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第十七話:【戦争】

 パレス・魔王の中は、外見からの期待通りの華美な内装。

 天井は高く、調度品も一級のものが揃っている。

 中に入ると、メイドの出迎えがあった。


 彼女たちは人ではない。サキュバスだ。

 ここにもサキュバスが居るのかと不思議な気分になる。

 おそらく、転送魔術を目的に採用されているのだろう。


「わぁ、おとーさん。あのツボ、すごくかっこいい」

「私は退屈。研究する価値があるものがない」


 キツネ耳美少女の天狐は、見るものすべてに興奮し、逆に銀髪ツルペタ美少女のエルダー・ドワーフはあくびをかみ殺していた。


 こんなふるまいをしているが、二人とも油断なく周囲を警戒することを忘れていない。

 マルコのお灸が効いている。


 しばらく歩いていると、ひときわ豪華で巨大な扉があった。

 扉の前には受付があり、そこで説明を受ける。三体までの魔物を連れていくようにと、サキュバスから指示を受けたので、【収納】されているスケルトンの一体を呼び出した。


 スケルトンの中で一番頭がよく、俺が心の中でスケさんと呼んでいるスケルトンのエースだ。

 サキュバスが目を丸くした。

 まあ、当然だろう。そして、俺はこのあとの展開も予想できている。


 三体というのは、本来、【誓約の魔物】を想定しているはず。

 つまりは、自分がもっとも信頼できる、最大戦力を見せつける場だ。

 そこに20DPで誰でも買えるスケルトンなんてもっていけば、いい笑いものだろう。

 だが、それでいい。


「天狐、エルダー・ドワーフ。ちょっと、周りを油断させたい。馬鹿にされると思うが耐えてくれ」


 二人にお願いする。

 天狐はうんっと元気よく頷き、エルダー・ドワーフは小さく首を縦に振った。

 そして、部屋の中に入る。


 ◇


 部屋の中では、情緒豊かな音楽が流れている。人型の魔物の生演奏だ。

 最高級の料理と酒が山ほど用意され、それぞれが舌鼓を打っていた。


 ここにいるのは魔王たちと、その配下の魔物たちだけだ。

 だいたい、周囲の反応で魔王か、魔物かはわかる。

 魔王は、俺のように人と見分けがつかないものから、竜人、獣人など、さまざまなバリエーションが居た。


 ただ、魔王に共通するのは二足歩行ができ、両手で細かな操作ができるものばかり。つまり、人型しかいない。


 これは、何か意図があるのだろうか。

 そんなことを考えながら、足を踏み出すと魔王たちの視線が俺に集中した。


 新顔の魔王だ。なにせ、その魔王の連れている魔物で、だいたいそいつの持つ属性がわかる。

 その属性しだいでは取引を持ちかけることを考慮しないといけない。


「ぎゃははははは、あいつ、スケルトンなんて連れてるぜ」

「ほかの魔物もレベル三〇程度、きっとランクが低い魔物だね」

「夜狐とドワーフか? かわいそうに親も自分もBランクメダルか。しかもはずれ引きやがったな」


 半分の魔王たちは俺を見て爆笑している。

 夜狐とドワーフはともにCランクの魔物だ。彼らは俺がBメダル同士で【合成】を行い、外れであるCランクを引いたと予測したのだろう

 こいつらは雑魚確定だ。


 魔王は魔物のレベルを見抜く能力を持ち、レベルがあがるにつれ、レベル以外の情報を読み取れるようになる。

 ただし上位のランクの魔物ほど、情報を読み取るのにレベルが必要になる。


 つまるところ、天狐とエルダー・ドワーフの力を見抜けずスケルトンという餌に引っかかって俺を甘く見るようなら三流の魔王ということだ。

 怖いのは……


「ほう、面白い」

「どういう手品かしら?」

「今後が楽しみだな」


 天狐とエルダー・ドワーフの価値を正確に見抜き、警戒してくる魔王たちだ。

 こちらは注意して接しないとすぐに食われる。

