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第十一話:アヴァロン防衛戦

~プロケル視点~


 分断されたみんなの無事を祈りながら走る。

 タブレットを見るとクイナたちが真っ先に出口にたどり着いたようだ。

 クイナという最強戦力と、妖狐、アビス・ハウルという高速型の魔物のみで編成されているおかげだろう。

 クイナたちにアウラがいるルートに向かうように指示を出す。


「マスター、そろそろ私たちも出口につく」


 俺たちは散発的な襲撃を受けながらも順調に出口に向かっている。

 弾薬を温存するために、アヴァロン・リッターたちには銃の使用を禁止していた。

 アヴァロン・リッターの基本武装は重機関銃と魔力の剣。

 魔力の剣はフェルに渡した試作品をスペックダウンさせて扱いやすくしたものだ。

 リミッターをかけることで安定して魔力の刃を形成できるが、威力は大きく劣る。

 それでも十分な戦闘力を発揮しており、【豪】の魔王の魔物を寄せ付けない。

 敵を圧倒しながら、先へ先へと進んでいく。


「クイナやアウラからの連絡はまだか?」

「ちょうど今連絡がきた。アウラが敵の大部隊を壊滅させて、クイナが敗走した残党を倒したみたい。二人の部隊は合流して出口に向かっている」

「そうか、アウラがやってくれたのか」


 それは嬉しい誤算だ。

 アウラたちの狙撃部隊は、大多数を相手にした戦いは苦手だと思っていたがなんとかなったようだ。


「ん。でも、悪いニュースもある。アウラは敵を壊滅させるのに消耗しきってる。しばらく休まないと戦えない」

「わかった」


 アウラが抜けるのは戦力的に痛い。

 だが、彼女は十分に役割を果たしてくれた。責めるのではなく褒めてやるべきだろう。


「他の部隊はどうだ?」

「全部隊、順調に進んでる。アウラ以外のところは大した戦力を差し向けられてないようで、みんな苦にしてない」


 おそらくここが一つの山。

 ここを乗り切れば、一気に楽になるはずだ。


 ◇


 出口にたどり着いた。

 俺たちは三番目だったようで、次々と俺の魔物たちが集っていく。


 クイナと一緒にアウラが来た。

 消耗しているとは聞いたが想像以上だ。

 憔悴した顔で、ハイ・エルフに肩を借りている。


「アウラ、よくやった。敵の大部隊を倒してくれてありがとう」

「……ご主人様、ごめんなさい。【誓約の魔物】として最後まで戦いたかったのですが、これ以上は足手まといになってしまいます」


 アウラが申し訳なさそうにつぶやく。

 アウラはかしこい子だ。自分を客観視する力に長けている。

 そのアウラがこれ以上戦えないというのなら、本当に無理なのだろう。


 怪我や魔力の消耗ではなく、精神力のほうがごっそり持っていかれているように見える。


「お疲れ様。アビス・ハウルにアヴァロンへと【転移】させる。黄金リンゴの樹のもとで休むといい。あそこならすぐに回復するさ」

「そうさせていただきます。ご主人様、御武運を」

「任せておけ。アウラがこれだけがんばってくれたんだ。そのがんばりに報いてみせる。……そう自分を責めるな。アウラはよくやった」


 まだ申し訳なさそうな顔をしていたので撫でてやるとアウラが微笑んでくれた。


「褒めてもらえてうれしいです。だけど、その分悔しくなっちゃいました。次は最後まで戦えるように、もっと頑張りますね」

「期待している」


 アビス・ハウルに【転移陣】を用意させ、アウラをアヴァロンに送り届けさせた。

 黄金リンゴの気を浴びることで回復は早くなる。【戦争】が長引いた場合、復帰してもらえる可能性が出てくる。


「アヴァロンも今頃戦闘中のはず。状況が気になるな……まあ、心配はいらないか。向こうにはデュークとルーエがいる。デュークが負けるところは、ちょっと想像できない」


 それだけの実力をデュークは持っている。

 あいつは俺のもっとも信頼する魔物だ。


 ◇


~同時刻、アヴァロンにて~


 プロケルの屋敷の地下に作戦本部が存在する。

 そこには、デュークと副官たるドワーフスミスがいた。


「報告します。第一フロアのミスリルゴーレムが全滅しました」

「【戦争】開始から一時間と少しで突破されるとは。さすがに今までの敵とは違うようですな」


 デュークは大机に戦況図を広げながら思案する。


「して、ドワーフスミス。どのようにして突破されましたか?」

「力づくです。凄まじい防御力と突進力を持つオークが重機関銃の弾丸の雨をものともせずに突っ込んできてミスリルゴーレムを粉砕しました」

「面白い。あの白虎のコハク殿でもミスリルゴーレムの重機関銃を避ける必要があったというのに。よほど強力な魔物がいるようだ。私が出たほうがいいかもしれませんな。その魔物の動きは?」


