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第七話:街作り

 無事、【刻】の魔王との交渉が終わった。

 俺は今から人間の街と【刻】の魔王のダンジョンの中間に自らのダンジョン……いや、街を作る。


 交渉の際に【創造】のメダルを容易く渡した理由は二つ。プライドが高く、マルコとの仲がいい【刻】の魔王が【創造】の秘密を漏らすことはないという期待。


 もう一つは、マルコと同期の魔王でもうすぐ消滅する魔王だから敵に回る可能性が極めて低いことだ。古き魔王たちは一年間俺たちを攻撃できない。そして、その一年が経つころには【刻】の魔王は消滅している。

 それならば、ここは恩を売りつつ強力なメダルを得たほうがいい。


 グリフォンの背中に乗って飛び、街を作る場所にたどり着いていた。ちょうど開けたいい場所があるのだ。


【刻】の魔王への配慮は行ったが、人間側への配慮は必要ない。

 俺が街を作る場所は魔物の支配領域であり権利を主張するものはいない。


 もっとも、そのあたりはさじ加減しだいなので、俺の街が目立つようになり、金になると思われてしまえば接触があるはずだ。

 相手の要求が収穫物や金、つまりは税金を払えというものなら、よほど法外なものでない限り払ってやるつもりだ。

 もし一線を越えるつもりなら、それなりの対処を取る。


「おとーさん、クイナたちのダンジョン楽しみなの」

「私も楽しみ、やっと私たちの家ができる。好き勝手やれる」

「わくわくしますね」


 娘たちがそれぞれ話しかけてくる。


「いつまでも、マルコのところに居候になるわけにはいかないからな」


 俺はダンジョンのコアとなる水晶を握りしめる。少し手に汗が滲んていた。一度ダンジョンを開通させてしまえば、一生場所を移すことはできない。緊張する。

 

 そんな俺を大型犬ぐらいの大きさのカラスが遠目に見ていた。

 表向きは、【刻】の魔王からのプレゼントされた魔物だ。


 メダルの交換が終わり、【創造】のメダルの性能を確認した【刻】の魔王ダンタリアンは言ったのだ。


『確かにこれは大口を叩くだけはある。いや、期待以上だ。ふむ、これでは僕が得をしすぎだ。こんな一方的に得をする交渉をしてしまうのは、あまりにも申し訳ないし僕の沽券にかかわる、便利な魔物をプレゼントしよう。Bランクで転移が使える魔物だ。転移持ちはダンジョンの運営に絶対に必要だからね。新米の君にはぴったりだと思うよ』


