27話 湧き場。少女の実力
一つ目の階層では最初の会敵以降モンスターに遭遇することはなく、次の階層へ続く階段を見つけた。
「ここを下りれば次の階層か」
「はい。2階層からは稀に上位種が出現する可能性もあります」
充分に注意していきましょう。
唯火の忠告に頷きながら階段を降りると。
「足音だ……多いな」
「確かに微かには聞こえますけど……すごいですね。そこまでわかるんですか」
このダンジョンという入り組んだ閉塞的な空間だと五感が研ぎ澄まされる。
そのまま警戒しながら階段を下りきると、隆起した岩がそこら中にある部屋に出た。
「急に開けたな」
「足音が消えましたね」
すると俺の『直感反応』スキルに何かが引っ掛かる。
「!」
その場で体をひねりつつ飛び上がりながら剣を抜くと。
「ゲギャア!?」
背後の岩陰から1体のゴブリンが飛び出してきたところだった。
「ふっ!」
そのまま剣を振り抜き胴を両断する。
「ナナシさん!奥から何か来ます!」
「……随分と大所帯だ」
基本小さい体躯のゴブリンと比べ、人間くらいの体長はあるゴブリンを先頭にぞろぞろと引き連れてやってくる。
一階層から二階層に来ただけでここまで違うものなのか?
「これは……『湧き場』と呼ばれる場所かもしれません」
「『湧き場』……」
「文字通り、ダンジョン内のモンスターが沸く場所です。こんな目立つところに、しかもまだ階層も浅いのに……」
相当、稀有な事例ですね。
そう言いながら唯火は背負ったバックパックを地面に降ろす。
どうやらこれが常ではなく、俺たちの運が余程悪いらしい。
「……戦うのか?」
「はい。この群れを引き連れたまま強敵のいる下層に降りれば厄介です。背後を刺されるのも怖いですし、一度ここで殲滅しましょう」
……殲滅、ときたか。
随分と簡単に言う。
内心彼女の大胆な発言に驚きつつ、先頭のでかいやつに『目利き』を発動すると。
名:無し
レベル:15
種族:ホブゴブリン
性別:男
職業:なし
武器:粗悪な鉄棍棒
防具:レザーメイル
攻撃力:88
防御力:92
素早さ:36
知力:21
精神力:30
器用:10
運:6
状態:ふつう
称号:無し
所有スキル:
【増援LV.1】
「ホブゴブリン。あれが上位種か、『増援』ってスキルも持っているな」
パラメータも装備も通常のゴブリンの二、三回り上って感じか。
単体なら問題なく対処できそうだが、この数の群れもついてくると少し厄介かもな。
他にいる通常のゴブリンもレベル10がちらほらいる。
「『増援』ですか。なおの事ここで倒した方がいいですね。仲間を呼び寄せるスキルです」
湧き場から離れても他のモンスターが増える一方ってことか。
「わかった。じゃあ俺が―――」
「ナナシさん。ここは私が」
唯火に先ほどと同じように後方を任せて、ゴブリンの群れに切り込むつもりだったが、それを遮るように提案する。
「今の内に私の戦い方を見せておきたいんです。お互いの戦い方が分かっていれば、いざというときの連携も取りやすくなると思うので」
つまり、この群れとの遭遇は唯火にとって『いざ』という事態ではない、という事か……
まったく心強い。
俺がゴレイドから助けた時、震えていた少女と同一人物とは思えないな。
「それにナナシさんも気づいているように、まだ岩陰には多数のゴブリンが潜んでいるはずです。多分私より、ナナシさんの方が死角からの強襲に速く反応できます」
「……わかった。じゃあ、お手並み拝見ってことで」
「任せてください」
正直なところ気にはなっていたんだ。
俺より高みにいる唯火がどうモンスターと戦うのか。
(やっぱり、『ハーフエルフ』っていうくらいだ。魔力が発現しているし魔法とか使った戦闘なんだろうか?)
病院で医者が見せた火の玉以来、そういう魔法めいた力を見ていないので少なからずワクワクしていると。
彼女は懐からピンポン玉くらいの宝石のようなものを取り出す。
「それは?」
周囲の岩陰を警戒しながら聞くと。
「魔石です。私の武器の一つです」
「……その玉がか?」
はい。
と肯定すると、手のひらに乗った小さな魔石は淡い光を帯び浮かび始め。
「『操玉』」
ゴブリンたちの群れへ飛んでいくと、まるで乱反射するレーザーのような軌道を描き。
ホブゴブリン含めた前列の十数体が爆散した。
「……な、なに、したんだ?」
「職業【宝玉使い】のスキルです。MPの消費が激しいのが難点なのと、かなり珍しい職業らしくて熟練度が溜まりにくいから、まだ頑丈な魔石を銃弾みたいに操るくらいしかできないんですけど」
「……」
それでも十分すぎる性能じゃないのか?
想像していた王道的な魔法使いとは違い、随分とニッチでトリッキーな職業だ……
「「ゲギャーーー!」」
岩陰から飛び出し、俺に向かって左右同時に奇襲をかけてくるゴブリンとホブゴブリン。
(他にもでかい方が湧いていたか)
攻撃に転じればどちらかが隙をついてくるだろう。
右のゴブリンの攻撃を剣で、左のホブゴブリンの鉄棍を腕で迎え撃つ。
レベル差があっても生身の腕で受ければ無傷では済まない。
「ゲギィ!」
数秒後に訪れる肉を潰す感触を思って愉悦を感じたのか、ホブゴブリンが下卑た笑みを浮かべる。
が。
「素手じゃないんだな、これが」
「ゲァ!?」
鈍い打撃音ではなく甲高い金属音が鳴り響く。
山さん達にした、無茶な頼みの賜物。
手甲、ガントレットだ。
棍棒をいなし、ゴブリンを片手間で両断すると。
受けた鉄棍を力任せに腕で弾き。
「ゲブゥっ!?」
腕が跳ねあがり無防備になったホブゴブリンの顔面に、ガントレットで武装した拳をめり込ませる。
攻守ともに補助してくれる優れものだ。
手のひらを開閉させ具合を確かめる。
ガントレット自体も全く痛んでいない。
「……さすが職人。ダメージ無し」
どこから素材を集めたのかわからないが、あの短期間でよくこれだけのものが作れたもんだ。
(でもせっかくのお披露目だけど、唯火に食われたな)
2体が消滅するのを見届け、警戒を解かないまま唯火の様子をみてみると。
「……すごいな」
お手並み拝見とか言ってた自分がみじめになる。
俺が2体を倒しているほんの少しの時間で群れの1/3程に削っていた。




