第九話:空戦部隊結成と、ワイトのしつけ
俺は新たな空戦部隊を編成するために暗黒竜グラフロスを購入した。
だが、暗黒竜というだけ気性が荒く、俺に敵意を向けてきた。
「我が君、この若造へのしつけを私に任せていただけませんか?」
暗黒竜をどう扱うべきかを悩んでいる俺の前に、たまたまワイトが通りがかり、暗黒竜の矯正を買って出てくれた。
ありがたい。是非お願いしよう。
「同じ竜種同士だ。意思の疎通もやりやすいだろう。悪いが、頼む」
「かしこまりました。こやつに身の程というものを思いらせてやりましょう」
ワイトは暗黒竜グラフロスのほうを向く。
すると、暗黒竜グラフロスは、何かを感じ取り、俺からワイトへと視線の向きを変える。
「さてさて、至高の存在である我が君に対して、その非礼。なんのつもりですかな?」
ワイトは怒っていた。
彼は、表情をゆがめたり、怒声をあげたりしない。だが纏う空気が変質するだけ。
それが逆に怖い。
「キュワッ!」
暗黒竜グラフロスは、自分が上だとでも言いたげに吠える。
それは威嚇だ。自らの強さを見せつける行為。
しかし、一切の迫力がなかった。腰が引けている。意地を張っているつもりだろうが、Sランクの黒死竜ジークヴルムとなったワイトの力を本能で感じてしまい、魂の奥ではすでに敗北を受け入れている。
それが隠しきれてない。もはやただの虚勢となっている。
「吠えるな、若造」
ワイトが短く、そう告げる。
それだけで、グラフロスは後退する。
グラフロスが逃げたことで開いた距離を、一歩、二歩とワイトはゆっくりと歩いて詰める。
ワイトが目と鼻の先まで近づくとグラフロスが震え始めた。
「さて、己が何に牙を剥いたか思い知るところから始めましょうか」
次の瞬間だった。
ワイトの体が大きく隆起し、圧倒的なまでに力が高まる。
クイナたちを見慣れた俺ですら目を剥くほどの圧倒的な魔力、それだけではない、死そのものである瘴気が溢れ出る。見る者の魂を凍り付かせる存在感をワイトが放った。
【狂気化】を解放し、黒死竜ジークヴルムとなったワイト本来の姿が晒される。
闇よりも昏い漆黒の竜。
サイズそのものは暗黒竜よりも一回り小さいが、その力の桁が二つは違う。圧倒的な死の具現。
周囲の空気すらも死んでいくような感覚を覚える。
血のような深紅の禍々しいワイトの瞳が暗黒竜グラフロスを捉える。
そして、前足がポンと暗黒竜の頭に置かれた。
力も魔力も何も込めてない。ただ撫でるだけの行為。
通常ならそんなことをしてもなんの意味もない。
だが……。
「キュッ、キュオーン、キュオーン」
暗黒竜は、その場でひっくり返り。媚びた鳴き声をあげ、腹を見せて恭順を示す。
それはもう誇り高い竜ではなく、犬そのものだった。
ワイトの姿がもとの竜の亜人に戻った。
「我が君、しつけが終わりました。これでもう二度と我が君に失礼な態度をとることはないでしょう」
ワイトが俺に微笑みかけてくる。
「それはありがたいな。暗黒竜グラフロスには、今後空戦部隊の主力になってもらう。細やかな作戦も実行してもらう以上、従順になってもらう必要があった」
暗黒竜はワイトだけではなく、俺に対しても完全に服従するようになってくれた。これで暗黒竜を戦力としてカウントできる。
「我が君、この魔物はいいですね。使いやすい」
「軍師のおまえがそう言ってくれると安心できる」
「ええ、さきほどまで粗暴な態度をとっておりましたが知力は非常に高い。人間よりもよほどかしこいでしょう。さらに、暗黒竜は竜であると同時に向こう側の住人……アンデッドでもあります。私の特殊能力の補正を受けられます」
黒死竜となったワイトの特殊能力の一つに【死の支配者】というものがある、その効果は自分に対する強化と自軍アンデッドに対して強化補正(大)を与える。
ワイトの指揮下にある限り、暗黒竜は大幅にパワーアップするのだ。
「それは心強いな。この基本スペックの高さで、ワイトの補正が乗ればAランクの下位とだって条件次第では互角に戦えるだろう」
竜種というだけあって、暗黒竜グラフロスはステータスが高い。Bランクに限定すれば最強の種族の一つだろう。
種族:暗黒竜グラフロス Bランク
名前:未設定
レベル:58
筋力A 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運B 特殊B
スキル:暗黒竜 瘴気(弱) 死毒 畏怖
暗黒竜:闇属性の魔術・ブレス使用可能。筋力・耐久に補正(小)。飛行能力に補正(中)
