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第四話:ストラスとの再会

 心地よい空の旅を終えた。

 ストラスのダンジョンは一般的なダンジョンであり、冒険者が行き来している。そんなところに暗黒竜グラフロスで乗り付けるわけにはいかず、少し離れたところに着陸し、暗黒竜グラフロスは魔王の力で【収納】している。

 一応、他にも【戦争】のさいに作った適当なイミテートを掛け合わせて作った魔物たちも【収納】していた。

 最悪のケースに備えてだ。


 クイナは【変化】で耳と尻尾を隠し、ワイトもゆったりとしたローブを羽織ることで竜人であることを隠している。

 そうして、しばらく歩いてストラスのダンジョンにたどり着く。


「さすがはストラスだ。センスがいい」


 入り口は【塔】だった。巨大な塔だ。純白で美しい。華美さはないが、気品があるたたずまい。


「おとーさんの街のほうが立派なの」

「私も同感ですな。なかなかのダンジョンですが、我が君のアヴァロンには劣ります」

「いや、クイナ、ワイト。街と正統派のダンジョンを比べるなよ」


 俺の魔物たちは俺以上にストラスに対抗意識をもっているみたいだ。

 まあ、モチベーションをあげてくれるなら問題ない。


「さて、ストラスに会うにはどうしたらいいかな」


 どうやってストラスに俺が到着したことを伝えようかと考えていると、一人の女性が声をかけてきた。


 見た目は魔術師らしいローブに身を包んだ人間だが、なんとなくわかる。

 彼女は魔物だ。ダンジョンの外で目立たないように人間に擬態しているようだ。


「お待ちしておりました。【創造】の魔王プロケル様。ストラス様がお待ちですよ。転移陣まで案内しますのでこちらに」


 ストラスが手配してくれていたのかありがたい。


「ありがとう。助かったよ。君も【転移】を使えるんだな」

「ええ、とは言ってもランクが高くないので一度に運べるのは三人が限界ですけど」


 女性が微笑む。

【転移】を使える魔物は俺も作ってみたい。今度どんなメダルを使って作ったのか教えてもらおう。

 可能であれば、使ったメダルを、イミテートでもいいので何かと交換してもらいたい。


 同じメダルを使って【転移】能力を持った魔物を作れるとは限らないが、手持ちのオリジナルメダルと、【創造】を併用すれば、【転移】をもつ魔物を引き寄せる確率は非常に高まる。


 アヴァロンは【転移】を【刻】の魔王からもらったカラスの魔物に頼り切っている。いつ裏切られるかわからないし、そもそも一体だけでは不便だ。

【転移】の有用性は非常に高い。可能であればSランクの【転移】持ちを一体は作っておきたいのだ。


「私の顔になにかついておりますか?」

「悪い、女性をじろじろと見るのは失礼だったね。君のことが気になったんだ」

「ふふ、お上手ですね。ではこちらに。ダンジョン内の隠し部屋に転移陣を用意しております」


 会話はそれで終わり、彼女の後ろについてしばらく歩くと、隠し部屋に到着し、人間に偽装していた魔物はローブを脱ぎ捨てる。


 黒かった髪が緑に代わり、耳が伸びた。

 どこか、アウラたちエルフと同じ感じがする。エルフの亜種なのだろうか。


 そして、彼女に手を引かれて【転移】する。

 目を開けると、そこは白を基調にした部屋だった。ダンジョンの入り口のように派手さはないが気品がただよう。

 間違いない。ここは……。


「ようこそ、プロケル。お久しぶりね」


 ストラスの部屋だ。

 ドレスを身にまとったストラスが、上品に微笑む。

 その背後には女性の天使型の魔物が控えている。


 彼女のことは覚えている。自分の軍団すべての能力を向上させるチートスキルを持った魔物ラーゼグリフだ。

 彼女の場合は他にも自軍すべてとテレパシーが可能という、軍団運用に特化した魔物。

 是非、手に入れたい。


「久しぶりだなストラス。突然の来訪に応えてくれて感謝する」

「気にしないでいいわ。その、わたしたちは友達なんだから」


 ストラスは顔を赤くして、微妙に視線をそらした。

 友達という言葉に照れているようだ。

 俺は思わず苦笑してしまう。


「ストラスのダンジョンはすごいね。入り口と隠し部屋までの浅い階層しか見ることができなかったが人の出入りが多かったし、気品がある」

「さすがはプロケルね。いい目を持っているわ。すごいでしょ。【竜】の魔王アスタロト様にたくさんのことを教わりながら作ったのよ。人間の冒険者のリピーター率もすごく高いし、それでいて使うDPも節約して、最近だと一日一〇〇〇DPも黒字がでてるわ。最初は赤字だったけど、やっと軌道に乗ったの。渦もいくつか作ることができたし、これからも増やしていくから、どんどん黒字が増えていくわ!」

