第十四話:深海の歌姫の力
ついに【創造】した諜報用の魔物。
【水】【人】【歌】で作り上げたのは、水を扉として異界に潜む魔物。
深海の歌姫、ルルイエ・ディーヴァ。
「ルルイエ・ディーヴァ、おまえを作りだしたのは、俺の魔物に諜報要員がいなかったからだ。おまえの役目は、情報収集及び、敵対組織から情報を守ることだ」
「うん、いいよ。僕、そういうのは得意だから」
妙にさばさばしている。
こういう子は今まで作ったことがないから、どう扱っていいか少し悩む。
「一つ、気になることがあるんだが、いいか?」
「なんなりと。君は僕のパトロン。出資者の言うことには従うよ」
「おまえは、ルルイエ・ディーヴァという魔物だ。……ルルイエは実在するのか?」
こいつの名前にさりげなく潜んでいるルルイエという単語。
それは邪神が封印された海底都市の名だ。
種族名の通りだと、彼女は、その邪神の歌姫ということになる。
「うん? あるよルルイエ。行こうと思えば、いつでも行けるかな」
「もしかして、邪神とかいたりするのか?」
「うん、封印されてるね。僕なら封印解けるよ。解いてみる? まあ、星のめぐりがいまいちだから、今解くとかなり弱体化するけど。どうせなら、もっとやばいときに解きたいね」
俺は思わず息を呑む。
ルルイエに封印されているのはおそらく、クトゥルフ。そんなものが実在して、解放されたら軽く世界は滅びる。
あれは、そういう存在だ。街や国ではなく、世界が滅びる。
「封印を解くのはいいが、邪神はいうことを聞くのか」
「あはは、そんなわけないじゃん。むしろ僕の方が支配されるかな」
あはは、と軽い調子で笑う。こいつは。
「やめておこう。とりあえず、邪神には触れないでおいてくれ」
俺は、この世界が好きだ。滅ぼしてなんかたまるか。
「そう、わかったよ。とりあえず、よろしくね。パトロン」
少女がにっこりと笑う。
「おまえの力見せてもらうぞ」
「どうぞ、どうぞ、僕のすべてを見てね♪」
魔王権限を使用し、彼女の能力を確認する。
ランクの低い魔物であれば、魔王ならだれでも詳細情報まで見れるが、ランクが高い魔物が相手なら、よほど力のある魔王でないとレベルぐらいまでしか見れない。
例外は、己の支配する魔物だ。
脳裏に、ルルイエ・ディーヴァのステータスが表示される。
種族:ルルイエ・ディーヴァ Sランク
名前:未設定
レベル:1
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力S 幸運S 特殊S++
スキル:邪神の巫女 破滅の歌姫 次元操作【水】 水の支配者 海底の美姫
邪神の巫女:常時発動として魔力上昇補正(大)。魔力回復量補正(大)。その他上昇補正(小)。さらに力を求めることで、邪神の祝福を受けることが可能。能力発動時、全ステータスが二倍。精神汚染が蓄積。精神汚染が一定値以上で別種の魔物へ変質
破滅の歌姫:歌に対する魅力値補正(極大)。歌に魔力と感情を乗せることが可能。歌を介しての精神干渉能力。ランクB以下は抵抗不可。ランクA以上は魔術抵抗・精神抵抗による判定。抵抗に成功した場合にも、抵抗値が弱体。特定の封印を解除できる
次元操作【水】:水を介して別次元への移動が可能。次元操作ランクS
水の支配者:水を使用する全魔術に補正(極大)
海底の美姫:見るものを虜にする美貌とカリスマ。知性値(大)。友軍の水棲魔物に対する能力補正(中)、支配力(大)
「ルルイエ・ディーヴァ。確かに次元操作能力はもっているようだ」
「でしょ? パトロンがそういう子を望んだから僕が生まれたわけだしね」
俺は苦笑いする。
