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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ13歳 ラジーバ 留学編

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124 薬師、砂漠のテラフォーマとなる。

ストッパーのいない薬師は止まらない。

 自分たちの成長や課題が見えてくると、サラさん達は一層真面目に特訓に取り組む様になった。最初のステップを超えたのち、今は各自の課題にそった「ハニーズアタック3」を体験中である。

「まさか、半日でいけるとは。」

 これもまた獣人のスペックの高さである。

 砂漠など過酷な環境を好む獣人たちは、それに対応するために成長が早い。そのため、初期ステータスの上昇率が高く、即戦力となるキャラクターが多い。だが、中盤以降は、必要経験値が高く、カンスト時のスペックは、メインキャラクターには及ばない。よほどの思い入れがない限り、獣人キャラを最後まで使うプレイヤーはいなかったはず。

「今更だけど、ゲームって設定だったなー。」

 色々ありすぎて忘れていたが、この世界は私の前世の記憶にある乙女ゲームの内容と酷似している。獣人たちの優秀さも、ゲーム時代の記憶に当てはめると納得できてしまう。

「まあ、使えるからヨシ。」

 獣人たちが強くなっても、カンストリットン君以下、王国の主要メンバーには叶わないだろうし、精霊さん達が味方である以上、私に害が及ぶこともない。獣人国の問題も、マルクス王子のレベリングも完了しているので問題ない。

 キャラクターの好感度? 悪役令嬢になる予定だったメイナ様と仲良しなので問題ないです。

 シナリオに関しては、充分に引っ掻き回しているので今更だ。


 それはさておき、獣人たちはしばらく放置でいいとして、せっかくの機会なので私は、ドーム内で、ラジーバへ来た目的を試すことにした。

「ハルちゃん。どう?」

「じじじ(魔力は十分、むしろ濃いよ。)」

 自分でも感覚を広げつつ、肩に乗るハルちゃんに砂場の魔力を調べてもらう。

「なるほど、細かい魔力がバラバラにある感じなんだ。」

 この世界において、魔力はどこにでもある。水に含まれていることもあれば、木々に宿っていることもある。魔力を糧とする精霊さんたちはその気配に敏感であり、その目は確かだ。それに頼らなくても魔法の修業をしているとおのずと感じることができる。それらの感覚から、ラジーバの砂漠には充分な魔力がありながら、その一つ一つが小さくバラバラなようだ。

 それならば、より簡単だ。

 私は、馬車の荷台にこっそり隠していた産業廃棄物、もとい精霊草のエキスを取り出した。万能薬を作るときに精霊草から必要な成分を抽出する過程でできるこのエキスは、精霊草を直接摂取するよりも人体には有害で、少しでも飲めば全身の血が沸騰したかのような痛みに襲われ、最悪の場合は死に至る。

「匂いが美味しそうなのがまた。」

 抽出する過程で酒を使っているので、質のいいワインのような匂いがする。未成年ということで飲酒はしないが、前世では飲兵衛だった身にはつらいので、すぐに蓋を占める。

 次に取り出したのは、土が半分ほどはいった植木鉢。この土は王国から持ち込んだ普通の土だ。

「ねるーねるーねるねー。」

 そこに近くの砂を混ぜ込み、つなぎとしてエキスを使ってぐちゃぐちゃと混ぜる。エキスは肌に害がある可能性があるので手袋とマスクは忘れずに。

「おお、すっとるすっとる。」

 砂と土を混ぜるとどうなるか。答えは無意味だ。

 基本的に砂粒が固まりになることはなく、粘土質な土などを混ぜた場合は、時間をかけてそれぞれの層に分かれて堆積される。化石とかがある地層とかがまさにそれ。だから、混ぜてもあんまり意味はない。

 なお、学校のグラウンドは、水はけをよくするためと、雑草対策で、砂利と砂を使っていることが多い。だから、学校の校庭の土を植木鉢に入れても植物にはいい環境とは言えないので、意味はないぞ。

 そんなことをしているうちに砂が水分を吸って、全体にさらさらとした土になってしまった。この気温ではすぐに蒸発してサラサラの砂になってしまう。

 普通なら、この時点で緑化は諦めるべきだ。木を植えたり、種をまくだけで改善できるほど砂漠の環境は簡単ではない。

 じゃあ、砂漠の緑化はどうすればいいか?

 ポイントは土壌改善と風対策、そして水の管理だ。

 例えば、白アリなどの昆虫を持ち込み、その上でゴミをばら撒いて土壌を回復させる方法がある。ゴミを栄養として白アリが地中に巣を作る、その巣穴は水や栄養を保持する役割をもち、植物が育ちやすくなる。ゴミを巻くことで、風によって砂が運ばれることもなくなり、土壌が安定する。そのサイクルが繰り返されることで、緑化が進むのだ。

 この方法は無駄遣いがないようにも思えるが、緑化に成功したあとは、白アリの存在がネックになる。あと、分別からなにやらと手間がかかるので、個人でできることではない。

 あとは、砂漠の周辺に防砂林を作るなどもある。防砂林を作ることで、砂漠の拡大を防ぐことで、自然の力を補助する。これが意外と無視できない。日本の鳥取砂丘はこの対策によって砂漠がなくなりかけたという話もある。

