エピローグ:祝勝会
本日、12/15 GAノベルさんから一巻が発売です! よろしくお願いします
「プロケル様。本当にこの条件でよろしいのですか?」
「ええ、私たちアヴァロンとしてはあまり禍根を残したくない。賠償などを求めるつもりはありませんよ」
俺の屋敷の応接間で、戦争後の後処理をしていた。
なんと、戦場でアヴァロンリッターに怯えながら白旗をあげていたのは、隣街の領主だった。
彼が戦場に顔を出していたのはアヴァロンを物量で叩き潰すところを自分の目で見たかったかららしい。
遠まわしに話を聞いていたが、彼は圧勝してあたりまえ。負けるどころか苦戦することすらありえないと考えていた。
それにしても、よくあの中で死なずに済んだものだ。
兵士たちを盾にしてなんとか生き延びたらしい。凄まじい生存能力だ。
「なんとありがたい。わっ、我々は今後アヴァロンに危害は加えません! 約束します。本当です! ですから、我々の街を襲うのは許してください。我々が馬鹿でした」
机に頭を擦りつける勢いで、隣街の領主は頭を下げる。
彼は、アヴァロンが隣街を侵略しに来ることを恐れているのだ。
「そのつもりはありませんよ」
今回は喧嘩を売られたから買った。
だが、こちらから帝国の街を侵略なんてしようものんら、下手すれば帝国そのものを敵に回す。
勝てるかもしれない。
だが、そんな面倒はしたくない。
基本的に俺は平和主義者だ。
「ただしですが、ほかの街と手を組んでこのアヴァロンを襲おうとすれば、そのときは容赦なく滅ぼします。その素振りを見せただけでも実行します。そのことは肝に銘じてください。たとえ私たちに勝てる戦力を集めたとしても、私たちは戦争が始まる前にあなたの街を灰燼に帰すことができる。一時間程度でね」
手段を選ばないのであればそれが手っ取り早い。
万が一、アヴァロンの戦力で勝てないような戦力を集められた場合には、上空からの爆撃で街をまず滅ぼす。そして徹底的な籠城戦。
そうすれば、敵は早々に干上がるだろう。
「わっ、わかってます。もう、逆らいません、こんな街、本国の支援があったとしても……」
俺はにっこりと笑いかける。
「では、停戦条件の確認ですね。まず一つ目、このアヴァロンが発行した通行証。これを持った相手には関税及び、入場税をかけないこと。また、現状行っているアヴァロン方面への不当な税の廃止」
「わかった、すぐにでも手配する」
「次に、監視のために俺の部下をあなたの秘書につけること」
「それも了解だ」
「来い、オーシャン・シンガー」
青い髪で、ドレスを纏った美女が現れる。
諜報部隊の一人だ。
「彼女の望むことはすべてさせてください。万が一、彼女との連絡が途切れれば、我々への敵対とみなします」
「わっ、わかっておる。賓客としてもてなす」
彼女を監視につけておけば安心だ。
不穏な動きをすれば即座に気付ける。
「……本当にこの二つだけの条件でいいんだな」
まだ俺のことを疑っている。
無理もない。あまりにも俺の対応は甘すぎる。
「ええ、はじめに言いましたよね。ともに繁栄していきたいと。そちらが不景気になれば、そちらの街からの客が減ります。必要以上にそちらへの負担をかけるつもりはありません」
大事なお客様だ。
かなりの客が隣街には存在する。
隣の街には栄えてもらわないと困るのだ。人間は大事な資源だ。気軽に減らすわけにはいかない。むしろ、増やせる環境を整えてやってもいい。
「とはいえ、アヴァロンがここまで寛大なのは一度きりです。今回の約束はかなり緩い。裏をかこうと思えばいくらでもかけるでしょう。また、我々に牙を剥きたくなるかもしれません。ですが、そういったことをすれば、今度は本気で滅ぼしますよ。今回のようなお遊びでなく、アヴァロンの真の力で」
