111 ストラ、忙しさに周囲もブチ切れた。
色々やらかしたストラさんのその後です。
目が覚めたとき、私はなんかめっちゃ豪華な部屋で寝かされていた。
「ここはだれ?私はどこ?」
思わずボケる私に、するどいチョップが入る。痛みとともに寝る前の状況を思い出し、私は攻撃のヌシ、メイナ様に恨みがましい視線を向けた。
「痛いじゃないですか、メイナ様、ツッコミはもっと優しくしてください。」
「そういう問題じゃないでしょ。」
はい、すいません。こういう茶番で誤魔化せないかなって思いました。
顔を真っ赤にして起こるメイナ様、こういう流れは良くある。やらかした後で、叱り諭そうとするメイナ様は姉のような存在だと思う。なんだかんだ、私はメイナ様大好きだし。
「ストラちゃん、良かった。心配したのよ。」
その後ろで彼女の肩に手を置いているのは、メイナ様のお母さまであるクレア様だった。いや待て、反対側の肩に手を置いて、めっちゃ怖い顔をしているのは、うちの母ちゃんでは?
「・・・なんで?」
「あれだけ、色々やっていたのに、親として来ないわけにいかないじゃないか。」
やばい、めっちゃ怒ってる。これは父ちゃんを丸め込んで、大量の酒を仕入れたのがばれたときよりも怒ってない?あれが過去一じゃなかったの?
「ちなみに、私だけじゃないわよ。」
ニコリと笑う(それでも怖い)母ちゃんが指さすさき、少し離れたテーブル席には5人の女性がいた。
「ハッサム様、この度は本当にご迷惑をおかけしました。」
即座に土下座したのは、王子のお世話をしていたメイドさん、私の私室に忍び込んで毒を盗んだあの人だ。それを見張るように鋭い視線を向けているのは、ソフィア様だ。こちらを見ていないけど尻尾が揺れているので機嫌は悪くない?
問題は残りの3人だ。
輝く金髪をバレッタでまとめた利発そうな瞳でこちらを観察する、ロイヤルな美人。
燃えるような赤い髪で、隙のない立ち姿でこちらを値踏みするワイルドなのに気品のある美人
ウエーブのかかった長く青い髪を揺らしながら、そんな2人の間で視線を泳がせるほわほわした美人。
「こうして、話すのは初めてですね、ストラ嬢。母上もいるので、こう呼んでも。」
「め、滅相もありません。どうぞお好きにおよびください。」
私が起きたのを確認してゆったりと近づき挨拶するロイヤル美人。
「ええ、息子と娘からは噂はかねがね。先日からの一件、国母としても母としても礼を言います。」
代表して話すロイヤル美人さんに合わせて他の2人も頭を下げる。
「えっなんで?」
助けを求めてメイナ様に視線を向けるが、肩をすくめて首を振られた。
「今回の一件で、王妃様達がねー。」
「女児に対して、あまりの仕打ちだったのでな、陛下ともども厳重に注意させてもらった。薬師殿、今は安心して休みなさい。息子も陛下もここにはいません。」
いや、もっと怖い人達に囲まれてるんですけど、どうしてこうなった?
