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第一話:それぞれの戦争にかける想い

 とんだ先は墓地エリアだ。

 ワイトが防衛部隊の配置の最終確認をしていた。


 隣には居残り組のドワーフ・スミスとハイ・エルフがいる。

 ドワーフ・スミスと彼は話しこんでいた。直接ゴーレムたちを操るドワーフ・スミスと意識合わせが必要だったのだろう。


 俺に気付いたワイトはドワーフ・スミスと話を打ち切りこちらに駆け寄ってきた。


「これは我が君、よく来てくださいました」

「準備は順調か?」

「はい、我が君の立案してくださった作戦、なんとか実現できそうです」

「それは良かった……ワイト、無茶な役目を頼んでしまい申し訳ない」

 

 今回の戦いで一番負担が大きいのはワイトだ。

 三人の魔王の猛攻をたった一人で引き受ける。数の不利を覆す仕掛けをいくつか用意したが、それを使いこなすのは難しく神経を削る。


「我が君に大役を任せられて、私は嬉しいのですよ。私には、クイナ様たちのような力はない。それでも、我が君は私の頭脳を認め重用してくださる。魔物冥利に尽きます」


 相変わらず、ワイトは嬉しいことを言ってくれる。


「俺はいい部下を持った。お前を見ているとそう思うよ」

「こちらこそ、我が君に仕えられることを誇りに思います」


 そう告げたワイトが少しもじもじしだす。

 言いたいことを言えない。そんな様子が見てとれた。


「何か言いたいことがあるのなら言ってみるがいい」

「……一つ厚かましいお願いをしてかまいませんか?」

「構わない」

「この難局を乗り切れば褒美がほしいのです」


 ワイトが自分からこんなことを言うなんて珍しい。

 だが、喜ばしい。こいつにもこんな一面があったのか。


「そんなことか。いいに決まっているおまえの今までの働きに免じて、たいていのことは叶えてやる」

「仲人をしていただきたい。私はこの戦いが終わればスケさんと結婚し式をあげようと思っているのです。誰よりも我が君に祝ってもらいたいのです」


 一瞬言葉をなくす。あまりにも驚いた。アンデッドも結婚するなんて。

 だが、素敵だと思った。こんなの断るわけがない。


「わかった。約束しよう。だから、絶対に死ぬなよ」

「はっ、我が君の命とあらば」


 そうして、防衛部隊についていくつか確認と指示をしたあと、さらに俺は別の場所に転移した。


 ◇


「あっ、おとーさん。第一部隊は準備完了なの!」

「マスター、第一部隊、第二部隊、両方とも武器の整備も完璧。いつでもいける」


 俺が転移した先は、俺のダンジョンの入り口だ。

 そこには、クイナやロロノをはじめとした敵魔王のダンジョン攻略部隊が揃っていた。

 全員、完全装備でやる気十分。


「クイナ、第一部隊のみんなを導いてやってくれ。頼りにしてるぞ」

「やー。わかったの。クイナにおまかせなの!」


 第一部隊はクイナとロロノを主力とし、ハイ・エルフ二体と混在部隊の中から高速型の魔物を加えた一二体の魔物。


 クイナとロロノという特級戦力が居る分、少数精鋭だ。

 だが、索敵能力に優れ、対空攻撃能力があるハイ・エルフのサポートもあり、十分に戦える。

 指揮官はクイナ。

 彼女は子供っぽい態度と容姿だが、その実、頭の回転が俺の魔物の中では最高に早く、直観的な危機感知能力にすぐれる。

 大局観はないので、軍全体の指揮には向かないが、現場にでる小隊の指揮官という立場なら誰よりも適性があった。


「そして第二部隊は俺について来い」


 第二部隊は俺が率いる。

 特級戦力として、Sランクの魔物であるエンシェント・エルフ。

 高速飛行をしながら、強化アンチマテリアルライフルを使った超高精度での超威力射撃。単体戦闘能力は他の追随を許さない。

