コンビ。ハッサム村でドワーフ達とあれこれと、楽しんでいた経験をも元に、熱反応をアレコレしたらそこそこの純度の鉄が精製できた。あとは、クマ吉の力技で成型したというわけだ。

「実際に作るととしたら、燃料の問題かなー。」

 新たな産業の可能性ともいえるが、鉄鉱石を捜した方が効率がいいと思う。砂から鉄ができたことにマルクス王子たちは驚いていたけど、燃焼と冷却を好き勝手にできる私達だからこそできる荒業だ。結果としてサラさんのために作った鉄棒は、タングステンもびっくりな強度になった。

 くっそ重いけどね。

「こ、これが聖女様の御業。すばらしい、よもやこの拳でも砕けない武器が存在するとは。」

「女神様だっていってんだろうか。」

 歓喜の声を上げるロザートさんに、さらに攻撃を加速させるサラさん。お互いがお互いの意地をぶつけ合う戦いに、訓練場の地面はえぐれ、土ぼこりが舞う。

「おいおい、なんだこれ。」

「いくら武器を使っているっていっても、なんだよこれ。毛無しの体力じゃないぞ。」

 その激闘に、ギャラリーが慄き、戦いの迫力に飲まれていた。だれもが勝負の行方から目をそらせない中、私とおじさんは冷静に状況を見ていた。


「こりゃ、サラの方が不利だな。」「ロザートサンの負けだね。」


 どちらともなく出た言葉に私たちは、勝負から目を話してお互いの顔を見合わせる。

「なんでじゃ。いくら武器が良くても、攻め切れておらん。そうなると毛無しの体力では流石にロザートの相手には、もう長くは持たないだろ。」

「いやいや、それがそうでもないんだよ。」

 竜人なんてレアキャラがでてきたのは驚いたけど、その程度でどうにかなるような鍛え方はしていない。おじさんのいう毛無しのスタミナ問題なんてものは、特訓と食事で改善済みだ。

「よく見て見なよ。ロザートさんの顔。わりと余裕がないよ。」

 改めて見ると、迎撃するロザートさんの顔からは焦りが見えていた。余裕そうに笑っていた顔は歯を食いしばり、目の光彩が鋭くなっている。サラさんも余裕がなくなるとああなるんだよねー。

「どういうことだ。」

「いやさあ、いくら頑丈でも何度も鉄の塊を殴っていたら痛いでしょ。」

「ああ、なるほど。」

 おじさんの理解が早い。

 ロザートさんが如何に優れた戦士であっても、素手で何度も鉄を殴るなんて経験はないだろう。しかもただの鉄ではなく、フルスイングで飛んでくるものだ。そんなものを連続で叩き落すというのは非現実的。なにより非効率だ。

「悪い癖がでちゃったか。」

「そういうこと。」

 その技量をもってすれば、攻撃を躱し、サラさんを制圧することはたやすいだろう。迎撃をやめて攻撃を躱して手足を休ませるということもできる。だが、それをすれば、

「はははは、びびったがトカゲ。」

「こ、この。」

 だが、最初に迎撃という舐めプをした結果、その選択をするということは敗北を認めることに等しい。周囲はともかくとして、格下と思っていた毛無相手に、戦い方を変えるという選択肢はもうとれない。ロザートさんに残された道は、サラさんのスタミナが尽きるか、鉄棒に限界が来るかを待つという、途方もない持久戦だ。

「竜人相手に、持久戦を挑むというのが、そもそもありえんのだが。」

「そこは、意地ってやつでしょ。」

 特訓によってついたのは、スタミナだけじゃない。毛無しさんたちには、かつてなかった自信と自尊心、なによりプライドが芽吹いている。

「はああああ。」

「くっしつこい。」

 そこから生まれる鬼気迫る雰囲気は、並みの獣人には持ち合わせないもの。過去に辛酸をなめ、その境遇に怒りを持っているからこそ生まれるものだ。

「エリート様じゃ勝ち目はないよね。」

 それでも一歩届かないのは、ロザートさんの実力だけど、この状況に追い込まれた時点で、試合には勝てても、勝負には勝てない。

「だから、ロザートさんの負けってこと。」

「嬢ちゃんえげつないの。サラに死ぬまで戦えといっているようなものだ。」

 おじさん、嫌なところを突くね。

「女神様のため、女神様のため。」

 サラさんの目もわりとイチャッテルンダケド。

「狂信者だな、あれは。」

 そういうこと言わないでほしい。彼女たちの覚悟の決まり方は私でも謎なんだから。


 その後、10分以上の時間、2人は殴り合い、サラさんは力尽き気絶した。最後の一撃とともに前のめりに地面に倒れる姿はなかなかに見事だったとコメントしておこう。

「う、うでがあああ。」

 その直後に、ロザートさんが腕を抑えて悶絶したので、勝負は引き分けということにしておいてほしい。

「はいはい、治療するからね。運んだ、運んだ。」

 試合後は、服薬と水分補給で無事に回復しました。獣人ってのは頑丈だねー。


ストラ「やりすぎたとか思ってないよ。」

 乙女ゲーム要素どこいった?

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