寝落ちしたタイミングというのは覚えている。というか、ブチ切れて不貞寝したんだ。。
皇帝を黙らせた後、私は王城の人間を片っ端からパシリにして、治療と予防対策をおこなった。ヴォルド先生と相談して決めた。点滴の量と処方する薬、清潔に保つためのシーツや着替えなどの確保。身体に直接触れる系のお世話は帝国の人間達が、王国の人間とハチさん達の監視のもとで行うことが条件となった。砂時計を用意して、一定時間ごとに点滴の交換と薬の処方。汚物の処理などなど、話をしている間にメモをきっちりとってすぐにローテーションを考えてくれた王城の人には、慣れが見えた。
さらに、不法侵入して、クマとハチに捕まった帝国の人間たちへの処遇。此方は面倒になったのでクマ吉たちに穴を掘らせて、簡易風呂を作って入浴剤とともに放り込んで消毒してもらったのち、診断と治療も他の人に丸投げした。100人にも満たない兵士達だったらしいけど、病気を持っている可能性のあるテロリストたちに対する対処は、それはそれは雑なものだったらしい。
それ以上に王城内のパニックがひどかった。皇帝以下、帝国の人間のほとんどが軟禁状態で隔離され、彼らのいた場所は徹底的に消毒され、接触した人間が顔を青くして、私の診断を求めた。
「薬師殿、彼らの処遇はどうしましょうか?」
「薬師殿、点滴の保管は暗所でよろしいですか?」
「薬師殿、薬師殿、キラット伯が発熱したそうで、診断をお願いしと。」
「薬師殿、帝国の人間はどのように。」
誤解を招く言い方をして、帝国、王国ともどもビビらせた自覚はある。しかし、あれもこれも私の指示を仰ぐのはどうなんだろう?症状に関しては、麻疹と似たものだと言って放置。それでも仮病まがいの症状で、診察をねじ込もうとする馬鹿者が絶えなかった。正直、それどころじゃないが、
「薬師殿、そのすまない。彼らだけでも。こう、周囲が不安になってな。」
国王にそう言われて断れず。数人ほど診断したが、どいつもただの疲労だった。ハチミツアメを口に放り込んで終わり。
「彼らは診断したのに、我々は。」
一度受け入れれば、後はなんとやら。次々に診断を希望する声があがり、私は、イラっとした。その時点で丸二日は寝ていない。来ているのもパーティードレスのままだ。
「我々も死ぬ気で働いているんです、王国の存亡のときなんです。なにとぞ。」
「我々が動けなくなったら、それこそ。」
「見ているだけではないですか、それなら。」
口ではそう言っているが、自己保身でしかない。立場と役割を脅しにそんなことを言う。
自分の体力や能力を基準とし、それ以上の水準を部下や周囲にに求める。できるないと相手の所為にして、できるまで休ませない。そういうのをマッスル系ブラックっていうんだっけ?
そんなことを思いつつ、外交関係もあるので王子の治療も気が抜けない。
「あっだめだ。ちょっと休みます。」
王子の容態と治療が安定したのを確認して、私はさすがに休むことにした。栄養ドリンクやアメでの誤魔化しも限界がある。
「し、しかし。」
「何かあれば連絡してください。さすがに無理。」
まだ何か言ってくる一部のバカを振り切り、私は自分の部屋へと戻る。
「は、はああああああ。ふざけるなーーーーーーー。」
そこで絶叫した。
そういえば、私の部屋はメイドさんが侵入して薬を盗みために荒らした上に、精霊さん達が迎撃のために暴れたんだった・・・。
薬や白衣などの貴重品が入ったバックが無事で、ホントにやばい精霊草酒(毒入り)の金庫は無事だったが、徹底して家探しされたらしく、服やメモなどは床に散らばり、ベットやソファーは切り裂かれていた。
「もっとスマートに迎撃してほしかったなー。」
「じじじ(すみません。相手の抵抗もあり。)」
「うん、別にいいよ。君らのおかげで最悪は回避できたわけだし。」
申し訳なさそうにしているハチさんたちをねぎらいつつ、私はどうしようもなく悲しくなった。
なにが悲しくて私がこんな目に合うんだろう?
ここまでされることを私はしたんだろうか?
