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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
閑話

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外伝 腹心は過去を懐かしむ 2

昔を語る腹心 リットン君なお話。

 ストラ様の躍進、いや、あなたたちにとっては暴走でしょうか。それは学園という舞台で制御不能なほど加速していきました。

 入学試験ではさらっと歴代トップの成績をたたき出し、それを隠蔽しようと答案を改ざんしたことを教授たちに見抜かれて、スカウトに来る教授が現れましたし、実技試験で実力を見抜いた優秀な学生たちに挑戦され、そのすべてを完膚なきまで叩き潰しました。


 後の外務大臣である、マーチン・ロゴス様

 宮廷魔術団団長にして、当代1の魔法使いと名高きプレール・マギナ様

 近衛騎士団団長にして、王国最強と呼ばれる騎士、カイル・ランページ様


 国の要職として勤めれている方々の多くが一度はストラ様に挑み、苦杯を飲まされおられました。それぞれが得意分野でボコボコにされてましたねー。横で見ているだけでも同情を禁じえませんでした。

 お嬢様の素晴らしいところは相手の心をメキメキと折ると同時に、相手が欠点を改善したり長所を伸ばしたりするように誘導して、彼らが更なる高見に登れるようにそれとなく導いたことです。

 特にロゴス様相手には容赦なかったですね。授業のたびに知恵比べを挑んでくる彼の言動をさらりと躱しながら、発言や知識をほめて経済や流通に関する才能に気づかせつつ、論戦では徹底的に叩き潰して、致命的に政治向きでないことを自覚させました。宰相閣下の息子ということで、政治関係の道へ進むつもりだったロゴス様ですが、彼がその道に進んでいたらこの国はやばかったかもしれない。と、ロゴス様本人が笑いながら言っておりました。

 マギナ様とランページ様に至っては、猛特訓の果てに今の実力になってから、お嬢様によって容赦なくボコボコにされていました。うん、お嬢様が卒業する日に、現役バリバリだったお二人が挑んできて返り討ちにあったことは・・・語ると長くなりますので、別の機会に。


 さて、そんな並みいる挑戦者たちの中でも一番はやはりラジーバの王子であるマルクス・ルーサーでしたね。あの方ほどストラ様に挑み、苦杯を飲まされた人はいません。

 最初は、それなりに優秀だった私をスカウトするためでした。

「リットン・ビー、俺の下にこい。そしてマイシスターの思いを受け止めるのだ。」

 うん、出会い頭に私に対していった宣言は今でも覚えています。

「おいこら、くそ犬。主人無視してスカウトとはいい度胸だな。」

 その後のお嬢様の言葉も、メラメラと燃える炎とともに覚えています。


 初対面の王族をボコボコするのは、ハッサムのお家芸なんですかねー。


 貴族社会、身分制度というものをストラ様は嫌っていましたが、嫌っているからこそ暗黙の了解やルールには詳しかったのです。貴族の臣下の人間に対する直接のスカウトは法律もで禁止されており、まずは雇い主にお伺いを立てるのが慣例でした。マルクス王子は同じ学生という立場から優秀な人に色々と声をかけておられましたが、王族であっても問題のある行為でした。

「権力あるやつが自分ルールを発動するのって、まじうぜえ。」

 ゆえに、お嬢様が目の前にいるにも関わらず私をスカウトしようとしたマルクス王子の行為は身分を笠にきた横暴ともいえます。それを理由にお嬢様は、初見のマルクス王子を魔法で火あぶりにしたんです。

 はい、ノー警告、ノー交渉、ノーモーションによる魔法攻撃でした。ノーが多すぎて私にはマルクス王子が自然発火したように見えましたよ。

「き、きさま。俺が誰か知っていて。」

「王子なら、ルールを守らんかい。筋を通せ、筋を。」

 地面をゴロゴロと転がり火を決して、即座に反論したマルクス王子も流石でしたが、そこに容赦なく追撃をしたお嬢様もやばかったです。思えばストラ様があそこまでムキになったのは、初めてだったかもしれません。