隣街の領主が真っ青になって震える。
今回の約束事項をまとめた書類に調印して、それで終わりだ。
「そうだ。今から祝勝会を開くのですが、よろしければ参加してはどうですか?」
「おっ、お気遣いは感謝します。でっ、ですが、わっ、わたし、には用事があるの、じっ、辞退します」
「それは残念です。今回の戦いで馬はすべて逃げてしまったみたいですね。ゴーレム馬車を手配しましょう。お気をつけておかえりください」
俺はにこやかに微笑む。
そして、こくこくと何度も隣街の領主は頷いた。
さて、隣街の領主は忘れているが、さきほどまでエンシェント・エルフであるアウラが調合した自白剤を飲ませて知っていることをすべて吐かせていたし、体内に盗聴器と発信機を埋め込んでいた。
その間の記憶は彼には残っていない。そういう薬だ。
黒幕の存在は突き止めたし、彼がそいつに唆されたということもわかった。
彼が去ってから独り言をつぶやく。
「まさか、リグドルグ教の差し金か。それも高位の神官」
リグドルグ教は、複数の国に跨る世界でもっとも勢力の大きい宗教だ。
リグドルグ教の権力をもってすれば、気軽にさまざまな国から英雄級の冒険者を集められるだろう。
それに気になることが一つある。
隣街の領主から聞き出した情報の一つに、
「今回の英雄クラス三十人は”養殖もの”だから気にするな」
とリグドルグ教の神官が発言したというものがある。
その言葉を聞いて納得した。本来英雄クラスの冒険者は、膨大な経験を経て至るものだ。戦闘能力だけではなく、その経験から来る対応力こそが真の脅威。だが、今回の敵にはそれがなかった。
ここで一つの仮説が生まれる。もし、魔王がリグドルグ教の背後にいるなら、効率よく魔物を食わせることで短期間でも英雄クラスの冒険者の量産もできるのではないだろうか? それならば対応力の低さも頷ける。
とはいえ、これ以上は妄想の世界だ。とりあえずは奴を泳がせて情報を集めよう。
奴の秘書に任命したオーシャン・シンガーには、あえて隙を作るように指示してある。いずれ、オーシャン・シンガーの隙をついて直接連絡を取ろうとするだろう。
そのときこそ、本当の敵を突き止められる。
他にも戦場を監視させていた、ハイ・エルフとオーシャン・シンガーたちが何匹か怪しげな魔物を捕えている。そいつらは地下に監禁してある。後日しっかりと情報を引き出そう。
◇
領主を乗せたゴーレム馬車を見送り、俺はアヴァロンに戻った。
すると、一人の男に上機嫌な声をかけられる。
「プロケルさん、圧勝だったと聞きましたよ」
商人のレリックだ。もうすでに頬が赤い。
祝勝会はすでに始まっている。酒を飲んでいたのだろう。
アヴァロンの街は巨大な城壁に囲まれており、戦争の前後は一切の出入りを禁止していたので、街の中の住人は戦いの様子を知らない。
ただ、圧勝したという情報だけを知っている。
「ええ、皆さんの支援のおかげです」
「何を言っているんですか。結局、ほとんど手伝わせてくれなかったじゃないですか、三千人相手を一時間もかからず蹂躙。最強の街ですよ。このアヴァロンは。ははは、この街は世界で一番儲かって安全な街だ」
手放しに誉めているが、目が笑っていない。
きっと、金の匂いを感じ取っているのだろう。
まったく、油断できない人だ。
俺は適当な世間話をして、彼と別れる。
街を見回る。
戦争の解放感から、みんな飲めや歌えの大騒ぎだ。
祝勝会のために商人たちがかなり散在してくれたようで、贅沢な料理が並んでいるし、酒もたっぷり。誰もが笑っている。
さきほどまで大虐殺があったとは思えないぐらいだ。
