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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
閑話

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外伝 腹心は過去を懐かしむ 1 

 昔を語る腹心 リットン君なお話。

 昔は良かった。老人はそう言うらしいですね。

 ですが、私からすると、昔は大変でしたですよ。

 私はハッサム村の家令であるトムソンの息子として生まれ、父からは将来的に自分も跡を継ぐのだと教えられていました。だから、読み書きはもちろん、領主一家、とりわけ跡取りであるストラ様とは仲良くしていなさいと毎日のように言われて育っていました。

 それがあるときです。

「いいか、リットン、ストラ様には気をつけなさい。そして絶対に逆らってはいけない。あの方を敵に回すようなことがあれば、私はお前ですら見捨てないといけないかもしれない。」

 いつものように仕事から帰ってきた父は幼い私を呼んで真剣な顔でそう諭してました。

 私は素直にうなづきつつ、父のその必死さが不思議でしかありませんでした。

 ご領主一家、ハッサム家の人々は貴族とは思えないほ気さくで優しい人達です。先代様は村人と一緒になって畑を耕し、先々代さまは薬づくりの名人で、村人が倒れるものなら貴重な薬を惜しげもなく提供してくださるかたでした。

 ストラ様?ストラ様もご両親と同じように聡明で気さくな方々でした。幼いころから村の子供たちと一緒に泥だらけになって遊び、悪戯をしては一緒に怒られる。あえて言うならば、人一倍正義感が強く、度が過ぎた悪戯や弱い者いじめを絶対に許さない人。そんな感じでした。子どもの数もそれほど多くない村です、子どもたちは「お嬢」と呼んで親しんでおりました。

 そんなお嬢が、ある日、ハチの精霊を引き連れて現れたときは、阿鼻叫喚でしたが・・・。


 そうそう、養蜂です。今では各地で盛んに行われている養蜂事業ですが、きっかけはおじょ、ストラ様の思い付きだったそうです。精霊様の言葉を理解する才能をもったストラ様は、ハッサム村の近くに住み着いてた女王バチと交渉し、彼らに快適な住居を提供することでハチミツを安全に分けてもらうという事業を始めたのです。

「あれは、賭けだったねー。トムソンが資金を出して色々手配してくれたからうまく言ったんだよ。」

 後々になってストラ様はそう語っていましたが、父であるトムソンはその話を聞くたびに苦い顔になっていました。当時は父もここまで成功するとは思っていなかったそうです。

 ハチミツの売り上げやハチ達との共存でで色々と村が潤ってきたら、ストラ様は教育にも力を入れられました。もともと父の希望でハッサム家には他と比べて書庫が充実しておりました。ストラ様はそこにある本を使って、村の子供たちに読み聞かせを始めたのです。

 眠りウサギと亀。ハチの恩返し。クマの三徳。

 知っていますか、あの話を考えたのはストラ様なんです。最初は書庫の本を思っていたらしいのですが、持ち歩くには重く、汚れたらまずいということで、木の枝で地面に絵を描きながら様々な話をしてくださいました。

 どうやったらあのような話を思いつくのか、いまだに不思議であります。

 分かりやすく、ユーモアを感じさせつつ道徳や世の中のルールを説き、言葉や生き物に興味を持たせる。気づけば村の大人たちや精霊たちまで一緒になって話を聞き、もっと知りたいと読み書きの勉強に励みました。

 村の広場は木の枝で所せましとイラストや文字が書かれ、場所がないと分かればストラ様は黒板とチョークを用意してくださりました。更に絵がうまい子には貴重な紙と画材を与えて、絵の勉強までさせてくれたのです。

 私を含めて子供たちは、早起きして年長の子供たちに案内されながら森を探検し、午後はストラ様のもとで読み聞かせを聞きながら、文字の練習をしたり、魔法や計算などをしたりして過ごしたのです。

 今では当たり前になりつつある初等教育。それがハッサム村には当時からあったわけです。

 まあ、そんな中、父の縁で私はストラ様の側付きとなることができ、より厳しい、いえ高度な勉強をさせていただきました。

「魔法も計算も繰り返してなんぼだから。倒れるまでやろうね。」

 うん、笑顔で私たちをしごき倒したのはお嬢の優しさだったのです。

 倒れるまで魔法を使えば、次に起きたとき、魔法は上達していました。計算や文字を知り、世界を知る者は面白かった。ただ、毎日寝不足でしたなー。


 また、ストラ様は発明家でもあられました。クマの精霊様の毛を使ったブラシや歯ブラシ。竃の熱と配管を利用した大浴場。なにより蒸留やカクテルといったお酒の開発に関しては幼い時から熱心でした。ブランデーや焼酎、様々なお酒を考え出しては村のドワーフ達たちと奪いあっていました。

 当時はまだ未成年であったため、酒の飲めないストラ様が村の各地に酒を隠し、ドワーフ達が血眼になって酒を探す。あるいは酒や酒の肴につられてストラ様の要望に応えて用途の分からない道具作りに勤しむ姿。ハサッム村がドワーフの第二の故郷と呼ばれる理由はそんなドワーフ達の楽しそうな姿が由来しているのです。

 村人と自分のためとストラ様は自分の功績を誇りませんが、大人になり世間を知ったとき、我々はストラ様の思慮深さと領民への思いに深く感謝したものです。ハッサム村の住人は他のどこよりも恵まれた生活をしていたと自負しています。


 一方で、お嬢のめちゃくちゃ具合も村人たちは充分に理解していました。

 そうですねー、例えば、村にクマが現れたときは、年長の少年を蹴飛ばして囮にしたことがありましたね。ほかにも薬の実験と称して、めちゃくちゃ苦い薬を振る舞ったりもされました。健康に良いとか、風邪の治りが良くなるとか色々言われましたが、お嬢の薬はともかく苦くてですね。若い時に風邪で倒れたときに飲まされた薬は効き目こそ最高でしたが、苦みが3日は消えませんでした。

「良薬は口に苦いもんだよ。あとは味の実験だったから。」

 最近になって、別に苦くする必要はなかったと教えてもらったときは、全力で殴りにかかりました。はい、返り討ちに合いましたが。

 そもそも、狂暴なハチやクマと交渉して、素材をねだる子どもがいるでしょうか?

 大人顔負けに色々しながら、それを誇らない子どもがいるでしょうか?

 成長のためと、倒れる一歩手前までスパルタで自分や周囲をしごき倒す子どもが・・・。


 失礼、今思い出してもストラ様は常識では計れない人だということです。

 しかし、それが当時の当たり前でした。遊びと称して、へとへとになるまでした訓練も、精霊と戯れることも、頭が痛くなるほどの情報量の勉強も、ハッサム村では当たり前だったのです。


 大人たちが私たちを見て、時々遠い目をした理由が当時はわかりませんでした。

「息子が、息子が悪魔の手先として力をつけている。」

 とある夜に聞いた父の恐ろしい寝言。それを、知ったのは、ストラ様の側近として、学園へ入学してまもなくのことでした。

 そう、あなた方もご存じの数々の逸話です。


  



周囲には猫を被りつつもバレバレだったストラさんでした。

そして、長くなったので、次回は学園編、そしてエピローグ的な話もリットン君視点で語ります。

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