164話 チートじゃない!
「ハルミちゃん。帽子、前見にくくない?」
「ん。大丈夫。気に入ってる」
響さん達と別れを告げ『交錯の里』を目指して出発した俺たちは、人気の多い街中を選んで目的地を目指す。
木を隠すなら森の中というやつだ。
「重い荷物を持ち歩かなくていいのは楽でいいけど・・・やっぱり徒歩だと遠く感じるわね」
「仕方ないよ。車は目立つしいざという時に、ね」
俺が普通免許を持っているので車を使う選択肢もあったにはあったが、車両を特定された場合敵に見つかりやすい。何より運転中に車外から魔法で狙い撃ちにされた場合、逃げる間もなく四人まとめてやられてしまう可能性もある。結局徒歩の方が一番安全なのだ。
「兄者、疲れてない?」
「ん?大丈夫だよ」
敵が放ったヒュドラとの戦闘での消耗を心配してくれたのか、こちらを見上げるフユミちゃんにそう返す。
「もし疲れてたら無理しないですぐに言ってくださいね」
同じように唯火も気遣ってくれる。
ちなみに、二人の髪色は目立つのでフユミちゃんはつばの大きい帽子を。肩にかかるかかからないかくらいの長さだからこれで十分隠せるだろう。子供らしさと上品さが加わった印象だ。
一方で唯火は黒いキャップを被っている。長い髪を後ろで縛りひっ詰めてうなじを晒し、傍目には短いポニーの様になっている。色違いの毛先が見えてはいるがこのくらいなら目立たない。器用なものだ。
「しかしあんた。なんていうかホント・・・・チートっぽいわね」
「なんだ、藪から棒に」
朱音も顔が割れている可能性があるので変装している。
唯火程の長さはない青みがかった髪を三つ編みで束ね横から垂らし、伊達メガネを装着。
簡素ではあるが別人に見えないこともないので十分効果はあるだろう。というか俺たちからしたら普段勝気な朱音が文学少女のような見た目になってなんだか落ち着かない。
「さっきのヒュドラとの戦いの事よ。空飛んで、あとなんか拳からなんか飛ばしてたわよね?離れたところから一撃で全部の首跳ねるし、さっきの便利空間にしても。チートよ、チート」
「そうは言うが、無限に使えるわけじゃないんだぞ?当然、MPの消費が付きまとうわけなんだから」
「そりゃそうなんだろうけど・・・」
唯火と朱音には『必殺技名』の件の時に説明はしたはずだが・・・・
ちなみに俺も一応羽衣を変形させ口元のみ隠している。
「・・・フユミちゃんにも話しておくか———」
俺のMP総量の低さからくるスキル使用の制限、リスク。
歩きながら二人には改めて、フユミちゃんには初めて説明した。
「――――まぁ、そうよね。確かにチート呼ばわりで楽観視できない。そう都合よくはいかないってわけね」
「その総量だと、私だったらすぐに『MP切れ』になっちゃいます・・・」
「ああ。だからおいそれとは使えない切り札なんだ」
「・・・・」
俺の説明を聞き終えると唯火と朱音が各々反応を示す中フユミちゃんだけは何か考え込んでいる様だ。
「どうした?フユミちゃん」
「・・・兄者は、今『MP切れ』?」
「ん?ああ」
言う通り、依然として数値はゼロだ。『ハーフエルフ』の唯火やハルミちゃんの様に動けなくなるようなことはないが、恐らく『人間』の俺は時間経過での回復が彼女たちに比べて遅い。
だから今は『隔絶空間』から物を出し入れするようなことはできない。
「もしかして、『隔絶空間』の中に使うものあったか?ごめんな、まだ――――」
「ん・・・そうじゃなくて・・・・計算が合わない」
「どういうことですか?マスター」
「・・・・ああ、そのことか」
答えを求めるように、ずり落ちそうになる帽子を押さえながら俺を見上げるフユミちゃん。
「スキルの使用はMPと引き換え。中にはMPを必要としない『常時発動型』もあるけれど、さっきの兄者の戦闘中の行動は全部『任意発動型』。ただ速く走るスキルだって、消費量は極端に少ない場合もあるけど使っていれば徐々にMPを消費していく」
「そういわれると、最初の高速移動と羽衣の防御。回避術、剣術としての動きだってスキル由来のものだから当然消費して・・・そのあとの大ジャンプ」
「・・・・よく、最後の一撃まで持たせられましたね?」
「それに、『MP切れ』の状態でさっき、その羽衣で顔隠すのに変形させてた」
気づけは皆立ち止まり俺を振り返っていた。
「別に隠していたわけじゃないんだ。知らないところでデメリットがあるわけでも無いからな――――」
三人の疑問に答えるべく口を開こうとすると。
「あたっ!?――――――え?」
「だ、大丈夫?朱音ちゃん」
「・・・・一言もなしに行っちゃった」
三人の背後から駆けてきた男が朱音にぶつかりその勢いでたたらを踏む。そのまま謝罪の一言もなしに俺を避け走り去っていった。
「あれ?あれ?何で?」
「どうしたの朱音ちゃん?」
「銃が、ホルスターに差してた銃がない!」
背後からぶつかられた瞬間反射的に銃へと手を伸ばしたのだろう。そしてその先にはつい今まであった銃がなくなっていた。
要するに――――
「盗られた!!」
「あいつか・・・」
視線を巡らすと朱音にぶつかった男の背中を見つける。
その背中目掛け―――
「あがっ!!?」
「「「!」」」
直立のまま、腰の入っていない拳を突き出すだけの拳打で虚空を打つと、盗人の男は突き飛ばされたようにアスファルトを転がる。
「いでで・・・くそっ!誰が殴り――――」
『高速走法』の一足で這いつくばる男の目の前まで行くと、転がり落ちた朱音の銃を拾い上げ、
「さっきの話の続きだけど――――」
「ひっ!?」
扱いなれないグリップを握り銃口を男に突き付けた。
「魔力が発現してから初めて気づいた。なぜか俺、フユミちゃんの言う『任意発動』のスキルでもMPを消費しないで使えるみたいなんだ。一部を除いて」
「わ、悪かった!見逃して・・・!」
説明に協力してくれたエキストラ料代わりに銃口を下げそのまま逃がす。
その背中を見送ってから三人の元へ戻り、朱音に銃を返すと、
「「「・・・・」」」
しっかりと受け取って、弾倉から弾が抜かれていないか、落とした衝撃でスライドがずれていないか。
無言のままカチャカチャと一通り確認し終えると、ホルスターへと戻し――――
「やっぱりあんたチートじゃない!!」
盗人騒ぎでざわめく雑踏の中、そんな言葉が響き渡った。
この設定、今までほとんど触れずに、臭わせても極薄だったから
なんのこっちゃ感があるかもしれない。




