87話 乗るか反るか
「竜種・・・・こんなものなのか?」
《経験値を取得。ワルイガ=ナナシのレベルが69⇒73に上昇しました》
《特定討伐ボーナス。『竜種』の単騎での討伐を確認。スキル熟練度1.5倍》
《平面走行LV.10(MAX)余剰分はランクアップ後に持ち越されます》
《洞観視LV.3⇒LV.4》
《精神耐性・大LV.3⇒LV.4》
《該当モンスターの討伐を確認。『ショートソードC+(無名)』の武器熟練度が上昇しました》
おなじみの天の声を聴きつつ
首を切り落とされ生命活動を停止したサラマンダーの亡骸を見下ろしながら出た感想は、呆気なさだった。
それは別に慢心や驕りからくる発言じゃない。
それなりに死線を超えてきて、敵の力量はぼんやりと感じ取る勘はあるつもりだ。
その勘が、サラマンダーとの短い攻防の中で、
『この種は今まで戦ってきたモンスターよりも強い』
と告げていた。
(その証拠に俺よりレベルが低いにもかかわらず、この豊富な経験値)
流石に、ダンジョン内の『王』には及ぶべくもないが、少なくともこんなに呆気なく一刀のもと鱗と肉を断ち切られるような『格』じゃないと思っていた。
想定と現実の差に納得がいかない、といった感じだ。
「いくらこっちの攻撃力がこいつの防御力を上回っていたからと言って、いくらなんだってこんな・・・」
まして、技を出したわけでもない。
《瞬動必斬》は初動で走行スキルによる加速が必要だから、宙に浮いている状態からは発動が出来ない。
(それにたとえ使えてたとしたって、ここまでの致命傷になったかどうか・・・・)
現に倒せてしまったのは事実なのだが、どうしようもない違和感があった。
「攻防のパラメーター差は、『竜鱗の加護』で相殺か上回られていると思ったんだが・・・・あ」
そこでふと思い出す。
サラマンダーの、竜種の限定スキル。
『目利き』で見破った『竜鱗の加護』の効果の内容を思い出す。
見覚えのない不確定要素。
「もしかして・・・・」
かつて、親子ほども歳の離れた友が。
その命を代償に授けてくれた剣に目を移す。
分厚い鱗を切り裂き、刀身以上の肉塊を両断してなお。
日の光を反射し、空の景色さえも映す美しい刀身。
そして先程の天の声が竜種を斬った直後に告げた、今まで聞いたことのない『武器熟練度』とやらの上昇。
『該当モンスター』というメッセージ。
「池さん・・・・」
ほんの数週間前の事だが、もはや懐かしく感じる友の名をつぶやき、俺は連れ添った剣に初めて――――
「―――ん?なんだ・・・?」
ふと、何かに見られてるような気配を感じ、剣へと向けていた意識は霧散する。
(『索敵』には反応なし・・・・範囲外から見られてる?)
漠然と、振り向き視線を上へ挙げると建物群の一つ、その頂上に何かが光を反射するのが見えた気がした。
一瞬、警戒の色を強めると、またも集中する意識を削ぐように次はタイヤがアスファルトを切り付ける音が耳に届く。
「・・・・ユニオンの人たちか」
勿論ここは、ギルド『結社ユニオン』のナワバリ内。
モンスターの出現を聞きつけて現場に急行してきたんだろう。
まぁ、たまたま通りがかった俺がカタを付けてしまったわけだが。
「今はこっちか」
剣の事も、視線の事もとりあえず置き、ギルドの彼らを優先することにした。
二台の軽自動車が猛スピードからの急ブレーキで俺とサラマンダーの亡骸の間に停車すると。
「随分派手に暴れまわっているようだね・・・・これは、ドラ、ゴン!?死んでる?」
「聖也」
見知った顔が、仲間を連れて車両から降りてくる。
良かった。
まだ、ギルドの連中に認められてない今、話の分かる彼がこの場に来てくれたのは助かる。
「ナナシ!このモンスターは君が倒したのかい?」
「ああ」
短く答えると、連れだったギルドの仲間たちに驚きとざわめきが連鎖する。
「この巨体をたった一人で?」
「首を両断しやがったのか!?」
「そこらじゅう滅茶苦茶じゃねぇか・・・・一体どんな」
「こんな化け物、次席でも一人でどうにかなる相手じゃ・・・・」
その中でもほかの者より俺を知る聖也は一歩出て。
「いや、今更君なら驚きはしないが・・・・他に湧いてきたモンスターは?」
「そのサラマンダー一体だけだ」
「サラマンダー・・・・このモンスターに詳しいのかい?」
そう言えば唯火以外には、俺が【鑑定士】持ちだって言っていないんだったな。
(響さん達は信用できるだろうが・・・・さっきの妙な視線もある。やっぱりむやみやたらに手の内を明かさない方が得策か)
レアな力は厄介事を呼び込む。
利用しようとした魔物使いや、ハーフエルフである唯火の事例からも分かる通りだ。
「いや。駆け付けた時に周りにいた人たちが言ってたんだ。そいつは竜種:サラマンダーだって」
「なるほどね・・・・一般人の被害は?」
