第六話:魔王の生まれた意味
魔王様の街づくり、記念すべき百話目です!!
マルコを助けるために、【竜】の魔王アスタロトのダンジョンに来て救援を求めるも、断られてしまった。
だが、そのことは想定していたのだ。
「アスタロト様。あなたが今、マルコシアス様を助けるつもりがないことは予想がついておりました」
一流の魔王たる【竜】の魔王アスタロトが情報を掴んでいないわけがない。
「ふむ、ならなぜ来た」
「あなたを説得するために」
アスタロトの表情が険しくなる。
「大きく出たな。わしを説得するか。やってみるがいい」
声は笑ってはいるが目が笑っていない。
不遜な態度と取られても仕方ない。生まれたばかりのヒナが、最強の魔王の意思を変えるなど。
「そもそも、なにゆえにアスタロト様はマルコシアス様を助けないのでしょうか? あなたたちは親友であり、【夜会】のおりも仲良く話しているところを見ております」
短い時間しか一緒にいるところを見ていないが、それでもマルコとアスタロトの間に信頼と親しみがあることは感じ取れていた。
少なくても感情面では彼は助けたいはずだ。
「たしかに、我らは親友だ。ずいぶんと長い付き合いになる。わしはマルコシアスのことを大事に思っている。だがな、魔王とは感情だけでは動けぬ。いったいどれだけのものを背負っていると思う? 何千もの魔物。何人もの派閥の魔王。逆に問おうか、なぜ、お主はマルコシアスを助けようとする? お主自身との配下の魔物を危険に晒してまで、得るものはなにもないというのに」
彼の言うことは正しい。
俺自身、アヴァロンと魔物たちを危険に晒していいものかと悩んだ。
悩んだうえで、己の意思でマルコを助けると決めている。
その問いの答えはとうに出した。
「私はマルコシアス様に恩があります。それを返すまでに死んでもらっては困る。それに、自らの感情を押し殺して何が魔王か! 私はマルコシアス様が好きだ。恥ずかしながら今は喧嘩中ですが、喧嘩したまま終わりなんて認めない。だから助けます」
「覚悟はあるのだな」
「はい、私は私の意思で決めました。マルコシアス様を救うために全力で行動しましょう」
アスタロトは目を細めた。
そして、柔らかな表情で口を開く。
「マルコシアスはいい子を持った。だがな、それはお主の理屈だろうに。わしが、マルコシアスを助ける理由にはならない」
「ええ、それは理解しています。これは若者の理屈。だから、私があなたに報酬を支払います。【竜】の魔王アスタロト。あなたの大人の判断で得がある。そう思えるものを出しましょう」
隣に居たストラスが息を呑む。
そして、どこか寂しそうな、顔で俺を見た。
「そこまでするか、それで何を差し出す」
「私のメダルを……とはいえ、今回の戦争で最後の一枚を使用する可能性があります。なので、一か月後に支払いをさせてください」
「たかが、メダル一枚でわしが動くと」
「あなたなら、私の従えるクイナとワイトの二体を見て、わかるでしょう? その価値が私のメダルにはある」
最強クラスの魔王であるアスタロトには、クイナとワイトの能力が見えている。
もちろん、Sランクであることも、だからこそ俺の【創造】は交渉材料になりえる。
本来、Sランクの魔物というのは創造主から下賜されるか、特典がないと作れないもの。
単独でSランクの魔物を作れる魔王は存在しない。
その価値は【刻】の魔王との対話の中で再認識している。
「ふむ、面白そうではあるが少し弱いのう。もう一つだけ条件を出そうか」
そういってアスタロトは俺とストラスを見る。
「【創造】の魔王プロケル。わしが寿命を迎えたあと、我が娘ストラスを守ってほしい。そう誓えるのであれば、一度だけ力を貸そう」
俺はストラスを見る。彼女は少し困惑した表情だ。
答えは決まっている。
「わかりました。誓います。俺はあなたが逝ったあとストラスを守ります」
そう答えた俺を見て、アスタロトは満足そうに笑う。
「アスタロト様、なにを勝手に」
ストラスが慌てふためいた様子で、アスタロトに声をかけた。
「ストラスよ。魔王は一人では戦えない。そのことは覚えておきなさい。そして、勝気なおまえのことだ、おまえを下した彼以外に頼るなんてできないだろう。これはわしが最後にしてやれることだ。嫌でも受け取ってもらう」
「そんなのずるい」
「老人の最後のわがままだ。マルコシアスのためにここまでできる彼なら、おまえを任せられる。さて、プロケルよ。マルコシアスを救うために協力はするが、お主と一緒には戦わない。黒幕は見えておる。マルコシアスの派閥を操作できる魔王は、奴しかおるまいて。わしは、黒幕の急所を突く。それは必ず、マルコシアスとお主の助けになるだろう」
「ありがとうございます」
俺は礼をする。
彼は嘘は言わない。それが最善だからそうするのだろう。
なら、俺は俺の為すべきことをするだけだ。
「そして、感謝する。我ら、最強の三柱は相互不干渉の約定を交わしている。それも、創造主の名のもとにな。わしはマルコシアスのためには動けん。だが、契約のもと、【創造】の魔王プロケルのために動くことはできる」
彼はそう言ってにやりと笑った。
そうか、もとから彼はマルコシアスを助けに行きたかったんだ。
それを聞いて、ほっとした。
ほっといたついでに、一つどうしても聞きたいことがあった。
「なぜ、黒幕はこのタイミングでマルコシアス様を襲ったのでしょうか? 放っておけばあと半年で消えるのに」
それがずっと気になっていた。
リスクを冒してマルコと戦う理由がない。
「簡単な話じゃ。魔王のプライドだ。生きているうちに倒さねば、誰もが認める最強にはなりえん。勝ち逃げを許さないということだろう。それに、マルコシアスの【獣】は使い勝手がいいメダルだ。この機会に水晶を壊して奪いたいはずだ。全魔王との争奪戦よりは楽だのう」
そんなことのためだけにここまでするのか。
いや、すべてを手に入れた魔王が目指すのは自尊心を満たすことぐらいだ。
そのためになら、これぐらいやっても不思議じゃない。
「ありがとうございます。時間がないので私は行きます」
「わしは三日後に仕掛ける。お主もそう考えているのであろう?」
「ええ、その通りです」
俺と同じ考えか。そこがマルコを助けられるタイムリミットだ。
「最後に年寄りのたわごとを聞いてくれ。魔王は、創造主に【星の子】と呼ばれる。そして、絶対に人間を利用、いや人間に利益を与えん限り、強くなれんし生きていけないように縛られている。その意味を考えたことがあるか?」
「……はい、魔王とは何か、その答えを自分なりに考えております」
「お主の推測は、おそらく正解じゃ。それをよしとせんものもいる。そのことは覚えておけ。さて、最強の魔王の力を存分に振るおう、戦いなど久しいのう。ふはは、このわしに喧嘩を売るものなど、ここ百年見ておらんからな! 滾る、血が滾る!!」
老人の風貌には似つかわしくない凶悪な笑みをアスタロトは浮かべた。
それで会話は最後になる。
俺はアスタロトとストラスに見送られ、【竜】の魔王のダンジョンを後にした。
最後に何かをストラスは言いたそうだったが、時間がないので聞き出さなかった。
次は【刻】の魔王の説得だ。
彼相手に、【創造】のメダルは交渉材料にはならない。
だが、不安はない。
彼を説得する術はすでに見えている。
ついに、ついに百話到達ですよ! ここまでこれたのはみんなのおかげです。本当にありがとう!




