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魔王様の街づくり!~最強のダンジョンは近代都市~  作者: 月夜 涙(るい)
最後の【四大属性《エレメンツ》】
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第一話:【鉱山】とロロノ

 俺は隣町の領主から来た手紙の内容を確認している。

 言い回しがやたら高圧的だが、内容的にはさほど難しいことを書いているわけではない。


 要約すると……。

 帝国の威光が届かない未開の地で生活するのは心細いであろう。陛下は慈悲深い。誠意を見せれば庇護下に入ることを許可する。さしあたってはまずは実情調査として兵を三日後に派遣するので、歓待の準備をするように。


「恩着せがましい書き方だ」


 言っていることは間違ってはいない。

 アヴァロンは、魔物に支配されている土地に造られた街であり、たえず魔物の脅威にさらされており、どの国にも属さない。逆に言えばなんの後ろ盾もなく、いつ、どこの国や街に攻められてもおかしくない。


 それを”保護してやる”と言っているのだ。

 悪くない話に聞こえるが、もう少しかみ砕くとこうなる。


「兵士を常駐させ実効支配。帝国の方針に従ってもらう。”保護してやる”代わりに金と資源をよこせ。と言ったところか」


 通常なら、帝国が一方的に決めた税金を払わされ、そのうえで作物の大部分を献上しなければならない。

 商店などへの悪影響も大きいだろう。個別の税がかかる上に商業権の付与すら自由にできなくなる。

 おそらく、ドワーフたちの武器や特別なリンゴは別枠でさらに徴収を要求される。

 加えて、兵の常駐にかかる費用はこっちもち。その兵士たちの素行は悪く他の住人たちのストレスにもなる。


「とまあ、これぐらいならいいんだけどな」


 程度にもよるが、これだけで穏便に済むのであれば、黙って従ってもいいとすら考えている。

 勇者という存在が未知数であり、国に救援をもとめて、そういった存在が派遣される恐れがあるうえに、戦争を行い疲弊したところを他の魔王に襲撃されるリスクは避けたい。

 仮に実行支配されようが、街の運営が安定し、十分に力を蓄えたあとに折を見て反旗を翻せばいいだけなので、一時的に恭順するふりをするのも一興だ。


 交渉を行い、条件はましなものにするつもりだし、譲れない一線はあらかじめ決めておく。もし、その一線を超えてくるようならば、仮初の恭順すら許容しない。実力行使もやむを得まい。

 いっそのこと、隣街まで支配してしまうのもいい。


 一応、ワイトにも相談しておこう。

 あいつは政治的な感性も備えている万能な男だ。


 ……いや、それは明日でいいか。今日は使い物にならないだろう。

 そんなことを考えながら俺は手紙を片付けた。


 対策は、おいおい考えるとして今日はここまでにしよう。そろそろクイナたちがレベル上げを終え、【紅蓮窟】から帰ってくる頃合いだ。

 さきほどの酒場で、お土産に買ってきた料理を温めてやろう。


 ◇


 翌日になり、自室のベッドで目が覚める。

 左腕に柔らかくて暖かい感触があった。クイナが抱き着いて眠っている。お気に入りの可愛らしいパジャマを来て無防備な寝顔を見せてくれているクイナはまるで天使のようだ。


 思わず、彼女の頭をなでる。

 クイナが眠ったまま、にへらと表情を緩める。

 その顔を見るだけで、今日一日を乗り切れそうなほどのやる気が満ちてくる。


「マスター、クイナ、そろそろ起きて。今日は朝から鉱山に行く予定」


 俺の部屋にロロノがやってきた。


「ロロノ起こしに来てくれてありがとう」

「んっ、もう朝ごはんできてる」


 ロロノは少し羨ましそうに俺に抱き着いて眠るクイナを見ていた。ロロノも俺と眠るのが好きなので若干嫉妬をしているのだろう。

 確か、ロロノの日は明後日だから、そのときはぞんぶんに甘えさせてあげないと。

 最近までは、四人で一緒に眠っていたがクイナの寝相が悪く、誰かをベッドの下に叩き落とすという事案が何度か発生し、今では俺と一緒に眠るのは交代制となっている。昨晩はクイナの日で、今日はアウラの日というふうに毎日違う娘と眠っている。


