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第七話:三騎士の力

 暗黒竜グラフロスによって超高速で俺の魔物たちと武器を【豪】の魔王アガレスのダンジョンに運んだ。

 ここからは速度がものを言う。

 敵は反プロケル同盟。時間を与えれば救援を呼ばれるだろう。


「悪趣味なダンジョンだな」

「クイナもあんまり好きじゃないの」


【豪】の魔王アガレスのダンジョンは城型だった。

 城型のダンジョンは、自己顕示欲の強い魔王が選ぶパターンが多い。

 俺たちはダンジョンの入り口を占拠していた。

 ダンジョンにやってきた人間たちは大量のドラゴンという悪夢のような光景を見て逃げ去っていく。


 正しい判断だ。

 これから、このダンジョンは戦場になる。

 最大限の配慮はするが、それでもダンジョンを訪れている人間への被害はでる。


 アビス・ハウルたちが転移陣を描き、アヴァロン・リッターが防衛網を構築する。

 ここが俺たちの攻めの起点になる。


「初戦はロロノに任せる。三騎士とティロを引き連れて派手に暴れろ。俺たちが本気であることを見せつけてから宣戦布告をする。即時の【戦争】を受け入れるようなら、そこで仕切り直し、受け入れられないようなら、そのまま水晶を砕きに行く」


 できれば【戦争】を受け入れてもらえると助かる。

 やることは変わらないが、白い部屋に転送される際、人間は別の時が止まった空間に飛ばされるため、冒険者たちを巻き添えにしないで済むのだ。


 このダンジョンには関係ない人間が多く存在する。そんな中襲撃をかければ多くの罪なきものを殺してしまう。


 アガレスが【戦争】を受ける公算は高い。

 なにせ、アガレスには俺のように大量の戦力を輸送する手段がない。今のままでは一方的に殴られるだけだ。

 しかし、【戦争】さえ受ければ白い部屋で俺たちのダンジョンは繋がり、アガレスもアヴァロンを攻めることができ、勝機を見出せる。


 俺にとってのメリットも存在する。

 確実に他の魔王が手を出す余地を潰せる。他には創造主の気まぐれしだいではご褒美をもらえるかもしれない。


「ん。マスター、任せて。新型の力を見せつける」


 さきほどから、【豪】の魔王アガレスの魔物たちがダンジョンの外に出てきて俺たちを遠巻きに見ている。

 仕掛けてこないところを見ると情報収集のつもりなのだろう。


 向こうが困惑している様子が伝わってくる。

 デュークがやってきた


「転移陣の構築及び、防衛陣形の構築完了しました」

「ご苦労。いい手際だ」


 これで、いつでも始められるな。

 ロロノが三騎士を起動する。

 重装甲で巨大な杭打機パイルバンカーを装備した赤い機体。

 翼のついた砲塔と呼べるほど異様な白い機体。

 スマートな体つきで背に二本の大剣と腰に二丁の機関銃をつるした黒い機体。


 それぞれ、重装甲突撃仕様、遠距離砲撃仕様、汎用仕様とまったく違うコンセプトで作られた騎士たち。

 その三騎士に十体のアヴァロンリッターが付き従う。

 壮観だ。


「さあ、行こうかロロノ。向こうの偵察が帰っていった。きっと守りを固めてくれているだろう。三騎士の見せ場を作ってくれたんだ。有効利用しよう」

「任せて。この子たちの強さを見せつける」


 頼もしい。

 きっと俺の期待通り、いや期待以上の性能を見せつけてくれるだろう。


「アウラ、不満そうな顔だな」


 さきほどから、エンシェント・エルフのアウラが不満そうな顔をしていた。

 初戦を任せられなくて不満なのだろう。

 とはいえ、そういう反応はむしろアウラではなくクイナがすることが多く違和感を覚える。


「ご主人様の采配にケチをつけるわけじゃないんです。ただ、私は不思議とゴブリンとか、オークとかを見ると無性に頭を吹き飛ばしたくなるんですよね。なので、初戦に参加できないのがもどかしくて……。どうしてでしょう?」

