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72話 覚悟の一瞬

目測、力加減を見誤ったというにはあまりに勢いよく、想定外の跳躍を自ら行い。




(このままじゃ窓にぶつかって地面に真っ逆さまだ・・・!)




先の跳躍は縦に力が分散し高さのみで、往々にして強化ガラスが張られているビル窓を突き破るほどの勢いはない。


俺は咄嗟に体をひねり、上体を起こすと。




「らぁっ!」




拳打を放ち窓を破る。

ガントレットを装備していない素手の攻撃力では若干の不安はあったが、割れたことに安堵した。


そしてそのまま室内に放り出されると、置かれたデスク、機材諸々をなぎ倒しながら転がる。

早朝でも数名の人がいたようで、動揺と驚愕のざわめきが回る視界の中耳に届く。




「ぐっ・・・くそっ!」




置かれた備品に埋もれながら、部屋の中ほどで止まると悪態をつきつつ即座に状況の把握をする。




(『目利き』!)




名:ワルイガ=ナナシ

レベル:69

種族:人間

性別:男

職業:

逃亡者(とうぼうしゃ)

鑑定士(かんていし)

解体師(かいたいし)

斥侯(スカウト)

上級

剣闘士(グラディアトル)

精神観測者(メンタルアブソーバー)


武器:なし

防具:なし

防具(飾):伝心の指輪



攻撃力:1191

防御力:1103

素早さ:983(+1966)

知力:867

精神力:1037

器用:1742

運:155


状態:

『素早さ倍加 LV.3』


称号:【小鬼殺し】


所有スキル:

《平面走行LV.10(MAX)》

《立体走行LV.10(MAX)》

《走破製図LV.9》

《聴心LV.2》

《洞観視LV.3》

《精神耐性・大LV.3》

《心慮演算LV.3》

《目利きLV.9》

《弱点直勘LV.10(MAX)》

《弱点特攻LV.10(MAX)》

《ドロップ率上昇LV.6》

《近距離剣術LV.10(MAX)》 

《体術LV.10(MAX)》

《直感反応LV.10(MAX)》 

《武具投擲LV.9》 

《索敵LV.10(MAX)》

《隠密LV.6》

《五感強化LV.10》


ユニークスキル:《 能 現》




状態異常を与えてくるものと思われるあの女の力。

ステータスに異変が現れるだろうと踏んで『目利き』をかけて正解だった。


素早さに補正値・・・状態の項目に『素早さ倍加』。




「やっぱりあの女の仕業か!」




対象に与えるのは、視界を奪ったりする効果だけじゃないってことか。

素早さが急激に上昇して一時的に制御を失ったんだ。




(プラスに働くであろう支援効果を、こんな使い方をするなんて)




ハルミちゃんを抱えるあの女からこれだけ距離を取ってしまった今、一刻の猶予も残されてはいない。

この隙に気配を消して雑踏に紛れて逃げられたら、今の俺に追う術はない。




(だが、この異常なパラメーターの上昇率)




今の自身の許容を超えた力をいきなり乗りこなせるはずも――――――




「いや。同じだ・・・」




自分の限界以上の力なんて、何度も体感している。




「―――――『洞観視(どうかんし)』」




俺は淡々と最適解へと向けてスキルを発動する。



精神観測者(メンタルアブソーバー)】へのクラスアップで手に入れたのは、思念を読み取る事だけじゃない。

『洞観視』は生物相手だけでなく、眼前の事象、対物。

そして――――



《『心慮演算(しんりょえんざん)』:使用している間、【精神掌握者(メンタリスト)】から連なる系統スキル使用時の処理能力が飛躍的に上昇》




室内の全景を一瞬で把握。


次にどう行動を起こすか。

その先でどのような覚悟を迫られるか。




「お、おい、あんた。大丈夫なのか?」


「――――」




周囲に集まる人たちの声を意識の外に置き。

自分自身への考察へと、思考は巡っていた。




久我の手下と公園で戦ったあの時。

なぜ連中を再起不能にしなかったのか?

俺の中の殺人を禁忌とする重りと、公園の皆への危険を秤にかけた結果だ。


ただ、それだけ。

公園の皆に押し付け、結論を先延ばしにした。


研究所の奴らを誰も殺せなかったのはなぜか?


捨て置き今後も危険にさらされるかもしれないと分かっていても、希少検体である唯火は命まで取られはしないだろう。

と、ひどく冷ややかで。

甘い考えがあったからだ。




だが結果はどうだった?


唯火はダンジョン内で幼い命を人質に取られ、命の危機に瀕していた。


公園の皆の元に戻れば、敵か味方か分からない存在に殺人の責を押し付け俺は安堵した。



今はどうだ?


攫われたハルミちゃんは例の情報屋経由で久我達へと売られるのか?

いや、その売る相手はもう存在しない。


その後ハルミちゃんはどうなる?

口封じに始末される?また別の組織に売られる?




俺が誰かを斬らない分、生かした凶刃は、俺の守りたい人たちを斬り裂く。





冴えわたる脳は、俺の中の葛藤を一瞬で済ませ、答えを出す。




「・・・」


「聞いてるのか?いきなり突っ込んできてどういう―――」





自らの許容を超えた速度で駆け出す。

合わせ技で得た感覚で、『走行』『体術』。

そして『五感強化』で触覚を強化し、鋭敏な感覚で意識を置き去ろうとする肉体の動きを感じ取る。




「え、消え――――」


「借りるぞ」




『洞観視』で瞬時認識した、部屋の隅に立てかけられた剣。

一見オフィスビルにしか見えない場所に、なぜこんなそぐわないものが置いてあるのかは今はいい。


走り様に柄を握り、破った窓枠へと足をかけ。


こちらを振り向く女の姿を捉える。





『立体走行』

『体術』

『洞観視』

『弱点直感』

『近距離剣術』




日の出に照らされ視界がわずかに白むのを合図に、足場を破壊する勢いで体を蹴り出し。




《『瞬動必斬(オキザリノタチ)空ノ式(くうのしき)』》





「―――え?」






ハルミちゃんを小脇に抱え、呆けた表情、驚愕と死の恐怖に満ちた瞳でこちらを見る女。





「――悪いな」




その無防備な袈裟を、ハルミちゃんをかっさらいつつ斬り捨てた。











『――――やれやれ。仕方ないのぉ』




その時、何者かの声を聞いた。


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― 新着の感想 ―
正直、前話までの主人公の印象は「クワガタに指挟まれて泣いてるマッチョ」だった。 力は充分なのに覚悟?が無くて何もかも取りこぼす未来しか見えない器用貧乏。 22歳、高校卒業後4年間で100回クビになると…
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