「あっ、おとーさん、この串焼き美味しいの!」
「マスター、こっちのスープのほうが美味しい」
「魚の干物も絶品ですよ」
クイナ、ロロノ、アウラの三人が手に料理をもってやってくる。
彼女たちは、先に自由にさせていた。祭りを楽しんでいるようだ。
「おとーさん。あーん」
「クイナ、ずるい」
「まあまあ、ロロノちゃん。私たちもすればいいじゃないですか」
俺は彼女たちから受け取った食べ物を食べる。
どれもこれもうまい。
遠い街や村の料理の数々。
今のアヴァロンは、多種多様な文化が入り乱れている。一つの街ながらいろんな国の文化を楽しめる。
こういう楽しみができるのが、アヴァロンのいいところだ。
「そういえば、ルルイエ・ディーヴァは?」
「ルルちゃんは別行動なの。なにか、やりたいことがあるみたい」
「ほう、それは気になるな」
そんなことを言っていると、北のほうですさまじい歓声が聞こえた。
そっちをみると、ルルイエ・ディーヴァが歌っていた。
住民たちが夢中になって、手を振ったり足を踏み鳴らしている。
すさまじい熱気だ。
「ご主人様、いい歌ですね」
「ああ、ちょっと怖くなるぐらいにね」
幸いスキルは使っていない。純粋に歌の魅力だけで人々を熱中させている。
あの歌は、いい武器になりそうだ。アヴァロンの住人の心を一つにできる。
「みんな、向こうにも見慣れない料理がある。取りに行こう」
「やー♪」
「ん」
「はい!」
三人そろって、全力で祭りを楽しむ。
料理を取りにいくと、ドワーフ・スミスに腕を組まれているワイトとすれ違った。隣には白虎のコハクもいて、特大の骨付き肉を口にくわえていた。
……ここの住人すごいな。白虎が歩いているのに気にしていない。
人間の適応能力はすごい。
「おとーさん、遅いの!」
「悪い、クイナ」
俺は足を速める。
今はすべてを忘れて祭りの空気に浸りたいそんな気持ちだった。
◇
宴は深夜まで続いていた。
途中、俺は住民たちにつかまり、挨拶をさせられた。
俺はその場のノリでかなり恥ずかしいことを言ってしまった。
アヴァロンは無敵だとか、もっと栄えるとか、そんなことを言った気がする。
強気な発言で、クイナたちも変にやる気になっていた。
だいぶ、酒も回ってきた。
「そろそろ屋敷に戻ろうか」
俺が問いかけるとみんなが頷く。
住民たちは夜通し楽しむつもりらしいが、さすがにそこまで付き合えない。
「おとーさん、アヴァロンはいい街なの!」
「そうだな。本当にいい街だ」
耳を澄ませば笑い声が聞こえてくる。
今、この瞬間も暖かな感情が俺に流れ込み力になる。
幸せだ。人を幸せにして自分も幸せになる。
もっとこのアヴァロンを素敵な街にしたいと思う。
「クイナ、ロロノ、アウラ。これからも頼むぞ。まだ、アヴァロンは始まったばかりだ。ここから世界で一番幸せな街にする」
「やー♪」
「んっ。マスターが望むのなら」
「はい、私も頑張ります。最近果物だけじゃなくて、いろんな薬草にも手を出しているんですよ」
頼もしい子たちだ。
今日は、この幸せな音を子守歌にしよう。そして……。
「今日は久しぶりにみんな一緒に寝ようか?」
俺の問いにみんなが、笑顔で返事をする。
よかった。今日は幸せな夜になる。
この子たちと一緒に幸せな気持ちをわかちあいたい。そんな気分だった。
四章はこれで完結です。
五章からは、今回の黒幕が現れたりマルコやストラスが活躍します
そして、ついに本日12/15 魔王様の街づくりが発売です!! 書き下ろしも頑張っておりますし、鶴埼先生の美麗なイラストも魅力満点ですよ!! 是非、学校や会社の帰りに買ってくれるとうれしいな!!




