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第22話

 校長先生は忙しくなるぞ、と言って部屋を出ていった。

取り敢えず場所の確保は出来たね。

後はステージなのだけど…。


「そう言えば、ここの演劇部は歴史があるとかで、予算も沢山もらっているし、ステージの材料になる物やノウハウなんかもあるかもよ。」

部長が教えてくれた。

「それなら行って参ります!」

私は直ぐに行動に移った。


スマホで学校のホームページから校内の案内図を表示させる。

演劇部は別棟の最上階にあるみたい。

部屋の前に着くと中から賑やかな声や音が漏れ聞こえてきていた。


夏休みなのに活発なんだなぁ、と他人ごとのように思ったけども、自分らも大変だったんだと思いだし扉をノックする。

返事も無ければ開く様子もない。

きっと中では練習に打ち込んでいてわからないんだ。

そーっと開けてみる。


ガラッ…ガラッ…。

部屋の中では劇の練習に熱が入っている様だった。

中に入り、そっと扉を閉めた。

緊張感と熱気に包まれた部屋。


大きさは軽音部の2倍以上はあるかも。

それでも人が多くて狭く感じるほどだ。

近くの女子部員に話しかける。


「あのー。部長さんはどなたですか?」

集中していたためか、ビクッとなってこちらを向いた。

「あの盲目の演技をしている人です。」

「名前を教えてもらってもいいですか?」

「佐々木 光太郎先輩です。」

「練習は何時までですか?」

「夕方5時までの予定だけど、いつも延長してます。だいたい7時ごろかな。」

「あー……。」


本格的なやつだ…。

伝統だけじゃなく、中身も濃い部活なんだね。

「部長に用事?」

「ちょっと相談があって…。」

「それならもうすぐ休憩に入るから、その時ならいいんじゃないかな?今は真剣に演じているから近寄らない方がいいよ。部長の集中力は半端ないから。」

「あっ、それならここで待たせてもらいます。」


演技の内容は、どうやら妖怪退治のようだ。

盲目の少年と彼を助ける少女の苦悩を演じているみたいだ。

気になる部分があると、部長はその都度止めて演技指導をしていた。

「祖父が作り上げた伝統ある我が部を汚すつもりか!」

そんな怒鳴り声も聞こえてくる。

どうやら、祖父が作った演劇部みたいね。

祖父…?


