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魔王様の街づくり!~最強のダンジョンは近代都市~  作者: 月夜 涙(るい)
最後の【四大属性《エレメンツ》】
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第三話:黒死竜の能力

 今日は地下のパン工場に向かっていた。

 ワイトに会って、明日の人間の視察にどう対応するかを決めるためだ。

 だいたいの方針は決めていたが、彼の意見が欲しい。


 それとなく、ロロノに部下のドワーフ・スミス経由でワイトの様子は聞いており、無事失恋から立ち直ったとのことだ。


 ロロノの話では、最近妙にドワーフ・スミスの機嫌がよく。理由を尋ねると恥ずかしそうにごまかすらしい。


「もしかして、ワイトの奴。落とされたか?」


 たぶん、それで間違っていないだろう。

 なにせ、有能で献身的な部下。白髪褐色の美少女。クイナたちよりは成長していて、十代後半ほどの容姿で恋愛対象としても見れる。

 そんなドワーフ・スミスに失恋のどん底で優しくされたら男ならコロッといってしまう。


 そして、ワイトが肉体を得たばかりというのも大きいはずだ、今まで感じることができなかった五感を手に入れたばかりで、いろいろと敏感になっている。


 それらの状況を利用して、あっという間にワイトをものにしたドワーフ・スミスには恐れ入る。彼女に参謀であるワイトの補佐を任せたのは、実験も兼ねていたが、この分だと正式に任命してもいいかもしれない。


 そんなことを考えていると、すぐに目的地についた。

 パン工場では忙しくスケルトンたちが働いている。どう見ても普通の人間たちも混じっているが……おそらく強化蘇生したリンゴ泥棒の冒険者たちだろう。

 パン生地を捏ねるもの、パンを成型するもの、焼き上げるもの、品質をチェックするもの。完全に分業制の流れ作業が行われていた。


 ワイトの指揮のもと、生産性を極限まで高めた管理がされているのだ。


 一日数百人は訪れているアヴァロンで消費されるパンの半分はここで作られているので、膨大の量のパンの生産が必要になっている。


 ちなみに、ここで作っているのはシンプルな固焼きパンのみ。バリエーションも増やそうと思えば増やせるが、そこは人間たちに任せてある。とりあえず腹を膨らませたいという客はスケルトンたちが作ったパンを買い、美味しいパンや総菜パンなどを食べたいものは、街のパン屋で買うという住み分けができているのだ。


「これは、我が君。よくいらしてくださいました」


 ワイトが、速足でやってくる。

 白髪交じりの髪に硬質な角。蝙蝠のような竜の翼と、たくましい尻尾をもった初老の執事だ。


「ワイト、妙に機嫌が良さそうだな」

「我が君、そのようなことはございません」


 とは言っているものの、見てわかるぐらいに上機嫌だ。

 酒場で飲んだくれ、落ち込んでいたのが嘘のようだ。


「……我が君、一つ謝らないといけないことがあります」

「おまえが失敗をするとは珍しいな」

「失敗と言うわけではありませんが、以前にお願いをさせていただいた結婚式の仲人。それが必要なくなりました」


 ワイトは申し訳なさそうに顔をゆがめる。

 今までは骨だけだったので表情で感情が読めなかったが、竜人になったことでわかりやすくなった。


「いったいなぜ?」


 あえて理由を聞く。俺が盗み聞きしていたことにワイトは気付いていないので、スケさんの「爬虫類は生理的に無理」事件は知らないほうが自然だ。


「スケさんに振られてしまいましてね。いやはや、お恥ずかしい」


 ここで、恨み言一つ言わないのがワイトらしい。

 今回のことは、竜人に【新生】させた俺の責任でもある。


「そうか、それは災難だったな。スケさんの配属を変えようか? 気まずいだろう」

「その必要はありませんよ。婚約を解消しましたが、今では友人として付き合っております。とくに我らの間にわだかまりはありません」

「わかった。おまえがそういうなら問題ないだろう」


 俺とワイトは笑いあう。

 そして、俺は改めてワイトを注視する。

 もちろん、彼の言葉を疑っているわけではない。彼の能力を改めて確認するためだ。


 高位の魔物のステータスを覗くには、それ相応のレベルが要求されるが、自分の魔物なら話は別だ。詳細まで能力が確認できる。

 ワイトの能力値が頭の中に浮かんでくる。

【新生】するまえのワイトはさほど能力が高くなかった。



種族:ワイト Bランク

名前:未設定

レベル:56

筋力D 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運E 特殊B+

スキル:死霊の統率者 中位アンデッド生成 死霊活性 不死



 平均よりも低めのステータスを優秀な特殊能力で補っている形だ。

 それと比べて今は……



種族:黒死竜ジークヴルム Sランク

名前:未設定

レベル:56

筋力S 耐久S 敏捷A 魔力S 幸運D 特殊A++

スキル:死の支配者 強化蘇生 冥界の瘴気 勇猛 狂気化 至高の竜帝 ???


