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77話 再訪

廃棄区画から出て都市部から郊外へタクシーで通った道を、その時とはまた違う心境で車に揺られながら遡る。


勿論ハルミちゃんはきちんとチャイルドシートに着席させた。

今も唯火の肩を借りて眠り続けている。


しかし、フユミちゃんの時はあどけない表情は鳴りを潜め、口調も相まって大人びて見えないことも無いが、こんな小さな子を組織の主宰に置くなんて一体どういうことなのか。




(その理由もギルドできっちり聞いておかないとな)




相当複雑な事情があるのだろうから今この場では聞かない。




「それにしても、あれだな」




代わりに世間話程度の軽い疑問を投げかける。




「ギルドってのは、半年前。世界が変わってから結成されたんだろ?たったの半年・・・いや、実質もっと短い期間だろうけど、その短期間で人材も組織の統率も、なんというか・・・よくまとまってるよな」




部下に運転を預け、助手席に座った聖也とミラー越しに目が合う。

ホテルのロビーでの統率された動き、一朝一夕で身に付くようなものではないだろう。




「まぁ、ね。けど大掛かりに人集めをしたわけじゃないんだ、成り行きでギルドという組織が結成された節はあるね」


「そう、なのか?」


「ギルドに席を置く者、加入したいと願う者は、皆同様にこの一歩間違えれば死と隣り合わせの世界で、自分がどう生きて行けばいいか分からず、役割を求めて身を寄せ合っている・・・職を失った者も大勢いるからね」


「この世界で、どう生きて・・・か」




気持ちはわからないでもない。

名を無くし、一変したこの世界で新しい名前を授かり、産声を上げたばかりの俺も何を成したいのか、どう生きていくのか。


唯火が俺は生まれ変わったんだと気づかせてくれてから。


不安はない。

迷いもない。

だが道しるべも無い。


生まれ変わったと。

眠りにつく前の自分を前世の者だと。

ある種開き直った俺にとっては苦ではない、道なき道を行く人生。


けど確かに、俺が眠っている間変わりゆく世界を見つめ続けた人たちにとっては、身を寄せ合わなければ生きにくい世の中なのかもしれない。




「だから、時折恐ろしく感じるよ」


「? 何がだ?」




聖也は車窓に顔を向け遠くの街並みを見つめる。




「この世界で尚、以前と変わらない生活を守り続ける人たちが・・・強さだけでは説明できない、変わらない事へ対するある種の妄執」


「・・・?」




隣の唯火を見ると、困惑とまではいかないものの、不思議そうに首をかしげていた。

俺にも彼が何を言っているのかわからなかった。


だが、その言葉の意味は分からなくても、向けられた相手はわかる。


通勤の雑踏に紛れ窶す、今の俺たちには最早遠く感じる、かつての日常へと向かう人々。


彼は、いや。

彼らは、あの背中に俺たちとは違う何かを見ているのだろうか。




「―――なぁ」


「おっと。着いたようだ」




聖也が目的地への到着を告げる。

なにを問いかけようとしたか、忘れてしまうほど輪郭のぼんやりとした思考は聖也がドアを開ける音でかき消え。




「・・・ビル?」




外に出た聖也が手招きをしているので、俺と唯火も外へ出ると。




「おいおい、ここって・・・」




「ようこそ。ここが僕たちのギルド―――――」

「結社『ユニオン』よ」




と、聞き覚えのある女性の声が割り込んでくる。




「――――アカネ。僕のセリフを取らないでくれ。」


「っさいわね。男のくせに細かいこと気にしない。観光名所かっての」


「ていうか何故いるんだ?出迎えというガラでもないだろ」


「次席に言われたのよ、『お前がまいた種だからお前が案内しろ』って」




苦言を申し立てる聖也から拗ねたように顔を背け、改めてという風に俺と視線がぶつかると。




「うっ・・・よ、ようこそ。よく、来たわね」


「ほー・・・お前がそんな殊勝な態度、珍しいじゃないか」


「黙ってて」




彼女を知る者にとってどうやらこれで殊勝なレベルらしい。


存分に警戒されているな。

まぁ、自分を殺した相手と対面するというのは俺には経験が無いが。

かなり常軌を逸したシチュエーションだからな、無理もない。


今更ながら、罪悪感が無いでもないが、俺にとっては過ぎた事。




「迎え、助かったよ」


「い、いいわよ。マスターの指示だったんだし」


「・・・ていうか。ここだったんだな。ギルドのアジト」 


「アジトって、なんかゴロツキみたいに言うわね・・・ま、そうよ。あんたが突っ込んだビル。それが本部」




まさか、あそこだったとは・・・窓をたたき割って突っ込んだ後がっつり人の注目集めてたし、部屋の中めちゃくちゃにした上に立て掛けてあった剣も借りて、しかもそれアカネを切り捨てた屋上に置いてきちゃったよ。