瘴気(弱):瘴気(弱)を纏う。攻撃時に追加ダメージ。耐久・魔術抵抗に補正(中)
死毒:猛毒の上位スキル。牙と爪に死毒を纏う。
畏怖:相対するランクA未満の敵全てに対する弱体化(中)
ステータスに無駄がなく、特殊能力も使いやすいものが揃っている。
非常に優秀な魔物だ。
そして、一ついい案を思いついた。あとでこいつからたっぷりと毒を採取しよう。武器にもなるし、商品にもなる。毒はいい。いろいろと絡め手が使えるのだ。
「ワイト、俺はこの暗黒竜をあと九体用意するつもりだ。その指揮をお前に任せたいと思うが、かまわないか?」
「もちろんです。この魔物が一〇体もいればほとんどの敵は、簡単に打倒できるでしょう。我が君は、どのような運用を考えておりましたか?」
「まずは、今までグリフォンとヒポグリフが行っていた空爆だな。強力な爆弾を抱えて飛翔し、上空から攻撃をする。大軍と戦う際の初手としては非常に有効だ。今までは、アウラたちの力を借りて完全に制空権を確保してから行う必要があったが、暗黒竜なら自分で制空権をとれる」
それが最大の強みだ。空の敵を自力で駆逐してから速やかに爆撃できる。そして運べる重量にも余裕があるので、敵の空の布陣が厚いと判断すれば背中にアウラたち、ハイ・エルフのスナイパーを乗せて出撃することでさらに対空能力をあげられる。
「たしかに道理です。我が君が開発させたナパーム弾。それを開幕と同時に敵軍に放てば、圧倒的に優位な状況で戦えるでしょう。それが安全かつ確実に行えるのは大きい」
「そして、それだけじゃない。こいつらはロロノが開発しているAランク並みの戦闘力を持つアヴァロンリッター。その輸送に使う」
むしろ、そっちのほうが重要といえるだろう。
「暗黒竜グラフロスに、アヴァロンリッターを一〇体ほど搭載したコンテナを運ばせて、敵陣や本拠地に投下させる。それを新たな基本戦術としたい」
俺の言葉を聞いて、ワイトが息を呑んだ。
彼にはその意味がよく分かるのだろう。
「さすが、我が君。なんと恐ろしいことを思いつくのでしょうか。つまり、いつでも、どこにでも、超高速でランクA相当の戦力を大量に送り届けられることを意味します。……これは革命ですな。敵の守りを飛び越え、中枢への奇襲効果は非常に高い、ほとんどの守りを無視できるでしょう」
アヴァロンリッターは、軽量金属であるオリハルコンで出来ているとはいえ、サイズがサイズだけに重い。非力なヒポグリフではとても輸送は不可能だった。
だが、暗黒竜なら容易にできる。
これが可能になれば戦場の常識は一変するだろう。機動力は戦争におけるもっとも重要なものの一つだ。
「爆撃と戦力の輸送。その要が、暗黒竜グラフロスの仕事だ。こいつらの指揮と訓練をワイトに命じる。練習のために実物の爆薬をいくら使っても構わん。輸送訓練のためにアヴァロンのに外にでてもいい、ミスリル以外のゴーレムを訓練のために実際に運ばせること、コンテナの開発をドワーフ・スミスたちに命じること、これら許可する。その他必要なことがあれば、つど俺に許可をとれ」
「はっ、我が君。かならずや最高の空戦部隊を作り上げて見せましょう」
ワイトが恭しく一礼を披露する。
もともと、訓練は俺が実行するつもりだったが、ちょうどいいしワイトに頼もう。彼は参謀だ。アヴァロン最強の空戦部隊を自らの手足にようになってもらえるとありがたい。
何より、暗黒竜に強化補正を与えられる以上、ワイトと暗黒竜たちは共に運用したほうがいいに決まっている。
俺は満足げに頷き、余っていたDPのほぼすべてを使用し一〇体の暗黒竜グラフロスをそろえた。
ワイトなら完璧に訓練をしてくれるだろう。
俺はワイトに暗黒竜グラフロスを十体とも預ける。
さっそく、新たに生まれた一体の暗黒竜グラフロスがワイトに反発した。
最初の一匹目がそれを見て、同情の目を向けている。
すぐに、新たな暗黒竜は自らの行いを後悔するだろう。
「あとは任せたぞワイト」
「かしこまりました我が君」
俺はその場を後にし、白虎のコハクのところに向かう。
今受けている敵の魔王の諜報を防ぐためにも、新たに生み出す諜報用の魔物をどういった魔物にするかを決めるためにもまずは、魔物たちの諜報を知ることが重要だった。
白虎との会話の中で必ずや、その道しるべを得ることができるだろう。
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