46話 戦いの準備と敵対
「・・・」
唯火を攫われてから、泊めてもらっていた山さんの家に戻り出立の準備をしていた。
戻ると案の定、山さんは姿を消したようで誰に聞いてもその消息は分からない。
(山さん・・・なんで俺を殺そうとした?)
もともと彼女が追われる身だってのは言葉の端端に察していた。
で、その追手が山さんと黒装束の連中で、唯火を攫うのに邪魔な俺を殺そうとした。
というのがもっともそれっぽい線だが・・・
(けど、あのバカみたいにうるさく光る爆弾・・・あれが飛んでくる直前の山さんの様子は・・・)
援軍が来た、と安堵した様子も無く。
優勢に立った油断もなく、ただただ警戒の色を強めていた。
あの時の挙動が、一つの可能性を指し示す。
(山さんが率いてた連中と、後から俺に襲い掛かってきた連中は別の・・・組織、か?)
目は潰されていたからその動きを見ることはなかったが、『直感反応』が捕らえたやつらの動きはただステータスが高い奴って感じじゃなかった。
敵を制圧する作戦。
そいつに長けた、一言でいえば部隊って感じだった。
(こんな事なら、少し強引にでも唯火に事情を聞いておくんだったな・・・)
結局全ては俺の中の所感による憶測。
まとまりのない。
欠片しかない情報を元に何一つ確証のない思考は、支度を整える衣擦れの音と、装備を拵える金属音をBGMにし、ゆるゆると一つの結論に達っする。
(結局、奴らがどこの誰だろうと関係ない・・・)
唯火は自分の意思で廃棄区画まで逃げ延び、逃亡の足を止めてまで俺と一緒にダンジョンを戦い抜いてくれた。
その恩人を、悪意を持って攫ったやつらがいる。
逃げ出すまでに追い込んだ奴らがいる。
「借りは返すからな、唯火」
山さんという不安要素はあるものの、一番にあったモンスターの脅威が去った今、唯火の救出に発てば俺はもうこの公園には戻らないだろう。
ゴレイドの魔石や、雑多なものをバックパックに仕舞い、抜身の剣を腰の鞘に収納。
・・・公園を発つ時はもっと晴れ晴れとした気持ちで出て行けると思っていたんだがな。
「そういえば・・・外套とガントレットはどこにいったんだ?」
ダンジョンから戻ってきてからは何においても睡眠で、そこら辺の記憶があいまいだ。
多分この山さんの家に置きっぱなしのはずだし・・・彼が敵だったのであれば処分されているかもしれない。
「・・・いや、でもそれなら剣もそうされているか」
ガントレットのスロットに入れていたナイフも置いてあったし。
まぁ、そのガントレットもゴレイドとの激闘でほぼほぼ壊れていたが。
「お。いたいた!兄さん!」
「!」
敵に回った山さんにもそう呼ばれていたのでつい振り向きざま反射的に剣に手をかけてしまう。
「おわっ!?ど、どうしたんだい?」
「・・・吉田さんか」
ぼろ屋の入口に立って俺に声をかけてきたのは、以前ゴブリンジェネラルが出現した時、その直前に外套の改良があると言って一時預けた、この公園の中では若い方の職人だ。
「ごめん。ちょっとびっくりして・・・何か用か?」
剣から手を引きはしたが、山さんのような例もあるので身体だけは警戒を崩さず声をかける。
・・・嫌な感じだよ全く、恨むぞ山さん。
「おお!そうそう!これ、見てくれよ!」
そういって革袋を床に広げると。
「これは、俺の装備じゃないか。吉田さんが持っていたのか」
「ん?ダンジョンから帰ってきたとき、直すかどうか聞いたら『頼む』って言っていたじゃないか」
・・・まったく記憶がない。
いや、その言葉通りやっておいてくれたならありがたいんだけどさ。
「まぁとにかく、見てくれよ!このガントレット!黒く鈍く冷たく輝く黒鉄!この硬度は半年前の現代技術じゃ考えられない、炭素鋼どころの騒ぎじゃねぇ、魔法的防御力も高い・・・『魔鉄』さ」
ミスリル・・・ゲームとかおとぎ話とかでよく聞くやつか。
「つい昨日まで実物の魔鉄なんざ見たことなかったのに、不思議なもんだ、既存の知識と未知の知識が職業の力で融合したみてぇによ・・・まぁ純度の低い『魔石』をつなぎ合わせて作ったから、色がどうしても濁っちまって・・・本来なら深い紺碧の宝石みてえなきれいな色になるんだがなぁ・・・」
「そ、そうか・・・」
うっとりと力説する吉田さん。
彼は年齢と経歴関係なしに職人としてのセンスはピカイチ、技術大国日本のホープ。
・・・と、酒に酔った公園のじいさんたちは言っていた。
「そしてさらにはこいつよ」
「・・・ん?なんだこれ、革製の・・・スカーフ?マフラー?」
てかこの材質、どこかで・・・
「そう、これは兄さんのレザーマントをさらに改良したものだ!」
「ほー・・・え?ちょ、外套はそんなに傷んでなかっただろ?こんなに小さく・・・」
どんなに丈夫でも防御面積がこんなに短くちゃ、使い勝手悪すぎだろ。
ところが吉田さんは、得意げに、チッチッチ、と芝居じみたジェスチャーをしだし。
「まぁ見てなって・・・ここの台座に魔石を―――」
