93話 VS飛竜 初めての連携
回想で場面がちょいちょい切り替わる話。
「いい!?ぜっっったい!落とさないでよ!?」
「わかってるよ、耳元で騒ぐな。キンキンくる。てか自分で言い出した事だろ?」
俺の背に負ぶられた朱音が念を押すように喚きたてる。
屋上飛び移って移動できるのに随分と小心者だ。
まぁ、今から俺たちが体感する浮遊感はそれとまた違うモノだろうが。
「・・・・あと、くっつくけど。背中、意識しないでよ」
よく言う。
唯火に比べればそこまで意識するようなものでもない。
「あ。大丈夫です」
「あんたマジで覚えてなさいよ・・・・」
「二人とも、そろそろ・・・」
「ああ」
上空を旋回し続けるワイバーン。
俺たちに脅威を感じてのこの距離だろうが、そのまま逃げ去るつもりも無いらしい。
依然として敵意をビリビリ感じる。
竜種の矜持みたいなものがあるんだろうか?
「いい?チャンスは一回よ?」
「わかってる。唯火も頼んだぞ」
「はい。そちらもお願いします」
再び気を引き締め三人は頷き合い。
「いくわよ。『超加速』!」
朱音の付与魔法発動と同時に作戦は開始する。
「――――っ!!」
「ひっ・・・!?」
最初の一足がアスファルトに沈み抉ると、景色は飛ぶように後ろへと流れていく。
自分の足が視覚も意識も置いて行く暴走に近いような感覚。
それを多数のスキルで補い舵を取る。
コンマ数秒でビルの壁面側まで駆けると。
「ひぃっ!?」
生身で経験したことのないだろうスピードに、背の朱音がちょいちょい悲鳴を上げているが、構わずそのスピードのまま低く跳躍し、地面からビルの壁面へと足を掛ける。
そこからは速度を殺すことなく垂直に壁面を上っていく。
走るというより壁の凹凸をとっかかりに超スピードの跳躍を繰り返し飛んでいる感じだ。
(さすがに・・・・持続的に動くのはきついな・・・!)
以前、朱音に同じものを付与されたときは、一度の跳躍と合わせ技を使っただけ。
その直後、術者の朱音が一瞬意識を失ったことにより効果はすぐ解けたんだろうが。
「はぁっ・・・くっ!」
「も、う・・・少しよ!気張んなさい!男でしょっ!」
不器用な朱音の鼓舞を受けながら、俺たちが上るひときわ高いビルよりも高い位置を旋回するワイバーンへと距離を縮めていき。
「こっちに気付いた!」
「ああ!ッここからが勝負だ!」
「ギャオォォオ!」
(射程に入った!)
ビル壁面の道に終わりが見えてきた瞬間。
俺は剣を抜き、旋回を停止しこちらを窺うワイバーンへ全力の『投擲』を放つ。
そんな瞬きも許されない場面で、地上で打ち合わせた作戦の概要を脳内で反芻していた。
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『いい?あいつのスキルの弱点は、何かを風で捕らえた時、他が一切無防備になるの。さっきあんたが捕まった時あたしの銃撃が当たったのがその証拠』
『・・・なるほど。確かに当たってたな。一点、あるいはある範囲にスキルを集中しているとほかの部分の防御が緩くなる、か。じゃあ、何かを囮にして無防備になったところに急接近し一気に叩くってことか?』
『話が早いじゃない。そ。単純でしょ?『超加速』を付与されたあんたがあたしを背負ってワイバーンの近くまで行く』
『それって、朱音ちゃんが囮になるってこと?危ないんじゃ・・・・』
『確かに危険すぎる。一気に接近できるなら唯火と飛んで『操玉』の射程まで送り込んだ方が良いんじゃないか?』
はぁ。と、朱音は呆れたようにため息をつき。
『やっぱこういう作戦行動は素人ね。あのね、あいつにとっての最警戒は遠距離から自分にダメージを与えられる唯火よ?おまけにあんたに尻尾斬られてさらに慎重になっているはず。こんだけ距離を取っている時点でそういう知能があるのは間違いないわ。唯火を正面から接近させたらもっと空高くまで逃げられるかもしれない。そうなれば、いくらあんたに付与しても届かなくなるでしょうね』
『なる、ほど』
まったくもっての正論で、見事な戦略分析だった。
朱音は、俺と唯火を冷静と言っていたが、彼女の方が戦況を良く見ていた。
『モンスターの知能を甘く見ると足元掬われるわよ。で、あたしとあんたである程度接近したらあんたの出番。『投擲』のスキル持ってるでしょ?』
『・・・・ああ』
響さんとの決闘の時一度見せただけだったが・・・・鋭いな。