「たぶん、エルフだからじゃないかな」


 エルフといえば村をオークに襲われて女性は乱暴されるというのが定番だ。

 エルフのDNAにオークやゴブリンへの嫌悪感が刻まれているのかもしれない。


「暴れるのは後にします。ロロノちゃん、私の出番も残しておいてくださいね」

「それは保証できない。私たちだけで全部叩き潰すつもりで戦う」


 ロロノが燃えている。

 今回狙われたのはロロノだ。怒っていて当然だろう。

 さて、攻撃隊の準備はできた。


「さあ、行こうか」

「ん」


 ロロノが頷き、三騎士とアヴァロン・リッターたちの機動音が鳴り響く。

 さあ、戦いの始まりだ。


 ◇


 アガレスのダンジョン内に入る。

 魔王のダンジョンは手前は弱い魔物、奥に行くほど強い魔物を配置して、低級~上級冒険者の幅広い客を得るようにしている。

 しかし……。


「ほう、出迎えの準備は終わっていたようだ」


 一階の第一フロアだというのに数百の魔物たちが殺意を叩きつけてくる。

 第一フロアは城型ダンジョン特有の巨大なエントランス。


 広く遮蔽物もない。数の利を生かすにはちょうどいい地形だ。

 だが愚策だ。

 おそらく、俺たちの戦術を知らされていない。

 知っていれば、こんな選択はしない。


 敵の主力はゴブリンの上位種であるCランクのハイ・ゴブリン

 加えてゴブリンを束ねるBランクのゴブリン・ロードが数体いた。


 ゴブリン種は弱いが繁殖力が非常に強く数を揃えやすい。

 ゴブリン・ロードにはBランクでありながら指揮するゴブリンたちを強化するスキルがある。


 基本的には軍団強化系のスキルはAランク以上の魔物しかもたない強力なスキル。

 ごく稀にゴブリン・ロードのようにBランクでありながら、軍団強化を持つ魔物もいる。


「ロロノ、なかなか壮観だな。敵の数は三百といったところだ。こっちは三騎士と十機のアヴァロン・リッター。あとはティロとロロノだけだ。三百対十五。勝てるか?」


 今回、ティンダロスのティロはレベル上げのために同行させただけで戦わせるつもりはない。

 ロロノもでしゃばるつもりはないようだし、実質三百対十三。


 しかも遮蔽物もない開けたフィールドで数の多いほうが圧倒的に有利だ。

 誰もが、一瞬で叩き潰されると考えるだろう。


「マスター、敵はなかなかかしこい。ハイ・ゴブリンで数を揃えて、低いステータスはゴブリン・ロードで全体強化。数だけじゃなくて質もいい。でも小細工。そんなものは私の騎士たちは吹き飛ばす」