そう言いながら俺の首にマフラーらしきものを回すと。
「装着っと」
「おお!?」
なんと、マフラーサイズの皮が使い慣れた外套サイズまで大きくなった。
「この通り、魔石から供給される『魔力』で変幻自在っていう、魔法の装備よ」
「すごい、けど。魔石なんてどこで手に入れたんだ?」
「いやね、お嬢ちゃんがダンジョンから戻った時『お世話になっているお礼です』っていって小さい魔石を大量に譲ってくれたんだよ。魔石を加工する生産職の連中もいるから、初めて見る魔石に舞い上がっちまってね。今の今まで貫徹して研究と生成に没頭しちまった」
「唯火が・・・」
なるほど。
魔石を加工なんてできるのか、あの小さいゴブリンの魔石がまだ手元にあったんだろう。
そいつが『魔鉄』製のガントレット、魔法の外套。
それ用の魔石の塊に生まれ変わったってわけか。
「俺たちゃ公園から外の世界を良く知らねぇから、こいつらがどれほど通用するか分からねぇ。けど、今できる全霊で作り上げた、職人たちの魂の力作だ―――公園を出るんだろ?持って行ってくれ」
俺の身なりを見て今すぐ発つことを察したようだ。
「・・・いいのか?」
「ああ。まさかもうすぐ出て行くとは思わなかったが・・・なんにせよ使われてこその武具だ。こんなもんじゃお前さんへの恩義は返しきれないが・・・どうか受け取ってくれよ」
「ありがとう、吉田さん」
山さんのことがあったから少し腐りかけていたが、良かった。
池さんが守ったこの人達がすべて、俺の敵だったわけではないんだ。
「―――じゃあ。世話になった」
「おう。嬢ちゃんも一緒なんだろ?最後に顔を見たかったが・・・」
「あぁ・・・皆の顔を見ると別れが寂しくなるって、先に行っているよ。それだけ感謝してる、って」
唯火の事は、ごまかしておいた方が良いだろう。
山さんのことも伝えておくべきか迷ったが、黙っておくことにした。
俺の勘だが、彼が公園の皆に危害を加えることはないと確信めいたものがあるからだ。
少し無責任かもしないが、多分俺が公園を出て行けば山さんも行動に移さないと踏んだ。
皆には余計な心配はせず自由気ままに暮らしてもらいたい。
「そうかい・・・兄さんからよろしく伝えてくれや」
またいつでも遊びに寄りな、と。
「わかった。伝えるよ、必ず」
吉田さん達の想いと、それが込もった新たな装備を身につけ。
俺は長らく世話になった公園を後に―――
「な、なんだ!あんたらは!」
「・・・何だ?」
なんだか外の方が騒がしい。
吉田さんと外に出て様子を確認すると。
「この場所はダンジョン攻略作戦本部として我々が使わせていただく。皆さんにはここを立ち退いていただきたい」
「いきなり来て何言ってやがる!ふざけるな!」
「ここは俺たちの家なんだ!何の権限があってそんなこと言ってんだ!」
そこには、明らかにカタギでない戦闘を想定した装備を身にまとう集団と、公園の皆が対峙している光景が広がっていた。
(ダンジョン攻略?って、あの『小鬼迷宮』のことか?)
俺たちが攻略し制圧したダンジョン。
その後のダンジョンがどうなっているのかは確かめていないし、唯火本人もそれを確認したことは無いから、入れるのかどうかすら知らないが。
(俺は事情があったから攻略に挑んだけど・・・中の宝とかが目当てか?)
すると、二言三言言葉を交わしただけで謎の集団の先頭の者はため息を吐き、その態度を一変させる。
「不法滞在者がよく吠える・・・ならば、住む家が無くなればよそに行くしかあるまい?」
「はぁ?なにを―――」
手段の先頭に立つ男は持っている杖の先を一つの建屋に向けると。
「燃えろ」
「!」
以前病院の医者が扱っていたような、だがそれとは比較にならない大きさの火球が生み出され一瞬で標的となった建屋は火に巻かれる。
「な、なんてことしやがる!」
突然の暴挙に皆の怒りに火が付く。
が、それはまさに火に油だったようで―――
「初手でお前たちに当てなかったのは忠告だったんだがな・・・従わないのなら、全員焼け死ぬといい」
随分と気が短い。
言葉通り本当に焼き殺すつもりなんだろう、さっきの火球の何倍も巨大な炎の塊を生み出し。
「焼却」
それを放つ。
だが勿論そんなことを俺は黙ってみていられるわけもなく。
「・・・む?なんだあの男は、さっきまでいなかったが・・・」
迫りくる炎の塊をガントレットを装備した左腕で、宙に弾くように。
「な!?」
粉々に四散させた。
「魔法防御が高いってのはほんとみたいだな」
「兄さん!」
「何だ貴様は!」
このタイミングでのこの騒動。
ダンジョン攻略に挑もうとするこの暴徒は、まず唯火を攫った連中と繋がっていると思っていいだろう。
「手間が省けたよ」
これで一気に唯火に近づける。
そうでないにしても、こんな危険な連中放置して出発できない。
「危険なやつめ・・・ダンジョン攻略の邪魔だ!先遣の捜索隊と合流する前に始末するぞ!」
「それはこっちのセリフだ・・・手加減、できないからな」




