122 ストラ、獣人たちを鍛える1
今度こそ、ハッサム流ブートキャンプスタートです。
特訓といえば、何を想像するだろうか?
ランニングによる体力づくり? 筋トレによる身体づくり? 瞑想による魔法訓練?
答えはノー。そんなことを日常的に続けられる人間には特訓なんてものは必要ない。経済的な余裕や継続する精神力など、足りないものを補ってこその特訓なのです。
「じじじ(さあ、逃げろ、逃げろ。)」
「ぎゃあああああ。」
兵隊ハチの作り出した空気の弾から逃げ回っているのは、最初に食事に手を付けた長身のお姉さんだ。名前は、サラス―ン・ティア、呼びづらいのでサラさんと呼ぶことにした彼女は蛇獣人らしい。蛇獣人の特徴は高い身長と鱗、優れた嗅覚と柔軟性、それから怪力らしい。毛無と呼ばれる彼女にはそれらはなく、感情が高ぶると瞳に現れる、縦長の独特の虹彩のみだ。
「殺す気ですか!」
そうそう、今まさにそんな感じ。ハチさん達に追い回されながらこちらに抗議する顔は、某合体ロボのアニメに出てくる爬虫人類のそれだった。
「はいはい、死ぬ気で逃げないとケガするよー。」
「いやあああ。」
食事のときもそうだったけど、特訓に最初に名乗りを上げたのも彼女だった。ちょっと話した限りだけど彼女が人一倍、責任感と負けん気が強い。あの犬コロに抗議をしていたのも彼女だった。
「じじじ(無駄口をたたく元気があるなら、もっとペースは上げていいな。)」
「な、やめてー、助けて。」
断っておくが、今やっているのは虐待ではなく、特訓だ。
特訓の名前は「ハニーズアタック2」
ハチさん達の攻撃から一定時間逃げ続けるというもの、呑兵衛も怠け者も市民も貴族も関係なく、容赦なく身体を動かせるステキな特訓です。
「はいはい、こんな感じ避け続けてねー。大丈夫足を止めなければ当たらないからー。」
「それは逆に、足を止めたら危ないのでは?」
説明とお手本はこれくらいにして、他の4人にも体験してもらおう。そう思って振り返るとガタガタと震えていた。
「あ、あのストラ様。これに何が意味が。」
そんな中、落ち着いた声(若干震えながら)で質問してきたのは、さらっといイケメン兄ちゃんの、ハムス―ン・アルパ。これまた呼びにくいのハムさんと呼ぶことにした彼は、狐獣人らしい。ただモフモフの尻尾も耳もなく、ほっぺったから這える髭と細い目つきにわずかに特徴がある。
「いい質問だ。気になることはどんどん聞こうね、ハムさん。」
「はい、それで。」
彼に好感が持てるのは、やらない理由ではなく、やる理由を模索していくスタイルだ。サラさん達が信用すると宣言したあとも、ハムさんだけは雇用条件などについて確認をした。おかげで私の提示した条件が毛無しどころか、ラジーバの庶民には破格の待遇であることを知ることができたんだ。
「これはね、君たちの力を確認し、引き出すための特訓だよ。」
「特訓?」
まあ、そう言う反応になるよねー。
日々生きることが大変な砂漠で、わざわざ身体を鍛えるという発想は生まれないだろう。そもそも、いい年な彼らは、全力で身体を動かすということも稀だろう。
「君たちを雇うにあたって最低限の知性と体力は身に着けてもらいたいの。知性に関してはここまでの付き合いで合格点。体力に関しては、これからに期待ってやつ。」
「では、これは採用試験のようなもので?」
ハム君はちょっとお固いねー。
「そんなんじゃないよ。」
試験に落ちたから、なんて理由で逃がすわけないじゃないか。こんな面白い、もといやりがいのあることは久しぶりなんだから。
「じゃあ、この特訓の意味もきちんと説明するねー。」
さて、どう説明したものか。
「うわー、なんか、悪い顔してるぞあの人。」
「特訓じゃなくて、地獄って言ってた・・・。」
と、私が説明を考えている間にひそひそと話をしているのは、サパウーン・アシャル君とアルフィーン・ハムサ君だ。説明中の私語は良くないよと前世なら注意するが、意識はこちらに向いているのでよし、ちなみに、彼らは、
「って、サラス―ン、こっちくんなー。」
「うるさい、こうなったらお前たちも道連れだ。一緒に特訓とやらをしようじゃないか。」
走りながら、今の会話を聞いていたのか、サラさんてば、優秀!
「やべえ、巻き込まれる。」
バタバタと突撃してくるサラさんに、会話という引き延ばしは強制終了され、4人は一斉に走り出した。なかなかの瞬発力と速さである。
「お姉ちゃんのばか、あほー。」
「いいじゃないか、スィット、姉妹とは分け合うものだろう。」
「都合のいいときばっか、その理屈じゃん。」
ちりじりに逃げ出す4人の中で、サラさんがロックオンしたのは、最後の1人、スィットゥーン・ティアちゃんだ。彼女も含めて全員年上なんだけど、、彼女とサラさんの関係を見ていると、なんとなく、ちゃんづけしたくなるかわいらしさがある子だ。
まあ、3人についてはおいおい、紹介するとしよう。
「うんうん、やる気があって大変よろしい。」
サラさんのおかげで他の獣人たちもスイッチが入ったぽいっし。
パチン。
「じじじ(他にかまっている余裕があるか?)」
「じじじじ(背中がお留守だぞ。)」
「じじじ(前だけ見るな。)」
「じじじじ(足を止めたらアウト)」
「じじじ(大丈夫、当てないよー。)」
合図を送って1人に一匹ずつハチさん達を用意して、本格的にハニーズアタック2は開始された。
「なっ、一匹じゃなかったのか?」
「いやあああ。」
「そうだ、そうだ、お前らも苦しめ―。」
うん、楽しそうで何より。
大事なことなので、もう一度言っておくけど、これは特訓だ、いじめとか虐待じゃないからね。
食事のあとの簡易診断で、身体を動かすことに問題はないことは確認ずみ。ハチさん達も当たりそうなギリギリを狙うようにお願いしているし、危なくなったら止められるように、監督は怠っていない。
「獣人ってのはすごいなー。ハッサム村の若造たちも、最初は数分と持たなかったよ。」
元気に悲鳴を上げて逃げ回るサラさん達。
これなら、第一段階はすぐに合格できそうだ。
ストラ「さあ、ばりばり鍛えるぞー。」
サラさん「早まったかもしれない。」
ハムさん「美味しいのは食事だけかもしれない。」
サパ アル スィット「紹介場面が盗られた。」
新しい5人の 愉快な仲間、今回は名前だけでも
サラス―ン・ティア リーダー格の女性 蛇獣人
ハムス―ン・アルパ 賢いイケメン 狐獣人
サパウーン・アシャル 隠れ熱血
スィットゥーン ティア リーダーの妹
アルフィーンハムサ 見た目ショタっ子
詳細は次回
戦隊ものっぽいキャラになってしまった。




