62話 一難去って
~屍人迷宮 ダンジョンへの入り口前~
「配置は完了したか?」
「はっ!久我隊長!鼠一匹抜けられません!」
希少検体のハーフエルフを2体ダンジョン攻略に潜らせて二時間近くが経とうとしている。
まだ、攻略を成すには時間がかかるだろうが部隊にダンジョンの入り口を包囲させていた。
「隊長!」
一人の隊員が駆け寄ってくる。
「どうだ?研究所の者達からは何か新しい手掛かりは得られたか?」
「いえ。回復薬を使用し、目を覚ました者から状況を聞き出したのですが・・・皆口々に顔を帯状のモノで隠した男と思われる一人の人物に研究所を落とされた、としか」
「襲撃者の素性は知れず、か」
隊員とハーフエルフがダンジョンに入るのを見届けた後、隊の再編成のため研究所へと戻った。
だが、そこには意識を失い戦闘不能になった隊員と職員だけが転がり、研究所は完全に落とされていた。
「監視カメラが使えていれば、もっと情報も取れただろうが・・・」
通信機器同様、世界に超常があふれ出してからそう言った類の撮影機器も動作しなくなってしまった。
構造に魔石を組み込むことで使用は可能になるが、何分希少なアイテムなので限られた者に限られた場所に、限られた数しか行きわたらないのだ。
「たった一人であの人数を倒しただと・・・?」
最初は奴らの襲撃を疑ったが、それにしては資料や物品に一切手が付けられていない。
仮にあの研究所を制圧するのが目的だったならば皆殺しにした方が手っ取り早い。
だが誰一人として殺されてはいなかった
明らかに人間業ではない。
目撃情報では人の形を成していたというが、人型のモンスターか?
となると、この『屍人迷宮』に生息しているグール共と特徴は一致する。
だが何故一人たりとも命を落としていない?
血肉をむさぼるグールが、
モンスターが人間相手に手心を加えるなどあり得るのか?
いや、それ以前に――――――
「このダンジョンから地上へ、モンスターが湧いてくるなどあり得ん。あってはならない」
この扉は
この術式は、モンスターなどという低俗な種に屈することなど断じてあってはならない。
もしそんなことがあれば、一体何のために―――
「隊長!転移の光です!」
「―――総員、戦闘体勢をとれ」
・・・いずれにせよ、このタイミングにこの騒動。
あのハーフエルフの小娘が関与しているに違いない。
(知っているならよし、知らないのならその体を死なない程度に痛めつけ協力者をあぶりだす)
貴様の罪にはそれすら生ぬるい。
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「準備はいいか?二人とも」
「はい」
「・・・ん!」
帰還用の転移陣のある部屋を見つけた俺たちは、今まさに地上へと戻ろうとしていた。
「いいな?なんとかして俺が隙を作る、そして合図があったら」
「キラリのでばん!」
「ああ。簡単だろ?」
待ち構えているであろう悪党どもに備え最終確認をする。
「ハルミちゃん。無理はし過ぎないようにね?お腹が減った時みたいに体に力が入らなくなるだけだけで、痛かったりはしないけど、少しでも怖いなって思ったらすぐに止めること」
「うん、わかった!」
予想通り包囲されていた場合、俺たち三人が一番リスク少なくそろって離脱できる作戦。
それはハルミちゃんの双肩にかかっていた。
「おまえも・・・キラリも頼んだぞ」
俺の言葉に応えるように気合十分といった様子で円を描き飛びまわる。
「まかせて!だって」
「ふふっ」
「頼もしいな」
こう言ってはなんだが、唯火とともにダンジョンに入ったのがこの子たちでよかった。
そうでなければヴェムナス戦の結末は少し変わっていたかもしれない。
「よし―――いくぞ」
ハルミちゃんを中心に手をつなぎ、三人一斉に転移陣へと足を踏み入れると、視界は白く塗りつぶされ。
「―――!」
一瞬の浮遊感の後、地上の清新な空気が肺を満たす。
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「・・・待っていたぞ、ハーフエルフ。想定よりも随分と速い帰還だな」
目の前に立つは、角ばった眼鏡を直しながらこちらを睨みつける男。
これまで強敵と対峙してきたような刺すような殺気は感じられず、纏わりつくような嫌な視線と、その瞳が内包する憤怒、そして―――
憂いを帯びた気配を俺は感じ取っていた。
「思った通り、待ち伏せられていたみたいだな」
周囲に視線を走らせると、完全に包囲されている。
中距離の位置に魔法使い職らしき奴らも控えていて、こちらが妙な挙動をすれば即座に魔法による攻撃でも仕掛けてくるつもりだろう。
「はい。あの男が、部隊の指揮者です」
「・・・っ」
唯火に貸したままの外套の端を強く握り緊張した様子を見せるハルミちゃん。
怖くはないと言っていたが、そんなわけはない。
むしろ今の今まで明るく気丈に振舞っていたのに感心する。
「・・・見ない顔だな?お前のような男は、同行した隊員の中にはいなかったはずだが?」
俺を味方と勘違いしてくれることもほんの少し期待はしていたが、そんな間抜けじゃないか。
「たまたま通りがかってな」
「何を馬鹿な・・・ん?お前は、今朝の・・・?」
生きていたのか、と僅かばかりの驚きを見せる。
「ナナシさん。公園で襲ってきたときもあの男が隊を指揮していました」
「・・・なるほど」
俺にとってもこいつは借りのある男ってことだ。
「あの状況で、あの精鋭たちを倒してきたのか・・・?そうか、研究所もお前がやったのだな・・・?」
すっかり登り切った太陽が逆光となり、男の眼鏡を白く輝かさせる。
「ナナシさん、一体研究所で何してきたんですか?」
「全員眠らせてきた」
「あなたはホントに出鱈目ですね・・・」
唯火とそんなやり取りをしていると。
途端、男から発せられる気味の悪い視線の気配が、その濃さを増し全身に纏わりつく。
(『索敵』にも反応するが、この気持ちの悪い感覚。ただの敵意だけじゃない)
その正体を見破るために『目利き』を男に発動すると―――
「なるほどな。あんたもそうなのか」
今まで俺の戦法の軸となり、何度も窮地をしのぎ、時には切り込む矛となった職業。
「―――『精神掌握者』」