「それは楽しみだ」


 ここからはロロノの舞台だ。余計な手出しは場をしらけさせるだけ。

 俺はティロを傍に置いて観戦者になる。

 ティロはこんな状況なのに、頭を俺の足に擦り付けて甘えてくる。なかなか図太い。


 ゴブリンの軍団が雪崩うってくる。

 ロロノが手をあげた。

 それだけで鋼の騎士たちが動き始める。


 十体のアヴァロン・リッターが前にでる。量産型アヴァロン・リッターの基本装備は二種類。銃と剣。そのうちの銃を構える。


 ミスリルゴーレムも愛用していた重機関銃ブローリング D2 カリバー.50。

 本来は歩兵の武器ではなく、戦闘ヘリなどに使われるデカブツ。

 音速の三倍近い初速の弾丸を有効射程二キロという圧倒的な射程で、なおかつ一秒でニ十発もばらまく殺意の塊……ではない。


 アヴァロン・リッターの装備はカリバーの威力をさらに強化した改良型。EDHB-02 アスカロン。

 ミスリルパウダーを使った強力な弾丸を使い、それに耐えうるだけの頑強さを持たせている。


 圧倒的な馬力を持つアヴァロン・リッターだからこそ使用が可能な銃だ。人間が使おうものなら反動でぶっとぶ。

 等間隔に並んだアヴァロン・リッター十機の斉射。

 あっという間に、ハイ・ゴブリンたちが肉片になっていく。

 アヴァロン・リッターのステータスで、超火力の重機関銃を使っているのだ。

 Cランクの魔物を多少強化したところで耐えられるものか。


「グモオオオオオオオオオオオオオオオ、グモ」


 ハイ・ゴブリンを盾にしながらゴブリンロードが叫ぶ。

 ゴブリンたちが必死に伏せて弾をやり過ごそうとする。

 意外にかしこいようでゴブリンは穴を掘り始めた。

 正しい戦術だ。重機関銃に対抗するには塹壕を用意するのが一番いい。

 だが、相手にしているのはアヴァロン・リッターだけではない。

 戦闘機のような外見の白騎士が離陸し、天井スレスレで飛翔する。


「ロロノ、白騎士は面白いものをつけてるな」

「ん。今回は重爆仕様」


 巨大な砲に翼が付いたような外見の白騎士、その翼に二つの大きなコンテナが取り付けられていた。

 コンテナが開く。


 コンテナには無数の発射台があり、殺意の塊が並んでいた。

 ミサイルポッド。そんな単語が脳裏に浮かぶ。

 高速飛行しながら、ミサイルの雨を降らせる。ミサイルの総数は百を超える。


 圧倒的な爆撃能力。なにより命中精度がすごい。

 何かしらの手段で魔物を捕捉し、魔物に向かって飛ぶ。

 穴を掘って弾丸を避けていたゴブリンたちがまとめて吹き飛ばされた。

 一撃で木っ端微塵だ。


「誘導できるうえ、グラフロスたちの爆弾より威力が高いな」

「当然、ただの爆弾じゃない。余剰魔力をチャージして使用する魔術でもある。ツインドライブで圧倒的な魔力が生産できるから使える。グラフロスたちには無理」

「なるほど」

「グラフロスに装備させるのが難しい理由はほかにもある。ミサイルコンテナ一つ作るのに、私の一日が持っていかれる……一日かけたのが一瞬で消えて悲しい」

「この程度の相手にそんなものを使うな」

「白騎士の晴れ舞台だから、大判ぶるまいした。特別」


 白騎士は、ミサイルを撃ち終わった。コンテナをパージし、空中で静止した。

 おそらく反重力ユニットによる姿勢固定。


 空中で静止できる戦闘機なんて反則もいいところだ。それは空中戦での無類の強さに繋がる。

 砲が展開され、空中から雨あられと砲撃……いや狙撃を繰り返す。

 上からの一方的な射撃。

 特筆すべきはその威力。


「白騎士の砲には.905口径(約22.9mm)を使ってる。アウラのアンチマテリアルライフルの二倍。反動を打ち消し砲身を安定させるために反重力ユニットを活かしてる」

