112 ストラ 厄物を始末に悩む。
色々な後処理
皇帝襲来というイベントから、気づけば一か月ほど経ち、私はメイナ様達とともに学園へと戻っていた。事態が収束したわけでもないし、皇帝もその側近たちも王城に留まっている。問題は山積みである。
だが、学ぶことが本分の学生をいつまでもとどめていくことはおかしいということで、私たちは学園へ戻され、学園や王都は以前のにぎやかさと平和と取り戻していた。
少なくともマスクなどを付けて物々しく過ごしている人はいない。
未知の病への対策や、精霊さん達の加護などで私が留まることを望んだ人もいたらしいけど。
「いつまで、子どもに頼っているのですか、教えは受けたのでしょ?」
そういった輩は、第一紀様の一言で、貝のようにおとなしくなったとか。やはり、いざというときに頼りになると大人がいるというのはありがたいことだ。
母ちゃんも私が城から戻るタイミングで村へ帰った。ケイ兄ちゃんたちのドックタグを託すのはあれかと思ったけど、それも領主家族の役割だと母ちゃんが譲らなかった。次の長期休みには必ず帰ると約束だけはした。
気づけば、春も終わり、夏になる。夏はのんびりと帰省しようと思っている。
見切りの丘には、万能薬が届いてボルド将軍は一時的に持ち返したらしい。が、傷と毒の影響が大きくてそのままお亡くなりになったらしい。薬のおかげで最後は意識がはっきりとしていたらしく、後任の選定や引き継ぎを終えて満足した顔で旅立たれたらしい。万能薬のおかげで快復した側近さんがわざわざ私の元を訪ねてそう教えてくれた。
見切りの丘は順調に開発が進み、水路や防壁が完成し、徐々に人が増えているらしい。帝国側の懇願により回廊の物理的な封鎖はなくなったが、今後帝国やその他の悪意が山を越えることはほぼ不可能とのことだ。
そうやって私のあずかり知らぬところで王国が平和へと進む中、私は学年園で首を傾げていた。
「精霊草、増えてない?」
「ぐるるるる(増えてる。いい匂い。)」
「じじじ(ミツは採れないけどね。)」
クマ吉の背に乗り、肩にはハルちゃん。作業着に白衣という恰好で私は広がる精霊草の絨毯を見ていた。私に割り当てられた場所、もといクマ吉の寝床にしていた場所は25メートルプールぐらいの範囲だった。当初はその一部に生えていた精霊草だったけど、気づけば周囲の畑を飲み込んで1ヘクタールほどにまで広がっていた。あわてて堀を掘って隔離しなければどこまでも広がっていたかもしれない。
ミントもびっくりの繁殖力である。
「幻とはいったい・・・。」
調べた限りで、魔力のある人間への毒性と、加工した場合の薬効は保証されている。宝の山であるが、同時に毒入り酒という副産物の量がそろそろ無視できなくなってきている。
「畑にまいたのがまずかったかなー。」
精霊草の発育条件は、精霊の老廃物というのはもはや確定。クマ吉が過ごし、他の精霊たちもよく遊びに来るこの場所はそういったものに困らない。
ではハッサム村や山脈に精霊草がないのはなぜか?きっと日当たりや湿度などの条件が奇跡的に一致したと思える。実際、クマ吉の抜け毛やハチミツなどを混ぜた土で鉢植え栽培しても上手く育たなかった。しかし、毒入り酒の処理の実験で、酒を混ぜた鉢植えはゆっくりだが成長していた。
そして、大量の毒入り酒を見て隠せないかなと思って畑にまいた。
それがいけなかったんだと思う。最初はささやかな雑草だった精霊草は、既存の生態系を壊す凶悪な外来種へとレベルアップしてしまった。
「やべえ、酒だから土に混ぜればいいは安直だったか・・・。」
肥料代わりになればいいなと思って適当したのがまずかった。間違っても下水に流すなんてこともこれでは難しい。
「いっそ燃やすか?いや、なんかだめそう。」
度数の高い酒なので、たぶん燃える。大気汚染とかになったらシャレにならないって。
「飲ませるのは論外だしなー、ちょっとおいしそうだけど。」
ハブ酒とかスコーピオンのようなものだろう。長年付け置けば毒素が分解されて旨味に代わるかもしれない。フグの白子だって3年つけておけば毒が消えるらしいし。
平和利用のためと大量生産した結果、酒だけで馬車一台分、今後も万能薬を作るとなると環境破壊とか産業廃棄物処理の問題とかで社会問題になりかねない。
「まいたら、まいたで土壌がどうなるかわからないし、何より精霊草が増えるのはまずい・・・。運待てよ。」
そこまで考えて私は、あることに思いついた。
「そうだ、ここだから問題なんだ。」
前世での記憶、産業廃棄物やプラスチックを処理する場合はどうしていたか。社会問題にもなったゴミの責任転嫁。
だが、精霊草は、植物であり、緑化と土壌改善にはきっと効果があるはずだ。
「砂漠にまけばいいんだ。」
安易な発想だと思うが、その時の私は名案だと疑わなかった。
そして、めっちゃ後悔することになるのは、また別の話。
ストラ「安易に地面に薬品を捨ててはいけません。その影響は地中に残って影響を及ぼすことがあります。
」
戦後の展開がさらっとしたものになっているのは、ストラにとってはそれくらいどうでもよく、あっさりと過ぎた日々だったからです。




