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第21話

 「こんばんわー。歩ですー。」

私は東京からの帰り、夜も遅くに小林病院を尋ねた。

インターホンで名前を告げると、直ぐに先生はやってきた。


「おやおや?どうしたんだい?」

「にししー。お爺ちゃんの宝物を東京から持ってきたの。」

「東京から!?それは難儀だったね。さぁ、入って。」

「ありがとうございます。」


病室に行くと、お爺ちゃんは起きていた。

「歩の声が聞こえたからな。」

そう言っていた。


「お爺ちゃん、調子はどう?」

「あぁ、もう大したことはない。明日大きな病院で一応検査はしておく。」

「あら?前向きね。」

「そりゃぁお前、俺の新曲、持ち帰ってきたのだろ?嫌でもテンション上がるだろ。」

「何もかもお見通しね。」

「直ぐ顔にでるからな。そんなところは美里そっくりだ。」


そう言ってレコードを受け取る。

そのの手は震えていた。

「これだよこれ…。」

大事そうに抱える。

「ありがとうな…。大変だったろうに…。」


「そんなことないよ!私の大切なお爺ちゃんとお婆ちゃんのためだもん。それに、命までは取られないしね。」

そう言って笑った。


「本当にありがとう…。俺が行ったら激情した反対派が叩き割っていたかも知れない…。ありがとう…。」

私がおちゃらけたのに、お爺ちゃんは至って真剣にお礼を言ってくれた。

なんだか照れくさかった。


翌日。

お爺ちゃんが帰ってきた。

さっそく部屋に隠りレコードを聞いているようだった。

私も気になったけど、そっとしておいた。


それより何より、私にはやることが山積みだよ。

まずはメンバーに事のてん末を説明する。

「俺も一緒に行くって言ったじゃないか…。」

「おいおい…。」

「何だか話しが大きくなっているのだけれど…。」

三者三様の答えだった。


「兎に角さ、翔輝さんのライブを成功させるって事だよな?」

「そうなるかな。」

カズちゃんの質問に応える。

「だとすると、会場はどうするんだ?」

「何の?」

「ライブ会場だよ!」

「……………。」


私に聞かれても…。

苦笑いをした。

カズちゃんと姫さんと部長さんは顔を見渡して、大きなため息をついた。

「待って待って。諦めちゃ駄目。Fight to the Last!だよ!」

「最後まで闘え、か…。だけどさ、翔輝さんをその辺の路上や集会場で歌わせるわけにはいかないよ?」

「分かっている。」


「だいたい何人規模のお客さんを呼ぶのさ?」

「わからないよ…。」

部室は重い空気に覆われていた。

やろうとしていることが無謀過ぎるのは承知しているつもりだった。

だけど、一つずつ冷静に考えていくと、どれもこれもが検討もつかなかった。

そんな時だった。


ガラガラッ…

部室の扉が開くと、お爺ちゃんがやってきた。

「おいおい、何をそんなに思い詰めているんだ?」

「だって、ライブ会場なんてどうやってセッティングすれば良いかわからないよ。」

「当たり前だろ。そんなもん。素人に分かってたまるか。」

そう言ってドッカと床に座る。


「ここの大学の体育館でもいいが、季節は夏だ。熱すぎて大変なことになる。そもそも、あの馬鹿でかい体育館を満員にするほどの人員を考慮した空調じゃないかもしれない。だから会場は野外だ。」