 確かに便利なことは否定しない。

 魔王特権でダンジョン内のフロアなら好きに飛べるが、配下を連れての転移はできない。配下を運びたければ一度、【収納】をする必要がある。


 その性質上、エルダー・ドワーフが作ったゴーレムやワイトが作ったアンデッドたちを運ぶことはできない。

 転移魔術を使える魔物が居るかいないかで対応力がまったく違う。

 さらに言えば、俺の手持ちのメダルでは転移魔術が使える魔物は作れない。

 特にマルコのダンジョンからゴーレムたちを運ばないといけない現状だと非常に助かる。だが……

 漆黒のカラスが俺のほうをずっと見ている。


「間違いなく、監視だろうな」


 ぼそっと漏らしてしまう。

【刻】の魔王が作った魔物とはいえ、俺の支配下にある以上、命令には絶対服従だし、俺を意図的に傷つけることはできない。

 逆に言えばそれだけだ。いくらでも抜け道はある。あのカラスの魔物を通じてある程度の情報が洩れるのは覚悟しないといけない。


 まったく古い魔王の一人だけあって用心深い。

 俺はあえて、包み隠さず見せる方針をとることにした。

【刻】の魔王を害するつもりがないということをアピールするために監視を利用する。

 逆に、警戒して突っぱねるほうがリスクが高い。

 もちろん、本当に見られたくないものは隠すつもりだが。


「さて、はじめようか」


 思考を切り上げ、街づくりを始める。

 俺の手持ちのDPは30000DPある。

 計画的に使わないとこの程度のポイントあっさり消える。

 絶対に必要なものとして、【階層追加】の10000DP。

 一階層、三フロアという制限があり、三フロア以上を作ろうとすれば階層を増やすしかない。

 それとは別に地上を街、地下をダンジョンにする以上、そこは絶対に外せない。

 さらに、【戦争】が開始されたときのために【階層入替】の1000DPは何があっても残さないといけないだろう。


 創造主から説明された新しい魔王たちの【戦争】にはルールが提示されている。


1.【戦争】を開始する際には宣戦布告を創造主及び敵対する魔王に伝える必要がある。宣戦布告を断ることはできない


2.【戦争】の開始は宣戦布告から最短で48時間後


3.【戦争】開始時以外には、新たな魔王同士の武力行為を禁じる。例外として自らのダンジョン内ではこのルールは適用されない


4.【戦争】開始時にダンジョンの入り口同士が白い空間経由で繋がれ、【戦争】終了まで人間・魔物以外の動物は全て時が止まった部屋に転移させられる


5.【戦争】の勝利条件は、敵対魔王の降伏もしくはコアとなる水晶の破壊、魔王の討伐。それまでの間【戦争】は継続する。降伏時には水晶が破壊される


 これが俺たちの聞かされているルールだ。

 あの場でやったデモンストレーションとほぼ同様だ。


 一見、理路整然としているがいろいろと抜け道がある。

 まず、【戦争】が同時に引き起こされないとはどこにも書かれていないこと。複数の魔王が一人の魔王に対して、まったく同じ時刻に戦争を仕掛けることができる。


 さらに、【戦争】時以外は戦えないように思えるが、あくまで破壊を禁じているだけなので、【戦争】開始前に大量の魔物を敵のダンジョンに忍ばせることもできるし、自らのダンジョン内では、その制限すらない。


【戦争】をしないでも、敵対魔王を自分のダンジョンに誘い込みさえできれば、魔王を討てる。

 前置きが長くなったが、戦争開始と同時に【階層入替】を使い街の部分を地中に埋める戦術を考えている。

 いくら、人間は安全な場所に転移されるとはいえ、せっかく作った街を壊されるのは忍びない。

 ゆえに、【階層入替】のための1000DPは絶対に温存する必要がある。


「【構築】」


 力ある言葉で水晶が光だす。

 そして、水晶を支える燭台が現れ水晶が安置された。石の壁に周囲が包まれる。

 ここが俺のダンジョンの最奥。

 水晶にアクセスすると、部屋の周囲が映される。


「まずは入り口は【透過】を選択。一フロア目は平地を選択。エルダー・ドワーフ、エンシェント・エルフ、詳細設定は任せる。最大サイズにする以外は好きにしてくれ」


 ダンジョンの顔となる入り口は【透過】たった100DP。それは一フロア目の姿をそのまま映すものだ。

 そして、肝心の一フロア目は平地に設定する。

 草木に覆われ、木々が生い茂る豊かな自然。地下を水脈が通り、人間が生活可能な環境だ。

 さすがに石の回廊よりも高く3000DPも必要だった。


「任せて、マスター。住みやすい土地にしてみせる」

「ご主人様期待していてくださいね。地質、水脈の流れから、風水、魔力の流れまで、完璧にして見せます。ご主人様の街に相応しい最高の土地に!」


 技術のスペシャリストと、自然のスペシャリストの二人が、水晶前で恐ろしい勢いで各種設定を決めていく。


 魔王のダンジョンは構築時にその気になればどこまでも細かく設定ができるのだ。

 最高のドワーフと、最高のエルフ、その二人が知恵を絞ってデザインした土地、それが最高にならないわけがない。


 三〇分もする頃には、設定が完了し購入を完了する。

 水晶から見える景色が豊かな自然、そのものになった。

 それが、魔王の力によって初めからあったものとして世界に刻まれる。


 二フロア目以降は完全に異次元で、一フロア目からしか入れないが、この一フロア目だけは入り口が【透過】になっていることにより、この世界に接しておりどこからでも侵入できる。魔王の力で、この一フロア目が世界に割り込み、全ての矛盾は世界によって修正され、だれも認識できない。


 普通の魔王は【透過】なんて、侵入経路をまったく制限できない守りにくい入り口は絶対に選択しないが、俺のダンジョンは街だ。これが一番いい。


「二人ともよく頑張ってくれた。これで人を呼べる」


 俺は無事、自分の仕事を果たしてくれた二人の頭を撫でる。

 二人とも、嬉しそうに目を細めてくれた。


「マスター、今は土地を作っただけ。ゴーレムとドワーフ・スミスたちが来たら、農地づくりと、家づくりをしたい。街を覆う防壁も作らないと。それと水路と井戸の設置、エンシェント・エルフの力を借りることができれば、一週間ぐらいで終わらせてみせる」


