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油断した

 羽田はた 古海こかいは焦っていた。


「ヤバイヤバイ……ッ!!」


 古海の視線は画面上を流れるように走っていく活字に釘付けで、手元では指が気持ち悪いくらいにひたすら動いている。


 部屋は薄暗い……ことはなく、しっかりと電気をつけて、しかもPC用メガネを着けており視力への配慮はぬかりない。


 時計の針はすでに朝方の3時を回っており、なんでこんな時間にパソコンと向かい合っているのかというと……


「締切今日だってこと完全にわすれてたぁあああぁぁああぁ!!」


 作家だからである。



 羽田 古海は作家である。


 そして現役の高校生1年生でもあり、灰色の高校生活にならないためにも、友達付き合いを大切にしているのだが、カラオケが楽しすぎて締切を忘れてしまったことは大きな失態である。


「くっそぉ……大体なんであいつあんなに上手いんだよ……ッ!!」


 カラオケは4人で行ったのだが、その中のひとりに馬鹿にされ、意地になってしまった。


 だが、それで自分の仕事のことを忘れてしまうとは……と悶えながらもひたすら指を動かした。


 それを生かす為に今回の作品とテーマはカラオケ、二人がひたすら点数を競い合うというものをとにかく面白く書く。


 テーマがはっきりしていて書くのはさほど難しくはないが、なんせ時間が時間だ。瞼が重くて仕方がない。


「もうコーヒーだけじゃごまかせなくなってきたな……」


 眉間を指でほぐしながら軽く伸びをする。


 時計に目をやると、先ほど3時だった短針がすでに4時の方に傾いている。


「忙しい時と楽しい時は時間が進むの早いよなっと」


 デスクを軽く蹴ってパソコンの前から移動すると冷蔵庫の前へと移動する。


 その中から缶コーヒーを5本程取り出し、顔を叩いて気合を入れ直し、再びパソコンの前へと戻った。



「な、なんとか終わった……」


 時計の短針は6時を回っており、今から学校へと向かわなければいけない。


 古海はショートしてしまいそうな脳をひたすら働かせ、ぐったりと体を持ち上げた。


「あー朝飯どうすっかな……」


 確か昨日帰りに買っておいたやきそばパンが冷蔵庫に入ってたはず、とデスクを蹴って冷蔵庫の前まで行きやきそばパンを手に取り口にくわえて学校へと向かう準備を始める。


 歯でも磨くかと水面所に行って鏡で自分の顔を見てみると、それはもう目の下にできたクマで


酷いことになっていた。


「こりゃひどいな……」


 クマのあとを指でなぞりながらため息をつく。


 そんなこんなしていると、いきなり携帯の着信音が鳴り響いた。


「ったく、なんだよ。こんな朝早くから……」


 現在の時刻がすでに7時を回りかけていることに気づいていない古海は一人愚痴りながら携帯の画面に目をやる。


 そこにはメールの着信が1通あった。


 件名:これは命令であって絶対

「ハロハロ~昨日結局99点取れなかった音痴くん

 早速だけどうちに来て飯つくって」

「…………」


 そのメールの内容をしばらく眺めたあと、そのアドレスを受信拒否して学校へと向かう準備を再開した。

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