「完璧すぎる悪役令嬢、その葛藤」
放課後の学園庭園は、夕陽に染まり、金色の光が芝生を照らしていた。
黒髪が腰まで届くレイナ・フォン・シュヴァルツは、手元の書類を整理しながらも、周囲の動きに目を光らせる。
その端正な青い瞳、真っ直ぐな姿勢、整った立ち居振る舞い――周囲の生徒たちは自然と一目置く。
しかし、彼女が「悪役令嬢」と呼ばれる所以は、美貌だけではない。
授業や放課後の所作は常に完璧
冷静で判断力に優れ、少し近寄りがたい威厳
言葉遣いや動作に無駄がなく、少し厳しさを感じさせる
完璧すぎるその姿勢は、周囲に尊敬と恐怖を抱かせる一方、自分自身に問いかける理由にもなる。
(…本当にこれでいいのかしら。私は、ただ完璧でいるだけで…心から楽しめているのか…?)
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庭園の奥を歩くミラ・フォン・リーヴァは、制服に自分で選んだ華やかなリボンを飾り、胸を張って歩く。
「今日はこれで完璧…殿下、気に入ってくださるかしら…!」
心の中でそう思うだけで、口には出さない。
レイナはその姿を見て、少し複雑な気持ちになる。
(自由に振る舞えるって、こういうことかしら…私も、少しは気楽に振る舞えたら…)
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そこへ、殿下エリオット・フォン・アルトハイムが庭園に現れる。
ミラは一歩踏み出して元気よく声をかける。
「殿下、今日のリボン、似合ってますでしょうか?」
殿下は微笑んで答える。
「うん、とても似合ってるよ」
ミラはにっこり笑い、少し跳ねるように喜ぶ。
「ありがとうございます!負けませんから!」
その元気な様子を見て、レイナは微笑むと同時に心の奥で小さくため息をつく。
(完璧でありながらも、自由で無邪気なミラ…私も、少しは心から楽しむことを学ばなきゃ…)
殿下も、二人の姿を微笑みながら見守る。
「レイナ、君の美しさは誰にも敵わないし、心も本当に素敵だ」
レイナは少し顔を赤らめながらも、胸の奥で安心する。
(完璧であることと、自由であること…両方を持てたらいいのに…でも、この完璧さが私の“悪役令嬢”としての存在理由でもあるのね)
こうして、完璧すぎる悪役令嬢と、自由奔放で元気な男爵令嬢、そして両思いの殿下による、甘くて笑える三角関係は今日も学園で続くのだった。




