第18話
プルルルルルルルルルル…
「歩!急いで!」
「やーーーーーんっ。」
新幹線に飛び乗った。
直後扉が閉まる。
プシューーーーーー……
「ふぅー。危なかった…。」
新幹線は静かに加速していく。
指定席を取っていたので、席番を確認し座った。
「お婆ちゃんがお弁当選ぶのに迷っているから遅れたんだよ…。」
「いやね、絶対これが美味しいって思ったの。」
「もう…。」
でも可笑しいね。
ハムスターと一緒に旅行なんて、誰も想像出来ないよね。
一応他の人にはバレないように気を使っている。
バレたら大変なことになっちゃう。
今もテーブルの上に帽子を置いてその中にお婆ちゃんは隠れているよ。
まずは腹ごしらえだね。
弁当を開けて食べることにする。
お婆ちゃんはハムスターということを考えてコーンなどの穀物系だけを食べていた。
つまり、私が食べる為の弁当で迷っていたのだ。
「そうだ。言い忘れていたわ。軽トラでもオートマ車あるわよ。」
「え?そうなの…?」
そんな日常会話をしながら二人の旅は順調にいった。
東京で新幹線を降り、在来線へ乗り継ぎ目的の駅に着いた。
今はスマホで乗り換え案内のアプリを使えば迷うこと無く移動出来るね。
本当に助かったよ。
「ピャーーー………。」
ビルの高さと多さに足がすくみそうになる。
騒音は絶え間なく続き途切れることはない。
それより何よりも、人、人、人。
どこを見ても人が沢山。
ちょっと気持ち悪くなってきた。
ダメダメ、気持ちで負けちゃ駄目。
スマホで今度は地図アプリを起動させる。
現在地は…。ふむふむ。
「日の出レコード」を行き先に打ち込んでルート検索。
地図上では移動ルートが直ぐに表示された。
「便利ねぇ。」
頭の上から小さな声が聞こえた。
予測移動時間を見ると、徒歩で10分ぐらいだ。
これなら余裕で歩いていけるね。
時折地図を見て確認しながら歩いていく。
日の出レコードは戦後歌謡曲が全盛を迎えると一気に成長した会社だ。
事前に調べた情報によると、「ある男」と書かれていた人物によって注目され収入も倍々で増えていくことになった。
そのある男とは時期的にみてお爺ちゃんのことだ。
更に噂レベルまで調べてみると、創設者である兵藤 晴海さんがお爺ちゃんにとても入れ込んでいて不倫騒動まであったみたい。
だけどそれらはお爺ちゃんを陥れる為のデマであったことが他の週刊誌により証明されたりと、何かと世間を騒がしていたみたい。
ただ、その兵藤 晴海って人物は人を見る目はあると、どこでも評判が良い。
名立たる歌手を無名から見つけては世に送り出している。
お婆ちゃんへの襲撃事件で引退が決定的になるのだけども、日の出レコードの2代目社長である、兵藤 晴海の息子の雄大さんが兎に角お爺ちゃんを嫌っていたみたい。
今でも会長である晴海さん、社長である雄大さんとで派閥が作られていて揉めているのは有名な話らしいね。
そんな会社だからこそ、お爺ちゃんの幻のレコードが、有るとも無いとも言えない状況かな。
「晴海社長には色々とお世話になったのですよ。」
と、お婆ちゃんは言っていた。
そんな時だった。
「Hey You!」
あからさまに怪しい外国人に話しかけられた。
無視…、無視…。
「スミマセン、ちょっとだけお話しお願いしマース!」
通りすぎようとした私の前に戻ってきて、慌てて嘆願してきた。
でも、困っている人なら…。
日本語が分かるみたいだし話しだけなら…。
「あの、何かお困りですか?」
「オー…。そう見えましたカ?」
「困っているなら手を差し伸べる。それがお婆ちゃんの教えだったのです。」
「OK。とても困っていマース。私はイギリスの写真家デース。日本の良さを伝えようとしているのですが、東京で生きる人達を作品に加えたくて…。だけど皆サン嫌がってしまいマース。なので、モデルになってもらえませんカ?」
きっと私はものすごく嫌そうな顔をしていると思う。
「いかがわしい写真じゃアーリマセン。そのまま、この場で1枚撮らせてもらえればOK!」
うーん。変な人だけど怪しい人じゃなさそう。
それに、瞳がとても純粋。
それを信じることにした。
「わかりました。この場でポーズ取ればいいのですか?」
「うーん、そこが悩んでいマース。」
やっぱり真剣に写真について考えている人なんだね。
迷っているのか、ファインダーを覗きながらも撮影する気配はなかった。
「ちょっとだけシチュエーションを考えさせてくだサーイ。えーと、その赤い帽子は自分でチョイスしたのでデスカ?」
「いえ、これはお婆ちゃんの形見なのです。今日は東京へ勝負しに田舎から来ました。なのでお婆ちゃんと一緒にきたのです。」
「オー!その勝負、勝てるといいですネ!ブッチャケ、不釣り合いなようでとても似合ってマース。デザインは古いのに不思議ですネー。」
「そうかな?そうだと嬉しい。」
ニーと笑った。
「一度帽子を取ってもらってもいいデスカ?」
「ダーメ!」
私は両の手を帽子の両端をギュッと持って、取られないような格好をしながら、笑いながら断った。
カシャッ
「!?」
シャッターを切った音?