確かにこの子は俺の望んだ能力をもっている。
次元操作能力はもちろんのこと、水魔術を極限まで使いこなし、水棲の魔物に対する支配力も諜報部隊の長とするのはもっていこだ。
そうなのだが……。
全体的にステータスが低いのはいい。特殊な使用法をする前提だし。あくまでクイナたちと比べればというだけで魔力型の魔物としてみれば高水準だ。
問題は各種邪神がらみの能力だ。
邪神の巫女は名前からしてやばい。
邪神の祝福を受ける。祝福を受け続けると変質するとか、もう嫌な予感しかしない。
まあ、運用の仕方しだいだ。
あくまでその力を使えばそうなるというだけ。気をつけて運用すれば問題ないだろう。
それに、名前は物騒だが破滅の歌姫は、精神干渉系の能力だ。情報を聞き出すのにも便利で、諜報部隊としてこれ以上便利な能力はないだろう。
「……そうだな。優秀な子が生まれてきて嬉しいよ」
「でしょ。僕に期待しててよ。いい思いをさせてあげるからさ」
俺の苦悩を知ってから知らずか、ルルイエ・ディーヴァはからからと笑う。
そこにクイナがやってくる。
「やっぱり、可愛い妹だったの!」
キツネ尻尾を揺らしながら、クイナがルルイエ・ディーヴァに抱き着く。
「クイナは、クイナなの。ルルちゃんのおねーちゃんで、おとーさんの次にえらいの! なにかあったら、クイナに言うの」
さっそくお姉ちゃん風を吹かせている。
クイナは基本的にいい子なので、面倒見がいいし、新しい魔物の誕生を喜ぶ。
「ふうん、君がパトロンの一番なんだ。すごい魔力と力だね。ふむふむ、うん、君なら下についていいかな。お姉ちゃん。よろしくね。一緒にパトロンを支えよう」
「やー♪ おとーさんのために一緒にがんばるの!」
さりげなく、ルルイエ・ディーヴァが怖いことを言う。
プライドが高いタイプだ。
まあ、ちゃんとクイナの力を認められる分、根は素直だろう。
「ご主人様、またすごい子を生み出しましたね」
「なにか、わかるのかアウラ」
「ええ、まあ。基本、私って世界を守る側の魔物なんですよね。でも、あの子、滅ぼす側の魔物で、まあ、首筋がこうちりちりと」
アウラが警戒の目で見ている。
彼女は生命を司る世界樹の守り手だ。世界を亡ぼす邪神の眷属をそうみるのは仕方ない。
「まあ、俺の大事な娘の一人だよ。どういう存在かより、そっちを見てほしいな。どんな武器だって、どう使うかが大事だろ?」
「わかりました。でも、気を付けてくださいね。ああいう子たちって、本人に自覚なく回りを破滅させますから。むしろ、そういうつもりで動いている子たちよりも怖いです。悪気がない分止めようがないですから」
アウラの忠告はもっともだ。
そこはきちんと気を付けておくとしよう。
「ルルイエ・ディーヴァ。生まれてきて早速で悪いが、初めの命令をさせてもらおう」
「いいよ。せっかちなパトロンだな」
ルルイエ・ディーヴァはいろいろと俺たちのことをクイナから聞いていたようだが、そっちを切り上げてこちらを向いた。
「おまえの歓迎会を準備している。まずは精一杯楽しんでくれ。その場には、俺の魔物の幹部を全員呼ぶ。そこでお互いのことを知ってほしい。おまえはこれから俺の魔物の幹部となる。そういうのも大事だからな」
「ふふっ、いきなり幹部なんて随分僕を買ってくれてるね。そういう心遣いはうれしいな。わかった! 是非! 僕の自慢の歌を披露しちゃうよ」
「洗脳はするなよ」
「あはは、するわけないじゃん」
そうして、俺たちは俺の屋敷に戻る。
何はともあれ諜報用の魔物が手に入った。いつか能力を試してから、ルルイエ・ディーヴァの二ランクの下の魔物を複数購入しよう。これで、アヴァロンはまた一つ強くなるだろう。




