表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高嶺の花と無自覚なライバル  作者: はるさんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/23

番外編① 「永遠の誓い」


 王都の朝は静かに明けた。

 城下の通りには花びらが舞い、鐘の音が遠くで鳴り響く。

 今日――王太子エリオット・フォン・アルトハイムと、レイナ・フォン・シュヴァルツの婚約発表の日である。


 学園時代から「完璧すぎる悪役令嬢」と噂されたレイナ。

 冷たく見えるその瞳の奥には、誰よりも真っ直ぐな誇りと優しさがあった。

 そして、そんな彼女のすべてを愛したのが、誰あろう王太子殿下・エリオットだった。


 城の大広間では、貴族たちが整列し、王と王妃が見守る中、二人が並び立っていた。

 白いドレスを纏うレイナは、堂々として美しい。だが、その手はほんの少しだけ震えていた。


「……緊張しているのかい?」

 隣に立つエリオットが、そっと小声で問いかける。

「少しだけ、ですわ。……あれほどの人々の前で、殿下と並ぶのですもの」

「ふふ、誰よりも美しいから、皆見惚れているだけだよ」

「……もう、そんなことをおっしゃらないでくださいませ」

 レイナが顔を赤らめると、エリオットはその手を優しく包み込んだ。


「本日をもって、我が王太子エリオットは、シュヴァルツ侯爵家令嬢レイナとの婚約を発表する」

 王の宣言が響く。

 大広間にざわめきが起こる――「悪役令嬢が王太子妃に?」「あの完璧な方が…」と。

 だが、レイナは背筋を伸ばし、静かに微笑んだ。


「皆さまのご支援に、心より感謝申し上げます」

 その一言に、空気が変わった。

 冷たく見える彼女が、誇りと優しさを併せ持つ人だと、誰もが悟ったのだ。


 婚約発表のあと、レイナは自室で深く息を吐いた。

「……殿下、本当にこれでよかったのでしょうか」

「もちろんだよ。僕が愛したのは、誰でもない君なんだから」

「わたくしなどが王太子妃に……」

「“など”なんて言葉、もう使わせない。君は僕にとって唯一だ」

 真っ直ぐな言葉に、レイナの頬がわずかに紅く染まる。

 彼の手が、そっと彼女の髪を撫でた。


 ──そして数ヶ月後、結婚式当日。


 王立教会の白い扉が開かれると、光の粒が舞い込んだ。

 純白のドレスを身に纏ったレイナが、ゆっくりと歩みを進める。

 胸には王家の紋章が刻まれたブローチ。エリオットが贈ったものだ。


 その姿に、会場が息を呑んだ。

 まるで物語の中から抜け出したような気高さ。

 だがエリオットの瞳は、ただ一人の女性しか映していない。


「レイナ」

「……はい、殿下」

「今日から君を、誰にも渡さない」

「わたくしも、殿下のお傍で生きてまいります」


 誓いの言葉が交わされ、神官の声が響く。

「では――誓いのキスを」


 レイナが少し戸惑ったように瞳を伏せたその瞬間、

 エリオットはそっと彼女の頬に触れ、柔らかく唇を重ねた。


 拍手と祝福の声が広がる。

 ミラとアーロンも、最前列で涙ぐんでいた。

「本当に素敵ですわ……ね、アーロン様」

「ああ。僕たちも、こんなふうに幸せになろう」


 レイナは照れたように笑い、エリオットを見上げる。

「殿下……皆の前で、あのような……」

「我慢できなかった。君が綺麗すぎて」

「……お言葉が甘すぎますわ」

「君の唇も、だよ」


 レイナは顔を真っ赤にして、思わず目を逸らした。

 けれど、彼女の表情は幸せそのものだった。


 その夜、披露宴の席で、王が静かに杯を掲げる。

「王太子とレイナ嬢に、永遠の幸福を」

 王妃も微笑み、会場に花びらが舞った。


 エリオットはその瞬間、レイナの耳元で囁いた。

「これからは“殿下”じゃなくて、名前で呼んでくれないかな?」

「……え?」

「夫婦なんだから」

 レイナは戸惑いながらも、小さく息を吐いて。

「……エリオット様」

「うん、それがいい」


 エリオットはその言葉を嬉しそうに噛み締め、そっとレイナの手を取った。

 二人の指が絡み合い、視線が重なる。


「愛しています、レイナ」

「わたくしも……心から、愛しております」


 夜空に花火が上がり、王都の人々が祝福の声を上げた。

 その光が二人を包み、誰もがその幸せを疑わなかった。


 ――完璧すぎる悪役令嬢と、優しすぎる王太子殿下。

 その恋の結末は、まるで童話のように美しく、永遠に語り継がれていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