『あんたの戦闘はまだ近距離攻撃しか見せていない、きっと油断がある。射程範囲内に入ったら即『投擲』。一度自分の体をたやすく切り裂いた剣がいきなり飛んでくる。となると、そこにある程度意識を集中させられるわ』
『朱音の役割は?』
『あたしは【付与魔術師】よ?決まってんじゃない――――』
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空を切っ先で切り裂きワイバーンへと真っ直ぐ向かっていく『竜殺し』の剣。
ヤツの意識は自らを貫かんとする剣へと向かい始め、そこに風は集束。
進む剣がわずかに風に揺られ始めた時。
その速度よりも、速く。
ヤツに気付かれることなく、ビルの屋上の宙に、放り出されたような体勢で浮遊する少女の影。
「こっちも射程圏内!ダメ押しの!『盲目』!!」
それは対処の視力を一時的に奪うスキル。
自分の体を傷つけるに足る刃が眼前に迫っている瞬間、視覚を失った。
最早ヤツの意識は完全に剣へと集中し。
「ギャアァアゥ!」
見えない眼前の剣を弾き飛ばすことに『風編み』の防御範囲を全て注いだ。
つまり――――
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『剣を囮に、さらに目を潰す、か・・・・』
『ええ。実力差があるからほんの短い時間しか状態異常は聞かないけど、十分。後ろはガラ空きよ』
『でも、その後はどうするんですか?囮に使ったナナシさんの剣は、ワイバーンに弾かれちゃうんじゃ・・・』
腕を組み、数秒考えると。
『そこは、ほら。あんた、なんかあんでしょ』
『いや、さすがに素手じゃどうにもできないぞ・・・・』
虚を突いた先はノープランだったようだ。
『ど、どうにかしなさいよ!その左腕でひっぱたくとか!』
『左腕・・・・』
魔鉄のガントレットを突っつきながら無茶苦茶な事を言う朱音に。
『・・・・ああ。それは名案だな』
『へ?』
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最大の跳躍と共に朱音を屋上へと放り投げた俺は、遂に飛竜・ワイバーンの頭上を取った。
眼下の奴は俺が放った剣、そして朱音の付与で、完全に背後ががら空きだ。
(朱音の策がうまくいったな)
ここからは、俺たちの仕事だ。
跳躍による上昇は緩やかに収まり、反転、直下へと落下していく。
当然進路には、視覚を閉ざされ『風編み』の防御を失くしたワイバーンの背中。
「お前の同類の炎と!その風!まとめて返すぞ!」
光を纏う魔鉄の左腕。
サラマンダーの炎の属性と、密かに『充魔』されていたワイバーンの風の属性。
二つの属性が折り重なった魔力の奔流が漏れ出し――――
「『放魔』!!」
「ギャアッ!?」
無防備な背中に渾身の拳打が衝突する瞬間、ガントレットから魔力が解放され。
ヴェムナスに放ったものとはまた違ったタイプのモノが放たれる。
炎が放つ熱風と、それを押し出す突風。
二色の竜巻の様な力を大きな背中と帆のように広げた翼でまともに受け、放出の勢いでワイバーンの巨体をも運び。
轟音を響かせながら、背の低いビルの屋上へと叩き落とした。
「ギャ・・・グゥ・・・」
が、その一撃をもってしても竜にとっては大したダメージにならず。
『竜鱗の加護』の効果により威力を大幅に軽減されてしまったのだ。
苦し気なうめき声は、効かないながらも衝撃に体が硬直し、数秒身動きができず力を行使することがかなわない未来を憂いてのモノだった。
手札を出し切り虚を突いた攻撃は、飛竜を倒すには至らない。
だが、それでよかった。
「・・・・射程内、です」
そこに運ぶことが目的だったのだから。
「――――これで、終わりです」
飛竜は戦慄した。
人間たちの、一手の積み重ねにより導き出されたこの状況に。
砂塵の先に佇む小さき者の、魔力を帯び、薄く輝く双眸に。
「『暴風乱射』」
矮小であるはずの種族が持つ底知れない力に畏怖を抱きながら。
美しくも無慈悲な数多の宝玉の閃光により、射貫かれ引き裂かれ。
空に轟く飛竜の断末魔が、
戦いの終わりを告げた。
唯火は黒星が目立つ系ヒロインなので、たまにはと、おいしいところを持っていってもらいました。
91話の朱音のステータスにMPを付け忘れてたので追記しました。
MPの表記を残量/総量に変更しました。