「むちゃくちゃだな」

「命中精度を上げるため、重くして威力をあげる必要があった。その気になれば連射もできる。これぐらいやらないと、風を使ってズルするアウラに対抗できない」


 重さと運動エネルギーが増せばそれだけ直進性があがるのは道理だ。弾丸をばらまけば命中精度を補えるというのも正しい。


 ただ、そんなものをまともの使えるのは冗談のような出力があるからだろう。

 横からはアヴァロン・リッターの斉射、上からは白騎士が狙っている。逃げ場などどこにもない。


 わずか一分で、三百いたゴブリンたちがほぼ全滅。

 銃弾の雨が止む。

 数体のゴブリンと、配下を盾にしたゴブリンロードだけが残っている。


「グモオオオオオオオオオオオオオオオ」


 ゴブリンロードが背を向けて逃げ出す。

 その瞬間だった。

 爆発的な魔力の高まりを感じた。

 赤騎士が動いたのだ。巨大な杭打機となった右腕を掲げ、反重力ユニットで体を浮かせ、ツインドライブによって生まれた圧倒的な魔力をすべて推進力に変えての突進。


 もはや赤騎士自体が巨大な質量兵器。

 一瞬でトップスピードになり、消える。俺の目でも追いきれない。音速を越えた余波でソニックブームが発生し、進路上に居たアヴァロン・リッターたちが吹き飛んだ。


 次に現れた時には、大地を踏みしめ巨大な釘打ち機でゴブリン・ロードを打ち抜いていた。


 遅れて、轟音が聞こえてきた。

 ゴブリンロードはあまりの威力で爆発四散している。

 最大の突進力を持たせたとロロノは言っていたが、これではもはや瞬間移動だ。

 思わず、目を見開く。

 この突進速度、この威力。一対一ならSランクの魔物すら倒しうる。とくに初見であれば対応は難しい。気が付いたら目の前に現れて、杭打機を叩き込まれていた……なんてことが起りえる。


「新型スラスターもばっちり、これならだれも逃がさない。二百メートルまでなら、白騎士すら凌駕する速度を出せる」

「威力も申し分ないな」

「ん。たぶんデュークの竜形態ですらただじゃすまない。最強の一撃」


 もともとはティロのための専用武装。

 それがより攻撃的に改良されていた。


「あっ」


 ロロノがやってしまったという声をあげる。


「どうした、ロロノ?」

「敵が弱すぎて、黒騎士を活躍させられなかった……失敗」


 思わず苦笑してしまう。


「まあ、その機会はまだまだあるだろう。今は初戦だ」


 圧倒的な戦力で蹂躙した。

 これ以上の初戦はあるまい。

 さて、俺の仕事をしよう。


 奇跡的に生き残っていたハイ・ゴブリンをアヴァロン・リッターに連れてこさせる。

 ゴブリンは獣程度の知性しかないが、ハイ・ゴブリンは言語を操るほどの知能がある。


「君の主に伝言を頼みたい。ごほんっ」


 かっこよく決めないとな。

 俺たちがどれほど本気かわかってもらわないと。


「『貴殿の宣戦布告は受け取った。我が娘を手にかけようとした罪、死んで償え』。もう一つ『即時の【戦争】を申し込む、もし聞き入れない場合、あるいは五分以内に返事がない場合、侵攻を再開する。震えながら死を待つか、戦って死ぬかを選べ』」


 俺にとってはわりとどうでもいいことだ。

 人間はなるべく巻き込みたくないが、あくまで努力目標だ。人間がいるから躊躇するわけでもない。

 さて、どんな返事をしてくるかな。

 ロロノと三騎士についての感想を言い合う。

 そんなことをしていると、頭に声が響き始めた。


『星の子たちよ。新たな【戦争】が始まる。【創造】の魔王プロケルと、【豪】の魔王アガレスによる【戦争】だ。さあ、輝きを見せてくれ。星の子たちよ』


 創造主の声によって【豪】の魔王アガレスの意志はわかった。

 即時の【戦争】を受け入れたようだ。

 白い部屋に転移される感覚がある。


 転移の対象は、お互いのダンジョン内に存在する人間や動物以外のすべて、【豪】の魔王のダンジョンに運び込んだ俺の戦力たちも無事転送されるだろう。


 おそらく【豪】のメダルはAランク。

【豪】の水晶を砕いてしまえば、自在にAランクメダルを作れるようになる。

 それは非常に喜ばしい。レベル上げに使っている【紅蓮窟】を潰さずに済むのだから。

 まともな戦争は、【邪】【粘】【鋼】以来か。

 血がたぎる。

 さあ、蹂躙するとしようか。

 


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