・・・中に入って早々、もろもろの弁償を求められたらどうしよう。




「ていうか、目と鼻の先だったんならその場で連れて行ってくれればよかったのに」




わざわざ走って戻って、迎えの車でまた来るって。




「し、仕方ないじゃない、マスターがそう言ったんだから!『姉者』が心配しているとかどうとか!」


「まぁな」


「あ、あの~・・・ナナシさん」




そのマスターを抱える『姉者』、もとい唯火がおずおずと割って入る。

そうだよな、こいつのこと知らないはずだもんな。




「ああ悪い。こいつは、ホテルで俺たちを襲ってきた――――」

「ちょ、そうだけど、もういいじゃないの!」


「事実だからな」


「あたしだって痛かったんだからね!?血だっていっぱい出たし!」

「・・・へ?」


「もとはと言えば吹っ掛けてきたのはそっちだろ」

「あの、何の話・・・」


「どうせ誰彼構わずあんなことしてるんでしょ!」

「!」


「いや、俺もお前が初めてなんだがな」

「!!?」


「いやいやいや、あんな手慣れた動きと躊躇の無さは常習犯でしょ!」

「・・・・・」


「もう、いいから。唯火・・・俺の連れに自己紹介でもしたらどうだ?」




さっきから置いてけぼりな様子で呆けてしまっている。

というか、できれば俺が朱音を斬り捨てたというのは彼女には内緒にしておきたい。




「ふんっ・・・すればいいんでしょ、自己紹――――――」


「篝 唯火ともうします」




朱音が発する前に唯火は前へ出て自己紹介を済ませ。

手を差し出し握手を求める。




「・・・どうも。あたしは(くれ) 朱音(あかね)。その男が言う通り、あんたたちを襲ったのはあたし・・・悪かったと思って――――ひっ!?」


「よろしくお願いします。朱音さん」


「・・・いくらハルミちゃんを攫ったからって、そこまで敵意をむき出しにしなくても」




『魔添・威圧』を発動した唯火を前に縮み上がる朱音。

この掛かり具合から見るに朱音の方がレベルが低いのだろう。




「ここ、こ、こちらこそよろしく、か、篝さん・・・!」




おお。

あの圧迫感の中、ちゃんと返しができるなんて結構な胆力だな。




「唯火でいいですよ」


「は、はひ!ゆいか、さん・・・!」


(いや、いっぱいいっぱいって感じか)




握手を解き、唯火も気が済んだのか威圧を引っ込める。


朱音はというと息を乱しながら助け舟を求めるようにこちらに視線を飛ばしてき。




「まぁ、その分痛い目みて泣いてたし、許してやってくれ」


「あと、同年代の同性の友達いなくてシャイなんだよ」




そんな、俺と聖也のフォローに。




「『超加速(バーニア)』」


「ん?」


「あ、ちょ!?」




朱音と戦った時のように、肌をひりつかせるような負荷が体を包む。

これはあれか、俺をすっ飛ばした状態異常か。




「あ・ん・た・た・ち。黙っててもらえる?」


「お、おい。僕、ここから動けな―――」


「も、もう、自己紹介は十分でしょ。次席と顔を合わせてもらう・・・唯、火さん、マスターと一緒についてきて」




そう言いながら俺たちに背を向けビルへと歩み始める朱音。

まだ俺が朱音に名乗っていないが・・・




「ま。とりあえず行くか」


「くっ・・・!だから、なんであんたは動けるのよ!」


「お前がついて来いって言ったんだろ・・・別に動きを止めるスキルじゃないんだろ?」




これまたさらに戸惑う朱音。




「そうだけど・・・!もうほんとこいつなんなの!?」


「え、これ僕効果切れまでここにいるのかい!?」




肩をいからせずんずん進んで行く朱音。




「ナナシさん」


「ん?どうした?」


「朱音さんとなにがあったんですか?」


「あー、それな・・・・今度落ち着いた時に話すよ」

「今度っていつですか?」




何だろう、一見穏やかな表情なのにこの有無を言わさない雰囲気は。




「このヤマが片付いたら・・・」

「私、今知りたいです」


「・・・」


「・・・」











朱音の背中を追いながら、きわめて手短に白状した。




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― 新着の感想 ―
「この世界で尚、以前と変わらない生活を守り続ける人たちが・・・強さだけでは説明できない、変わらない事へ対するある種の妄執」 コレ、社会人でよく見るやつ
[一言] 体を壊さず、更新してください。 毎日、色んな方の更新を読んでる中でサクサク読めて毎日更新してくれる作者様が少ないので期待してます。 とにかく中途半端で放置や未完結の話が多く。 ここまで読んで…
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