第十八話:新たな力
クルトルード商会のコナンナが来て、街が一層活気づいた。。
なにせ、商会のネットワークを通じての宣伝は人を急速に集め、商会がアヴァロンに用意した店は、品ぞろえが妖狐の経営する店とは段違いで、冒険者たちの満足度が一気にましたのだ。
商会の需要のあるものを察知し、仕入れてくるスピードには舌を巻く。
かといって、妖狐の店の売り上げが落ちるわけではない。エンシェント・エルフの祝福を受けたリンゴも、ドワーフ・スミスたちが作っている剣も、この街以外のどこでも買えないものだ。
なので、基本的にうちの街の特産物を俺たちが売り、それ以外をクルトルード商会が扱うということで住み分けができている。さらに商会の進出は雇用を生み、定住者を増やしてくれた。
俺は商会と直営の店では、この街で獲れたもの及び、この街の店で売っているものを材料にした商品以外は売らないと約束しているが、大した制限にはならない。
売りたい作物を増やしたければ、育てるところから始めればいいだけだし、卵や肉も同じだ。リンゴや剣に加えて、もう一つぐらい特産品を増やすのもいいし、カジノ等の娯楽施設を作るのもいいだろう。
そして、順調に農民たちも増えている。
エクラバの街では、育てた作物の七割をもっていかれていたのが、この街では三割。それも豊作が約束されている上に、エルフの祝福を受けて、栄養も味も抜群。宣伝さえすれば人が集まらないわけがないのだ。
時期が良かったのもある。エクラバでは租税と収穫量に対して一定の税が支払われる。
ちょうど今年の収穫が終わるタイミングだったので、来年の作物を、元の街では育てず、地主との契約を切り、こちらに移住してきた農民が多い。
今は、クイナ、エルダー・ドワーフ、エンシェント・エルフと共に街を見回っていた。
「順調すぎて怖いぐらいだ」
「人間ってすごいの。クイナ、少しびっくりした」
人口が一気に増え、活気づいている街を眺めて、クイナが声を漏らした。
「それには同感。私たちはすごいものは作れても、それ以上はできない」
「ですね。生きていくための工夫、弱い者だからこその知恵、そこは私たちが人間に劣っている部分です」
その感想にエルダー・ドワーフとエンシェント・エルフが同意する。
クルトルード商会の人間がさまざまなものを取り仕切るようになって、負担が減り、さらにドワーフ・スミス、ハイ・エルフを増員したことで俺の魔物たちにはだいぶ余裕ができた。
人間たちはある程度の自治を許すと、自分たちで住みやすいルールをどんどん作っていく。
俺は人間たちの提案を受けて、それの最終判断をするだけに留め、基本的には自治に任せている。
とはいえ、問題がないわけではない。街の運営に詳しいクルトルード商会の人間が取り仕切っているので、権力が集中してきている。
それでも、最終決定権は俺が握っている。何より、この街の治安組織を俺が一手に担っているのだ。そうそう変なことにはならないだろう。
……ただ、パワーバランス調整のために、もう一つぐらい商会を誘致したほうがいいかもしれない。
そんなことを考えていると、エルダー・ドワーフが誇らしげに口を開いた。
「マスター、クイナ、ルフ。みんなに伝えないといけないことがある。やっと新しい武器が完成した。武器開発の時間がとれるようになったから、頑張った」
「うわぁ、クイナのショットガン、まだ強くなるの?」
「ん。レベルがあがって魔術付与の技能が強化されてできることが増えた」
「ありがとうなのエルちゃん」
クイナがエルダー・ドワーフに抱き着く。
先日のエメラルド・ドラゴンとの戦いで、フルオート射撃を使い、クイナのショットガンは壊れた。
修理は終わらせたがエルダー・ドワーフは、改良しフルオート射撃に耐えられるものを作るとクイナに約束していたのだ。
「ルフのアンチマテリアル・ライフルも改良版が出来てる。今まで以上の射程と威力を約束する」
「私もエルちゃんが大好きです」
エンシェント・エルフがエルダー・ドワーフに抱き着いたクイナごと、抱き着いていく。
……クイナは感極まって抱き着いたが、エンシェント・エルフはわざとだ。可愛い子が大好きな彼女は、クイナとエルダー・ドワーフ両方の肌を恍惚とした顔で楽しんでいる。
まあいい。美少女三人の絡み合いなかなかの眼福だ。
「うう、暑苦しい。離れて」
小柄なエルダー・ドワーフが苦しそうな声をあげ、慌ててクイナとエンシェント・エルフが離れた。
「エルダー・ドワーフ、さっそくだけど、新しい武器を見せてもらっていいか?」
「うん、もともとそのつもり。準備は出来てある」
そして、俺たちは彼女の工房に向かった。
◇
工房についた途端、エルダー・ドワーフが二つのケースを持ってきた。
一つ目を開けると、銀色の光沢を放つショットガンがあった。