 今のワイトは圧倒的なステータスに加えて、より強力な特殊能力が揃っていた。


死の支配者:自身に対する戦術眼・戦略眼・知性の強化。アンデッド系の魔物に対する支配力(極大)、自軍アンデッドに対して強化補正(大)、効果範囲……同一フロア全域


強化蘇生:死者を蘇生する。蘇生時に能力強化(大)及びアンデッド化。強制的な服従を強いる。同一対象には一度しか使用できない


冥界の瘴気:冥界の瘴気を纏う。筋力、耐久力、魔法耐性の補正(大)。瘴気による追加ダメージの付与。ランクB以下に対し即死効果。ランクA以上に対しては、呪い、毒、弱体化の効果。竜形態時のみ使用可能


狂気化:狂気化抑制時、全能力一ランクダウン。特殊能力一部使用不可及び、一ランク効果減少。狂気化解放時、全能力一ランクアップ


勇猛:精神耐性(極大)。全ての攻撃に対するプラス補正(中)。自軍士気上昇効果(小)


至高の竜帝:未修得。特定条件で解放


???:???


「ワイト、すさまじい強さになったな。頼りになる」


 思わずドン引きするステータスと特殊能力だ。

 純粋な数値ではクイナすら上回る。


「この力は我が君に与えられた力。最強の魔王たる我が君ご自身の力でございます」


 ワイトが軽く優雅な礼をする、とてもさまになっていた。

 俺は微笑む。

 圧倒的な力をワイトが手に入れたのは嬉しい。だが、懸念はある。


 狂気化という爆弾を抱えているうえに、???というのが気になる。こんなものは初めて見た。

【新生】を使った影響だろうか?

 現状調べる方法がない以上、注意深くワイトを見ていなければならない。

 いったいどんな落とし穴があの創造主に仕掛けられているかわかったのものではない。


「ワイトから黒死竜になってもおまえの性格は変わらないな。安心したよ。これからも参謀として頼らせてもらう。一つ、おまえに相談があるんだ」


 俺はそう切り出し、隣街の領主がアヴァロンへ視察の兵士を派遣してくることを伝え、俺が考えている対策を話す。


「はい、大筋はそちらでよろしいと思います。ただ、まずは時間稼ぎがいいでしょう。使者を精一杯もてなし、恭順するように見せて、侮らせて帰らせる。検討するための時間がほしいと伝えて、けして、なに一つ今回は決めさせません。きっと気をよくして、次に来たとき簡単に従うと思ってくれるでしょう。そうして、再度の交渉までの時間を稼ぎましょう。時間は我々の味方です」


 なるほど、それなら再交渉までの時間が稼げる。

 俺の街アヴァロンは一日単位でどんどん戦力があがる以上、武力衝突になるにしろ一日でも後のほうがいいだろう。


「わかった、そうさせてもらう」

「はい、その猶予も与えないぐらいに向こうが強硬に出てくるのなら、さくっと殺してアンデッド化させて傀儡とし、虚偽の報告をさせるのもいいかもしれません」


 ワイトは人の悪そうな笑みを浮かべる。

 ワイトの強化蘇生で作られたアンデッドたちは生前と見た目はほとんど変わらないし、腐らない。


 だが、確かに死んでいるといった不思議な状態だ。

 今言ったようなことは可能だろう。


「いや、それはやめよう。アンデッドであることを看破できる人材が向こうにいても不思議じゃない。看破されたあと、この街にいる人間全員がすべてアンデッド化されて支配されているなんて、他の人間の街に悪評を流されたら厄介だ」


 一つの街を敵に回している状況から、人間全てを敵に回すような状況になりかねない。

 戦争において風評の流布は常套手段だ。アンデッドに支配された街であれば、誅殺する大義名分ができてしまう。


「さすがは我が君です。なんという深いお考え。私は軽率でした。当日は私も同席させていただいてよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。むしろこちらから頼もうと思っていた」


 ワイトと微笑みあう。

 これで明日の方針は決まった。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。ここからさきは飛び込んでみるまでわからないだろう。

 とりあえず、歓待の準備を進める。せいぜい、俺の街を楽しんで気持ちよくおかえり願おう。

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