一般人・・・・人類すべてが何かしらの『職業』に目覚めた今、そんな特殊能力を持つ人たちがそう呼ぶに相応しいか判断しかねるところだが。
街で日常の営みを守る彼らをこの場であえて『回帰勢』と呼ばないのは、彼らは敵ではなく自分たちのライフラインを確保するのに、有益な存在だからか。
「恐らく死傷者はいないはずだ。たまたま近くを通ってたから、サラマンダーが出現して数秒で駆け付けることができたからな」
民衆の混乱で軽いけがをしたくらいならあるかもしれないが、駆け付けた時ブレスを使ったような痕跡も、人間の血も死体も見当たらなかったから、被害は最小限で済んだはずだ。
「そうか。随分と激しい戦いだったみたいだね」
俺の言葉にホッと胸をなでおろすと、聖也はなぎ倒された電柱や車両。
ブレスによって抉られたアスファルトを見てそう感想を漏らす。
「ああ、そうだな。それなりに手ごわい相手だったよ」
それは間違いない。
巨体とその体の強靭さを生かした攻撃。
二種の炎を使い分け、知能も想像以上に高かった。
けどその幕引きはやはり、あまりにも呆気ないものだった。
「竜種・・・・これが、今回湧いてくるモンスター、ということか・・・・一体だけだったのが唯一の救いだね」
「―――ああ」
そう、そこがまさに問題。
これからしばらくこの種族と戦い続けなければならない。
今回みたいに一体ずつのみの出現なのか、そうでないのか。
いずれにせよ、俺が廃棄区画のゴブリン湧きの時にやってた、スキルが発動しない程度に手加減しつつ戦うなんてことは、今回の竜種相手には自殺行為だ。
(そもそもあの時は『近距離剣術』のスキルを持っていない状態だったしな)
それでも最初の頃ゴブリンが増えていったのは、『走行』系統の走力の勢いを利用したり『洞察眼』での先読みなど、補助的スキルでの討伐も明確な攻撃の意思があれば攻撃系のものと同じく扱われるんだろう。
(あの時は、俺のステータスと池さんの剣の性能がゴブリンを圧倒していたからできたけど・・・・)
いや、今回ももしかするとこの剣は想像以上の性能を発揮するかもしれない。
だがスキルも無しにそう易々と懐に入れるほどドラゴンは甘くはなかった。
そしてそれはユニオンの彼らにも言えることだった。
今も装備しているようだが、俺たちをホテルへ迎えに来た時のような銃火器。
あれはスキルを介さず対象を制圧し、俺がゴブリン相手に取った作戦と同じ効果が得られるものだろう。
つまり、銃弾が効く程度の相手にしか通用しないという事。
竜種の鱗や皮膚に通用するとは到底思えない。
(となると。強さを増し続ける、あるいは数も増えていくこいつらを倒し続けて、それらを統率するさらに強力な上位種のドラゴンを倒さないといけないってことか)
「・・・・ナナシ。はっきりと答えてくれて構わない」
沈黙し一人長考する俺の様子に、不吉な何かを感じ取ったのか。
聖也は深刻な顔で言葉を投げかけてくる。
「僕たちも未知のモンスター。竜種を単騎で倒した君の眼から見て、僕たちの力で対処可能かい?」
「・・・・」
僕たち。
というのは、俺を含めないユニオンのメンバー達の事か。
それを今この場にいる者達だけで聞くという事は、ユニオンの中でも精鋭なのだろう。
「――――多分、無理だ」
「・・・・そう、か」
「「「・・・・」」」
言われた通りはっきりと告げる。
聖也はともかく、連れの仲間たちはアジトのビルに突っ込んだ件と響さんの事で、俺に反感を抱いている分食って掛かるかとも思っていたがどこか重く受け止めている様子だった。
そんな沈んだ空気と、彼らの心中をフォローするようにいう。
「真正面からぶつかれば。の話だ」
「え?」
「竜種にも弱点はある。苦手な属性をぶつければダメージは通るだろうし、あとコレは勘だがこいつらは群れを成さないと思う。あともう少し頭数を揃えて弱みに付け込めばきっと充分渡り合える」
「ナナシ・・・・」
弱点属性があるというのは本当だ。
『目利き』で見破ったステータスには表示されていなかったが、『竜鱗の加護』の文言にはそんな旨も記されていた。
だけど、後半は殆ど希望的観測。
だって、勝ち筋が薄いと分かっていても彼らは戦うしかない。
そんな人間に向かって、ただ絶望を突きつけるより、縋る希望を示した方が生存率も上がる気がするのだ。
それに、驕るわけではないが俺がいる。
そして唯火もいる。
彼女もまた、竜に届きうる力の持ち主だ。
「俺たちが力を合わせれば、戦える。ナワバリを、街を守れるはずだ」
少しクサイとは思ったが俺は鞘に納めた剣の切っ先を彼らに向ける。
「あんたらでも、俺一人でも無理なことだ。頼む手伝わせてくれ」
今後、良い関係を築けるかどうか。
乗るか反るか。
今だ喧騒の鎮まった街中で俺は。
銃を捨て、この突き出した剣に刃を合わせるか。
彼らに問いかけた。