「まず、これがクイナのショットガン。 カーテナ改 EDS-03。材質をミスリルから、オリハルコンとミスリル、アダマンタイト、三種の合金にした。重量は増したけど、強度は圧倒的に上がった。これなら、フルオート射撃に耐えきれるし、信頼性も上昇。ただ、内部機構の問題で、連続のフルオートは故障の危険性がある。一度フルオートを放ったら、しばらく間をおいて欲しい」
「ありがとうなの! エルちゃん。あの気持ちいいのまた撃てるの!」
「魔術付与は【爆裂】をかけた。銃に魔力を込めるだけで、弾丸の射出時に魔術が発動する。散弾がばらけるタイミングで【爆裂】が発動して、弾がさらに加速して威力があがる」
ほう、面白い仕組みだ。それなら弾丸の発射後に加速するから、銃身に負担がない上に、反動が増えない。
それでいて、威力が大幅に上がる。
「すごいの! これならクイナはもっと強くなれる」
「でも、クイナが全力で魔力を込めると壊れるから手加減が必要。あとで練習に付き合う」
「エルちゃん、最高なの!」
また、クイナが抱き着こうとしたが、エルダー・ドワーフは学習したのか、右手をつきだしおでこを押えて防いだ。
クイナがしばらく、両手をばたばたと振り回して抵抗するが、最後には諦め、残念そうに離れていく。
「抱き着く必要はない。これが私の仕事。そしてルフ。ルフのアンチマテリアルライフルも完成した。デュランダル EDAM-01」
次にもう一つのケースを開く。
そこには、戦車の装甲を撃ち抜くことを目的とした超火力の大型ライフル、アンチマテリアルライフルが格納されていた。
ただ、異質なのはアンチマテリアルライフルの特徴である長い銃身が半分ほどになっていること。
「こっちの改良点は主に三つ。まず銃身を半分にして取り回しを良くして軽量化した。その分、直進性が落ちるし、密閉空間が減って弾丸の燃焼時間が減って威力が落ちる。そこは、ルフの風の仮想バレルでなんとかして」
「余裕ですよ。もともと、風の仮想バレルは併用していたので、銃身が短くなっても問題ありません」
エンシェント・エルフにしかできない芸当だ。
ハイ・エルフの風の力では強度が足りずバレルの役割を果たせない。
「ルフなら、そう言うと思った。二つ目、強度と信頼性をあげるために反動を打ち消す機能は簡略化した。そのことは覚悟しておいて。その上で、素材はクイナと同じレアメタル合金にして、さらに強度の向上と軽量化に成功した。弾丸もクイナと同じミスリル弾に変えている。威力が二倍以上ある。反動機構の省略と相まって洒落にならない反動になっている。覚悟すること」
もし、こんなものを人間が撃てば一発でライフルがぶっ飛ぶか、体で抑え込もうとして骨が叩き折られるかの二択だろう。
「そっちも問題ありません。風のクッションで打ち消します。……ここまでが銃の話ですよね」
「ん。まっとうな機構の話。魔術付与は【回転】と【加速】の二つ。ルフが弾に魔力を込めることで、弾頭が高速で回転し加速する。直進性と貫通力がさらに高まる」
単純だがいい魔術付与だ。
単純だからこそ、二つの特製の付与が可能になった。
狙撃を得意とするエンシェント・エルフにとってこれ以上の銃はありえない。
エルダー・ドワーフは鍛冶師の腕が優れているだけではなく、仲間の能力や性格を良く見て、使い手に合わせた武器を作る気配りができる。
けして独りよがりにならない。それは間違いなく彼女の強みだ。
「ルフちゃん、クイナは今すぐ新しいショットガンを撃ちたいの!」
「私もです! 強くなったこの子を試したいです!」
二人が息を荒くしていた。
「マスター、二人もこう言ってるし。新入りのレベル上げのついでに、二人の試し撃ちを【紅蓮掘】でしてきたい。ダメ?」
「もちろん、いいに決まってる。みんな、行こうか」
「行くの!」
「了解、マスター」
「楽しみです!」
そうして、このメンバーに加えて新入りのハイ・エルフ、ドワーフ・スミスと共に【紅蓮窟】に向かうことになった。
そして、俺は一つのことを決めていた。街作りにも、そして戦力の増強にも、どちらにも一番活躍してくれたエルダー・ドワーフの頑張りに報いたい。
今回の狩りで、新兵器がその威力を発揮したそのとき、エルダー・ドワーフに彼女が一番欲しがっているものを与えよう。
「マスター、私の顔をじっと見てどうしたの?」
「なんでもない……いや、そういえば、エルダー・ドワーフ自身の武器の開発はまだ進んでないのか?」
「そっちは試作品が完成したところ。まだ見せられない。でも、見たらきっとマスターは驚く。今のままじゃ、私はクイナやルフより弱い……でも、あれが完成したら対等以上に強くなれる」
エルダー・ドワーフは満面の笑みを浮かべてそう言った。
その無邪気な顔が可愛くて、思わらず俺は彼女の頭を撫でた。




