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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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126 ラジーバに雨が降る。

 ストラさんは科学的根拠があっての行動です。

 密閉していない限り、水は常温でもわずかに蒸発し続ける。そしてそれは上昇気流にのって空へと上がり、気温と気圧によって氷の粒になる。それによって雨雲ができる。ため込まれた氷の粒は、ゆっくりと落下していく。それが解けなければ雪や雹に、溶けたものが雨となる。

 砂漠などの乾燥地帯では、雲ができるほどの湿度になることがないので、雨はほとんど降らない。そこを補う植物を植えることで、水のサイクルを生み出し、雨を降らす。緑化や植林活動のゴールの一つはそれだ。焼畑農業も、雑草に含まれた水分を蒸発させることで雨が降る様に促すことになるそうだ。

 そこで、私達がこの一週間でやってきたことだ。

 ガラス細工を作るために、精霊さん達が砂をほじくり返して加熱と冷却を繰り返す。本来ない水を魔法でどんどん出していく。砂漠全体でみればささやかな変化だが、急激な気温と湿度の変化は呼び水となり、周囲の水分を呼びこんだ。

 結果としてラジーバでは珍しい雨が降った。

「それだけの話なんだけどな―。」

「いやいや、待て待て待て。普通に神の御業でないか、それは。」

 私をがくがくとゆすりならばマルクス王子は私の説明にさらにパニックしていた。

「雨を降らす?眉唾なまやかしでなく、根拠のある活動であったと?」

「ああ、そっちか。」

 前世にも雨乞いの儀式ってあったな。生贄を捧げたり、かがり火を焚いて踊り明かしたりとかだ。効果は知らないけど、日本の祈祷師は優れた気象予報士だったという説があった。雨が降りそうな場所に、タイミングよくその場に現れて、さも自分の手柄ですよというのだとか。

「とりあえず、離れてもらえますか。逃げませんから。」

 ポンポンと王子の肩をタップして、落ち着かせるが、落ち着く気配がない。

「それに、なんだこのキラキラした湖は。」

 湖というよりは池ですね、これだと。

「精巧な像の数々に、透き通った水。なんだこれは、神の国か。」

「いいから、離れろ。」

 興奮するたびに腕力が増して、痛いんだよ。


 風魔法で吹き飛ばし、土魔法の檻で捕らえてやっと王子は大人しくなった。同じように興奮していた側近さんたちは、水玉を頭からかぶったら大人しくなったよ・・・。

「とりあえず、落ち着いてもらえますか。」

「す、すまない、とりみだした。」

「そうですね、みだりに女子に触れるのはいかがなものかと。」

「手放したら、消えてしまうのではないかと思いまして。」

 私は天女ですか?イケメンだからといって、抱き着かれるのはNG。女子らしさはないが慎みはあるのだよ、私にだって。

「ああ、雨が、雲が。」

 そんなドタバタしているうちに、わずかな雨雲は消えて、もとの青空に戻っていた。あくまで一時的なものだったのだろう。それを見て、慌てたのは側近たちだ。

「王子が悪いんですよ。あんなセクハラまがいの事をするから。」

「女神さまの怒りを買ったんだー、おしまいだ。」

 はーい、うるさい。水はもったいないので砂玉じゃ。

「話を進めても構いませんか?」

 もう教師じゃないし、大人が相手なので体罰上等です。


 その後、私は何度も何度も、この状況を説明した。砂とガラスを使うことで水を保持できること。そこに生命力の強い植物を植えることで保水力を増したこと。水場ができればおのずと雨は降ること。聞き分けのない子供にわかる様に、実演を交えながら何度も何度も。それでもなかなか納得は得られず、むしろ説明をするたびに、私を神聖視するようになったのはまいった。

 最終的にガラスのケースを作って、疑似的な実験(中学理科レベル)で白いモヤをできるのを実践させることで納得させた。体験って大事だよねー、学校の理科の授業の大切さを改めて思い知りました。

「つまり、ガラスでなくとも、気密性のあれば水は保持できると。」

「革を使った水袋や陶器の水筒はラジーバでもあるじゃないですか、あれと同じ原理ですよ。」

「だが、水は濁るのでは?」

「そこは砂の力ですね。浄水器と同じ原理が働いているんです。」

 ペット用の水槽にいれる砂利のような役割だ。アレの有無で水の維持のしやすさが違うんだよね。

「聞けば、納得なのだが、この規模でのガラスとなると。」

「まあ、そこは精霊様のおかげですね。」

 やっと納得した様子のマルクス王子(檻の中)と側近たちの目は、ところどころに見えているガラスの輝きに向けられている。遊び感覚で量産されたガラスの品質は高く、それだけで資産になりそうとのことだが、この事業で儲ける気はない。

「砂からガラスというのは聞いていたが、それには燃料が・・・。専門の魔法使いを育てるべきか。」

「王国の魔法技術をもっと積極的に取り入れるべきだ。ストラ嬢ほどではないが、強力な魔法使いが、彼女の訓練法によって生み出されている。前にも話したが。」

「ははは、この目で目にするまでは半信半疑でしたが、すごいものですな、精霊の力とは。」

 盛り上がっているようなので、そっと私達はドームへと戻った。

「はっ、ストラ嬢は?」

「女神さまは?」

 なんか騒ぎになっていたけど、出入り口はクマ吉に塞いでもらったので放置しておこう。


「「「「「ストラ様。」」」」」

 もどったらなんか、サラさん達が跪いてきた。

「えっなにごと?」

「雨の女神様とは知らず、数々の無礼、ひらにご容赦を。」

 代表して話すのは、いつものサラさん、ではなく、ハムさんだった。どうも頭脳担当は彼らしい。

「ラジーバにとって雨とは、神の御業。それを為しえたアナタは女神様なのです。」

「イヤー違うからねー。」

 このあと説得が面倒になって、特訓をさぼるなと怒鳴りつけて誤魔化しました。

 

 そして、更に一週間後、私は宣言通り、街へと繰り出すことになった。




マルクス「公共事業にしても、無理ゲーすぎる。」

ストラ「がんばってセメントを作ってください。」


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