「体育館見てきたの?」

「見てきたぞ。下見は重要だろ。野外でやるならグラウンドがあるだろう。あそこでいい。バックネット沿いにステージを設置して裏方スペースも確保する。」

「そんなこと言っても…。」

「歩、まずは校長に許可を取ってこい。話はそれからだ。駄目なら町役場に行け。古臭い少年野球でしか使っていない野球場があっただろう。」

「わかった!」

私は直ぐに走りだす。


残された3人は、私の行動の速さに笑っているに違いない。

だけど善は急げって言うしね。

校長室の扉をノックする。


「どうぞ。」

夏休みなのに校長がいてくれた。

これはラッキーだ。

「失礼します。」

静かに扉を開ける。

校長はパソコンに向かって何かを見ている。

イヤホンもしていた。


そのイヤホンを取ると私を直視する。

「失礼、ニュースを見ていました。どうかしましたか?」

「先に、突然の申し入れをお断りしておきます。」

校長は静かに頷いた。


「来月8月29日にグラウンドを使っての野外ライブを行うことの許可をください。」

「ちょっと確認しますよ。」

そう言ってパソコンを操作し、学校のスケジュールを見ているようだ。

「おっと、残念ながら8月28日から29日にかけて納涼祭が予定されていますね。」

えー………。


「じ、時間は…?」

「二日間とも朝10時から夜17時までですね。」

「グラウンドは開いていますか?」

「サッカー場は櫓を組んで盆踊りをするようですが、野球場なら空いているようですよ。」


「ならば、納涼祭が終わった後でも良いです!ライブの準備もあるので、少し前から野球場側を貸してください!」

私は深く頭を下げた。

夜間ライブでもいい。

兎に角日付はずらせない。


「何やら事情があるようですね。話せる範囲で構いません。教えていただけませんか?」

「実は…。8月29日はお婆ちゃんの命日なのです。その日に、どうしてもお婆ちゃんにお礼とか私の気持ちを歌で伝えたくて…、それで…、その…。」

「なるほど。歌で気持ちを…、ですか。合唱関係の方でしたかな?」

「いえ、軽音部です。」


「ならば君達が歌うのならば許可しましょう。」

「えっ?私達以外の人が歌ってはいけませんか?」

「大学は学生が学ぶ場ですからね。友達でも誘っていましたか?」

「いえ…。むしろ私達はお手伝いで…。メインは他に居ます。」

「おや?祖母へ思いを伝えるライブでしたよね?」


「えーっと、その…。お爺ちゃんが歌うのです…。」

「祖父が…?ライブを…?」

「はい!お爺ちゃんが妻であるお婆ちゃんに思いを伝えるのがメインで、私も一緒にステージから伝えたいと思っています!」

「うーん。困りましたね。大学以外では場所は確保出来ませんか?」

それって駄目ってことだよね…。


「やっぱり駄目ですか…。」

「先程も言ったように、あなた達がメインで歌うなら許可しましょう。」

「どうしても?ですか?」


「校長として、それは許可出来ませんね。それに、あなたの祖父ともなれば60超えているような年齢でしょう。失礼ながらライブなど可能なのかな?計画そのものがおかしくありませんか?想いを歌で伝えるというコンセプトはとても素敵な発想だと思いますが、今一度考えてみてください。」


「お爺ちゃんは素人じゃありません!」

「そうでしたか。それならばレコード会社にでも相談してみてはどうでしょうか?企業側も利益が出るような企画じゃないといけませんね。」

「いえ…、その…。一度引退していまして…。」

「なるほど。事情は分かりました。だけども、やはり許可出来ません。」

ハァー…


思わずため息が出た。

「校長先生が仰る通り、町役場にでも相談してみます。その時は、先生も是非来てください。」

「はい。わかりました。コンセプトはとても良いと思っていますので、是非拝見させていただきます。」

「お忙しいところ、ありがとうございました。」

「いえいえ。」

私は帰ろうとした。


「ところで、祖父の名前を聞いても良いですか?言えないなら構いません。」

「内藤 翔輝です。では失礼しました。」

パタンッ


扉を閉める。

学校は学生の学び舎か…。そうだよね…。

ヨシ、じゃぁ町役場に行ってみようか!


バンッ!!!

突如、今出てきた扉が勢い良く開いた。

そこには肩で息をするほどダッシュしてきた校長の姿があった。

「ハァ…、ハァ…。先ほど…、内藤 翔輝と…、言いましたかな?ハァ…。」

「はい。私は孫の内藤 歩です。」


「許可します!いえ、是非、我が大学でやっていただきたい!何なら納涼祭はずらしましょう!!!」

「あ、いえ、そんな…。納涼祭を楽しみにしている人達もいると思います。だから、終わってからで良いです。」

「内藤…、翔輝が…。我が校でライブを…。」

校長は何やら興奮していた。


あっ、そうか。

年齢的にもお爺ちゃんと同じ世代だったね…。

先に名前言ってみれば良かった…。

「あ、今、部室にいますよ?」

「えっ?」

校長は目を見開いて驚いていた。


「ライブの打合せをしていたのです。」

「お………、お会い出来ますでしょうか………?」

「大丈夫だと思いますけど…?」

「是非…、ひと目だけでも…。」

「許可してくださったし、一緒に部室に行きましょう。」

そう言って二人で部室に戻ってくる。


お爺ちゃんと3人は何だか楽しそうに笑い転げていた。

「お爺ちゃん!人に働かせておいて何サボっているの?」

「あー、いやぁ、すまんな。そちらの人は?」

「校長先生です。先生は快くライブ会場を提供していただきました。」

アドリブで持ち上げておいた。

だけど、そんな事は関係なく校長は震えながら感動しているようだった。


「会いたかったです…。伝説のシンガー、内藤 翔輝に…。」

「今でもそう思ってくれるなら、俺も嬉しいよ。」

そう言って固く握手する。


「あの、ライブをやると聞きました。復活なさるのですか?」

「いや、俺の歌手人生にけじめを付ける。」

「けじめ?」


「色々と迷惑もかけたしなぁ。色んな人にね。だからこれがけじめで最後。」

「もっと…、もっと歌を聞きたかったです。」

「ありがとう。とても嬉しいよ。一応新曲もあるから、楽しみにしておいてくれ。」

「新曲!?これはえらいことになった…。さっそくファンクラブ会員に知らせないと…。」

その言葉にカズちゃんが反応した。


「も…、もしかして、この辺一帯のファンクラブの会長って…。」

「うむ、私のことである。」

意外なところに強力な助っ人が現れた。


私達はライブに向けて、また一歩前に進めた気がした。

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