 ドワーフスミスは説明をしながら、戦況図に敵の動きを書いていく。


「デューク、それではわしが弱いように聞こえて不快だ。ただ、タイプが違うだけだ」


 不機嫌そうに、白い虎が唸る。

 彼は白虎のコハク。変動で生み出されて極限まで鍛え上げられたAランクの魔物。

 名前持ちということもあり、凄まじい戦闘力を誇る。

 そして、彼の恐ろしいところはその戦闘力ではない。圧倒的な実戦経験と、その経験を活かすだけの技量を持つことだ。


 わけあって、プロケルの魔物となっており、デュークをはじめとしたさまざまな魔物たちの相談役になっていた。

 天狐のクイナなどは、コハクじいと呼びながら慕っている。コハクも憎からず思っていて、クイナに足りない技量を補うための修行をつけてやっている。


 デュークがコハクを作戦本部に呼んだのは、彼の意見を聞くためだ。

 デュークはアヴァロンの魔物たちは実戦経験が足りないことを問題視していた。経験豊富かつ様々な魔王や魔物を知るコハクが作戦本部にいると頼りになる。


「そう言ったつもりはありませんが……どうですか? 久しぶりに戦ってみますか。あなたなら勝てるでしょう」

「いや、いい。わしが出っ張るより、アヴァロンの若い連中に経験を積ませろ。特にアビス・ハウルどもだ。あれらは生まれたての赤子同然だ。渦で毎日増え続けている連中すべてに経験を積ませる必要はない。だが、群れのリーダー任せられる連中が十体はほしい。そいつらを選定して集中して経験を積ませたほうがいいだろう」

「貴重なご意見ありがとうございます。たしかに、その通りだ」


 デュークは思考する。

 アビス・ハウル。【転移】と異空間能力を二つを持ちつつ、ステータスも高水準なBランクの魔物。

 これからのアヴァロンの主力となっていくことは間違いない。

 彼らを鍛えないといけないとはデュークも考えていたところだ。


 ただ、数が多くどうしたものかと頭を悩ませていた。全員を鍛え経験を積ませるのは不可能だ。

 コハクとの会話の中で、その答えはでた。

 群れのリーダーを集中して育てれば、飛躍的に強くできる。

 もとより、アビス・ハウルは群れを作る習性を持つし、十体以上集まることで発動するステータス強化スキルもある。リーダーを集中して鍛えるというのは、アビス・ハウルの特性にも合う。


「では、今回はアビス・ハウルを主軸として戦わせてみましょう。作戦はシンプルに。まずはグラフロスたちの空爆で間引きをして、混乱に乗じてアビス・ハウルたちに奇襲させます。ドワーフスミス伝令を」

「はい! 任せてください」


 アヴァロンの魔物たちが動き出す。

 アヴァロンでも本格的な戦いが始まりつつあった。


 ◇


~オーク・キング視点~


 今のところ、【豪】の魔王の攻撃部隊のアヴァロンの攻略は順調だった。

 彼らの主である【豪】の魔王アガレスは見た目と言葉遣いからは想像できないほど、頭が回るし用意周到だ。


 いずれ【創造】の魔王と【戦争】をすることを想定し、情報を収集し対策を立てていた。

 だからこそ、【豪】の魔王の攻撃部隊は、アヴァロンの第一フロア、逃げ場のない【石の回廊】での弾丸の雨を降らせる死のフロアを突破できたのだ。


 第一フロアでミスリル・ゴーレムを全滅させた攻撃部隊のリーダーであるオーク・キングは斥候を放ち、危険がないことを確認してから第二フロアの【墓地】へと足を踏み入れる。


 ミスリル・ゴーレムの重機関銃の雨は脅威でも、わかっていれば突破は可能だった。

 自軍の中でも最強の防御力を持つ、オーク・センチネルに同盟魔王の能力で作った特注の魔鎧を着せ、さらにオークの王たる自分を始めとしたさまざまな魔物が可能な限り防御パフをかけた。


 それでも不安があったので薬物で痛覚を麻痺させて興奮状態にさせて突撃させることで突破した。

 ……代償にオーク・センチネルは力を使い果たし命を落としたが、たった一体の犠牲で突破できたのは僥倖だ。


 一つの山場を越えたからといってオーク・キングは油断しない。

 アヴァロンでもっとも警戒しないといけないものは重機関銃ではない。

 暗黒竜グラフロスの空からの大規模爆撃だ。あれはAランクの魔物の広範囲攻撃魔術すら凌駕する。


 もし、洞窟を抜けたからといって気を抜けば次のフロアで一掃されるだろう。

 だからこそ、オーク・キングは油断しない。

 グラフロスに対抗するための増援を待っていた。


 そう、【豪】の魔王アガレスはアヴァロンを突破するための切り札を手に入れていたのだ。

 第一フロアから【墓地】エリアに次々と白い翼の魔物が現れ天空を舞う。

 それは天使というにはあまりに獣じみていた。白い翼の鳥人……聖鳥クレイン。


 闇の属性に対して圧倒的に優位にたつ聖属性の魔物。

 Cランクであり基本性能は圧倒的にグラフロスに劣るが聖の魔物の闇の魔物に対するアドバンテージは性能差をひっくり返す。

 聖鳥クレインなら、空でグラフロスを駆逐できる。

 制空権をとってしまえば爆撃は来ない。数の差を活かして戦える。


 オーク・キングは、天空を舞う聖鳥クレインを見て安堵を感じていた。

 次々と第一フロアから攻撃部隊の面々が【墓地】エリアに足を踏み入れる。

 編成が終わり、オーク・キングは号令をかけた。


「グガアアアアアアアアアアアアアアアア」


 彼はこの時点では、アヴァロンの情報は丸裸でありすべて対策済。ここから先も第一フロア同じように問題なく突破できる……そう考えていた。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと思い付いたんですけど、石の回廊に油を垂らしたら面白いことになりそうですね
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