 だが、大多数を相手にした殲滅能力はクイナに数段劣る、耐久力が低く、さらに天井が低い場所では機動力が激減するという弱点があった。


 その彼女の弱点を埋めるために、機動力と攻撃力があるBランクの魔物妖狐二体がわきを固め、支援要因としてドワーフ・スミスたち二体を用意した。


 さらに、殲滅力を確保するためにグリフォン空爆部隊の半数を引き連れていく。

 加えて切り札として機動力が低いが強力なBランクとCランクのまもの六体を俺は【収納】して引き連れる。

 数的には第一部隊を圧倒しているが、総合的な戦闘力はほぼイコールだ。


「はい、ご主人様にどこまでもついて行きます!」


 エンシェント・エルフが微笑みかけてくる。

 この戦いで活躍してくれれば、俺は彼女に名前を与えるつもりだ。

 そうなれば俺の【誓約の魔物】たちが揃う。

 そのことに若干の期待があった。


「さて、最後の作戦確認だ」


 あと五分もしないうちに戦争がはじまる。念のために作戦を復習しておこう。


「クイナ、第一部隊は鍾乳洞型の洞窟に突撃しろ。たぶん、あれが【粘】の魔王のダンジョンだ。突入直後は、なるべく派手に暴れてやれ」

「うん。どかーんってするの。なるべくたくさんの敵を引き付けてワイトたちの負担を軽くする。おとーさん、たまには天狐らしい戦いもやってみる」


 俺の意図がちゃんと伝わっているようだ。

 敵魔王が守りに意識を向ければ向けるほど、攻めの手は緩くなる。その分、クイナたちが相手にする数は増えるが、彼女たちの速度なら最小限の戦闘で駆け抜け、敵を置き去りにできる。


「エンシェント・エルフ。俺たちも戦争がはじまりしだい全速力で、塔型のダンジョンに突っ込む。悪魔っぽいから【邪】のダンジョンだろうが、別に外れでも構わない。ドワーフ・スミス。おまえたちはグリフォンの背中に乗れ」


 エンシェント・エルフが頷き、ドワーフ・スミスたちがグリフォンの背中に乗った。

 この編成ではドワーフ・スミスの足の遅さがネックになるが、こうすれば問題ない。


「さあ、みんな戦争が始まるぞ」


 俺の言葉が終わるとすぐに、声が鳴り響いた。


『さあ、星の子らよ。この世界を導く者たちよ。君たちの輝きを見せてみろ。【戦争】開始だ』


 そして俺たちは、自らのダンジョンから飛び出した。

 ここから先は時間との戦いだ。

 ワイトが持ちこたえてくれている間に二つのダンジョンを落とさなければ勝利はない。


 ◇


~【鋼】の魔王ザガン視点~


「くそ、あの野郎、舐めやがって!」


【鋼】の魔王ザガンは、自らの水晶の部屋に戻るなり、怒声を上げる。

 それだけで、怒りは収まらず。壁を殴りつけた。

 彼の想定では、【創造】は恐怖に打ち震えているはずだったのに、余裕しゃくしゃくで挑発までしてきた。

 それが彼の心を苛立たせていた。

 

「くそっ、くそっ、くそっ、三人がかりでも余裕だって? この僕を相手にそんなふざけたことをぬかしやがって。僕がBランクメダルしか作れないからって馬鹿にしてるのか!?」


【鋼】の魔王にとって、それは深いコンプレックスになっていた。

 プライドの高い彼は生まれたときから劣っていることは許せなかった。

 最初に、同盟を【風】の魔王ストラスに持ちかけたのは、有用な戦力として見込んだだけじゃない。

 だまして、水晶を砕き彼女の【風】のメダルを奪おうと考えていた。

 魔王の水晶を砕けば、その魔王のオリジナルメダルが作れると親に聞いた瞬間から、ずっとその野望を持っていたのだ。

 もっとも、【風】の魔王ストラスはその裏切りを察したわけではなく、プロケルに惚れているから断ってしまった。


 それは自分の魅力がプロケルに劣っている。そう考えた彼のプライドはより深く傷ついた。

 

