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115話 品定め、気まぐれ

短いです

(いやぁ、ホントまいったまいった)



()()()()()と聞いて来たのに。

これでは聞いていた話と違う。



(まったく。情報班にはお仕置きしないとねぇ)



部下の粛清を思い立ったが、その普段戦線に立たない情報班の部下達も自分がノリで今回の現場に投入したのを思い出し。



(あいつら程度じゃワルナナに瞬殺されてるか)



揺らぐ視界の先には。

自分にこれほどのダメージを与えた刃の持ち主の背中があった。


完全に不意を突かれた。

それはもう完璧なまでに。


あの白い閃光に包まれた世界で、針の穴に糸を通す精度で。

こちらの僅かな揺らぎを切り裂いた。


女の命を敵の手に握られ。

無力にもその救出に間に合わないかという刹那を実感した直後の決起。




(思惑とは違ったけど――――いいじゃん)




鎧を砕かれた瞬間の衝撃、鈍痛。

肉を裂かれた焼けるような痛み。


そのすべてを噛みしめる。



「ワルイガ・・・・ナナシ」



倒れゆく体、緩慢な世界、その一瞬に。

待望と愉悦と殺意を込めたひどく陰惨な視線を、その背中に注いでいた。






::::::::






「唯火・・・!!ッ!ゲホッ!!がはッ!」



渾身の合わせ技を無理に連ねた反動と疲労。

大いに乱れた呼吸のままに名を呼ぶと、思わずむせ返る。



「ぐ・・・!はッ・・・ゆい、か!!」



片腕は全く動かず、彼女を抱きとめた腕もおなじみの痛覚が走り回っている。

肺は酸素を欲し気道を収縮させ吐き気を催す様だ。


だけど構わず彼女の名を呼んだ。


シキミヤの影に見た最悪の未来。

その結末を一刻も早く確かめるために。


破裂しそうな肺も。

もげそうな四肢の痛みも。

内側から爆散しそうな過ぎた力の余波も。


今は全部がどうでもよかった。



「唯火!唯火!!」



ザッ。

と。

背後で聞こえる床を踏みしめる音も今は些末なこと。



「起きろ!唯火!」


「――――安心しなよぉ、ナナシ」



掠れたような男の声。



「僕の影は、お嬢ちゃんを「唯火!!起きろ!なぁ!」


「いや、だから「目を開けろ!おい!」



俺が彼女の肩を揺すり目覚めを懇願する中。

背後の気配が近づいてくるのを頭の片隅で感じ取る。


それでも目の前の少女が今の自分にとっての最優先事項だった。



「二人に近づかないで!」



上の階から少女の怒号と数発の発砲音。

わざわざ銃撃と共に発声したのは彼女自身シキミヤに弾丸が当たるとつゆほども思っていないからだろう。


数秒前までの戦闘でも一切干渉しなかったのも、かえって邪魔しかねないと判断したゆえである。



「あー、わかった。わかったよぉ・・・降参。降参だから」



銃撃が放たれる中、両手を上げながら軽い足取りでステップを踏みつつ後退。



「・・・・」


「ほら。だからツインテールのお嬢ちゃんもその鉄砲。やめてよ?」



薬莢が階下に落ち、甲高い音が一瞬の静寂に響く。

その時間の中でシキミヤが視線を注いで意識を集中させていたのは、彼女(朱音)ではなく――――



「逃げさせてよ。マスター同士のよしみでさ」


「・・・・・」



ナナシ達とシキミヤを横合いから別つように、うつろな瞳のまま無言でぽつんと立つ幼い少女だった。

その体は淡い光に包まれている。



「マスター!?・・・・いや、あれは————」


「———ぅ、ん」


「ッ唯火!!」



抱き留められた少女の意識がおぼろげに覚醒する。

シキミヤを除くその場にいる者にとって吉兆といえるその小さなうめき声と青年の悲痛な声に皆の意識が逸れ。




「———じゃあねぇ」



足元から触手のような影がらせん状に男を包み。



「・・・・逃げてくれた、みたいね」



湖面に魚がはねたかのように波紋の広がる影だけが残され。



《あーそうだ。そのダメージじゃ竜種きついっしょ?あと数時間したら日が変わる。次のは僕がピンチヒッターしてあげるからゆっくり休むといいよぉ》



死なれてもつまらないしねぇ。



姿もなく声を反響させそれだけ言うと。

残された影も蒸発したかのように跡形もなく消え去り、今度こそ完全に気配を消した。



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