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第六話:アヴァロンの地下に潜むもの

 カジノの出し物の準備をするために地下フロアへ向かう。

 魔王権限で【転移】を使って、新設したばかりの地下二階へ向かった。


 地下二階にある【墓地】エリアで、アンデッドの一体にデュークを呼ぶように伝える。

 新設した地下二階にある三フロアは、最終的に、第一フロアを【墓地】、第二フロアを【鉱山】。第三フロアは狭い【石の回廊】にし、そして切り札となる大量虐殺兵器を配置していた。


 基本的にアンデッドに強化補正がかかる第一フロア【墓地】で、デュークやスケルトン、デュークが【強化蘇生】したアンデッドたちが暮らし、敵が地下一階をくぐりぬけてきた場合にはせん滅する。


 第二フロア【鉱山】では、日夜ドワーフ・スミスたちが作った、ゴールド・ゴーレムやシルバー・ゴーレムたちが鉱石を掘り続けており、【渦】から生み出される暗黒竜グラフロスたちの住処でもある。

【墓地】エリアで苦戦するようなら、【鉱山】エリアのグラフロスが駆けつけるように指示を出していた。


 第三フロアには、もともと第一階層の第三フロアに存在した大量虐殺兵器MOABを移動させており、最終防衛ラインとしている。

 ただ、MOABを移動させたわけじゃない。種が割れた手品をいつまでも切り札にするほど、俺は愚かではない。MOABも存在するが、同時により進化させた凶悪な兵器も併用するようにしている。


 ……もっとも、MOABの補充が終わったばかりで、新兵器のほうは、ようやくロロノの設計が終わり、パーツ単位でドワーフ・スミスたちがせっせと作っている段階で完成はまだまだ先だ。


 ロロノに作らせたほうが完成は早くなるのだろうが、彼女には手を動かすより頭を動かして新兵器を作ってほしい。それに、ロロノでなくても作れる大量虐殺兵器がどうしても欲しかった。

 ロロノと違って、ドワーフ・スミスたちはDPで買える。つまり、ロロノが設計し、ドワーフ・スミスたちが造り上げる大量虐殺兵器なら量産が可能になるのだ。


「地下一階もいままで通り、堅牢な守りだし、地下二階はそれ以上に防衛力が高い。やっと、まともなダンジョンになってきたな」


 この地下二階のおかげで、アヴァロンの【水晶】の守りはより堅牢になった。

 もちろん、第一階層も健在だ。

 第一フロアはミスリル・ゴーレムが重火器を構えた一本道。

 第二フロアはスケルトンたちが働くパン工場と兵器工場。

 第三フロアは今のところもっとも安い【石の回廊】だが、何か有用なものを作りたいと考えていた。

 そういえば、最近、木材が慢性的に不足して外からの輸入頼みになっていたな。

【森】でも作るのもいいかもしれない。


 考え事をしているうちに、デュークがやってきた。

 となりには、デュークの副官であり、彼の妻であるドワーフ・スミスが付き従っている。

 相変わらず、この二人は仲がいい。


「我が君、どのような御用でしょうか」


 初老の竜人であるデュークが頭を下げる。

 所作の一つ一つが様になっていて優雅だ。


「アヴァロンを発展させるために、やりたいことがある。暗黒竜グラフロスたちの中から、できるだけ素直で頭のいい連中を二十頭ほど集めてもらえないか?」

「はっ、お任せください。グラフロスのリーダーであるポチ、そしてポチが率いる精鋭部隊を呼びましょう」


 デュークが敬礼し、そしてテレパシーで指示を送る。

 ちなみに、デュークがポチと呼んだように、正式な名前ではないが俺の魔物たちは愛称をつけて呼び合っている。そうでないと、いろいろと不便なのだ。

 暗黒竜グラフロスという、上位のドラゴンにポチというのはどうかと思うが、デュークにとっては、グラフロスほどの魔物たちでも可愛い犬扱いなのだろう。


「相変わらず、【死の支配者】は便利だな」

「ええ、配下のアンデッドすべての強化、なによりテレパシーでタイムラグなしに一斉に指示が出せるのは助かります。アヴァロンの防衛を任せられている私としては、もっとも頼りにしている力です」