皇帝と出会って2日、大見得を切って屈服させたのも昨日のことだ。たしかに子どもの癇癪のような気持ちであれこれしたけど、私はみんなのために、がんばったのだ。
「その結果がこれか・・・もういいや。」
白衣を脱ぎソファーに倒れこむ。そのまま白衣を毛布代わりにして目を閉じる。
「しばらく、このままで、」
「ふるるる(ゆっくり休みな姐さん。)」
「じじじ(見張りはお任せを。)」
見張りは精霊さん達に任せて、私は荒れ地と化した部屋で意識を手放したのだった。
というのが私の記憶だったのだけれど。
「レフィ様から報告を聞き、様子を見に来たら、アナタがボロボロの部屋で休んでいるのを見つけたんです。」
首をかしげる私に対し、メイナ様が疑問を答えた。
「娘たちが心配で、クレア様と私も王城へ来たばかりでね、メイナ様も一緒に案内されたのよ。」
「そ、そのとき、私はお詫びと部屋の片づけをお手伝いしたいと思って・・・。」
なるほど、それで鉢合わせになったと。
「さすがにひどいと思いましたわ。」
思い出して怒りをあらわにするメイナ様、反比例するように顔を青くするメイドさん。色々と話を聞きだしながら、状況はよくわかった。
ボロボロの部屋で、死んだように眠る私を見た、メイナ様とクレア様は、居合わせたメイドさんが帝国の人間と知らずに状況を確認。罪悪感とかいろいろあったメイドさんからほぼすべての事情を聴きだしてしまった。
「「「これはひどい。」」」
1人の少女に対するあまりの仕打ちに怒り心頭になったクレア様が向かったのは、国王陛下と女王様達の私室だった。
「「「うちの子に何してくれてんじゃー。」」」
突然の来訪に驚く国王だったが、事情を話せば女王様達もブチ切れたらしい。
「「「「「「「子供になんてことさせてるんですか。」」」」」」
国の恩人ともいえる少女、しっかりしているように見えて13歳の女の子を何の忠告も準備もなしに皇帝と謁見させた。その上、帝国兵の捕縛や更なる予防対策は丸投げして、治療行為によって3日もろくに休ませない。おまけに部屋が荒らされたという報告を受けながら見張りすら立てずに放置。
「陛下、これは王族云々の前に人として最低です。」
「陛下のような体力馬鹿と一緒にしないであげてください、相手は女の子ですよ。」
「・・・最低。」
口々に国王陛下をののしった女王様達は、メイナ様達と合流し、すぐさま寝ている私を確保し、女王の寝室へと運び込んで着替えや面倒をみてくれたそうだ。
途中でスラート王子に説教したり、ソフィア様が合流してメイドさんとひと悶着あったりしたそうだけど、現状で女の子へあんまりな態度なことに女性陣は団結し、同室することで、防壁となった。そうして半日ほどたった現在、私は面会謝絶となっているらしい。
「お、おかげさまで王子の容態は安定しているようです。ほ、本当にありがとうございました。」
涙を流して感謝するメイドさん。部屋を荒らした張本人だけど、この状況では怒りよりも同情がうまれしまう。
うーん、なんだこの状況。特に女王様達まで団結したこの状況って不味くない?
「考えなくていいから。今は休みなさい。ストラ。」
やや無責任なことを言って私の頭を撫でたのは母ちゃんだった。色々パニックが顔にでていたらしい。
「うん。」
ガシガシと力強く、それでいて優しい撫でかた。思えば母ちゃんにこうしてもらうのも久しぶりかもしれない。大人びた私は親に甘えるよりも外で遊ぶことが多かった。母ちゃんも忙しかったら、構ってもらうのは、もっぱら近所の子供たちだった・・・。
「うん、うん。」
あっだめだ。思い出してしまったら・・・。
「ストラ、つらかったね、がんばった。あんたはがんばったんだよ。」
気づけば母ちゃんに抱きしめられていた。
「ご、ごめん、母ちゃん、わ、私が、しっかりしてれば。ケイ兄ちゃんたちに気づいてれば。せめて、クスリ渡してれば・・・。」
「あんたは悪くないよ。あの子たちは自分で選んだの。それに立派な最期だったらしいじゃないか。」
「でも、でも。」
わかっている、分かっている。言い訳はいくらでも思いつくし、きっとケイ兄ちゃんたちも私を責めない。
けれど、もっと私はハッサム村を発展させていれば・・・。
早く万能薬を開発して、ボルド将軍に渡していれば・・・。
帝国の侵攻というゲームのフラグにもっと注意を払っていれば・・・。
「うわああああああああああ。」
言葉にすることはできなった。いやしてはいけない。これは私の傲慢で、エゴだ。ケイ兄ちゃんたちやボルド将軍の覚悟を汚すことになる。
私は大人だ。これ以上言葉で誤魔化すことはしない。
けれでも、こみ上げる感情を隠すことはもうできなかった。
子どものように大声をあげて母ちゃんの胸の中で、色々な感情の暴走を止めることはもうできなかった。
ストラ「やばい人ばかりじゃないか、この世界。」
一同「お前が言うな。」
後始末も、もう少し