 ふと、周囲を見渡すと、マルコがほかの魔王たちと話し込んでいた。

 マルコはこちらをいたずらっぽい目で見てすぐに会話に戻る。助け舟は出さない。自分の力で頑張れということだろう。


 ◇


 ダンスホールの中で様々な魔王と話した。

 俺を下に見ている雑魚魔王たちは、自分のイミテートメダルと俺のオリジナルメダルの交換を持ち掛けてきた。


 どうやら、俺のメダルがよほど程度の低いものだと決めてかかっているようだ。

 そちらは軽くあしらいつつ、少しでも相手の情報を得る。油断してくれているので、簡単に情報を漏らしてくれる。


 逆に天狐とエルダー・ドワーフの力を見抜いている魔王たちは、みんな俺に興味を持ちつつも、ほかの魔王たちと牽制しあい、なかなか話かけて来ない。

 もどかしく思っていると、とびっきりの馬鹿が来た。


「あなた、なんて貧相な魔物を連れているの? かわいそうに。この、未来の大魔王、【風】のストラス様が、施しをしてあげるわ」


 緑の髪の少女だった。

 彼女が【風】といった瞬間周囲がざわめく。

 マルコの話を思い出す。四代元素、【地】、【火】、【風】、【水】のメダルのうち、【風】だけはずっと、その属性をもった魔王が現れなかった。


 四大元素は汎用性が非常に高い上に強力。なおかつ例外なくAランクということがあって、その持ち主は羨望の的になるとのことだ。


 だから、【風】をもって生まれたこの少女は自分のことを選ばれた存在だと思ってもおかしくない。


「施し?」

「ええ、私の【風】をあげるわ。イミテートだけどBランクの力はある。もう少しマシな魔物を作りなさい」


 彼女は【風】のイミテートを投げてくる。俺はそれを受け止めた。

 イミテートとはいえ、手持ちにない【風】。ありがたい。だが、これをただ受け取るのは俺のプライドが許さない。

 戦略的に油断させるのはいい。だが、施しを受けるのは別だ。


「ありがとう。なら、俺はこれを差し出そう」


 交換用に用意しておいた【炎】のイミテートメダルを投げつける。

 もとがAランクである、【炎】、【人】、【土】、【錬金】の四メダルは必ず需要があると考えておりイミテートを用意してたのだ。


「これは?」

「交換だ。俺も今年生まれた魔王でライバルだ。一方的に施しを受けるのは気分がよろしくない。そのメダルなら同格だろう」


 俺の一言がよほど勘に触ったのか、緑の魔王、【風】のストラスは青筋を立てる。


「ライバル? その程度の魔物しか生み出せない分際で? Aランクのメダルを持つ私に向かってライバル? 笑わせてくれるわね」

「その程度? 逆に不思議なんだが、なぜ、"その程度"の魔物を従えているぐらいで俺の魔物を馬鹿にできる? 戦えば一分持たないぞ?」


 ストラスが連れている魔物は三体。

 風のイタチに、翼の生えた馬、それに天使のような魔物。

 Dランクの魔物までしか詳細な情報が見えない俺にはレベルしかわからない。


 だが、一体のみレベル69。残りは六十前後。変動で生み出してこの短期間でここまでレベルを上げることは不可能。だとすると、Aランク一体にBランク二体。


「私の、私の【誓約の魔物】を馬鹿にしたわね。……絶対に許さない。あなた、名前は」

「【創造】の魔王プロケル」

「私は、【風】の魔王ストラス。いずれ私に喧嘩を売ったことを後悔させてあげるわ」


 周囲がざわめく。

 雑魚魔王どもは、俺を見て、死んだぜとか、自業自得だとか騒ぎはじめ。

 逆に力のある魔王たちは興味深そうに俺たちを見ている。

 まあ、戦力的には互角だろう。

 天狐とエルダー・ドワーフはSランクだが、今はレベルが低い。固定レベルで生み出したAランクの魔物相手だと純粋なステータスでは不利。優秀な特殊能力と圧倒的な武器の性能でほぼ互角。

 だが、あと一〇もレベルを上げれば追い抜き、そこから先は圧倒するだろう。

 