【死の支配者】たるデュークは、アンデッドたちを指揮する能力を持っている。

 暗黒竜グラフロスは竜と死の二重属性であり、デュークの能力の対象内で【死の支配者】の恩恵を受けられる。だからこそ、アヴァロンの主力として【渦】を二つも作ったのだ。


 空を見上げる。

 西洋の中型の竜たちが、きっちり隊列を組んで飛行し、急降下してきた。

 華麗に着地する。

 見事だ。精鋭部隊というのは伊達ではないらしい。


「我が君、暗黒竜グラフロスたちのなかでも、極めて優秀な精鋭たちです」

「ふむ、言うだけのことはありそうだ」


 面構えからして違うのだ。これなら、すばらしいレースができそうだ。

 俺は間を作り、口を開く。


「デューク、この街に巨大なカジノを開く予定だ。その目玉に、飛竜レースを開きたい」


 デュークが顎に手をあて、考え事をする。


「飛竜のレースですか」

「人間たちにとって竜は恐れ、敬う対象だ。その竜が空を舞い、全力で競い合うレース。世界各国で話題になり、人が集まり、熱狂するだろう。賭けをしない人間でも飛竜のレースと聞けば駆け付けてくる」


 これは間違いない。

 暗黒竜グラフロスは極めて強力な魔物だ。

 そのレースが見られる場所なんて他にない。


「なるほど、たしかに人間どもが殺到するでしょう。ですが、いくつか問題が。暗黒竜グラフロスの速さは音速を超えます。レースコースを最低二十キロはないと一瞬で終わりますし、それほどの広いコースですと、一瞬で人の視線の先を通りすぎると思われます」


 その問題は俺も気付いている。

 だからこそ、対策も考えていた。


「室内で、カメラでとらえた映像を大スクリーンにして楽しむんだ。最速の暗黒竜グラフロス一体が撮影役に徹して先頭集団の後ろを飛ぶ。それなら臨場感たっぷりの映像を客に提供できるだろう」

「ほう、それはいいですね」

「そして、カジノに仕掛けをする。天井の一部を開閉式にするんだ。レース終盤には、必ずカジノの上空を通過するコースにする。グラフロスがカジノの上空を通過する際に、天井が開き、一瞬だけ肉眼で客は暗黒竜グラフロスを目視できる催しだ」


 臨場感ある映像と、一瞬の肉眼の楽しみ。

 それが飛竜レースの楽しみだ。

 ただ、注意が必要ではある。暗黒竜グラフロスには【畏怖】というスキルがある。人間なら、半径100m以内に近づいただけで即死だ。そんな低空を飛ぶことはないだろうが、一応注意してもらおう。


「……いいですな。グラフロスたちも近頃退屈していたところです。しかも、全力でのレースはいい訓練になる」

「だろう。そして、グラフロスたちにも報酬を出すつもりだ。もともと、地下一階の第三フロアを最終防衛ラインにしていたが、地下二階の第三フロアに機能を移し無駄にしていた。そこを【森】にしようと思う。【森】を作れば、豚やイノシシが自然発生する。レースで優秀な成績をとったグラフロスは、そこで一日食べ放題だ」


 つい、さきほども地下一階の第三フロアをどうするか考えており、広い【森】が適切だと判断した。

【森】があれば、アヴァロンで不足している木材の確保ができる。

 加えて、魔王の力が強くなればなるほど、珍獣や希少な薬草や果実が自生すると魔王の書に書いてあった。

 アウラのポーション作りの助けになるだろうし、森で獲れた恵みを売ればアヴァロンの集客につながるかもしれない。


 それだけでなく、イノシシや豚といった食料を確保できる。

 魔物たちは餌を必要としないが、娯楽としての食事はできる。

 グラフロスたちも、当然肉は好きだ。いい褒美になる。

 実際にイノシシや豚をまるまる食べ放題と聞いて、グラフロスたちがうれしそうな鳴き声をあげている。

 肉のために、彼らも本気でレースに参加するだろう。そして、本気のレースだからこそ、人々を魅了できるのだ。


「【森】ですか。私も賛成です。【森】エリアは、敵の足を止め体力を削る。我らの中には、【森】に適性のある魔物が多く、防衛もしやすい。いざというときは、ハイ・エルフたちと妖狐たちが活躍するいい狩場になるでしょう。彼女たちは、【森】でこそその真価を発揮する」


 障害物が多く、足場が悪い【森】では、俊敏なハイ・エルフと妖狐の力が生きるし、ティロの二ランク下の魔物、アビス・ハウルも活躍できる。

 それもあって、俺は【森】を作ることにしている。


「して、我が君。カジノの場所はどこに作るのでしょうか? 近頃、アヴァロンも随分と手狭になってきております」

「【平地】だ」


 地上部は、第一フロアを【平地】、第二フロアをアヴァロンがある街。第三フロアを【鉱山】としている。

 街がある第二フロアに大型の施設を設置するのは難しい。なので、第一フロアの【平地】にカジノを設置する。

 20km×20kmの広さがある【平地】なら、グラフロスも気持ちよく飛べるだろう。


「我が君、私は賛成です。グラフロスも乗り気ですしね」

「助かる。まずは頭が良さそうなグラフロスたちに情報を共有したが、レースの参加者は任意だ。本格的にレースが開催されるようになれば、一日に八回ほどのレースを開催する予定だ。うまく、参加メンバーを調整してくれ」

