迎え入れるための部屋づくり
レオは執務机に並べられた書類に目を通しながら、淡い微笑を浮かべていた。
「……優しく迎え入れるために、完璧でなければ意味がない」
フローラを連れてくる日が、ついに明日。
そのために公爵家はここ数週間、静かな熱気に包まれていた。
まず――
日当たりが最も良い南向きの部屋を、フローラのために整えた。
柔らかな陽光が降り注ぎ、窓を開ければ風が花の香りを運んでくる。
部屋には、体を労わるための特別な寝具。
シーツは絹、クッションは軽く柔らかい羽毛。
香りも刺激の少ない優しいものだけを選んだ。
食事は、一日三食すべて専属料理人が担当。
季節の食材を使い、消化に優しく栄養のバランスが整った献立を。
午後にはアフタヌーンティーを用意し、王家御用達のスイーツが日替わりで出される。
ドレスはすべて肌に優しい絹で仕立てられ、
フローラの深緑の瞳に合う装飾品は宝飾師が徹夜で選び抜いた。
スリーサイズも、健康を取り戻した後の変化まで考慮し、あらゆるサイズを揃えている。
さらに――
「念のために、もう一部屋準備しておけ」
レオのその指示で、影と執事長は目を丸くした。
その部屋は、鉄格子が窓枠にきらめき。
扉は重厚で防音・防魔処理が施された“安全確保用の部屋”。
何があっても守れるよう設計された、完璧な護衛環境だった。
まぁ、いわゆる監禁部屋ともいうが…。
レオは窓辺に立ち、静かに息を吸い込んだ。
「……待ち遠しい」
その一言は、胸の奥から零れ落ちた本音だった。
執事長は感無量の面持ちで目頭を押さえる。
「やっと……坊っちゃまに奥様が……!」
一方、影はというと――
(ど、どっちだ!?
フローラ奥様は……どっちの部屋に通されるんだ!?
通常の“可愛がり仕様”の部屋か!?
それとも完全防御の“安全確保仕様”の部屋か!?
まさか両方使う……!?)
影の頭の中は、混乱の渦。
しかしレオは、迷いなく告げた。
「……もちろん、フローラ次第だ。
どちらの部屋でも、彼女が最も安心できる場所へ」
影(…奥様…気を付けて!!)
レオは姿絵をそっと手に取り、指先で縁をなぞる。
「必ず幸せにする。
あの日、涙を堪えていた彼女を……二度と孤独にさせない」
部屋のどこかで、決意の音が静かに響いた。
フローラが来るその瞬間に向けて――
公爵家は、完璧な“迎え入れ準備”を整えていた。