 さて、今回私が試そうと思っているのが第三の選択肢、砂漠に適応した植物を見つけることだ。

 砂のようなさらさらした土壌は、植物が育つには不向きだがすべてではない。しかし、どこにも例外は存在する。

 そう、魔力の条件が整えば無限に育つ、精霊草とかね。

 もともと精霊草が根付いた畑の土に、砂漠の土、そこにエキスを混ぜる。そこに氷漬けにして鮮度を保っておいた精霊草を埋める。そこにブラッシングして集めたクマ吉の抜け毛を混ぜ込む。ここがポイントだ。精霊草には種などはなく、生の草を植えておくと勝手に生えてくる。

「なんだか、納豆を作ってる気分だ。」

 ゆでた大豆に市販の納豆を混ぜれば、納豆は作れます。

「となると、植物よりも菌に近いのかもしれないなあ。」

 以前、処理し忘れた精霊草が勝手に増えていたということがあったけど、魔力さえあればどこでも育つなこれ。

「ぐるるるる(そうでもないと思う。)」

 以前にそんなことを話したら、クマ吉は否定した。

「ふるるるる(もしそうなら、こればかりになってる。)」

 精霊さんたちでも未だに生育の条件はわからないらしい。彼らかすれば見つけたらラッキーぐらいの草だったらしいけど、だからこそ量が欲しいわけでなく、私やハッサムで提供されるごちそうの方がいいらしい。飲んでもいいの、あのエキス。

「ぴゅーーー(まずいから嫌。)」

 まあ、そうだよね、摂取できるのと味がいいは違う。

「使い切るつもりで、遠慮なく。」

 持ち込める限りの精霊エキス(産業廃棄物)もちこんでいるので惜しみなくエキスを植木鉢にかける。うん、これですぐに生えるだろう。

「さて、次は。」

 ドームに出入り用の穴をあけ、外にでて、ドームの近くに植木鉢を置く。こちらはしばらく様子見もとい放置。ただの土くれに戻ってくれるなら、ヨシ、草が生えたらその後で考えよう。

 次に私が試したのは、砂ダムだ。

「たしかコンクリートで貯水枠を作って、砂で保湿するんだったよね。」

 ケニアなどで用いられるこの砂ダムは、セメントによって水が溜まる場所を作り、砂と水の堆積層を意図的につくることで、水を確保する日本由来の治水技術だ。

「セメントかー、今後の課題かもしれない。」

 作り方はなんとなくわかるけど、配合比率を考えるのは試行錯誤が必要、もといメンドクサイ。

「まあ、砂でガラスは作れるわけだから。クマ吉。」

「ぐるるる(了解。)」

 まずは下準備として、クマ吉に盛大な大穴を掘ってもらう。規模としては25メートルプールぐらいの大きさ。このくらいならクマ吉がバタバタと走り回るだけですぐにできる。

「よし、サンちゃん、レフェイ。さっきの感じで宜しく。」

「ふるるるる(派手に行くぜー。)」

「ぴゅううう(お給料分は働く。)」

 その中心にレフェイを抱えたサンちゃんが飛び込み、盛大な火柱を上げる。

「おお、あっちい。」

 とっさに風魔法で、身を守らなかったら危なかった。だがその直後にその火柱をかき消すほどの冷気が舞い降りて肌寒くなる。

 事情を知らない人が見たら、ちょっとした世界の終わりのような光景だな。

「よしあとは、風で砂を流し込んで。」

 砂が解けて硝子化するのはドームで実証済み、そこそこの暑さのガラスの層ができた大穴に、私は風ですなを流し込んでいく、クマ吉が戻ってきて、手伝ってくれるとあっという間に終わった。

「じじじ(それでどうなるの?」

「うーん、まあ、結果はこの後かな。」

 最後の仕上げと、ほんのりと砂のこもった大穴に、魔法で水を流し込んでいく。

 それこそレフェイに任せたいけど、彼女の特技は冷気の操作であり、氷ができるのは副次的な効果でしかない。

「というか、この熱帯かつ乾燥した気候でも、水を生み出せる水魔法ってやばいなー。」

 しかも練習すればだれでもできる。出せる水の量は、適正や習熟によって違うけど、なんだかんだ鍛えている私の魔力なら、このプールを満たすぐらいならなんとかなるかな?

「うわ、結構きつい。」

 と思っていた時期が私にもありました。半分も満たすこともできずに、魔力が切れかかって気持ち悪くなる。

「これは休憩が必要だねー。」

 魔法はイメージの産物。おそらく普段は、前世の知識を活用して、空気中の水分を活用しているんだと思う。実際、水魔法は水辺の近くで威力が上がる。そこにあるものを操作するのではなく、無から有を生み出すことの方が負担が大きいらしい。

「うん、これも勉強だね。」

 ぐったりとしそうな身体に活をいれて、踏ん張り。私はドームに戻ることにした。

 魔力の消費もそうだけど、ドームからちょっとでただけで暑さが辛い。レフェイのおかげでほどほどに冷えたドームですごしてたせいで暑さに対する耐性が下がったらしい。

「戻ろう、暑い。」

 私の言葉に精霊たちも同意して私達はドームに戻った。

 このときに、うっかり植木鉢とプールを放置してしまったけど、その時の私はそれどころじゃなかった。

 

ストラ「セメントがないなら、ガラスでいいんじゃない?」

 砂ダムは砂だけで作られているのでなく、セメントによる基礎で砂と水の層を作ることで成立しているそうです。ガラスで再現できるかは、わかりません。そこはファンタジーなフィクションと思ってください。

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