校長の件もあったし、お爺ちゃんの名前は存分に使わせてもらおっと。

どうせライブまで音楽に没頭して何もしないんだから。

名前だけでも働らかせないとね。


10分後にタイマーが鳴り響き休憩時間となった。

佐々木部長さんは気になった所を一言二言指導してから、自分の椅子へと座る。

そこへ駆け寄ってみた。


「あの、佐々木部長さん。ちょっとお話し宜しいでしょうか?」

すると部長さんは、私を見上げるなりこう言った。

「おやおや?サインかい?部活中なのに困ったねぇ~。」

「……………………。」


うっざ。マジでうっざ。

「いえ、そうではなくて…。部長さんに相談があるのです。」

「おっとー。デートの予約は来月まで埋まっているよ~。それでもいいかい?」

ここまでくると、ちょっと褒めてもいい。

本当にいるんだ、こんな人…。


「すみません、演劇部部長として依頼をしたいのです。」

「ほぉ、珍しいねぇ。だけど我が演劇部は祖父が創設した歴史ある部でねぇ。気安くお願いとかされてもねぇ…。」

チラッ、チラッと何かを要求するような目…、なんて厭らしい…。


「いえいえ、部長さんからしたら大したことじゃないと思います。」

「ふーん。一応聞いてあげようか。」

上から目線の発言にカチンッときたけど、ここは怒っちゃ駄目。


「私は軽音部に所属しています。近々野外ライブを計画していまして、グラウンドの使用許可はいただきました。だけど、ステージを作るのに困っていまして…。」

「あぁ~、なるほどねぇ~。それで我が部のステージセットを借りたいということだね?」


「そうです。さすが部長さん、話しが早いですね!」

一応持ち上げてみた。

「いやぁ~、検討しても良いのだけども、祖父の代からコツコツ揃えてきた大切な舞台セットなんだよなぁ~。」

チラッ、チラッと私の反応を伺っているのが分かる。


「さすが伝統ある演劇部ですね!」

自分の顔が引きつっていたのがわかった。

「いやまぁ、そこまで言うなら貸してもいいのだけどねぇ~。」

あーイライラする…。


「そうだなぁ、何かパフォーマンスしてみてよ。軽音部…だっけ?歌とかどう?」

何だろう?何か裏がある。

そう直感した。

「ここにいるのはさ、僕を慕って集まってきてくれた人もかなりいるんだよね。」

それは否定しないかな。

入ってきて直ぐに話しかけた部員さんは、部長さんの事を慕っている感じはしたし、演技中は全員が彼の一挙手一投足に注目していた。

つまり、人柄はともかく、演技に関してはレベルの高い人なのだろう。


「彼女ら僕のファンを唸らせる事が出来るパフォーマンスが出来たなら許可してもいいよ。どう?」

私は直ぐに頷いた。

迷っている暇なんてない。

軽音部には部費なんてほとんどないし。

お金に頼れないなら、情に訴えかけるしかない。


「わかりました。約束は守ってくださいね。」

部屋の中心に歩いていく、数人が何だろうと注目していた。

「あのー、すみません。私は軽音部のボーカル、内藤 歩と言います。実は近々ライブを行うのですが、人前でほとんど歌ったことがなくて…。それで、部長さんのご好意に甘えて1曲歌わせてもらってもいいですか?」

殆どの人は休憩中ということもあって反応は鈍かった。

だけど、興味本位で「いいよー。」と答えてくれる人もいた。

その声に反応する。


「ありがとうございます。お聞き苦しいところもあるかもしれませんが、よろしくお願いします。」

丁寧に挨拶を済ませお辞儀をすると、パラパラと拍手があった。

どの歌にするか迷ったけども、合唱でよく謳われる、誰もが聞いたことのある曲にする。


空を飛びたいって願う歌だ。

静かに歌い出しながら歌の世界に入り込んでいく。

情景を思い浮かべ、そして歌詞に込められた思いを声に乗せていく。


アカペラだったこともあり、誰かが手拍子をしてくれた。

そのリズムに合わせる。

サビで一気に盛り上げていく!


オォーーーーーーーー!

歓声が上がった。

私は手でもっともっとと煽る。

歌の好きな部員がいたのか、それとも合唱曲ということもあり歌いやすかったのか一緒に歌ってくれる人も現れた。

その人を指で差してニヤッと笑う。

そのやり取りに観客達も良い意味で悪ノリしてくれた!