 ◇


 さらに時間が経った。

 その間、いくつかイミテートメダル同士を交換したがオリジナルは手に入っていない。

 なんとか、残りの時間で手に入れないと。 


 力ある魔王に【創造】との交換をもちかければおそらく手に入る。だが、口が堅く、なおかつ俺に害意がない魔王ではないと、ドツボにはまる。


 そんなことを考えていると、ふと意識が遠くなった。

 気が付けば壇上にいた。

 俺のほかに九人。その中には、さきほど喧嘩をしたストラスも。

 場の魔王たちの視線が、壇上の一〇人に集まった。


『星の子らよ。ここに新たな、星の子が生まれた』


 ここに連れてこられたときの、声が響く。


『さあ、新たな星の輝きを祝おうではないか』


 魔王たちが盃を掲げる。 

 気が付けば、俺の手の中にも盃が現れていた。


『祝杯を!』


 ほとんど無意識に手にある酒を飲み干す。

 うまい、うますぎる。なんだ、この酒は、そして内から沸き上がる異常な熱さ。新たな力が芽生えていくのを感じる。


『では、皆に決定事項を伝える。例年、新たな魔王は巣立ちするまでダンジョンの構築を禁じていた』


 俺もそう聞いている。

 一年の修行のあと、外に出て自らのダンジョンを作ると。


『しかし、それはあまりにも無為な時間をすごすことになる。よって、この場でダンジョンを作る権利を与える』


 すべての魔王たちがざわめきだす。

 そんな中、マルコが手をあげた。


『【獣】の魔王マルコシアスか。発言を許す』

『はっ、創造主。私は反対です。まだ彼らはあまりにも幼く、世間を知らない。あっという間に水晶を砕かれ、力を失うでしょう』


 それは間違いない。

 なにせ、ろくな戦力がない。さらにDPも足りない。

 本来一年という期間は、知識を得て、DPを集め、戦力を集める期間のはずだ。

 このままダンジョンを作っても、人間か、ほかの魔王か、どちらにとってもいい餌だ。


『おまえは優しい子だな。マルコシアス。だが、心配はいらぬ。一年後の巣立ちのときまで、新たな魔王たちのダンジョンを、他の魔王たちが攻めることを禁ずる』


 それは助かる。

 古参の魔王はともかく、新しい魔王だけが相手ならまだ守れる。

 問題は、勇者と言われる存在だが、そこは人間に不利益を与えない限りは牙を剥いてこないらしい。


『さらに、巣立ちまでにダンジョンを失っても、一年後の巣立ちの際に新たな水晶を与えよう』


 新しい魔王たちが色めきだつ。

 それは素晴らしい救済措置だ。


 だが、けして水晶を壊されても大丈夫というわけではない。

 なにせ、ダンジョンの空白期間が生まれればそれだけ、稼げるDPが減る。

 他の魔王たちとの差ができる。


 さらに、マルコは言っていた。水晶を壊されると魔王として力すべてを失うと。

 新しい水晶が与えられるまでの間、メダルの【流出】や魔物の作成、DPとの交換。ありとあらゆることができない。

 それどころか……もしかしたら今生み出している魔物が全て消滅し、それは新たな水晶が戻ってきても返ってこないかもしれない。


『ただ、与えすぎで緊張感がないのも困る。新たな魔王たちよ。新しい魔王同士で、戦うがいい。食い合い、力を手に入れろ。他者のダンジョンを攻略し、力を奪え。巣立ちまでに一度の戦争。それをノルマとする』


 そういうことか。

 神様はよほど俺たちを戦わせたいらしい。

 どっちみち、巣立ちのさいに新たな水晶が手に入る以上、他の魔王の水晶を壊して力を得ることになんの躊躇もない。

 それは相手も同じだ。凄惨な殺し合いになるだろう。


『新たな魔王よ。古き魔王たちの知恵を借り、己が迷宮を作るといい。これで話は終わりだ……いや、一つ余興をしよう』


 新たな魔王たちが驚きの声をあげる。

 手に熱があった。手には【創造】のメダル。一か月に一度という制約を無視して、顕現したのだ。


『このメダルはサービスだ。無償でプレゼントしよう。そして、たった先着一組、この場で簡易的な【戦争】をしてもらう。即席ダンジョンを作り、【疑似水晶】の砕き合いだ! 今、手に入れたメダルがチップだ! 勝てば戦った相手のメダルを得る。負ければ自分のメダルを失う!』


 新たな魔王たちは慌てる。

 勝てば、相手のメダルを得られるのは大きい。

 だが、余興と言った以上、この場に居る全員に自分の手の内を晒すことになる上、負ければオリジナルメダルを相手に譲らないといけない。

 このまま、何もしなければメダル一個丸儲け。

 リスクを負う必要なんてないのではないか?


 その考えはわかる。

 だが、俺は迷わない。ここで戦わないという選択肢はありえない。

 問題は、どの魔王と戦うかだ。パーティの中である程度、新人魔王は誰がどんなメダルを所持しているかの情報は集めた。

 あまり悩んでいる時間はない。先着一組しか、このチャンスをものにできない。


 そんな中、まっさきに動くものが居た。

【風】の魔王ストラスだ。


 俺のほうをきっと睨み付け、口を開こうとしている。

 なるほど、俺に恥をかかされたことの腹いせか。

 少しいたずら心がわいた。


「【創造】の」

「【風】の魔王ストラス、おまえに戦争を申し込む!」

『では、この余興。【創造】の魔王プロケル、【風】の魔王ストラスの二名による戦争となる」


 奴の言葉を遮って、宣戦布告する。

 かっこよく決めるつもりだったのに、いきなり面目をつぶされてストラスはわなわなと震えた。

 俺はにやりと笑ってみせる。さらにストラスの怒りに油を注いだ。

 すぐに熱くなる。あしらいやすそうな相手だ。これに勝てば、Aランク【風】のオリジナルメダルが手に入り、 【誓約の魔物】候補が作れる。

 さて、最初の魔王との対決。どう戦ってみせようか。 

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