「それはすごいな」


 嬉しそうにストラスは語る。

 彼女のやっていることはまさに正道だ。

 初期投資さえ行えばノーコストで魔物を増やせる渦を可能な限り作り、その魔物と宝を餌に冒険者を集める。

 純粋に尊敬する。従来のダンジョンで一日一〇〇〇DPを新人魔王で稼ぐのはひどく難しい。


 まずは、新規の客を獲得するための宣伝が必要だ。ダンジョンがあることを知ってもらわなければ客なんて入りようがない。

 冒険者を招いて終わりじゃない。冒険者に来たいと思わせる飴の用意。なにより、冒険者に魔物を殺させすぎたり、宝をもっていかれすぎると赤字になる。そのぎりぎりを見極める感性。

 ストラスは紛れもない天才だろう。

 俺はこの方法で一日一〇〇〇DPも稼げる気がしない。


「少しズルをしているの。【偏在】なら魔物が減らないし」

「いや、その能力を含めて魔王のダンジョン運営だ。ストラスは頑張っている」

「その、ありがと」


 ストラスが嬉しそうに微笑んだ。


「プロケル、あなたの街はいまどれぐらい稼げているの?」

「最近だと、だいたい二〇〇〇の後半かな? たまに三〇〇〇半ばまで行くけど」


 今、現在進行形でアヴァロンの人口は増えている。

 それに伴って、DPの稼ぎが日に日に増している。

 アヴァロンの一番の強みは人が住んでいることだ。通常のダンジョンに比べて、一人当たりの感情の力は弱いが、二十四時間感情を喰らうことができるし、人間は生活をよりよく刺激的なものにしていく。

 実際人間たちは、勝手にカジノや娼館などを作り、強い感情を生み出すようになった。放っておけばどんどん、質のいい感情を作り出す施設を作るだろう。

 俺が知っているだけでも、演劇場やコロシアム。そういった施設を建築する計画が動いている。

 俺がやることはその背中を押してやるだけ。

 そうすれば、勝手に人間たちはどんどん美味しくなる。


「そんなに!? 相変わらずむちゃくちゃね」


 ストラスは、三千を超えると聞いた瞬間に引きつった笑いを作った。


「ストラスもダンジョンじゃない街を作ってみるか?」

「それはいいわ。街づくりなんて、あなたにしかできないわ。私には私のやり方があるの。それで追いついてみせる」


 ストラスの声に僻みも、卑屈なところもない。

 ただ、純粋に上を目指す意気込みが感じられた。

 さすがは俺の友人だ。


「ストラス、今日はいつもの魔王服じゃないんだな。よく似合っているよ」


 彼女の魔王服はゴシックロリーターな可愛いドレスだが、今日は、色気のある体のラインがでるドレスだ。スリットから彼女の白い足が見えていてエロい。


「そっ、そのありがとう。その、あなたが来るからおしゃれをしたわけではないから」

「わかってるさ。【竜】の魔王のところに行くんだから、失礼な格好はできないよね」


 ストラスがかなり微妙そうな顔をする。

 まあ、その気持ちはわかる。

 おそらく俺への好意をもってくれているのだろう。

 ここまで露骨にされて気付かないわけがない。


 だが、俺はそういうのを避けている。彼女とはライバルとして、そして友人として過ごしていたい。


「ええ、そうよ。ちゃんとした格好でいかないとね」


 ストラスは若干機嫌を悪そうにしている。後でフォローをしておこう。


「少しお茶をしながら休憩でも……と言っている場合じゃないわね。すぐに向かうわ」

「【竜】の魔王に繋がる【転移陣】はあるのか」

「もちろんよ。あの人は私の親だもの」


 安心した。転移陣があればすぐにでも向かうことができる。


「プロケル、一応言っておくけど言葉には気を付けてね。アスタロト様はすごく厳格な方だから」

「もちろんだ。仮にも相手は、最強の三柱の一人だからな。失礼な態度をとるつもりなんて微塵もない」


 俺など足元にも及ばない相手だ。

 その【竜】の魔王相手に交渉する。

 怖くはあるが楽しみではある。彼と話して得られるものは多いだろう。

 なんの縁かこれで、最強の三柱全員としっかりと話すことになる。


「理解しているならいいわ。……あなた、少し変わったわね」

「そうか?」

「どこか頼もしく見えるの。時間ができたら何があったか聞かせなさい」

「そうだな、ストラスとは一度、お茶でも飲みながらゆっくりと話したい」


 俺は頷く。

 すると、俺をストラスの部屋まで【転移】してくれた魔物が近づいてくる。

 彼女は同時に運べるのが三人が限界。


 ストラスは一人に見えるが、お付きの魔物を【収納】しているのだろう。

 俺も、ワイトを【収納】する。相変わらずクイナは【収納】嫌いだ。さっきから、上目遣いで【収納】しないでと訴えている。


 枠はあるので、今回は強くは言わないが今後のためにどこかで【収納】の訓練をしたほうがいいだろう。

【収納】は便利だ。

 そして、跳んだ。再び目を開けたころには【竜】の魔王のダンジョンだろう。

【竜】の魔王は快くマルコを助けてくれるか、そのことが心配だった。

 

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