 みんなで一緒に眠るのもいいが、こうして毎日別の娘たちと眠るのもいいものだ。

 それぞれの違った魅力を再確認できる。


「いつも、ありがとうロロノ」

「んっ、私はドワーフ。料理でも、武器でも、裁縫でも、何かを作るのは大好き」


 ロロノの言葉の通り、俺が【創造】した料理本で彼女は少しづつレパートリーを増やしている。

 料理の味は、まだまだプロには敵わないが娘の手料理はひじょうに喜ばしいものだ。


「じゃあ、行こうか。その前にクイナを起こさないとね」


 クイナの頬をぷにぷにとつつく。滑らかで適度な弾力、くせになりそうだ。

 しばらくそうしていると、クイナが目を覚ました。


「おとーさん、おはようなの。おとーさんの匂い」


 クイナは、いったん左腕から離れるとがばっと胸に飛びこんできて、頬ずりをしてくる。


「クイナは甘えん坊だな。しょうがない」


 そんなクイナを引きはがすのは忍びなくて、俺はクイナに抱き着かれたまま立ち上がり体を支える、そしてアウラの待つキッチンに移動した。


 ◇


 朝食を済ませたあとは、ロロノと共に【鉱山】エリアに向かう。

 クイナは妖狐たちの店に顔を出し、アウラのほうは新たな果物の世話をすると言っていた。


【鉱山】エリアは秘匿しているので、人目を気にしながらの移動となった。

 フロアの境目で監視をしているゴーレムにあいさつをして、中に入る。

 一面の鉱山が広がっている。手前側は涼しげで硬質な鉱山が立ち並び、奥には赤い火山が並んでいる。


「どうだ、ロロノ。前来たときと違いはあるか」

「ん。かなり大規模な地殻変動が起きてる。かなり深くまでソナーで調べないと、埋蔵物はわからないけど、かなり期待できそう。土のマナたちも上機嫌。確実にこの【鉱山】は成長した」

「たくさん、魔物を倒してレベルをあげて強くなったからね。それに【誓約の魔物】が揃った。いまもロロノたちの力が流れ込んでいるのを感じるよ」


 普段から、時間を見つけて【紅蓮窟】にもぐりレベル上げをしていたが、【紅蓮窟】に元からいた魔物たちは狩りつくしており、【渦】から湧きだす魔物を狩るしかなくなっていた。


 そのため、一日に稼げる経験値には限りがあったのだ。

 だが、【戦争】ではランクとレベルの高い魔物と大量に戦えたのだ。おかげで自覚できるほど力が充実しているのを感じる。


 加えて、【誓約の魔物】たちが揃ったことも非常に大きい。魔王の力は【誓約の魔物】たちの力に比例する。

 ようやくこれで俺は一人前の魔王を名乗れるようになった。


「マスターが強くなるのは嬉しい。【鉱山】のパワーアップもそうだけど、マスターが安全になる。……調査を始める。【鉱物共鳴】」


 ロロノが地面に手を当て、土魔術を使用する。

 これは特殊な波長の魔力を大地に浸透させることで、どういったものが埋まっているのかを調べる魔術だ。


 この力でロロノは最適な採掘ポイントと、何が掘れるかを見つけだすことができる。

 効果は地下を含めて半径五〇〇メートルほど。

【鉱山】は最大のサイズである2km×2kmで作ったので、ポイントを変えながら何度か調べる必要があるだろう。

 ロロノは満足げに頷いた。


「どうだ、ロロノ」

「このポイントは、ミスリルと金が取れる。オリハルコンはなかったけど、ミスリルの埋蔵量がかなりあがってる。これは楽しみ」

「よし、次のポイントに行こうか。ミスリルの埋蔵量があがるほど【鉱山】のランクがあがってるなら、オリハルコンもどこかにあるかもしれない」


 ロロノはいつもの無表情で頷く。

 だけど、口の端が若干吊り上がっていた。彼女も嬉しいのだろう。いい材料は鍛冶師にとって必須なのだから。

 そうして、一〇か所ほどのポイントをロロノと調べあげた。

 そしてわかったのが……。


「父さん、やった。オリハルコンが採掘できる! これで作れるものが増える!」


 ロロノが興奮した様子で話しかけてきた。

 そう、半ばオリハルコンをあきらめかけていた最後のポイントでやっとオリハルコンが見つかったのだ。

 アダマンタイトはまだ採掘できないが、アダマンタイトのほうは純粋な硬度がうりの鉱物。魔術との親和性の高いオリハルコンのほうが俺たちにとっては重要だった。


「よかったなロロノ」

「ん。私の【機械仕掛けの戦乙女】はオリハルコンが必須。ミスリルじゃ要求水準に届かなかった。これで、改良もできるし壊れても修理ができる。このポイントに重点的にゴーレムを来させる!」


 そう言うなり、ロロノは自らの支配下のゴーレムたちを呼び寄せる。

 そして、ゴーレムたちはさっそく採掘を始めた。

 彼らの手の形状をよく見ると、採掘に適した形になっていた。ロロノは【誓約の魔物】になってからゴーレムに変化をつけて生み出せるようになった。このように採掘に適したゴーレムの他にも、小型化して弱点だった低い敏捷を補っているものや、運搬に特化した四足歩行ゴーレム、拠点制圧用の自爆特攻カミカゼゴーレムなんてものも作れるようになった。