「たまたま、いいメダルをもらったからって調子に乗りやがって、この僕の智謀、そして行動力と人脈。メダルにおんぶだっこの坊ちゃんに、本当の強さを思い知らせてやる。この僕の完璧な作戦で、あいつなんか、一瞬で叩き潰してやるんだ」


【鋼】の魔王は、濁った目で水晶の隣に立つ魔物を見つめた。

 それは、【邪】の魔王から貸し出された四つ子の悪魔の一体。

 羊と人間が混ざり合った姿をしているこの魔物は、四つ子同士でどれだけ離れていてもテレパシーが可能だ。

 この魔物を使うことで、【鋼】陣営の魔王たちは即座に連絡を取ることができる。


「ふふふ、攻めてこい。そのときがおまえの最後だ」


【鋼】の魔王の戦略は至ってシンプル。

 自分からは一切攻めない。守っていれば勝てるのだから当然だ。


 まず、三人の魔王の戦力は半分以上、それぞれのダンジョンの第一階の第一フロアに集めておく。

 攻めないと負けるプロケルは、攻めと守りに戦力を分散させ、貧弱な部隊でこちらのダンジョンを攻略しにくるだろう。


 それを第一フロアに集めた圧倒的な戦力で叩き潰す。それと同時に、羊の悪魔のテレパシーで、プロケルに攻められていることを他の魔王に共有する。


 そうなれば、残り二名の魔王が第一フロアに集めた魔物で手薄になったプロケルのダンジョンになだれ込み殲滅する。攻撃に戦力を割いたプロケルのダンジョンは一たまりもないだろう。


 懸念はなくもない。【風】の魔王ストラスを蹂躙した。ゴーレムと不思議な飛び道具だけは脅威だが、あれの攻略法は見つけた。【粘】の誓約の魔物に物理攻撃への圧倒的な耐性を持った魔物が居る。

 それに【邪】の配下にも使えそうなのがいる。


「切り札もあるんだ」

 

 つけ加えて、ほとんど反則と思われる手法で、三人の魔王の最終フロアに、変動レベルで生み出し、極限までレベルを上げたAランクの魔物たちを用意した。

 これらは、プロケルを危険視している彼らの親の魔物たちだ。


 親から子への施しは、メダルが三個とわずかなDPという制限があるが、あくまで親から子への施しに制限があるだけだ。


【鋼】の親から【邪】へ、【邪】の親から【粘】へ、【粘】の親から【鋼】へ、切り札の魔物の支配権を譲渡してもらっている。


 もちろん、この戦いが終わったら返却しないといけないが、非常に心強い。

 たとえ奴の魔物がダンジョンの最奥にたどり着けたとしても、最強たる変動Aランクに勝てるわけがない。返り討ちだ。絶対にこちらがわの水晶は壊されない。


「プロケル、貴様は僕の智謀の上で、踊らされていると知らずに調子に乗っているんだ。そう考えると滑稽で可哀想な奴だ。ふははは。水晶を砕いたらどうしてやろうかな。命乞いさせてから、殺してやろうか。いや、水晶を砕くまえに魔物の移譲を持ちかけてやろうかな。支配権が僕に移れば消えないって言えば、馬鹿なあいつなら喜んで魔物を渡してくるかも。あいつの魔物は見た目がいい。支配してから、目の前で”可愛がってやる”」

 

【鋼】の魔王は高笑いする。もう、【戦争】の始まりが楽しみで仕方がない。

 あのいけ好かない【創造】の魔王プロケルを己の智謀で叩き潰したとき、はいったいどんな顔で泣くのだろう。

 そんな夢想をしているうちにあっという間に時間は過ぎ、【戦争】が始まった。

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