212話 重なる疑念
ご無沙汰しております。
半年以上更新していないという恥ずべき注意書きをいただいてしまった。
年末も折々に、更新です。
あらすじ
⇒全部忘れた
歩を進めるにつれてただでさえ色濃い緑がその濃度を増していく中、竜人族の姉弟に導かれるまま数分程進むと。
「お二方!着きました!」
「…アティ様。ナナシ殿。到着いたしました」
声を張り上げこちらを振り向きながら到着を知らせる弟。
それを一瞬咎めるように一瞥した姉の方が粛々と告げる。
(思ったよりも近かったな。ここがエミルの言っていた―――)
エルフの少女、エミル。
彼女が言った『高位の存在』と区別される異種族たちが集う場所。
濃緑の木々を切り開いた、というよりそこに共存していると言った具合の雰囲気。
所々、苔むした集落の門や木造の家屋。
『交錯の里』よりも、深き森にあるにふさわしい風情。
「ここが―――」
エミルは確かその場所を―――
「私たちが暮らす集落。『最奥の森』です」
そう、『最奥の森』、と。
(エミルから教わった名と共通の認識か。『交錯の里』とは互いに干渉していないような口ぶりだったけど……たまたまか?)
まぁ、呼称の認識が同じだったからと言ってどうと言う話でもないか。
「……ん?どうした、アティ」
とっかかりの無い思案を終えると、視界の下に周囲を見渡す小さな頭が目に入る。
何か気がかりな事でもあるのだろうか。
「見たところ、結界も何もないようだな」
「えっ?あ、いや」
周囲に目をやりながら発せられた言葉は竜人族の二人に対する問い。
「随分と警戒が薄い……竜の眷属と言えど、この世界にはその喉元に届く隠れた牙も、あるところにはある」
「ん?」
随分と意味ありげにこちらを一瞥するアティ。
色々と含みのありそうなセリフだが、正直あまりこの子の言動に関して深く考えても仕方ないと思い始めている。
「ここより下方にある群れには、高度な『空間齟齬』の結界が施されていたというのに……驕りか?」
なんだかよく分からないが、この姉弟に説教をしているような雰囲気だ。
小さな少女の言葉に二人ともすっかり縮み上がってしまっている。
(というか、群れ?結界?)
ここより下方、南下した先。
方角的に『交錯の里』の事だろうか?
もしそうだとしたらアティの言いようだと、外からでは触れることはおろか認識もできないあの結界を感知した上に、その中に『群れ』と呼ぶに値する程の生命体がいることを把握したってことか。
「お、お言葉ですが、アティ様……」
「なんだ?」
すっかり委縮しビクビクと様子を窺いながら言葉をつなぐ。
少女の風体をしたアティにこの媚びり様。
何度見ても異様だ。
「結界でしたら、わが集落にも施されて―――」
「なに?」
「ひっ!?も、申し訳―――」
更に怯えた様子をみせる姉の方。
だがそれを制する様な手ぶりのアティに彼女は涙目になりながらも沈黙した。
(なんだか、気の毒だな)
アティが彼らをいびっているような構図に見えなくもない。
「―――なるほど、な」
瞼を閉じ、一間、周囲に意識を張り巡らせるような仕草をした後、再び口を開く。
「『空間齟齬』よりも、高度な、これは……『概念』に干渉するようなものか」
「「へ?」」
「いや、よい。これは、この結界は。対象が強大であればあるほどその存在を霞がからせ、対象が矮小であればあるほど凡庸なものとなる」
そう語るアティの口の端は吊り上がった。
「こんな代物、そこいらの者においそれと扱えるわけがない……いるな。この山に……生命の箍を外せし者、『到達者』」
誰に聞かせるでもない独り言のような声量に、姉弟は首を傾げる。
「よい……案内を」
「……」
でも俺は確かに聞いた、『到達者』、と。
俺が遭遇したその称号を冠する人物たちは、もれなく一戦交え、掴み処のない、化け物だ。
「―――アティ」
彼女の口からその名称が出たことにより、せき止めていた疑念にほころびが生じるように、
「む?なんだ?」
俺の口を開かせる。
「君は―――」
::::::::::
「随分と濃い霧ね」
げんなりと呟かれた声すらも、それに阻まれるかと思うほどの濃霧の中。
「……ぅ、ん」
「うなされてる。少し熱も出てきたかしら……でもごめんなさいね。私も仕事で来てるから」
少し揺れるでしょうけど。
そう言って、背に負う荷物を担ぎ直す。
「こっちか……」
数歩先の足元すらおぼつか無い濃霧の中。
声の主の女は迷わず歩を進める。
「あなた達にも、悪いことしたわね」
悪びれたような声色も含まずに零す謝罪。
それは、女の進む先進む先に横たわる生き物の屍へ向けられていた。
「……あら?案外近かったみたい」
更に濃霧を突き進み。
流血が滴る屍の手前で立ち止まると。
「グルルル……」
「どうやら、あなたのおかげでここまで来れたみたいね。ワンちゃん」
霧の中から二つの頭部を持つ狼のような生物。
その体高は女の何倍もあった。
「犬って、好きよ?」
吐かれたセリフと反面に、殺気が立ち上る。
「ちゃんと躾けてあげれば、従順だもの」
「グ、ゥゥ……」
荷を背に負い、隙だらけの風体でありながら、空気が揺らぐほどの戦闘態勢。
気圧された双頭の狼が後ずさる。
と―――
「―――待て」
「!」
反響するしゃがれた声。
「『待て』というのは、どっちに言ったのかしら?」
空気を圧迫する殺気。
それは、響く声と共に二つに増え、目に見えぬ圧が拮抗する。
「……ちょっと。なるべく穏便にここまで来たつもりなのに、随分と殺気立ってるじゃない」
女は吐き捨てるように言い、うんざりしたようなため息を零した。
「女。貴様の背におるその娘……」
「ん?」
自分の背負った人物を窺う。
その動作で、項垂れる頭部を覆っていたフードははだけ―――
「それは、儂の―――」
銀髪の少女、エミルの素顔が露わになると。
「孫娘じゃ……!!」
霧中に響く怒気を含んだ反響する声、
殺気の均衡が弾けるように、
山岳を覆うかと錯覚するほどに、
双方の放つ圧が高まり―――
「―――最悪」
山全体を震わせた。
間を空けるにもほどがありすぎて、書き方も、進捗も、なんもかんも忘れましたが。
こんな感じで時々続きます。
希少ながら待って頂いた方、待たせてしまい待ちきれなかった方。
申し訳ございません。
拙い内容ながらも、時間をかけて最後まで書き抜けるようあがきます。
貴重なお時間を本作に割いていただき、ありがとうございます。