「かしこまりました」

「そして、明日の夕方、さっそく【平地】で模擬レースをやってみようと思う。商人たちを呼んでのデモンストレーションだ。絶対にミスできない。六頭でレースするつもりだ。撮影役の一頭とレースに参加する六頭、グラフロスの選定はデュークに任せる」


 デュークが強く頷く。

 彼なら、短時間でいろいろと仕上げてくれるだろう。

 そして、ここにはドワーフ・スミスがいる。

 彼女にも話をしておこう。


「ドワーフ・スミス。そろそろロロノに頼りっきりの状況から抜け出す気はないか?」


 ドワーフ・スミスが戸惑った顔をしてから、うれしそうに小さく笑った。

 俺の意図したことがわかったのだろう。


「今回のカジノとレース会場の建築、私たちドワーフ・スミスに全権をゆだねていただけると思っていいのでしょうか?」

「その通りだ。今回の飛竜レースでは、色とりどりの装飾をグラフロスに施す。客がグラフロスの見分けができないと、賭けレースにならないからな。いや、見分けがつくだけじゃ不十分だ。レースに彩を与えるデザインが必要だ。それを頼みたい。加えて、空にレースコースを作ってほしい。全長100km以上のコースを空にわかるように描け」


 案外、こういったことは重要だ。

 見分けがつかないと、応援に熱が入らないし、グラフロスの魅力を引き出すも台無しにするも身にまとう装飾しだい。


「任せてください! ロロノ様の仕事をこれ以上増やすわけにはいきませんから!」

「それだけじゃないぞ。カジノの建設。納期は一週間だ。最低限の要求条件はこの紙にある。これをロロノの力を借りずに、ドワーフ・スミスたちだけで作り上げてみろ。できるな? ……できないなら、ロロノに監修を頼むつもりだ」


 ドワーフ・スミスは俺が渡した要求条件を書いた紙を読み始めた。

 大きな条件としては、大型スクリーンの設置、天井の開閉システム、五百人以上を収容できる広さ、優れた音響設備、快適性と強靭さの共存、空調設備の設置など。


 これを一週間で作れというのは無茶ぶりもいいところだ。

 だが、Bランクという強力な魔物であるドワーフ・スミスたち。手足となるゴーレムたちがいれば可能だと思っている。

 実際、ドワーフ・スミスたちは実力をつけているのだ。


 アヴァロンのインフラ設備の拡張、聖杯クリス教の教会も、基礎設計はドワーフ・スミスによるもので、改修をロロノが行い、構築もドワーフ・スミスたちが行っている。

 ロロノは、そろそろすべて任せられると言っていた。

 これ以上の成長のためには、ロロノに頼れない状況が必要だ。

 カジノは、ちょうどいい案件なのだ。


「……やります! やってみせます。ただ、鉱石の発掘に使っているゴーレムたちの使用許可、グラフロスの協力、そしてアヴァロンの財源の無制限の使用。これらが必要不可欠です」

「許そう。ドワーフ・スミス。おまえたちに任せるぞ」

「はい!」


 きっと、この子たちはやり遂げるだろう。

 ロロノには後で話しておこう。

 あの子は面倒見がいいが、人に頼ることは苦手だ。人に頼って成功したという経験はロロノのためにもなる。


「それから、プロケル様、デューク様。一つ進言を。これだけ広い土地があり、グラフロスのレースという目玉があるなら、五百人収容ではもったいなすぎます。千人、いえ二千人収容のカジノを建設させてください! ちゃんと納期は守りますから! どうせなら限界までやってみたいんです!」


 思わず呆気にとられる。

 二千人収容? それだけの客がくるイメージがわかなかった。

 ……いや、来る。空港ができれば二千人というキャパは活かせる。

 明日の模擬レースを見せてから、コナンナにも相談してみよう。


「ドワーフ・スミス。その提案を受け入れよう。二千人収容のカジノを作ってみせろ」

「おまかせください。プロケル様」


 この気合の入りよう。これは期待ができそう。

 さて、根回しはすんだ。

 早速明日には、コナンナとカジノを運営する人員を集めて、飛竜レースを模擬で行う。

 きっとみんな、度肝を抜かれるだろう。


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