 その後、圧倒的な魔法の弾幕と語彙の暴力でマルクス王子を黙らせ、事態は収拾するのは大変でした。いやーほんとうに大変でした。荒ぶるお嬢様とマルクス王子をなだめ、メイナ様に頼んで治療していただき、関係者と口裏を合わせる。

 獣人にとって名誉は強さ。強き者ほど礼儀を忘れてはいけない。そんな論法で近くで見守っていてくださったマルクス王子の妹君であるソフィア様とともに、荒ぶるマルクス王子様と側近さんたちを説得するのは一苦労でした。

 ちなみに、真似してはいけませんよ。お嬢様のしたことは、公共の場である学園で、他国の王族に対しての明確な敵対行為ですから。ソフィア様が間に入ってくれなかったら不敬罪と戦犯となってましたから。最悪はラジーバと王国の戦争にまで発展していましたから・・・。

 なぜ大丈夫だったか?まあ、それはマルクス王子も自分の非を認めたからでしょうね。

「礼を欠いた言動、大変失礼しました。」

 最後は、自分からお嬢様に謝罪し、平民だった私にも頭を下げてくださいました。いやースラート様もそうですが、真の王たる素質を持つ人は身分ではなく本質を見るのだと思ったものです。これで話は終わる、そう思っていました。


 しかし、次の日、マルクス王子は再びお嬢様の前に立ちふさがりました。

「ストラ・ハッサム、貴公に決闘を申し込む。」

「いやです。」

 言葉とともに投げつけられた手袋を触れることなく燃やし尽くす、投げられた手袋受け取れば決闘の了承、弾いたり落としたりすれば後日に改めて、避けるのは臆病者。というのがこの世界の貴族ルール

なので、証拠から消してしまう。というのがお嬢様の持論です。

「な、なにをする。この非常識が。」

「初対面の女性に喧嘩を売る非常識に非常識言われたくないわ。」

 まったくもって非常識ですよねー。下級貴族に決闘を申し込む王子とそれを正面から叩き潰す貴族令嬢。後にも先にもあんな光景は見れないでしょうねー。

「リットン・ビー、俺の下にこい。そしてマイシスターの思いを受け止めるのだ。」

 よもや、その光景に自分が巻き込まれることになるとは・・・。


 そうです、学園で伝説と語られる「決闘騒動」です。お嬢様に決闘を申し込んだ人はほかにもいますが、学園で語られているのは、マルクス王子とストラ様の無数のやり取りですよ。


 獣王とも呼ばれ、歴代最強と呼ばれるマルクス王。彼は今でも己の力はストラ様との研鑽の日々によって育まれたものと語っておられます。


 うん、そうです。実際はストラ様のパシリになっていましたね。あの人。

 ある時期を境に、ストラ様はマルクス王子やソフィア様、スラート様やメイナ様にガルーダ様など王族の人脈もフル活動して、活動されていました。

 伝染病の撲滅に、帝国の王子様の治療。ラジーバの緑化運動、数々の功績の多くは、当時王子であった、マルクス様が馬車馬のごとく働かされていました。

 獣人というのは、強さを重んじます。だからこそ、私のような元平民も取り立てようとしてくださいましたし、何より決闘で自分をコテンパンにしたストラ様に崇拝に近い思いを抱いていたようですね、あの人は・・・。

 まあでも、ストラ様の突飛な行動に、あの人は最後まで付き添っておられましたからねー。

 

 そうですねー、これ以上の話はマルクス様から直接、お話を聞かれた方がよろしいかと思います。なんならソフィア様から連絡を取らせていただきましょうか?

過去編から、未来まで語るつもりが、マルクス王子の話だけでかなりのボリュームになってしまった。

次回からは、マルクス王子視点で、ラジーバの緑化運動について語っていきます。

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