「OK!とても良い写真が撮れました!是非見てくだサーイ。」
彼のカメラのデジタル画面を見ると、東京のビル群を背景に古い赤い帽子を被った私が帽子の両端を持って、笑顔でビル群の方へ向かおうとしているような構図だった。
「これでいいの?」
「とても良いデース!good!Very good!一瞬で私のお気に入りになりました!おっと、忘れるところでした。何か写真で困っていたら、ここへ連絡くだサーイ。」
そう言って名刺を渡してくれた。
受け取ると表が日本語、裏が英語の名刺だった。
「偉大なる写真家 アンソニー・ロジャー」という名前みたい。
自分で偉大とか言っちゃうんだ…。
「私は、内藤 歩と言います。」
「オー、AYUMI!」
リアクションがいちいち大きくて面白い。
「オー、アンソニー!」
私も真似してみた。
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
大ウケしたみたい…。
その方が何だか照れくさいね…。
「面白い人デース。後で写真データをあげますので、良かったらメールしてくだサーイ。」
「はい!こちらこそありがとうございました。」
深く礼をすると、アンソニーさんも右腕を胸の位置に持ってきて紳士らしく答えてくれた。
「See you again!」
手を振りながらByeByeする。
東京って、毎日がこんなんなの?
何だか決戦の前に拍子抜けしちゃった。
でも、ちょっと緊張もほぐれたかも。
「歩は誰とでも仲良くなっちゃうわね。昔からそう。」
「そうかなー?」
「そうよ。」
「でもさ、私が被写体じゃ、イギリスみたいなところでウケるわけがないよね。」
「でも、とっても良い感じの笑顔だったわよ。」
「お世辞でも嬉しいよ。」
「歩はもっと自分に自信を持ってもいいと思うの。」
「私は謙虚で慎ましい大和撫子を目指しているの。」
「ふふふ…。」
「ん?私おかしいこと言った?」
「随分と前向きで行動的で大胆な大和撫子だこと。」
あぁ、よく考えてみれば、電話一本で何時間もかけて東京に来ている私…。
「そんな事はいいの!さぁ、もう目の前だよ。」
日の出レコードのビルが見えてきた。
お…、大きい…。
何階建てなんだろ…。
ダメダメ、また圧倒されようとしている。
大きさなんか関係ない。
私はビルに会いに来たんじゃない、人に会いに来たんだから。
ガラス張りの入り口を潜り、目の前の受付カウンターに向かう。
ホールは広く天井は高い。
壁にはレコード会社っぽく所属歌手達の大きなポスターが貼ってあった。
受付嬢は今時の凄く美人な人。
わ…、私だって負けないんだから。
今頃になって服装とかちょっと気になった。
いやいや、私はファッション勝負に来たんじゃないよね。
「内藤 翔輝の孫の歩と言います。今日は会長の兵藤 晴海さんに会いに来ました。」
そう伝えると、表面上は笑顔だったけど、明らかに不機嫌そうに答えてきた。
「アポイントメントの無い場合の面会はお断りさせていただいていますので…。」
「もう一度言います。内藤 翔輝の孫が会いにきたと伝えてください。それで帰れと言われれば帰ります。」
私の気迫に押されたのか、受付嬢は秘書か誰かに内線で連絡を入れていた。
「あっ…、はい…、はい…。かしこまりました。」
そう言うと慌てて内線を切る。
「大変失礼しました。会長がお待ちです。エレベーターホール一番奥の11号エレベーターより最上階へ向かってください。」
取り敢えず話は通じるみたい。
「ありがとうございました。」
お礼を言ってエレベーターホールへ向かう。再び緊張が増してきた。
廊下にある11号エレベーター用の「▲」ボタンを押す。
なかなかエレベーターは来ない。
その間も鼓動を感じるほど緊張してきた。
私の言動一つでお爺ちゃんの新曲が駄目になる…。
あぁ、またネガティブに考えている私がいる。
駄目だよ!顔を上げて前を向け!
私は伝説のシンガー内藤 翔輝の孫だよ!
ポンッ…。
静かにエレベーターの到着を知らせる音が聞こえる。
扉が開き移動先のボタンを押そうとすると、なんとボタンは2個しかない。1階と最上階。
ここを行き来するためだけのエレベーターだった。
おかげで間違うことなくボタンを押すと扉が閉まる。
いよいよ決戦の時だ。
「大丈夫。私がついているから。」
お婆ちゃんの声に励まされて、物音一つしないエレベーターは長い時間をかけて最上階へと向かっていった。