サビが終わるが「もう1回!」と右手を突き上げる。

多くの部員が声を出し一緒に歌い、数人は副旋律の方を歌ってくれる。

さながら大合唱になった。


そして歌は終わりを迎え、指揮者のように腕を振るいながら静かに締めた。

「ご清聴、ありがとうございました。」

ワァーーーーーーーーーー


偶然生まれた一体感は、独特な達成感や幸福感を生み、それはこの部屋を支配していた。

「8月29日の夕方から野球場にてライブをやります。良かった是非足を運んでください。」

「行く行くーーー!」

「私も行くー!」

応援してくれる声援が多かった。

私は笑顔で手を振り部長の元へ戻った。

「いかがでしたか?」


「ぐぬぬぬ…。」

始めてリアルに「ぐぬぬ」って言う人に会ったよ…。

「あれは無効だ!」


「え?なんで?」

「俺が無効って言ったら無効だ!」

どうやら癇に障ってしまったらしい…。

仕方ない、一か八かの奥の手を出すしか無い。


「なら、あなたの尊敬するお祖父様に聞いてみましょう?」

「はぁ!?何で祖父が出てくるんだ?」

「第三者に決めてもらいましょうよ。それも部長さんの身内です。それでも駄目です?」

突然の提案に勘ぐっているようだったけども「ちょっと待ってろ」と席を外して電話をかけた。

何やら小声で色々と言っているようだけども、何を言われていようが関係ない。

これで駄目なら駄目で他に手をうつしか無い状況なだけに、失敗は怖くなかった。


「ほらよ。」

打合せが済んだのかぶっきら棒にスマホを渡してきた。

それを受け取る。

「もしもし…。」

『あんたが孫に無理難題を押し付けてきた娘か?』


無理難題って…。

「はい。そうです。」

『なかなか良い度胸をしておるの。』

「お爺ちゃん譲りです。私は舞台セットをお借りしたいとお願いしただけですけども、それが彼にとって無理難題だとは知りませんでした。失礼をお詫びします。」

『おや?孫の話と違うようだが…。ふむ…。一つ聞かせておくれ。舞台を組んで何に使うのじゃ?』


あいつ、私の事なんか何も話していないじゃない…。

「私は部活でバンドをやっています。軽音部の部員です。今度野外ライブをやることになりまして、そのためのステージ用に舞台セットをお借りしたいと相談に来ました。」

『ほぉほぉ。なるほどの。』


私は最終兵器を取り出した。

「実は私がメインじゃなくて、内藤 翔輝のラストライブをやるのです」

『はっ?今…、何と…?』

「内藤 翔輝のラストライブをやるのです。」

『また随分懐かしい名前を…。それは本当か?』

「はい。私は孫の内藤 歩と言います。」


『なんと!?おぉぉ!!こーしちゃおれん!!!孫に代わってくれ!!!!!』

叫ぶように声が大きくなっていった。

私はキーンとしている耳を抑え部長さんにスマホを返す。

怒鳴られたことは分かったようで、叱られたのかと思ったのか、一人でニヤニヤしていた。


スマホを耳に当てた途端、

『ばっかもーーーーーーーーーん!!!』

と少し離れた私にまで聞こえるほどの大きな怒鳴り声が聞こえた。

部長さんは後ろを向いて小声でなにやら話していた。

少し経つと勝手に切られたのか、情けなくポカーンと口を開けていた。


「部長さん…?」

私の問いかけに我に返ったのか、彼は急いで考えをまとめているようだった。

「き…、君の祖父が大物だということは理解したたたよ…。」

呂律が回っていないよ…。


「ぜ…、全面的に…、全面的に協力しろと祖父にお願いされたから…、お願いされたから手伝うことにするよ、させてもらうよ。」

「さすが佐々木部長さん!心が広いですね!感謝します!」

「い、いやぁ~、このぐらい簡単なことさぁ~。」


徐々に冷静さを取り戻してきたのか、調子が以前のようになってきた。

「では、後ほど具体的な打合せをしに来ますね。宜しくお願いします!」

そう言った後、再び部屋の中央に戻り、今のことを皆に説明した。


佐々木部長の寛大な決断により、演劇部の皆さんが強力してくれることを。

「たまにはいいんじゃないの?」

「別の演出を見るのも参考になるかもな。」

「他の困っている部活にまで手を差し伸べるなんて、さすが部長!」

などと、割りと前向きな回答が帰ってきて助かった。


そこはノリノリの大学生的な考え方なのかもね。

深く礼をし演劇部の部室を後にした。

廊下に出てふと考えついた。


そうか、他の部活に頼るのもいいかもね。お祭りにしちゃおう!

でも、もう一つ何か後押ししたくなるような物が欲しいかな。

あっ、そうだ、これだ…。


私は早速電話をして確認してみることにした。

相手の方は私が誰なのか説明すると快く話しを聞いてくれた。

ライブをやる理由を説明し、ついでと言っては失礼だけども、折角なので協力したい旨を伝えた。

相手の方は渡りに船だったようで、お爺ちゃんがそれで良いなら構いません、是非お願いしますと言ってくれた。

後からお爺ちゃんから連絡させますと言って電話を切った。


よし!まだまだやることは沢山あるよ!

私の夏は、生まれて始めて活気付いたものとなっていった。

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