32話 最深部へと
「ふぅ……」
「さすがに、激しいな」
俺たちは今、9階層目までたどり着き湧き場を制圧していた。
「この9階層で……7箇所目……ですか……」
「ああ……このダンジョンが、敵意を向けてきているってのも……あながちって感じだな」
そう。
実は2階層から始まり、連続で湧き場の制圧をしている。
それも別に率先して制圧しようとしているわけではないのに、一時的に出入り口をふさがれたり、階層配置の妙だったり、そうせざるを得ない状況になってしまうのだ。
6階層のみは湧き場の代わりと言わんばかりに階層主が出現し唯火が瞬殺したが、強力なモンスターだったということに変わりない。
7階層からは湧きの勢いも増しゴブリンたちの連携精度も高まってきているので疲労度が桁違いだった。
力の差はあるものの、唯火も少しづつ余裕がなくなり、その負担を減らそうと『索敵』と『洞察眼』で最大限フォローしながら、苦戦するようなことはなく切り抜けてきたのだが……
「予想以上の消耗ですが……おそらく、次の10階層が最下層のはずです……このままいきましょう」
「……本当に大丈夫か?唯火」
俺も相当体力を消耗している自覚はある。
どうやら、体が疲弊していくと本来のスキルレベル相当の力を引き出しきれないらしい。
感覚になるが全体的に半分ぐらいの力しか引き出せていないかもしれない。
だが、どうも唯火の様子はおかしい。
目に見えて顔色が優れない。
「大丈夫です……逆に間を開けると、調子狂っちゃいますよ」
「……」
明らかに疲弊している、が、今までの唯火の経験に基づく判断は間違っていなかった。
彼女がいなければ、このダンジョンの猛攻……俺一人ではとてもここまで来れていない。
……今の俺には、この子を信じることしかできない。
「……わかったよ。パーティーリーダーに従うさ。唯火がいなけりゃ、ダンジョンに入る事すらできなかったんだ」
「えへへ。リーダー、ですか。くすぐったいですね……でも、帰り道だけお願いしますね。最下層で、『王』になりえるモンスターと対峙したら、ありったけの力ですぐ終わらせます」
それが現状最も確実です。という彼女。
「わかった。もし疲れて歩くのも億劫だったら、負ぶって公園に凱旋だ」
「そ、それは恥ずかしい、です……けど、お願いしますね」
任せとけ、とだけ答えると俺たちは目の前の光景を見つめる。
「これは、なんだ?よく言う魔法陣ってやつか?」
9階層の湧き場を制圧し終わった時、突然壁が崩れてこの魔法陣みたいなものがあるだけの小さい小部屋が現れた。
「そうですね。これは『転移陣』と言われているものです。魔力に反応し、魔力を持つものが陣に入ると……」
そういいながら地面に描かれた模様の中に踏み込むと、それに沿って光が放たれる。
「転移、か……」
今までの階層にこんなものなかった、という事は。
「こいつの転移先が……」
「はい。小鬼迷宮の『王』になり得る個体への片道切符です」
確証があるんだろう。
唯火はこれまでで一番険しい表情を浮かべると。
「ナナシさん、このダンジョンはどうもおかしいです。私もここ以外だと一つしかダンジョンに入ったことはありませんが……小鬼迷宮は何か、意思みたいなものを感じます」
「……」
「正直、ここから先も何が起こるか分かりません。だからもし―――」
だからもし―――
こちらを振り返りその先を言い切る前に俺は、唯火の口に携帯栄養補助食品のクッキーを突っ込んだ。
「むぐ!?……っ……な、なにふるんでふか!?」
「空腹だ」
「……え?」
ぱさぱさのクッキーでしゃべりづらそうにしている彼女に、いつぞや言った覚えのあるセリフを吐いた。
「腹が減っているからそんな詰まんないこと考えるんだ」
「……」
面喰ったようでしばらくぽかんとすると。
「……お水、くだふぁい」
「ほい」
ペットボトルの水を流し込み味わうように咀嚼し飲み込むと、本日2回目のジト目をこちらに向けてくる。
「……ナナシさん、やっぱり私の事女の子として扱ってないですよね」
「……すまん」
さすがに今のは俺でもわかる、女性の口にいきなり食い物突っ込むのは良くないことぐらい。
でも、いいよな?
「もう、私に変な食いしん坊キャラとかつけないでくださいよ?」
「気を付けるよ」
さっきみたいな辛気臭い顔より、怒ったり笑ったりしている方が、唯火には合ってる。
「はぁ、中途半端に食べたら本当にお腹へってきちゃいましたね。早く済ませて、すいとん食べましょう」
「なら、俺が作るよ」
お願いしますね。
と、上機嫌に弾むような声と共に、転移陣へと足を踏み入れ。
「ああ。任せとけ」
小鬼迷宮最後の戦いが始まる。