 さまざまなゴーレムが増やせるようなことなったことで、戦術の幅は一気に広がっている。

 今はロロノと共に高性能なゴーレムや、一芸特化の際物ゴーレムの開発もいろいろと研究と実験を繰り返していた。


「さっそく、ゴーレムがオリハルコンの鉱石を掘り当てたみたいだね」


 ゴーレムは、鈍い銀色のオリハルコンを掘り出した、随分と浅いところにあったみたいだ。

 ロロノは、そのオリハルコンを手に取ると、魔力を通し変形させ始めた。

 ロロノの特殊能力、【白金の錬金術師】による鉱物操作。


 液状になったオリハルコンは彼女の望むかたちに変化する。不純物を取りのぞき、さらに土魔術の応用で圧力を加えながら、魔術刻印によるエンチャントの実施を並行して行っていく。


 途中の工程でロロノのポシェットからミスリルや銀といった鉱石が飛び出し、液状化して絡み合う。

 彼女はオリハルコンを、オリハルコン合金にすることで性能を上昇させているのだ。


 普通の鍛冶師なら、数カ月かかる工程を、さまざまな魔術を駆使してものの数分で終わらせる。

 そして、オリハルコン合金で出来た二振りのナイフが生まれる。仕上げに柄の部分に魔獣の革をロロノは巻き付けた。


 小型の使い勝手の良さそうなナイフが完成した。恐ろしいほど刃が薄い。

 ポシェットから作り置きしていただろう鞘にそのナイフを収納する。


「マスター、初めてオリハルコンが採掘できた記念に作った。薄くて軽いけど、切れ味は抜群。オリハルコン合金だから、それでいて硬度も確保してる。もしものために持っておいて欲しい。これなら常に持ち運べる」


 俺はロロノからナイフを受け取る。

 そのナイフを手に取って驚いた。羽のように軽い。限界まで薄くしたからこその軽さだろう。さやから引き抜くと刀身はい光を放つ。魔性の刃。見ているだけで魂が吸われそうになる。


「そうさせてもらう。これなら、持ち運びが楽だしね。いいナイフだ」

「ん。喜んでもらえて嬉しい」


 俺が内ポケットにナイフを収納すると、ロロノも同じようにうちポケットにナイフを収納した。

 わざわざお揃いにしたがるロロノの姿が愛らしい。


「ところで、ロロノ。オリハルコン以上の金属って聞いたことがあるか?」

「ない。そんなものがあるの?」

「あるかもしれないって最近思うようになった。【鉱山】で採掘できる金属は魔王の力に比例してランクがあがる。今、確認されている鉱物はオリハルコンが最上級。だけど、俺はSランクの魔物を作れる唯一の魔王だ。当然、【誓約の魔物】から得られる力も、他の魔王よりも大きい。ロロノたち全員が限界まで成長すれば、今までのどの魔王よりも強くなる。そしたら、誰も見たことがないそんなランクの鉱物が採掘できるようになってもおかしくないだろう?」


 あくまで思いつき。

 だけど、あながち外れてもいないと思った。俺の愛しい娘たちとならば、まだ誰も見たとこがない領域に至られるのではないか? そんな期待があった。


「確かにありえる。そうなったら、素敵。オリハルコン以上の金属で作る武器……いつか、作りたい。究極の武器をこの手で」


 ロロノがうっとりした顔でまだ見ぬ鉱物を夢想する。

 俺はロロノ頭を軽くなでる。

 自分がトリップしたことに気付いて、ロロノが頬を赤くした。


「目的は達成したし、帰ろうか」

「ん。マスター、私は最高の金属を手に入れるために、頑張る。それに、クイナやアウラが強くなれるように、クイナたちがもっと使いやすくて強い武器を作る」


 ロロノがそういう以上、必ず実現してくれるだろう。


「ああ、期待しているぞロロノ。おまえならできるさ」

「ん」


 ロロノが顔を伏せて、ほんのり頬を赤くしながら手を繋いでくる。俺はしっかりと彼女の手を握り歩き出した。

 そうして二人、帰路につく。

 オリハルコンが安定供給されるようになったことで、よりいっそう俺の魔物たちは強くなるだろう。

 そしてロロノに時間ができれば、オリハルコンを使った俺専用の武器を依頼すると決めた。

 いつまでも娘たちに守られているのは魔王ちちおやの沽券に関わる。そのためにも強い武器は必要だ。

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