 エルダー・ドワーフたちが土魔術と土木工事技術、重機並みのパワーと器用さを持つ数十体のゴーレム。さらに自然魔術のエキスパートエンシェント・エルフの助力があれば一週間あれば街を形にできるだろう。

 それらを作ることを前提にこの土地を設定した。

 エンシェント・エルフが難しそうな顔をしていると思ったら、ためらいがちに口を開いた。


「ご主人様、一つお願いがあります。今回はご主人様の命令で、上限の10km×10kmの大きさにしましたが、ちょっと私一人じゃ、この街全てにエルフの祝福をかけ続けることも、天候を操作することも厳しそうです」

「手伝いがあればできるのか?」

「はい、私の2ランク下のハイ・エルフ。彼らが二人ほど居れば、常に自然は味方になります」


 少し考える。

 ハイ・エルフはBランクの魔物。それもかなり強力な自然魔術の使い手。

 街の内政にも役立つなら作らない理由はない。


「わかった、あとで作っておく。エンシェント・エルフ。おまえに教育を任せていいか?」

「はい、もちろんです! ちゃんと育てて見せます! 自然の相手以外にも、素敵な狙撃者にして見せます!」

「それは頼もしいな」


 鼻息を荒くして、嬉しそうにエンシェント・エルフは頷く。

 そんな彼女を見て、クイナがうらやましそうな顔をしていた。


「エルちゃんも、ルフちゃんも、ずるいの。クイナも仲間が欲しいのに」


 俺は苦笑する。

 クイナの気持ちはわからなくはない。

 エルダー・ドワーフにはドワーフ・スミス。

 エンシェント・エルフにはハイ・エルフという直属の部下が出来た。

 自分も欲しいと思っても無理はないだろう。


「一応、それも考えてるよ。【変化】を使える妖狐は人間との折衝に便利だからね」


 亜人が認められている世界とはいえ、やはり拒否感がある人間は多い。

 頭が良く完全に人間に化けられる妖狐はもともと用意しようと思っていた。


「やー♪ クイナにも仲間ができるの! おとーさん、ありがとう! 大好きなの」


 クイナがぎゅっと抱き着いてくるので、俺は抱きしめ返す。

 彼女は尻尾を振って心の底から喜んでいる。


「あとは、【鉱山】を買っておこうか」


 エルダー・ドワーフがこくこくと激しく頷く。

 彼女にとって一番重要な要素だ。

 第一階層に【鉱山】エリアが追加された。これは大きさしか選べないのでちゃちゃっと追加する。

 魔王のレベルに応じていい鉱石がとれる。マルコの鉱山よりもとれる鉱石はレベルが低いが、重要な資源であることには変わらない。今の俺ではたまにミスリルが出る程度だろう。


 そのあとは、【階層追加】で地下の部屋を作り、【風】の魔王ストラスの戦いに使った、まっすぐな石の部屋を作っておいた。

 とりあえずは一部屋だけ。この部屋を作ったことで、水晶の部屋の位置が自動的にまっすぐな石の部屋の後ろに変更される。

 おそらく、何かしらの重機関銃対策をとってから、敵対する魔王たちは【戦争】をしかけてくるはずだ。

 三部屋全てを、ミスリルゴーレムが守る一本道にするつもりはない。


 今日はここまでだろう。

 30000DPあったDPが随分減っている。

 入り口の【透過】に100DP。

 一フロア目の【平地】に3000DP。

 ハイ・エルフが二体で2400DP。

 妖狐が二体で2400DP。

【階層追加】で10000DP。

 ミスリル・ゴーレムが守る石の部屋が1000DP。

 鉱山が5000DP

 合計、23900DPを使う計算だ。


【階層入替】を使う分の1000DPを考えると

 5100DPしか残らない。水晶を守るための二階層の残り二フロア、街として機能させる一階層の残り一フロアを作ることを考えると全然足りない。

 早くDPを稼がないといけないだろう。


「じゃあ、みんな。今日はここまで。一度マルコのダンジョンに戻って、ワイトたちを連れてこよう」

「わかったの、おとーさん! お引越しなの!」


 そうして、まだまだやることは山積みだが、ようやく俺の街が完成した。

 明日以降どんどん、整備していき。

 そして、いよいよ人間の呼び込みだ。

 


 

 

 

 

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