75話 ギルドの存在
「ギルド。ですか・・・・」
部屋に戻り眠っているハルミちゃんを唯火に任せ、朝食にと俺が買ってきたコンビニ飯を囲みながら事の顛末を説明する。
ちなみにハルミちゃんの分も用意したが、一向に起きる気配は無くいまだ眠ったままだ。
光の精霊キラリの姿がずっと見えないのも、術者の彼女が眠っているからだろう。
そして事情を聞き終えた唯火はというと。
「・・・・・」
こめかみを抑えどうにも理解が追い付いていないらしい。
「・・・まぁ頭の整理が追い付かないのも仕方ない。俺も分からないことだらけだし」
「ですね・・・ハルミちゃんと、フユミ、ちゃん。ギルド・・・マスター」
「唯火はギルドの存在は?」
眠っていた俺よりもこの世界に明るいはずだが。
「いえ。実は私も、世界が変わってから二月足らずで研究所に囲われてしまったので・・・そこで得た情報しか知らなくて」
「そうだったのか」
聞きそびれた彼女の家族に関しても気になる所だが、混乱している今聞いてもな。
「一体どういう組織?なんですかね、ギルドというものは」
「俺とアカネの戦いで、今回湧いてくるモンスター。そういうやつらを討伐するのも仕事の一環って言ってたな。多分イメージ通り荒事を生業としているんだろう」
というか、実際どうするんだろう。
湧いたモンスターを討伐といっても、スキルを使って倒せばどんどん数を増し、たとえ倒し続けてもゴレイドみたいなネームドが出現する。
俺はスキルが発動するギリギリまで手加減しながら徐々に減らしていったが、それでも結局ネームドモンスターが出現した。
それはつまり、あの都市部にダンジョンの入り口が出来上がってしまうってことだ。
鍵となるモンスターの魔石ひとつで、いつ活動を初めてもおかしくない危険物を抱えるってことだ。
唯一モンスター湧きが自然消滅する手段は、何もせずにいること。
湧いてきたモンスターは屋内に入らないという特性を突いて、一般人を籠城させるのか?
あんな人口密集地帯で?
不可能だろう。
必ず外を出歩くものが出てくるはずだ。
そしてモンスターの餌食となり、さらに数を増す。
あいつらだってスキルを使って戦うんだ。
(取る選択肢は、ダンジョンが発生後、鍵となる魔石を近づけないように労力を割き管理するか。危険を承知でダンジョンを解放し制圧するまで戦い続けるか。何もせずにただ耐え忍ぶか)
最悪、公園周辺同様、あの都市部が廃棄区画として捨てられるのか?
ホテル前での駅へと向かう人たちを思い出す。
さっきまでいた都市部に通勤する人がほとんどだろう。
(・・・俺、もしかしなくてもとんでもないことやらかしたかも)
「じゃあ、強そうな人たちがたくさん集まっているという事ですね・・・」
「あ、ああ・・・そうだな。けどそのギルドに行けば全部わかるはずだ。言った通りここに迎えが来る、唯火は――――」
「行きます」
「だよな」
唯火の予想通りの反応と、自分が招いた事態に苦笑しつつおにぎりの包装を破り頬張ると。
「それにしても、起きないですね。ハルミちゃん」
寝息を立てるハルミちゃんの髪を優しくなで不安そうな顔をする唯火。
まるで本当の姉のようだ。
「ああ・・・・アカネが言うには、フユミちゃんの時に力を使うと三日ほど眠りにつくらしい」
多重人格者だとして、アカネを復活させた魔法を使用したのがフユミちゃんだったとしても。
肉体を共有している以上ハルミちゃんも同様に、眠りについている。
という事なのだろう。
「正直、完全にアカネが言っていたことを信用するわけじゃない。嘘を言っていた様子はないけど、隠していることだってあるはずだ」
「ナナシさんが言うなら、そうなのかもしれませんね」
「けど、せっかくのハルミちゃんの身元の手がかりだ。情報収集も兼ねて飛び込もうと思う」
「はい」
そして、状況次第ではギルドのモンスター討伐に手を貸そう。
モンスター湧きの原因が自分にあるとあっては、指くわえてみているわけにもいかない。
もっとも、彼らがその申し出を友好的に捕えてくれるとも限らないが。
なにせ――――――
「・・・来たか」
「ナナシさん?」
索敵に反応有り。
外からこの部屋に複数の敵意を飛ばしてきている気配を感じる。
「随分と手回しが早いな」
アカネと別れてからまだ二時間位しか経ってないぞ?
通信機器も死んでるのにどうやって伝達したんだ。
「もしかして・・・」
「ああ。迎えが来たみたいだ。どうも友好的な気配じゃない・・・支度をしよう」
これから何が起きるか分からない。
荷物からストールサイズに変形させた魔法の外套、魔鉄のガントレット、そして剣を腰に差す。
今や機能しているかもわからない銃刀法がどうの言ってられる状況でもないからな。
その様子を見た唯火も別室に行き、寝巻きから、グローブとブーツを身に着けた姿に着替える。
「・・・ん?初めて見るな?その装備」
見ると、堅牢そうな革張りと、プレートが交互に編み込まれたスカートと。
ノースリーブで無防備だった肩に、軽量そうな肩当。
そして胸当てが装備されていた。
唯火の戦闘スタイルを邪魔しなさそうな軽量感、かつ確実に防御力が向上しているであろう装備だ。
「あ、これですか。実は公園を出る時荷物を取りに行ったら、置手紙と一緒に入ってたんです・・・こんな形でしかお礼出来ないからって」
そう言って唯火は大事そうに。
滑らかに、美しく仕立てられた装備品に指先を這わせる。
「みんなも粋なことするな」
仕上がりもデザインも俺の装備より気合が入っているじゃないか。
戦闘に必要かどうかは分からないが、女性らしさも損なわれていない印象だ。
「ま、まぁ、やけにサイズがぴったりなのが少し怖いですけど」
「・・・・」
ま。
スケベ心もこんな形で役立つもんだな。
「唯火。ハルミちゃんを頼めるか?」
「わかりました」
これだけあから様に敵意を向けられている以上、じっと待っているのもあちらの術中にはまったようで気味が悪い。
こちから出向いてやる。
ハルミちゃんは抱えてもらい、俺は魔石などが入った荷物を持ち部屋のドアを開ける。
「どうやら何人かロビーで待っているみたいだな」
「・・・・用心しましょう」
この階に気配は無く、難なくエレベーターに乗ると1階のボタンを押す。
「さて、どんな歓迎をしてくれることやら」
「不吉なこと言わないでくださいよ」
鐘をはじくような子気味良い音が密室に響くと、ドアは静かにスライドし、ロビーへと出る。
そしてその瞬間――――
「!」
「・・・まじか」
物陰に隠れていた複数の気配は姿を現し、それぞれの者の手には黒鉄の筒。
アサルトライフルが握られ、その銃口は全て俺たちへと向いていた。




